「圧倒的です」
「このままではこの会場の合格者は彼だけになりそうですね」
「まさかこれほどとは思わなかったさ」
この実技試験には4つのポイントがある。
『状況を素早く把握する為の情報力』
『遅れて登場など論外な機動力』
『何時如何なる時も冷静でいる為の判断力』
『純粋に脅威を排除する為の戦闘力』
平和を守る為の基礎能力に他ならないがそれを試す。ゆえに仮想敵の総数も配置も受験者には知らされていない。しかし、モニターに写っている少年は試験スタート位置から一歩も動いていないのにも関わらずポイントを取り続けている。彼がしたのは『はい、スタート』とプレゼントマイクが言った直後地面に手を置き十秒ほどしたら身体の回りに黒い球のようなものを発現させ一言、「行け、
「焚き付け過ぎたかもしれない・・・・・・」
校長は、焦ったように項垂れている。
そんな様子を来期のヒーロー科の一年生の担任を受け持つイレイザーヘッドとブラドキングは説明を求めるかのようにジト目で見ている。
「彼がこの国に戻るということは、収入が無くなるということさ!実際向こうでは、彼のおかげで犯罪率の低下が実際問題として起きているほど優秀なんだ。しかし、
「
「そう、未成年であることや、向こうのヒーロー協会や政治のおかげで彼自身の顔は割れてないのが幸いしたよ。これならヒーローに成れる」
「よく手放す気になりましたね」
「その疑問は最もさ!犯罪率という意味では彼を手放すのは日本からオールマイトがいなくなるのと同じだからね。でも、悪い意味で言えばヒーローが育たないのさ、今では各家庭で子供にも言われている、『悪い事をすると彼が来る』ってね。だから、向こうは彼を手放す事にした」
「一人に頼る事を良しとしないか・・・・・・」
「HaHaHa、耳が痛い話しだけどね。来期から
「んじゃ、話しを戻して焚き付け過ぎたとは?」
「最初に、彼がこの国に来る事は収入が無くなると言ったけど、ヒーロー科に入るなら、この実技試験のポイントに応じて三年間、月々お金を支払う事を書面で決めたのさ!」
「・・・・・・金にがめついな」
「合理的だな。実力がなければ金は支払われない。プロと同じステージでやるつもりか・・・・・・」
「他にも条件は付いてるけど今どのくらい?」
「今ので400ポイント、会場中のロボ全部壊しました」
「これで彼は雄英から毎月100万円振り込まれる事になった」
「「はぁ?」」
「ポイントに付き2500円。これが国の文部科学大臣の前で取り決めた彼への給与型奨学金だよ」
「俺達の給料より高い・・・・・・」
「ちなみに他にも条件がつけられてるけど聞くかい?」
「・・・・・・書類で下さい」
「そろそろ0ポイントロボを出す時間になるかな?」
「二分後に全会場で動かします」
「救助ポイントもいつも通り付けて大丈夫ですか?」
「このVTR は国にも提出するからいつも通りじゃないとまずいよ」
「ん、ロボがいなくなったからか?」
今までスタート地点からまったく動かなかった少年がポケットに手を突っ込んで少し猫背で歩き始めた。
■
日本に来て彼が最初にやったことはお偉いさん達との会合だった。ほとんどザ・出来る人である彼の祖父の所に出入りしていた顔見知りが話していたので彼は黙って出されたお茶をちびちび飲んでサインしただけだが・・・・・・
そんな表情筋が仕事をしない彼の周りからの評価は恐怖に近いものがあった。次々と決められていくものはほとんど彼の要望通りになっていく様を表情も変わらず淡々と眺めており、この会合の場に着いてから一言も喋らないのだから当然かもしれない。
そして、雄英の校長から提示された給与型奨学金の話しで、ヒーロー科の一般入試の実技試験におけるポイントに付き2500円という『エンターテイメントさ!』という下りで初めて「フッ!」と笑ったのがさらに周りに緊張感を与えた。『古来より笑顔は攻撃的なもの』を体現するような彼の笑顔はげっ歯類の校長も捕食されるとしっぽがピンと伸びるほどだった。
