幽霊少女と、剣士(仮題)   作:ヒラメもち

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第11話 1つの船で絆されて

 

磁場が入り乱れていて、東西南北はわからない。だから偉大なる航路の海図はほとんど出回っていないし、たとえあったとしても信憑性は高くはない。ビビの記憶を頼りにして、1年中冬の海を数日間に渡って闇雲に進んだ。

 

無事に辿り着けたのはドラム王国、医療が発展した国。

 

 

「ここが、ドラム王国。」

 

「なんだか騒がしいな。」

 

「……海賊の定めか。」

 

 

メリー号から降りたルフィたちを見て、村人は騒ぎ出す。

 

「か、海賊……」

 

「女、子どもは家の中へ!」

 

「またこの国を襲うつもりか!?」

 

海賊旗に国民が動揺するのは、当然のこと。

小さな村の人たちは家族を守るために武器を取る。

 

 

ルフィとゾロは、防寒着を脱ぎ捨てる。

雪国では自殺行為、村人に動揺が走った。

 

 

「「医者を!」」

 

雪に包まれた世界に、声が響いた。

 

ルフィは雪に額を着ける。

ゾロは3本の刀を地面に置いた。

 

「危害を加えるつもりはねぇ、俺の命を懸けて誓う。」

 

「病気の仲間を助けてほしいッ!風邪とか病気とかよくわかんねぇんだ。肉食っても元気にならねぇんだ。俺たち見てることしかできなくて、ナミもペローナもずっと辛そうなんだよッ!」

 

仲間を救うためにプライドを捨てた。

『助けて』と涙した女に対して、今の彼らは無力。

 

 

「お願いします。」

 

ビビに続いて、ウソップやサンジも頭を下げた。

 

 

(本当に、海賊なのか!?)

村人たちの頭の中は混乱するばかり。

 

「……見事。」

 

動揺から一番に立ち直れたのは、ドルトン。

王のいない王国を、今もなお最前線で守っている男。

 

「申し訳ないのだが。今この国に医者は1人しかいない。」

 

「どこにいるんだ!?」

 

「あの山だ。頂上にある城に住むと聞く。」

 

「ウソだろ……」

 

ルフィたちは息を呑んだ。

絶望だ。

 

距離は遠くて標高も凄まじい、そんな山を指差した。

頂きにあるらしい城は吹雪で見ることはできない。

 

「そ、そんなっ!? この国は医療大国のはず!?」

 

「数年前までは、そうだった。」

 

この国は1度、海賊の手によって滅んだという。『黒ひげ』という人物が率いるたった5人の海賊団だったが、強大な力を有していた。目的はわからなかったが、多くの兵士を惨殺して王城へ攻め込んだらしい。

 

「だから、今は王がいないっていうのか?」

 

「いや。王であるワポルは、誰よりも早く逃げた。」

 

「っ!? それが一国の王のやることなの!?」

 

王が、国を捨てたことにビビは憤る。

善政を行ってきた父を誇りに思っているからだ。

 

「……ワポルの悪政が終わりを告げたきっかけ、そう考えている国民も多い。ワポルは国に残した20人の医者を独占し、税の徴収も行っていたからな。その医者たちもワポルに連れて行かれた。」

 

「要するに、この国に医者は1人だけなんだな。」

 

「こんな言葉では気が収まらないだろうが言わせてくれ。……すまない。」

 

「いいよ。登ればいいんだろ。」

 

「そういうことだな。」

 

「ふっ、君たちは将来大物になるだろうな。」

 

「「当然。」」

 

 

船で寝ていた2人は、すでに危険な状態。

話しかけても意識が朦朧としていた。

 

「おい、お前ら。絶対に落とすなよ。」

 

「こいつが引っついてくるんだが。」

 

「ナミ、あとちょっとだからな!」

 

ゾロはペローナを、ルフィはナミを背負った。ペローナは自然とゾロに密着してくるし、ゴムの身体はナミにとって負担が少ない。もちろん、2人とも最大限の防寒をさせている。

 

サンジは、行く手を阻む外敵から守る役目。

彼の仕事はすぐに訪れた。

 

