ずいぶんと年老いて、弱りきっている千年竜は本当にいた。
ペローナも竜の禿頭を撫でた。
これが本来の竜、そう思わずにはいられない。
―――竜を騙る人とは、大違い
ともかく、この軍艦島に取り残された個体なのだ。悪魔の実の能力者であるアピスや、なんとなくわかるというルフィが、竜爺から直接聞いた。つまり次の目的地は、長老が話していた竜の巣であるロスト・アイランドになった。
まるで競うように、ゾロ、サンジ、ルフィは森で伐採。そして集まった丸太を素材として、手先の器用なウソップの指示で、即席の筏を作り上げる。残った問題は、島を囲んでいる海軍だ。
「私に考えがある。二手に分かれるわよ。」
ウソップとゾロ、ペローナが船を移動させておき、
ナミ、ルフィ、サンジで竜爺たちを運ぶことになった。
「共同作業、ですね……」
「赤くなるな!!」
「余所でやってろ。……ていうか、船が!?」
「しょうがねぇ。やるか。」
「お手伝いします。」
鉄砲を持った海兵によって船を監視されていたが、勢いよく駆けだしたゾロが奇襲して斬っていく。血しぶきが飛び散ることはなく、峰打ちである。ペローナが生み出したゴーストたちの援護もあれば、容易く鎮圧できた。
こいつら物騒だ、と嘆きながらウソップは出航の準備を始めた。
「おい、方向合っているのか?」
「ええ。ナミさんの指定した岬です。」
海軍の軍艦も、上手く風に乗れば追いつかれることはない。
あとは、ナミの策が上手くいくかだ。
「あいつら、大丈夫なんだろうな。」
「……イレギュラー。傭兵がいるようです。」
「ルフィやクソコックがいればなんとかするだろ。」
ゴーストによる通信役をペローナは担うことができる。
カマカマの実の、カマイタチ人間。
悪魔の実の能力者と、彼らは対峙しているのだ。
「そいつは、ルフィにとって天敵だな。」
「ええ。打撃や銃弾には耐性がありますけど。」
「おっ、あいつら来るみたいだぞ!」
車輪がついた筏は、一直線に山から降りてくる。
ナミの作戦はずいぶんと力押しだった。
「ダメ押しでもしておきましょう。ゴーストリック・スケルトン。」
海軍の軍艦の帆を、鎌を持ったゴーストが切り裂いた。
物理干渉できる鎌を持つ個体である。
これでかなり、相手の進軍速度を抑えられる。
「便利な能力だな。」
「……ぽっ」
分身であるゴーストを褒められることは、彼女自身が褒められることと同じである。
「やっほー!!」
「「きゃー!」」
海軍の軍艦のマストをへし折り、竜爺を乗せた筏は着水した。
「「おいおい……」」
「ホロホロホロ、海軍ったらざまぁみろ。」
千年竜を引き連れた海賊船が、旅立った。
だが海軍の軍艦一隻だけは、確かに追いかけて来ていた。
***
嵐を抜け、絶海の孤島へ。
遺跡はあれど、竜の姿はない。数百年前の人工的な建物は、ここで人が暮らしていたことを示している。竜と交流したことを窺わせる壁画もあり、竜がこの島へ度々訪れていたことは確かだ。
「アピスのご先祖様は、かつてあの島に移り住んだと言っていましたね。」
「「「そんなこと言っていたか?」」」
「ええ。」
そして、壁画として描かれた地図を読み解いたナミは、軍艦島こそが竜の巣ではないかという結論に至った。しかしアピスは島にいるとは思えないと言う。もしかしたら海に沈んでいるのかもしれないし、この島のようにそう簡単には行き着けないのかもしれない。ともかく、軍艦島付近を探すことがルフィたちは求められていた。
「じゃ、戻るか。」
