幽霊少女と、剣士(仮題)   作:ヒラメもち

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第3話 冒険の匂い

偉大なる航路(グランドライン)への入り口である、赤い土の大陸(レッドライン)へ向けて麦わらの一味は航海している最中だ。航海士であるナミのおかげで航海は順調。もしゾロやルフィだけなら間違った方向に進んでしまっていただろう。

 

「あ~、いい天気~」

 

件のルフィーは、羊を模した船首で寝転んでいた。ローグタウンを出て島も見つからないので暇を持て余しているのだ。急ぐ旅でもないのでのんびりした航海も悪くないが、ルフィは早く冒険をしたいのだ。

 

もちろんサンジの飯も、彼の旅には必須だ。

 

「暇だな~」

 

おもしろ幽霊でも出してもらおうかとルフィは思ったが、ペローナは日傘でゾロや自分を日光から守りながら古びた絵本を静かに読んでいる。わざわざゾロを起こしてでも、ルフィは暇つぶしに協力してもらう気はない。

 

ルフィは、また呆然と船の進む方向を見た。

 

「おっ、おお!」

 

「どうしたんだ、ルフィ。」

 

「ウソップ!あれ何かなー!」

 

「どれどれ~、鳥が集まっているな。」

 

「魚がいるかもな!」

 

ゴムの腕を引き伸ばし、鳥の大群に囲まれていた物体をキャッチする。しかし食欲旺盛な彼は後先のことを考えていない。大きな反動によって船にいた誰かに、その物体が当たってしまう。

 

ペローナの膝枕でぐっすりと眠っていた、ゾロである。

 

「あっ、ごめん!」

「ゾ、ゾロさんー!!」

 

「お前ら!カナヅチだろうが!?」

 

「「お、おぼれりゅ~!!」」

 

海に落ちたゾロを追うように悪魔の実の能力者たちが海に飛びこんだが、2人とも泳げない。カナヅチは悪魔の実の能力者の共通の弱点である。つまり叩き起こされたゾロよりも命の危機に瀕しているのだ。

 

ウソップやゾロによって、2人は事なきを得た。

 

「じぬがとおもっだ……」

 

「能力者もいいことばかりじゃないんだな。」

 

「一体、なにがあったんだ…‥?」

 

「ゾロさん、このままベッドに……」

 

「赤くなるな!?」

 

全身が濡れていて、弱りきっているペローナが頬を赤く染めればかなりの色気を放つ。もちろんペローナはゾロ以外の男性にここまで気を許すつもりはない。

 

 

「あんたら、なにやってるのよ…‥?」

 

騒ぎを聞きつけて女子部屋から出てきたナミは、横たわっているルフィやペローナ、そして見知らぬ少女に疑問を抱いた。自分から溺れに行った2人はともかく、元々気絶していたと思われる少女の看病をナミは始める。船医のいない状況で、彼女は応急処置や安静にさせることしかできない。

 

 

その前に、獣からペローナを引き離しておいた。

 

 

***

 

金色の髪を持つ少女であるアピス。

 

ルフィに小舟から救出された彼女は海軍から逃げ出してきた訳アリ少女らしい。深入りされることはあまりしてほしくなくて、でもペローナとは違った事情に思われた。軍艦島に帰りたいという少女のために偉大なる航路から少しだけ進路を変えた。ルフィが行き先を決めればそれに従うのが、麦わらの一味なのだ。

 

彼女なりに力になろうと、航海中は船を駆けまわっている。

 

この一味に会えるとは彼女も悪運がいい、ペローナはそう思いながら絵本の世界に戻った。時折り、アピスが作ったお菓子をゆったりとつまむ。サンジの教えを乞うこともあるので少しずつは上達しているが、まだまだ美味しいとは言えない。

 

「ほんとうに、あったかい船。」

 

しかし見張りをしていたゴーストの1体が海軍の船を見つけたことで、彼女は焦って席を立った。

 

「……杞憂だといいんですがね。」

 

 

すぐに、甲板へ全員が集合する。

ペローナはいつもよりずっと、日傘を傾けていた。

 

「1、2、3……、8隻はいるぞ!?」

 

「おっ、腕が鳴るな。」

 

「俺の首はそう簡単に取れないぞー!」

 

「それにしたって、多すぎじゃない!?」

 

「重巡艦があの数はよほどのことでしょう。」

 

もしかしたら自分を、そうペローナは思わずにはいられない。

自然と、ゾロにさらに近づいた。

 

しかし、追ってくる相手の目的はアピスらしい。

 

「あ、あいつらから逃げてきたの……」

 

「なるほどな。」

 

「どっちにしろ、逃げないとね。」

 

この船の船長は懸賞金のかかった麦わらのルフィ。それも最近になって懸けられたのだから、賞金稼ぎや海軍から狙われてもおかしくはない。ナミが最も心配しているのはローグタウンにいたメンバーでないかどうかだ。

 

