ペローナは細い腕に力を籠めた。
絵本に描かれたゴーストはいっぱいいる。
全てのゴーストはまだ呼び出せない。
自分が存在を信じきれていないのだから、当たり前だ。
「求めるは、火。」
背中は痛い。
背中に無理やり刻まれた『熱』はまだ癒えていない。
「でも。彼の血の熱さに比べればっ!!」
「な、なにをする気よ! こいつっ!?」
「ぐっ……」
普通に生きることはとっくに諦めたはず。
惨めに生きることを認めよう。
這いつくばってでも、1つの夢だけは叶えたい。
「だって」
―――恋だけは、諦めたくないから
熱い魂を持っていて。
刃のように研ぎ澄まされている。
「世界一の大剣豪になる物語は、決しておとぎ話なんかじゃない!」
伝説をこの手で実話として書いて残そうとするのなら、誰よりも近くで見るのが一番なのだ。
ポンっと煙を立てて現れた、絵本のゴーストの1体。
その名を告げる。
「ウィル・オ・ウィスプ!!」
蒼き炎が、蝋の塔へぶち当たる。
一部だけ溶かされるのではなく、炎に包まれた。
「蝋は、炎が弱点。」
「だが!なぜあんなに燃えているんだガネ!?」
「……酒か!?」
空となった巨大な酒樽がゴロゴロと転がってくる。
ブロギーの自家製酒は、アルコール度数が異常に高い。
「こっそり、運ばせていたんですよ。」
スペクターは塔の背後から迫っていた。
隠密行動こそが、ホロホロの実の真骨頂である。
白い蝋のケーキが溶かされていく。
彼ら彼女らが無事かどうかは、まだわからない。
「ホロホロホロ」
してやったりと笑うペローナに、苛立ちは増すばかり。
「こいつ、よくも!押し潰してやる!!」
「ぁぐ……」
踏み台にしてジャンプし、体重を1万キロへ。
必殺技である1万キロギロチンの体勢だ。
「望み通り、押し潰してあげるわ、軽い女!!」
ダメージに加えて能力の行使、避けることはできないだろう。
「上出来だ、ペローナ」
「ゾロさんっ!」
炎の中から飛び出したゾロは、両腕を交差させる。
「焼!鬼!斬!!」
3本の刀を使った一閃。
彼の剛腕を最大限に活かした、峰打ち。
「かはっ!!」
1万キロの女を、空中でぶっとばした。
「か、軽いな。」
意趣返しにと、皮肉を告げる。
あくまで強がりであって、痺れた腕を振っていた。
「きゃうん!?」
「この娘、接近戦に弱いのね。」
「厄介な暗示能力、防がせてもらったわ。」
ミス・ゴールデンウィークを鉄拳で気絶させたのは、ナミとビビ。2人とも上着を焼き焦がしながらも、炎の中から脱出することができた。
「私の芸術作品が~!」
「くっ! まずは小娘たちからだ! ふっ!」
抹殺対象であるビビだけは、逃さない。
Mr.5は標的を絞り込む。
リボルバーに吹き込んだのは息、つまり火薬。
不可視かつ爆破属性を持つ弾丸を放つことができる。
「ブリーズ・ブレス・ボム!」
ドカンという音。つまり当たったのは確実だ。
「やったか!?」
「む、麦わら、生きていたんだガネ!?」
煙が晴れて現れたのは、腕をクロスしたルフィ。
「ありがと。」
「わりぃ、遅くなった。」
麦わら帽子を後ろ手でナミに預ける。
煤汚れた帽子は、彼の頑張りを物語っていた。
「まったく。ボロボロじゃない。」
重い身体で彼は、何頭もの恐竜を倒してきた。
「ぜぇぜぇ…どっちか俺たちにやらせろよ!」
待ったをかけながら、ウソップたちも森から出てくる。
1人と1匹も、いつ倒れてもおかしくはない。
「じゃあ。俺は3のやつ。」
「へへっ。じゃあ、爆弾野郎だな。」
「クェ!」
2人と1匹は凄まじい剣幕で、Mr.3 とMr.5を睨みつける。
「手、貸してやろうか?」
「いえ、がんばります……」
支えられることなくペローナも立ち上がった。
重い身体でふらつきながらも、歯を食いしばる。
―――こいつら全員、イカれている
満身創痍。疲労やダメージは負っているはず。
しかし誰1人、倒れようとしない。
「な、何をそこまで怒っているのだガネ。」
とんでもない海賊団と戦っているのではないか。
Mr.3とMr.5は、そんな気がしてならない。
「仲間を、泣かせたこと。」
「男と男の決闘を汚したこと。」
「クェッ!」
「「いろいろだッ!!」」
爆破の音とともに、戦いの火蓋が切られた。
***
ウソップとカルー、Mr.5の戦いは続く。
「ちょこまかと!!」
接近しながら攪乱するカルー、そして援護するように鉛が飛んでくる。
「いい走りだぞ!」
彼は無意識に爆破を起こせるわけではない。
「……そのロープで俺を縛ろうって魂胆か?」
「クェッ!?」
いつの間にかカルーは縄の先端を咥えていた。
Mr.5の方が格上、拙い作戦はすぐに読める。
「げっ、バレたか!? 一旦退くぞ。必殺!火薬星!」
「……俺に爆弾で挑むとは。」
「なにぃ!? 効かねぇってのか!?」
爆破する弾丸を、呑み込んだ。
それでも、ウソップは連射して怯ませようとする。
「だから無駄だと……っ!!!」
「わりぃな。俺はウソつきなんだ。」
