今から800年も前のことだ。
20人の王達は『世界政府』という一大組織を作り上げた。
人による、人の支配が始まった時でもある。
天竜人と呼ばれる末裔たちは、今もなおその地位を保っていた。聖地マリージョアにて、世界一安全な暮らしをしている。世界政府、そしてその下部組織である海軍によって、彼ら彼女らは恒久的に守られている。
選ばれた人間は、豪遊の限りを尽くしていた。
人が人を虐げる、そんなことは当たり前の光景だった。
悪魔が囁いたとき、希望が私にもたらされた。
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剣士ゾロ、狙撃手ウソップ、コックのサンジ、航海士のナミ、彼ら彼女ら4人の仲間で構成された海賊団を率いるのは、ゴム人間であるルフィ。悪魔の実を食べた彼は身体がゴムとなり、能力を活かした戦い方で東の海の猛者を倒してきた。
自分達より規模のずっと大きい海軍や海賊団に対して、勝利したのだ。しかしそれは接戦の末に得たものだ。ゾロに至っては大剣豪の一閃によって大怪我を負った。それでも彼ら彼女らが前を向いて進んでいるのは夢のためで、仲間がいるからだ。
「ここどこだ?」
苛立ちを見せながらゾロは呟く。
始まりと終りの町、この町はそう呼ばれている。このローグタウンは、『海賊王ゴール・D・ロジャー』の出生地であり処刑地でもある。だから、東の海から偉大なる航路に入ろうとする海賊たちはこの町へ訪れることが多い。
「まったく。くいなに似たやつに会うし、雑用させられたし、それに武器屋が見つからないし、今日はついてない日だ。」
彼は、極度の方向音痴である。
「なんだありゃ。」
小人が、歩いているように見えた。
導かれるように裏路地に入ったゾロは、女を見つけた。
「おいお前。」
「……なんでしょう?」
自分と同年代くらい、膝を抱えた女が顔を上げた。桃色の髪を長く伸ばし、手入れもされていない。快晴の中で、黒いトレンチコートを着た少女はずいぶんと厚着で肌はずっと白い。高身長の女性も多い世界では、ずいぶんと小さい。
心配する義理もない、そう思いつつもゾロは頭をがしがしと掻いて口を開いた。
「不幸女、こんなところでどうした?」
「別に。あなたこそ、道に迷ったんですか?」
「武器屋が見つからないんだよ。もっとわかりやすくしろよな。」
「ひどい言いがかりですね。1つはあっちですよ。」
女が指差した方向をゾロは見る。
ギュルルル、そんな音が隣から聞こえてきた。
「金がないのか?」
「……あるにはあるんですけどね。」
「じゃあ、食えばいいだろ。」
「お金、貯めているんです。」
「なんでだ?」
「船の交通費。」
「どこに行く?」
「さあ。人のあまりいない、穏やかな場所がいいでしょうか。」
航海士であるナミは金の亡者だが、それとは決定的に違って訳アリらしい。また、幼馴染とは違った深刻そうな顔にムカつきを抱いていることに、ゾロはため息をつく。
「ちょっと、ツラ貸せ。」
「お、お家に連れ帰るのですか!?」
恐怖、それが彼女を支配している。
だがしかし、わざわざ他人のトラウマを掘り返す趣味はゾロにはない。
「ちげぇよ。ごはん食わせてやるだけだ。」
「それは……強引なお誘いでしたね。」
「なに赤くなってやがる!!」
頬を紅く染めた不幸女にツッコミを入れながら、痩せ細った腕を引っ張る。普段から鍛えている彼の握力では簡単に折れてしまうだろう。唯一の身近な女性であるナミは一筋縄ではいかぬ豪傑なので、繊細に扱うべき不幸女に対してゾロはイライラが募る。
「……俺はなんで海まで来たんだ。」
「……こういう最期もいいかもしれませんね。」
「違う!街中に行きたかったんだ!」
彼は、極度の方向音痴である。
見つけた露店で買ったパンを渡せば、感謝を述べる。
船長であるルフィとは対極的で、丁寧に小さくちぎりながら大切そうに食べている。ここ数日豪快な食事ばかり見てきて新鮮なので彼女の様子を、ゾロは静かにボーっと見つめていた。
「ごちそうさまでした。」
「おう。武器屋までお礼に案内してくれ。」
「いくつかありますが、いわくつきの場所でいいでしょうか」
「なんでだよ!」