「お前ら、先に行け!」

 

熊のような巨体を持つ、ラパーンという兎の縄張りに入ってしまった。ラパーンたちも生まれたばかりの子どもを守るため外敵に対して、普段より気が立っている状態だ。

 

狩りを嗜みとしていた、ワポルの影響が大きい。

 

「任せたぞ!」

 

「道に迷うなよ!!」

 

「まっすぐ進めばいいだけだろ?」

 

「そっちじゃねぇー!?」

 

サンジ1人で、10体を食い止めなければならない。

優先すべきはナミとペローナ。

 

「ナミさんとペローナちゃんは傷つけさせねぇぞ、クソ兎ども!」

 

「「「ウガ―ッ!!」」」

 

レディーのためなら、彼はなんだってやれる。

 

 

 

***

 

 

道中ワポルたちに襲われた、ルフィとゾロはボロボロ。

背中のナミやペローナを守りきった証だ。

 

「「はぁ…はぁ…」」

 

一刻を争う状態、敵に背中を向けて逃げ出した。もちろんワポルは追撃してきたのだが、足止めしてくれたのはサンジとラパーンたちだ。ラパーンはワポルに対して恨みを持っていたらしい。

 

「ルフィ、起きてるか?」

 

「ゾロ、起きてる。」

 

すでに2時間は超えた。

垂直に聳え立つ吹雪の山を、己の手足だけで登っている。

 

ナミやペローナに防寒着を重ねさせた彼らは、どんどん体温を奪われていた。時折り、互いに呼びかけながら意識を保っているにすぎない。もし、落ちてしまえばナミやペローナは死んでしまう。

 

「ゾロ!」「ルフィ!」

 

互いの名前を叫び続ける。

意識を保つには、声しかない。

 

手から流れる血は凍りつく。

身体中の感覚が消え、視界は揺らいできている。

 

 

「なあ、海賊王。誰を追い越すんだった?」

「シャンクス」

 

「それで。世界一の大剣豪。誰に勝つんだっけ?」

「鷹の目、ミホーク」

 

彼らは、遥か高み。

この山よりずっと高い。

 

「「負けるかァーー!!?」」

 

 

頂上の地面を、片手で掴む。

吹雪が晴れた。

 

 

「「医者……医者……」」

 

「俺は医者だ。」

 

大男が、彼らの腕を引き上げる。

ルフィとゾロは白亜の城をうっすらと視界に入れた。

 

「凍傷、低体温症、それに炎症や出血もひどい。」

 

もう1人、女性が冷静にそう告げる。

 

「そっちの娘たちは、あと1日遅ければ……」

 

2人とも、いつ死んでもおかしくはない。

重症の4人を同時に治療できる医者はそう多くはない。

 

 

「「ぶだりぼざぎにだのぶ!!」」

 

ガチガチと震えながら、精いっぱい声を出した。

 

 

「はっ、患者が医者に指図するんじゃないよ。」

 

「絶対、みんな助けるからな!」

 

 

―――ドラムロック、標高5000m

 

 

 

***

 

リトルガーデンには太古の生態系が現存している。

 

ナミもペローナも、偉大なる航路での航海やバロックワークスとの戦いでかなり疲労が溜まっていた。その状態で、ケスチアという虫に刺されて毒に侵されたことになる。アラバスタまで向かうことを急いでいるのだが、ドクトリーヌによってベッドの上で安静にさせられている。

 

「ルフィたちは?」

 

「元気に、お城の中を走り回っているようです。」

 

「ほう。お前さん、能力者かい。」

 

「ええ。ホロホロの実です。」

 

病室で、ふわふわとスペクターを動かす。

まだ本調子ではないので、2体しか出していない。

 

「すっげ~、幽霊っていたんだな~」

 

「うちのチョッパーは、ヒトヒトの実を食べたトナカイさ。」

 

頭隠さず尻隠さず。

開いた扉から覗き込んでいる。

 

トナカイと人の、中間と言える姿をしていた。

 

「ありがとう、あんたも看病してくれたんでしょ?」

 