話に聞くモクモクの実の能力者に対して、ルフィは手も足も出なかったらしい。ペローナに聞いても今の自分達では策を講じなければ勝てないと聞いた。海楼石もない上に、みすみす海に落ちてくれるような相手でもない。

 

「う、撃ってくるぞ!?」

 

牽制とはいえ、大砲の弾が周囲に着弾する。

木製のメリー号では、1発でも致命傷になりうるのだ。

 

「風が吹くよ!」

 

「……そうね。追い風に乗って逃げるわよ!」

 

 

対して、こちらは風に乗ってからの加速力が違う。

海軍の船をどんどん突き放していった。

 

 

「ははっ、もうあんなに遠くだぞ!」

 

「すげぇぞ、メリー!」

 

「おい、ペローナ。」

 

ゾロはよく見張りを買って出るペローナに呼びかけた。

 

もう安心だろう、と思っているペローナも違和感に気づく。

今は、ゾロに名前を呼ばれて喜んでいる場合でもない。

 

「風がない。どういうことだ?」

 

「ええ。大ピンチですね。」

 

「か、カームベルトに入っちゃった!?」

 

ここは偉大なる航路を両側から挟み込んでいる無風の海域、つまり帆船にとっては致命的で海賊船の墓場。また、辺り一帯は海王類の巣になっていて、手漕ぎボートで挑んだ海賊たちの墓場。

 

「墓場に来ちゃいましたね。」

 

「いや、こえぇよ!?」

 

「ホロホロホロ、どうにかしないとですね。」

 

「きゃっ、船が揺れて……」

 

海王類が、次々と現れる。体長も船よりずっと大きく、加えて同じ種類は見当たらないほどであり、まさに未知。阿鼻叫喚な仲間の中で、ルフィやペローナは不思議とわくわくしていた。

 

「お、お前ら、刺激するなよ。」

 

「くそっ、こいつら斬れるのか?」

 

「それに、数も多い。」

 

「ペローナ、いざとなったら私だけ助けてね?」

 

「いえ。海の上で浮くのは怖いです。」

 

囲まれた状態で彼ら彼女らはどうすることもできない。

ルフィやアピスは、近くにいた海王類をじっと見つめていた。

 

「お前、鼻がむずむずするんだな!」

 

「えっ!?ルフィも悪魔の実の能力者!?」

 

「おうよ、ゴム人間だ!」

 

抜いてやるよ、と言いながらルフィは腕を伸ばした。

そして、その海王類はくしゃみ

 

つまり、追い風を受けたことになる。

メリー号は凪の帯から一直線に追い出された。

 

「あははー!すっげー!」

 

今は普段の風が吹いていることもあって、また船は進み続ける。

 

「た、助かったのか……?」

 

「ええ、そうみたい……」

 

「ホロホロホロ、悪運が強いですね。」

 

偶然にも近くにあったのは、軍艦島。

 

別に軍艦の上にできた島ではなく、軍艦に似た島だ。穏やかな島民はアピスが帰ってきたことを喜び、そして海賊団である麦わらの一味すらも受け入れてくれた。だから、数日はアピスの家に世話になることにした。

 

そして長老から、千年竜の話を何時間も聞かされているのだ。

 

「にく~」

 

とうとう空腹なルフィは肉を求めてどこかへ行った。真剣なペローナ以外はうとうととしており、ゾロに至ってはいびきをたてながら寝ている。倒れてくる彼をすかさず膝に寝かせるのはすでにこの数日でデフォルトになっていた。

 

「ペローナ、ちょっとルフィ探してくるわね。」

 

「ええ。お幸せに。」

 

「なんでそうなるのよ……」

 

「恋はいつでもハリケーン、ですよ。」

 

「ないない。」

 

さすがに長話に我慢できなくなったナミも、言い訳を残してどこかへ去っていく。爆睡しているゾロ、うとうとしているサンジやウソップ、ふらっといなくなったルフィやナミのことに気づかず、お爺さんは話に熱中していた。

 

「伝説じゃ。」

 

「ええ。さっき聞きましたよ。」

 

「ロストアイランド、その島がいつか目覚めるとされているんじゃ。」

 

「そこが竜の巣ということですね。」

 

「ああ。だが内緒じゃぞ。竜骨を求めて動いている者もおる。」

 

「言いふらしませんよ。ですが、不老不死の秘薬については本当のことなのでしょうかね?」

 

「さあー、伝説じゃからのう。」

 

「ホロホロホロ、そうですか。竜には会ってみたいですね。」

 

「伝説じゃからのう。」

 

「ええ。楽しい物語でした。」

 

「お嬢さん、若くていいの…う…‥」

 

「おやすみなさい。」

 

うとうとしながらも話を続けるお爺さんに、微笑む。

 

「ゴーストリック。スノーフェアリー。」

 

ゴーストが、その冷たい身体をゾロに寄せる。

心地よさそうないびきだけが静寂な部屋に響いていた。

 

「最近、よく眠れるんですよ。ゾロさんのおかげ。」

 

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