「ですが、お安いですよ。」
「それはまあ、いいことだな。」
海賊狩りとして賞金稼ぎだったゾロの持ち金はほとんどない。刀を買う代金として金の亡者から借りるしかない状況だ。どれだけの利子をつけられてしまうだろうか。そもそもナミに一味の財布を握られている時点で、危機的状況なのかもしれない、ゾロはそう思えてきた。
コートの袖からナイフを取り出した彼女だが、やはり海賊がうろうろしているこのご時世では、一般人でも時には武器が必要になるのだ。剣術に関して素人な女でも扱える、いいチョイスだとゾロは感じた。
「それに、オススメしたい刀がありますし。」
「へぇ、そいつは楽しみだ。」
「でも、刀持っているんじゃありませんか?」
「俺は三刀流使いでな。」
「……ぽっ」
「赤くなるな!!」
「い、いえ。ずいぶんと鍛えているんだなと。」
「あっ、ああ。まあな。」
「その刀、なんだか喜んでいる気がします。」
もちろん努力や実力を褒められるのは、ゾロにとっても悪い気分ではない。一味のメンバーは心ではそう思っていても、面と向かってゾロに言ってくれることはそう多くはないのだ。
機嫌を良くしたゾロは、もう少し話してみたくなった。
「そうだ、お前の名前は?」
「わ、私には、名前などありません!あなた様の呼びたいようにどうぞ!」
「は?」
豹変。
作り笑顔を浮かべた女性はそう告げた。
ゾロは、華奢な肩を必死に肩を揺らす。
「お前、どうした!?」
「あっ……、強引ですね。」
「赤くなるな!?」
たくっ、と言いつつずいぶんと訳アリな女に会ってしまったとゾロは思う。とことん今日はついていない日らしい。このまま理想の刀が手に入らないのかもしれないと思うと、憂鬱な気分になってくる。
「俺はロロノア・ゾロ。ゾロでいい。」
「……つ、着きましたよ。」
スタスタと先に入っていく不幸女に、ゾロは首を傾げた。
刀だけではない。
細剣や盾、鎧まで飾ってある。
ダルそうな店主と一言二言話をした不幸女は、掘り出し物を漁り始めた。
「あっ、あなた。無事だったんですね。」
「お、お前……」
ゾロの幼馴染にずいぶんと似た少女だ。どうやら刀マニアらしく、ゾロの刀『和道一文字』に興味を示したらしい。くいなの形見である刀は大業物21工であることを熱弁されたが、ゾロにとっては良い刀であることは確かだ。
「ゾロさん。そちらの女性は?」
「特に関係はない。」
並々ならぬものを放つのは、彼女自身なのかそれとも刀なのか。ともかくゾロにとっては知り合い以下でしかないのでそう伝えれば、たちまち不幸女の機嫌が良くなった。
ゾロの意識は、細い腕で抱えられた1本の刀に向けられていた。
「それよりも、その刀……」
「はい。オススメしたいものです。」
「今日の俺は、運がいいな。」
ゾロは鞘から刀を引き抜いて、見つめる。
たしぎや店主の説明によれば、この『三代鬼徹』は、妖刀
「そ、そんな恐ろしいもの、ダメですよ!?」
「おい、不幸女。なんでこれを勧めた?」
「世界一の剣豪を目指すゾロさんには、相応しいか思いまして。」
「ふっ、そうか。」
己の夢を話したことはない。
だが夢のために導かれたこの瞬間は、悪くない。
ゾロの船長と同じで、彼の夢を決して笑わない。
「こいつを貰う。」
「ば、ばかだろ、お前!」
「俺の命運と、こいつの呪い。どっちが強いかどうか。」
上に、刀を放り投げた。
妖刀の切れ味は十分ある。鍛えた彼の腕でも容易く斬ってしまう。だがしかし、ここで終わってしまう命運なら剣豪になるまでに果てるだろう。十字架を振るう剣豪を超えるためには呪いでもなんでも受け入れる、そう思いながらゾロは目を閉じた。
「ホロホロホロ」
床にまっすぐ突き刺さった。
呆然と見ていたたしぎたちに対して、不幸女は楽しげに笑う。
彼女は、刀に宿った魂のことがなんとなくわかる。
「よ、よかった……」
「なんて度胸だ……」
「ホロホロホロ、運命ですね。」
刀から認められている、そんな魂を持つ彼に彼女はとっくに惚れていた。
「もらっていく。」
「ま、まってろ! お前さんに渡したいものがある!」
ここに、三刀流剣士は蘇った。
受け継いだ刀、悪運に導かれた妖刀、そして夢を託された刀。