フランを肩車しているせいで何となくのほほんとした空気の中、こちらを見ている生徒達のもとに歩いて行く。
「フラン、テスト楽しいかい?」
「うん、ば~んて爆発したり、ご~っていったりしてびっくりしたけど、うにゃっ!ってがんばってる!」
そうかそうかとフランと話しをしていると、じーっとこちらを見ている女の子が目に入った。フランを肩から下ろし、その女の子に近づく。
「久しぶっ」
ケロっといきなり舌が伸び左頬を叩かれた。
「ちょっ」
「いきな」
「つっ」
「蛙吹、落ち着け」
まるで、君が泣くまで殴るのを止めないとばかりに、相澤の制止も無視し、バシバシと舌で叩き続ける。彼が叩かれ続けているのを見ているフランは、彼の強さを知っているので、「梅雨ちゃん凄い」と何故か憧れの眼差しを向けており、生徒達は突然の出来事に「何事?」とか「アオハルだぁ」等と好き勝手言われている。
落ち着いたのか蛙吹は舌で叩くのを止めると彼に近づき、
「心配したんだからぁー」
と彼の顔に向け思いっきり右ストレートを放った。
それはとても綺麗なフォームから繰り出されたストレートだった。周りもその芸術とも言うべきフォームに見とれ、プロヒーローである相澤も目をみはり、彼も時が止まったように動けず、ただ懐かしい思い出が頭の中を駆け巡っていた。
「ブファッ」
そして走馬灯すら見せるストレートを顔面にくらい、そのままグラウンドに仰向けに倒れたのだった。
■
「はい、静かになるまで10分もかかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね。それと蛙吹。お前達に何があったかは聞かないがガキみたいなことはもうするなよ。最後のストレートのフォームは見事だったがな」
ケロぉと落ち込む蛙吹を他所に相澤は続ける。
「それとそこで蛙吹に土下座してるのがこのクラスの21人目だ」
フランに頭を撫でられながら脇に脱いだ靴を置き、蛙吹に土下座してる男を生徒達は見下ろす。
「そいつは雄英高校初の特待生だ。名前は八神凛」
「「「「はぁ?」」」」
クラス全員の間抜けな声が一致した。
「それじゃあ、テストの続きをやるぞ」
何事もなかったように相澤は手元のタブレットを操作し始める。
「ちょっと待って下さい。確かフランさんが、この方の変わりとおっしゃってましたが、どうするんですか?」
八百万の質問は生徒達にとっては除籍がかかっている為当然の疑問だった。
「八神、お前どうする?」
「このままフランが受けてくれて構いません」
土下座したまま彼は頭を上げる事なく答える。
「なら、このままフランちゃんにやってもらうが、一種目はやってもらう」
「分かりました」
「んじゃ、始めるぞ。続きは反復横飛びだな。青山からやるぞ」
「ウイ!」
相澤が準備を始めたので生徒達もそちらに向かう。そんな中、蛙吹と土下座のままの彼が残された。
「あとで、何があったのか教えて・・・・・・」
「分かった」
「凛ちゃん、お帰りなさい」
「ただいま、梅雨ちゃん」
そんな短い会話で、数年ぶりに幼馴染みは再会したのだった。
■
緑髪のモジャモジャが、「先生・・・・・・まだ・・・動けます!」とか悪人面が手のひらを爆発させながら「どーゆうことだ、ワケを言え!デクテメェ!」などと青春ドラマが繰り広げれている中、彼はスマホでパシャパシャとフランを写真に収めていた。
「ねぇねぇ、蛙吹さんだっけ?あの特待生って人とどーゆう関係なの?」
ピンク色の角の生えた女の子と透明で服が浮いているようにしか見えない子が蛙吹の傍にやって来た。除籍がかかるテストとはいえ、女の子の燃料である恋バナの匂いに釣られたのだろう。
「数年ぶりに会ったけど、幼馴染みよ」
「運命の再会?」
「いいねぇ!アオハルっぽい」
「違うわ。あれを見てもそんな事言える?」
蛙吹が指差す方を見ると、フランの写真を撮っている彼の姿があった。
「ロリコンさんかなぁ・・・・・・」
「フランちゃんは、パパと呼んでいたわ」
おっさんがJKや、JCにパパ呼びされるのは犯罪臭ただようが、フランちゃんくらいの子にパパ呼びされてるのはもっと不味い気がする。
「ちなみに
二人はフランを見る。見た目だと多分5、6歳くらい。自分達と同じ年齢なのにそのくらいの娘がいる・・・・・・逆算すると9、10歳くらいの時の子供という事になる。一人は透明だが、二人は顔を見合わせた。恐る恐るだが、蛙吹に聞かなくてはいけない事がある。
「ちなみに数年ぶりに会ったって言ってたけど、いつぶりなの?」
「小学・・・・・・確か三年生だったから、だから6年ちょっとぶりかしら」
ぴったり計算が合ってしまった。
「「はっ、犯罪だぁー」」
叫ぶ二人を見て、「私も同じ事考えたわ」と蛙吹はため息をはいた。
■
八神凛よ、メモリーの貯蔵は充分か?と言わんばかりにフランが頑張っている。仕事用のスマホのメモリーも動員し、写真と動画をスマホ二刀流で撮っていると相澤から怒られた。
フランは反復横飛びでは、6歳女子の平均を越える回数を記録し、ソフトボール投げでは、背中から火の鳥が飛び出し、フランの手からボールを足で掴むとそのまま飛んで行き再び無限を記録した。持久走ではスタートで走り出さず、あえて皆がスタートしてから炎翼をだし、空から生徒達を抜き見事一位になった。残りの長座体前屈、上体起こしでも6歳女子平均を獲得した。全種目終了し、トータル最下位が除籍になる。クラス21名+αが集められ、その前に相澤が立つ。凛は生徒達の顔を見る。フランの成績を聞く限り彼が除籍になることはない。一番暗い顔をしてるのは先ほど悪人面と青春ドラマを繰り広げた緑髪のモジャモジャである。恐らく自身で最下位を自覚しているからこそ落ち込んでいるのだろう。
「んじゃ、ぱぱっと結果発表な。トータルは単純に各種目の評点を合計したものだ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括表示する。ちなみに除籍は嘘な。君らの最大限を引き出す合理的虚偽」
鼻で「はっ!」っと笑い。良い笑顔を浮かべた相澤が
タブレットを操作し、順位を表示する。
その言葉に生徒達の多くが『はーーー!?』と叫ぶ。よほど除籍にびびっていたのだろう。緑のモジャモジャはもはや人間がして良い表情の限界を超えている。表情筋があんまり仕事しない彼と足して2で割ると調度良いかもしれない。そんな緑モジャモジャに八百万と呼ばれた女子が止めを差しにいく。
「あんなの嘘に決まってるじゃない・・・・・・ちょっと考えれば分かりますわ」
「そゆこと。んじゃ、八神。どの種目やる?」
「なら、50メートル走で」
「なら準備しろ!」
着ていたジャケットをフランに渡すと、上半身をストレッチしながらスタート地点に歩いていく。その背中を見送りながら相澤は生徒達に告げる。
「お前ら、良く見ておけよ」
『よーい、スタート』
合図の瞬間、彼の姿が消えた。
『0秒91!』
「現時点でお前達の前を行く者の実力の一端だ」