タバスコ星。
激辛のタバスコを練り込んだ必殺の弾丸。
「辛ッ!!」
Mr.5は顔を真っ赤にして、苦しむ。
同時に怒りのボルテージも急上昇した。
「くそっ、ムカつくことしやがって!」
「げっ、もう立ち上がりやがった!」
「こうなったら、全身爆破で何もかも爆破してやる!」
全身を媒体する、最大攻撃力を誇る爆発技だ。
もはや骨すら残す気もない。
「しまった、ロープ!!」
彼は気づけなかった。
口の中の辛さや怒りで、冷静さを失っていたから。
「クェ!!」
「ほらっ、1人で燃えてろ!!」
ロープに染みこませた油に、マッチの火が引火。
火だるまとなった彼は地面を転がりながら、火を消そうとする。
「若造がァ!!」
「とどめだ! 必殺、ウソップハンマー!!」
「ぐっ」
金槌が当てられたのは、いわゆる弁慶の泣き所。
いくら鍛えられた身体でもかなり堪えるだろう。
「こんなことでぇ!!」
「げっ!?」
「クワッ!?」
タバスコや急所攻撃で爆破させることに、Mr.5は集中できない。
「さっきのお返しだーー!」
ウソップハンマーを連打し、大きな嘴でつつき、袋叩きにする。
***
「一味全員、満身創痍。1人で十分だガネ!」
そう叫びながら、全身を硬い蝋で包んでいく。この状態でMr.3は真正面から4000万越えの海賊を倒したのだ。3000万ベリーの賞金首に負けるはずはない。そんな絶対的な自信を持ってして、巨大な蝋の鎧を纏った彼はルフィを見下ろした。
「キャンドルチャンピオン、最硬の芸術作品だガネ!!」
「ゴムゴムの……」
片足を、振りかぶる。
彼が繰り出す技は、スピードに重きを置いた技。
「スタンプ!!」
「ぅばっ!!」
キック自体、パンチの3倍の威力がある。
ゴムの弾性力も加えた一撃が顔面に突き刺さった。
「顔ががら空きじゃねぇか。」
Mr.3は、やりすぎた。
ルフィはもう手加減してくれない。
「まだピンピンしてるみたいだな。」
「ま、待つんだガネ!?」
片手を前に出して、待ったをかけるMr.3。
躊躇うことはなく、ルフィは天高く足を伸ばした。
「私の命だけはっ!?」
「ゴムゴムの、戦斧!!」
「ガネェッ!?!?」
勢いをどんどん増す蹴りで、腹を踏みつける。
蝋の鎧を粉々に砕いた。
「どうだ、重かっただろ。」
彼にとって、軽い命を持つ仲間なんていない。
仲間の命を弄んだやつらは決して許さない。
「グギャギャギャ」「ガババババ」
ブロギーやドリーは高笑い。
最高の海賊団を目の前にしていると、実感した。
「「最高だ! チビ人間たち!!」」
「いい女に相応しい船でしょ」
麦わら帽子を、被せた。
***
―――生死は彼ら彼女らの悪運次第
バロックワークスの刺客全員を木に縛りつけておいた。
気絶させられた肉食恐竜が、目を覚ます。
***
Mr.0、つまりクロコダイルと電伝虫で話をすることになったサンジは、『麦わらの一味を始末した』ということにした。また、アラバスタまで一直線に向かうことのできる永久指針をバロックワークスの拠点から手に入れたこともあり、安全かつ迅速にアラバスタまで行ける。
ブロギーとドリーのおかげで1匹の海王類の脅威も、無事に去った。
メリー号は最速でとある場所へ向かっていた。
医療大国である、ドラム王国だ。
「はぁはぁ…そろそろ雪よ……」
原因不明の高熱に侵されている、ナミとペローナ。
か弱い手を握ったままなのは、鍛えられた手。
麦わらの一味で1番風邪を引かないような2人だからという人選もあるが、彼女たちが希望したことだ。ペローナは言わずもがな、そしてナミはしんみりすることがあまり好きじゃないからルフィの騒がしさはちょうどいい。
「なぁ、眠くないのか?」
「航海士が仕事サボったら…船はしずむわよ……」
この船はナミのおかげで航海ができているようなものだ。次々と変動する天候を完璧に言い当てて、培われた知識によって的確な判断を下してきた。彼女の力はルフィも十分わかっている。
部屋の中にいながらも、直感的に天候が変わることを告げる。
まるで、肌で空気を感じているようだった。
「なんかすげぇんだから、死ぬなよ!」
「縁起でもないわね、だから安定したらやすむって」
「おう、わかった! ところで肉食うか?」
「おかゆでしょ、そこは……」
文句を言いながらもナミは心地よさを感じていた。
義母のベルメールを思い浮かべながら、目を閉じる。
「ペローナはぐっすりだな~」
「まあな。」
ペローナは、穏やかに目を閉じたまま。
「……背中の『傷』、か。」
周囲に対する警戒心が強いのは周知の事実。倒れてすぐは悪夢に魘され続け、無意識に多くのゴーストを動かしていた。ダメージが回復していない状態で病気にかかり、さらには自ら体力を削っていてナミよりもずっと危険な状態、だった。今はスヤスヤと眠っている。
未来と過去に怯える彼女は、《今》に立ち向かった。
―――あなたは、奴隷の私を蔑みますか?
粉雪が輝く海を、メリー号はまっすぐ進む