オールマイトが感傷に浸っていたり、生徒達が騒いでいた頃。凛はこの戦闘訓練の意味を考えていた。この訓練は実践とはほど遠いお遊びみたいなものだ。ヒーロー側も
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『わ、私の負けだ!』
戦闘訓練を開始してすぐの事だった。
「・・・・・・何だ、・・・・・・今の?」
「わ、分からない」
生徒達が釘付けになっているモニターに映されていたのは、片膝をついたオールマイトに確保テープが掛かっている姿とそれを見下ろす八神凛の姿だった。
生徒達が唖然とするのもの無理はない、No.1ヒーローのオールマイトが『ヒーロー』として戦う姿以前にあまりに呆気ない決着だったのだから・・・・・・
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凛は核兵器のハリボテを持って上の階に上がらず一階の入り口から見える通路の一番奥に置いた。これでオールマイトは警戒するだろう。確保テープを建物の入り口から見えない入り口裏側の上まで『個性』を使い浮かせた。二人ペアなら確保は任せるが一人でやらなくてはいけないので『個性』解除のタイミングをはからねばと考えていると、無線機から『さぁ、始めようか!』とオールマイトの声が聞こえたので入り口と核兵器のある場所のちょうど中間くらいのところに立つ。これでオールマイトからも姿が見えるだろう。これでオールマイトは警戒するだろうが凛のこの挑発にのらざる得ない。その理由は2つある。一つ目は、これが訓練という授業である為だ。先程凛が全員の前で啖呵を切ったこともあり、調子に乗った生徒の鼻を折る意味も含め正面から来るだろう。二つ目は、相手がオールマイトであるということ。オールマイトは平和の象徴としてこの状況で搦め手を使うことが出来ない。正面からしか来れないし、それが出来るだけの力を持っている。
果たして、オールマイトは堂々と正面から来た。
「さっさと来いよ『
「むぅ・・・・・・それを言われるのは辛いところだが、いくぞ!」
凛の言葉に少し傷付きながら、そう言うとオールマイトは構え、一歩で凛までの距離を詰め自分の間合いに入った。そのまま構えた右を繰り出そうとしたところ凛の右手でパンチが受け流され体勢を崩しかける。
「なっ!」
オールマイトは驚きを露にするが、流石No.1ヒーローといったところか?崩しかけた体勢を無理矢理戻す。しかし、その一瞬、そのスキを凛は逃さずオールマイトの顔に『個性』を使った左のパンチを叩き込む。
「ぐぅぅぅ・・・・・・」
オールマイトは入り口のところまで吹き飛ばされ片膝をつく。そしてその首のところには確保テープがスッと降ってきたのだった。
確保テープを唖然とした顔で確認したオールマイトは動揺を隠せないまま自分の負けを理解した。
「わ、私の負けだ!」
「んじゃ、フランの迎えがあるから帰る」
「ま、待ちたまえ凛少年!これから講評があるんだ!それくらいは出てくれ!」
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言葉を失う。それが一番このモニタールームに適した表現だなぁ。とオールマイトと共にモニタールームに来た凛が最初に思ったことだった。
「HAHAHA!凛少年は凄かったな!負けてしまったよ」
少し落ち込んでいたが、モニタールームの様子にオールマイトは空元気で場を盛り上げようとする。やはり私は負けてはならない。そう心に改めて誓うのだった。
「さて、講評をしようじゃないか!勝ちも負けも理解してこその経験だ!みんな!私達の演習を見て感想は?」
「よく分かりませんでした」
「そうだね、私も分からないまま負けてしまったよ。多分、凛少年の作戦勝ちなんだろう。どういった事が演習で起きていたのか凛少年に教えてもらおうか?」
その言葉で訓練開始前と同様にまた凛に視線が集中する。さっさと帰りたいと思っていたが梅雨ちゃんがじっとこちらを見ているので彼女の納得がいかなければ帰してもらえないだろう。凛は一つため息を吐くとこの状況を作ったオールマイトに嫌がらせはしておこうと決めた。