「すごいお医者さんなんですね。」

 

「こ、このやろ~、嬉しくなんかねぇぞ~!」

 

かなりの照れ屋らしく、体をくねくねとさせて喜ぶ。

 

「それと、あいつらが迷惑かけて。ごめんね。」

 

「あとちょっとで食べられるとこでしたね。」

 

「腹が減ってただけみたいだぞ。ご飯あげたら落ち着いたんだ。」

 

「ホロホロホロ、優しいですね。」

 

優しい。かつてチョッパーにあったのはそれだけ。

今はみんなを救える知識と医術を身に着けている。

 

深く被った桜色の帽子を、恥ずかしそうに撫でた。

 

「なあ。お前ら海賊なんだよな。ドクロは持っているのか?」

 

「船にあるわよ。」

 

ドクロは、不可能をものともしない信念の象徴。

目を輝かせて、興味深々なチョッパーを見てナミは微笑む。

 

「そうだ。一緒に海賊やらない?」

 

「えっ……」

 

海賊は、恩人が語っていたカッコいい存在。

仲間のために命を懸けた、ルフィやゾロの海賊団。

 

「ばかいえ!俺はトナカイなのに2本足で立ってて、喋るし、青鼻だし、……俺はバケモノなんだぞ!怖いだろ!?」

 

「怖くなんかありませんよ。」

 

ペローナは、『竜を騙る人』を知っている。

ナミは、『傲慢な魚人』を知っている。

 

ナミやペローナからすれば、比べられないくらいチョッパーはかわいい。

 

 

「ていうか、あいつなんてゴムよ。」

 

「ゴムって、これ?」

 

机の上にあった輪ゴムを、両蹄でびよーんと伸ばす。

 

「そう。それに、バケモノ並みに強いわよ。」

 

「悪魔の実の能力者なんて、等しくロクでもない存在だろうね。奇々怪々さ。」

 

「こういったゴースト、怖いですか?」

 

白い布を被ったスペクターが、チョッパーの周りを廻る。

 

「全然。幽霊ってかわいいって、俺初めて知ったぞ!」

 

「まあ、そのゴーストはマシな部類ね。」

 

ナミからすれば、ミイラ男や狼男は違うと思う。

 

「えっ!? みんな可愛いじゃないですか!?」

 

声を荒げるのは珍しい、そうナミは思った。

以前よりペローナは明るくなっていた。

 

 

「わ、わかったから! いろいろ出すのやめなさいって!」

 

「でも……俺……」

 

ナミたちは希望を伝えた。

無理強いはしない。

 

 

「……なんだか、外が騒がしいな。」

 

様子を見てくる、とチョッパーは病室から出ていく。

 

 

「まったく。うちのチョッパーを保護者の前で口説くとは。」

 

「あら。男を口説くのに許可が必要?」

 

「はっ、1人くらい男を射止めてからいいな。」

 

それに、と言いながら真剣な表情へと変わる。

紛れもない親の顔だった。

 

「お前達に、あいつの心を治せるかい?」

 

「治せますよ。みんなでなら。」

 

「ヒッヒッヒ、そうかい。」

 

ペローナの傷も、癒してくれた。

 

 

過去もしがらみも関係なく、笑い合う。

それはただの傷の舐め合いかもしれないけれど。

 

確かに。

みんなは1つの船で絆されてきた。

 

 

「あんたの『傷』、取っておいてあげたよ。」

 

「っ!? ありがとうございますっ!!」

 

彼女にとって背中の『傷』は、恥だった。

 

「やっぱり女の肌は綺麗じゃないとね。若さの秘訣さ。」

 

 

首を傾げたナミは尋ねようとしたが、ドタバタと走ってくる音に意識が向かう。

 

「ナミ! コート借りるぞ!!」

 

「どういうことよ!?」

 

「寒い!!」

 

 

それだけ伝えて去っていくルフィ。

唖然とするナミ。

 

 

「ホロホロホロ、すっかり元気ですね。」

 

船長と副船長が揃っているなら、襲撃者も怖くはない。

それに、勇敢なトナカイさんもいる。

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