彼は雄英校長の『エンターテイメントさ!』に某夢の国テーマパークを思いだし、今度あの子を連れて行こうと考えていただけだが・・・・・・
そんな会合を思い出しながらバスにゆられ、実技試験会場に着くと周りは今日という日に緊張と興奮を表情に浮かべた受験者達。対して彼の表情は変わらなかった。だが、やる気が無いわけではない。異常にテンションが高く矢鱈デカイ声の説明をしていた先生の話しではポイントを振り分けられたロボットを倒せとのこと。人間相手ではない事にホッとし、後から来る事になっている自分と生活を共にする子のことを思う。いくら貯金があるとはいえ、この試験の成果で生活水準が決まるとなれば頑張らなくてはならない。
『はい、スタート』
その放送と共に彼は地面に手を置いた。
彼の個性には色々と長所がある。その一つである索敵を行う。会場中の索敵を行うと黒い球を無数に発現させた。
今だに混乱している受験者達は放送で、
『どうしたぁ!実戦じゃカウントなんてねぇんだよ!走れ!走れぇ!賽は投げられてんぞ!?』
そんな言葉に慌てて皆動き出す。しかし、彼は動かなかったが、
「行け、
その一言で彼の周りにふよふよ浮いていた無数の黒い球が会場中に飛び散った。
数分後、同じ会場の受験者達は絶望的な表情を浮かべていた。ポイントが振り分けられたロボットが壊されているのである。一方的なまでの蹂躙であった。ポイントが取れない受験者達の間で混乱が広がる。
「何が起きてるんだ?」
そんな言葉をのみこむかのように受験者達に更なる混沌が動き出す。
索敵に引っ掛かったロボを倒し終えた彼はポケットに手を突っ込んで確認の為歩き始めた。
今のところどれくらいポイントを取れたか分からないが動いてるのは受験者だけになっているはずと散歩するように周りを見ながら確認していく。そんな中地響きが会場を襲った。
『0ポイントギミック』お邪魔虫、ドッスンとは良い例えではないだろうか?見上げても把握するのが困難なサイズの仮想敵が受験者達に牙を剥いた。
「おっきいなぁ」
そう呟く彼は逃げ惑う受験者の波に逆らうように歩を進めて行く。
0ポイントの仮想敵を倒す為ではない。ポイントを持っているロボがいないかの確認の為である。今の彼はお金を稼ぐ事に貪欲である。
そんな歩みの中彼は見つけてしまった。仮想敵の歩みに巻き込まれた受験者達を・・・・・・それを見捨てて逃げる受験者達を・・・・・・
そんな様子を彼は声を上げて笑った。特にヒーローに興味があるわけではない彼だが、ヒーローを目指す試験で、救助者を見捨てたヒーローに成りたかった者達に対し嘲笑した。
そして、手を銃の形にすると仮想敵の方に向け、
「
0ポイントの仮想敵を消し飛ばした。
■
「あれが彼の個性『重力操作』ですか・・・・・・」
VTR に写る彼は仮想敵を消し飛ばした後、瓦礫に挟まれている者や怪我をした受験者達を助け、そのまま試験は終了した。
「あれって完全に僕の上位互換ですよね」
13号は乾いた笑いしか出なかった。最初に地面に手を置いたのは感知する為の行動なのだろう。そしてロボを破壊しつくした黒い球。多分一つ一つが高重力圧で発生させた擬似的なブラックホール。あれほどの数の緻密な操作をするためにどれだけの修練を積んだのか、それに加え圧巻だった先程のビームのようなものの威力。個性を使用するということは人体における筋肉を使う事に似ている。試験終盤にあの威力のものを放ちなおかつ、受験者の救助においても個性を使用しているところを見るとその限界値が伺いしれない。
「彼はどんな思いで生きて来たのだろう・・・・・・」
そんな呟きにVTR を見ていた面々は思い出す。仮想敵を消し飛ばす前の今にも泣きそうな顔で笑う彼の姿を。