「相手してたのに分からないなんてやっぱりポンコツなんだな」
「うぐっ!」
オールマイトが落ち込んだのを横目に凛は説明を始める。
「まず、俺が考えた方針は『核兵器』の防衛ではなくヒーローの『確保』だね。その方針にそって、確保テープを『個性』を使い浮かせて、その罠の位置までヒーローを誘導して確保したんだ」
それだけだよ。と続け、帰ろうとした。
「それじゃ、全然分からないわ。最初から説明して」
やっぱり
「俺が訓練開始前に言ったことを覚えているかい?」
「オールマイトがヒーローやる方が皆見たい」
「それもだけど、俺は『負けるつもりはないからどっちでも構わない』ってのも言ったんだ。これで
「そそそんなことは考えなかったさ!」
『『『考えたんだ!』』』
「それを踏まえ、次に打った手は『核兵器』を入口から見えるところに置いたことだよ」
「何かあると思わせる?」
「あぁ、その上で俺が姿を見せることで
「何故ですか?」
「
「オールマイトだから正面から来るように仕向けた訳?」
「そうだよ。それに訓練開始前に
「凛少年、何故そこまで相手の心理を考えられるんだい?」
「お前が脳筋なだけだ。この訓練は選択次第で楽に勝てるそんな遊びだったよ。そもそも実践じゃ
度重なる凛の口撃で本格的に落ち込むオールマイトをほったらかしのまま説明を続ける。
「戦闘に狡いなんて概念はない。そもそも
そう言うと凛は、手を振りながら帰っていった。
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『壁になってくれ』そんな親友の頼みをこなすことは出来なかった。予想はしていたが、まさかここまでとは思いもしなかった。凛少年はまるで遊ぶかのように全力なんて出さなかった。最低限の力で勝てるように全て組み立てられていて、講評の際もまるで未熟な者達を導くかのように
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オールマイトとの戦闘をただの遊びと言いきり、訓練での内容を説明した凛が帰った後、モニタールームでは開始前のテンションは見る影もなくオールマイトも含め皆少し落ち込んだ様子が見てとれた。
「なんか八神ってスゲーな!」
「オールマイトより先生してたな」
そんな言葉にオールマイトは落ち込んだ。しかしそう落ち込んでもいられない。これから生徒達の訓練を始めなくてはいけないからだ。
「さて、凛少年は帰ってしまったが最初に言ったようにみんなにはこれからクジを引いてもらう。凛少年も言っていたが自分が出来ることを最大限に活かして訓練をしていこう!」
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ホームルーム後教室で生徒達により、ワイワイ騒ぎながら今日の戦闘訓練の反省会が行われていた。最後の話題は帰ってしまったが八神凛のことだ。
「八神は凄かったな!実践まで考慮した考えなんて思いつきもしなかったぜ。訓練を訓練で終わらせるところだった」
「そうですわね。勉強すべきことは多いです」
「オールマイトも早退することに何も言わなかったから先生達も八神のことは特別扱いしてるみたいだな」
「八神の実力って本当どれくらいなんだろうな?オールマイトをパンチ一発でぶっ飛ばしてたよな」
「爆豪や轟も凄かったけど、なんて言うのかな凄味があった」
「なぁ、蛙吹!子供の頃しか分からないって言ってたけどそのころから八神って凄かったのか?
「ケロ?そうねぇ、昔は優しい子だったわね。その頃は『個性』もほとんど使わなかったし、必要な時以外もの静かだったわ」
「ってことは海外に行ってた間に強くなったってことだな」
考察をしてみるが八神凛という人間の謎が増えるだけだった。
「おい、お前ら下校時刻だ!さっさと帰れ!」
見回りに来た相澤に声をかけられたところで反省会は終わりをつげた。
「先生!八神のことを教えてくれませんか?」
「本人に聞けと言いたいところだが、あいつのことだ、しゃべらんだろう。教師が特別扱いしてることもあるしな。明日のロングホームルームで時間が余ったら教えてやる。だから今日はさっさと帰れ」