八神凛との関係を聞かれると幼馴染みと答える。それが蛙吹梅雨という少女だ。しかし、彼との記憶があるのは小学3年生までであり、その最後は火の手が上がる彼の家という最悪なものだ。だから、昨日数年ぶりに再会した時に飄々と長期休暇開けの学校で会ったみたいなノリで挨拶してきた彼に暴力を振るったのは悪くないと思う。
そんな蛙吹は今、八神凛の自宅の物が少ないリビングに落ち着かないでいる。
「ちょっと待っててね。今温めるから」
キッチンから顔を出す彼の顔は、記憶にある子供の顔ではなく、少し大人びていて 少し時間の流れを感じ寂しさがわき出てくる
「凛ちゃん。今日も休んでたみたいだけど・・・・・・それにフランちゃんはどうしたの?」
「フランなら今日から学校だよ。午前中は小学校に挨拶に行ってたんだ。だから、授業は午後から出るよ」
保護者は大変なのね。でも似てないのよね。本当に親子なのかしらと考えていると、
「出来たよ。残り物でごめんね」
出された食事はシチューとパン。簡素ではあるが家庭的な料理だった。
「充分美味しそうよ。ありがとう。いただきます」
自分でも家族に料理を作っている蛙吹は驚いた。
「負けた気分ね」
「どうしたの?」
「とっても美味しいわ。凛ちゃん料理出来たのね」
「覚えたのはフランの為だよ。あの子にはいろいろあってね。俺の料理で申し訳ないけど家庭の味っていうのかな。そういうのを知って欲しいんだ」
「そう、なら話して・・・・・・あの日何があったのか、今まで何をしていたのか。フランちゃんのことも含めて教えて欲しいのよ」
「そうだね、順番に話したほうが分かりやすいかな」
そう言うと思い出すように凛は目を閉じた。
■
あの日は、確か後見人が来るから家に居ろって言われてたんだ。それで待ってたら来たのは弁護士でね。
『君と血の繋がった人物の依頼で来た』
みんな死んでると聞いていたから驚いたのを覚えてる。それで話しを聞いてたら母方の祖父が、実はヤの付く職業の人で父さんの職業といろいろ裏でやってた人だから死んだ事になってる。って話だったんだ。
「凛ちゃんのお父さんは・・・・・・」
今は気にしてないよ。あの事件で表に出ちゃったけど、あの役割を選んだのは父さんだし、今ならその選択も理解出来るし・・・・・・ただ俺は選ばないけどね。
そんな話しをしてたら、何かが襲って来たんだ。その時は弁護士さんのおかげで逃げる事が出来たんだけど、周りに連絡とかしちゃうとその人達も襲われる可能性もあったから連絡出来なかったんだよ。後から聞いたけど、家も火事になったみたいで、連絡先が書いてあるものとかも全部焼けちゃったみたいだから連絡出来なかったってのもあるんだけど、本当にごめんね。
「それは良いわ、私もあの火事を見たもの。それに凛ちゃんが悪い訳じゃない」
ありがとう。あの時は、父さんの事件のせいで恨みがある
「どうしたの?」
いや、そろそろ出ないと授業に遅れるよ。
「もうそんな時間なのね・・・・・・分かったわ」
続きはまた今度だね。皿はそのままで良いよ。
「悪いわね。今度何かさせてもらうわ」
気にしないでいいよ。梅雨ちゃんには迷惑かけてばっかりだしね。じゃあ、行こうか。
「その前に、一つだけ聞いていいかしら?」
何?
「フランちゃんって実の娘なの?」
そうだったら良いけど違うよ。日本だと養子というのかな?
「分かったわ」
■
「わーたーしーがー!普通にドアから来た!HAHAHAっぶふ!」
ドアから現れたのはオールマイト。ご存知、No.1ヒーローである。クラスが一気に沸き立つ瞬間、八神凛に蹴り飛ばされた。凛はあまり表情は変わっていないがかなり怒っていた。昨夜、夕食を作っていたところ呼び鈴がなりフランが対応する為玄関に、ここのところ毎日のように来るミッドナイトだろうと考えてたら玄関からフランのがちの泣き声が響き、何事だと玄関に行くとガリガリの骸骨おっさんが血を吐いていた。
通りかかったげっ歯類が『オールマイト!』と骸骨を呼んで、骸骨を引き取りその場を治めてくれたが、家に入りフランを落ち着かせ話しを聞くと物凄いマッチョがいきなり血を吐きながらガリガリの骸骨おっさんになったらしい。ただのホラーじゃないかと思い、人の娘にトラウマを刻んだオールマイトを蹴り飛ばすと決めた。
「何をするんだい凛少年!先生に暴力なんて感心しないぞ!」
「うるさい!このロリポンコツ!お前のせいで昨日の夜からフランが赤ちゃん返りして大変だったんだぞ!人の娘にトラウマ作りやがって!」
「何もしてないじゃないか!挨拶しただけだよね」
クラス中が冷や水を掛けられたかのように沈黙をしているなか二人はヒートアップしていく。
「もうお前の存在がもうダメなんだろ」
「それ、おじさんちょっとショックなんだけど・・・・・・」
グダグダになったところで蛙吹が助け舟を出した。
「いい加減にしないと怒るわよ」
「「すみませんでした」」
『蛙吹スゲー』クラスの心の声が一致した。
「えーと、何かグダグダしちゃったけどヒーロー基礎学の時間だ!ヒーローの素地を作る為さまざまな訓練を行うのがこの科目!早速だが今日はコレ!戦闘訓練!」
『BATTLE』と書かれたプレートを力強く掲げる。
「それに伴って、こちら!」
教室の壁が動き始める。
「入学前に送ってもらった個性届けと要望に沿った・・・・・・
一人を除いてクラス全員のテンションが上がる。
「着替えたら順次グラウンドβに集まるように!」
「はーい!」
「格好から入ることも大事だぜ、少年少女!自覚するんだ、今日から君たちはヒーローだと!」