「えっ、でも、ルフィたちって偉大なる航路に行かなきゃいけないんでしょ?」
「別に急ぐ旅じゃないけどな。」
「そういうこと。うちの船長は一度決めたら、そう簡単には譲らないわよ。」
「私たちも、竜爺には元気になってほしいんですよ。」
「うん!」
しゃがんだペローナは、物憂げなアピスの頭を撫でながら告げた。サンジやウソップももちろん反対はしない。回り道も遠回りも冒険の醍醐味で、このまま中途半端に諦めてしまうほうが後味の悪いことなのだ。
「……殺気だ。」
表情が綻んでいたゾロの顔が、強張る。
いつでも抜けるように、刀に手を沿えた。
「あいつは……?」
ゾロの睨んだ方向を見れば、灰色のスーツを着た男。海軍に雇われた傭兵だが、この島に来たのは彼1人のようだ。能力者である以上、小舟であの嵐を乗り越えるとはなかなかの度胸である。
「あっ、おカマのやつ!」
「カマカマの実の、カマイタチ人間だ!!」
「またお前か。」
ルフィやサンジが対峙した、傭兵。
アピスは竜爺を守るように、腕を広げた。
「どけ、小娘。」
「竜爺は渡さないもん!」
「不老不死の秘薬。危険を冒してまで欲しいのですか?」
「それが仕事だからな。効果があろうとなかろうと依頼は必ずこなす。竜1体をまるごと差し出せば、数十億ベリー以上さ。」
「最低なお誘いですね。」
「一体、お前は誰に雇われたんだ?」
「そうよ!数十億ベリーはどこよ!」
「教えるか!? なんて私利私欲にまみれた女なんだ。」
「よくわかんねぇけど、竜爺を渡せってことか?」
「ルフィ……?」
「そうだ。竜の巣だかなんだか知らんが、その1体がいれば十分だ。」
「……そうか。」
「潔く渡す気はあるか? 報酬の分け前は半分ずつでいい。」
エリックは協力するかどうかを尋ねる。
対するルフィは大きく息を吸って、拳を掲げた。
「友達を売るやつがいるか!!!」
相手が6人であっても船長の首を取れば混乱するはずだ、そう思いながら使い慣れた悪魔の実の能力を発動させる。どっちにしろ、エリックは攻撃するつもりだったのだ。
「ふっ、交渉決裂だな! つむじ風!!」
「ルフィ、あぶない!?」
振るわれた指、カマイタチがルフィを襲う。
斬撃はゴム人間であるルフィにとっては、弱点となる。
「そう簡単に船長の首を取れるとは、思わねぇことだ。」
刀を抜いたゾロが、刃を受け流した。
どっしりと構えているルフィは、にししと笑う。
「おい、ルフィ。先に行ってろ。」
「おう。」
巨体を持つ竜爺は、少しでも傷つけられてしまえば危険な状態だ。相手が遠距離攻撃を得意とする能力者である以上、ゾロは万が一のことを考えて逃がすことにした。もちろん、ゾロ1人でも足止めできると判断したからだ。
「でも、ゾロだけじゃ危ないよ!?」
「私がゾロさんを道案内しますので。」
「「「ほんと、ありがたい。」」」
「どういう意味だ!?」
ペローナに対して感謝するナミたちに、ゾロは激昂した。
彼は、極度の方向音痴である。
「よっし! いくぞー!!」
「えっ?……えーーー!」
「「「ギャー!!」」」
竜爺の乗る筏を引っ張ってルフィは、山の上にある遺跡から真下に飛び降りる。本能任せに蔦の上を走っている彼の本能はさすがというべきだろう。山育ちであることも大きいのかもしれない。
「逃がすか!」
「ゴーストリック・イエティ」
遺跡の穴を塞ぐように現れる、毛深い獣。
エリックによる追撃のつむじ風を、受けきった。
「ペローナ、下がってろ。」
「……ぽっ」
「赤くなるな!!」
たくっ、と言いながらゾロは3本の刀を抜いた。
新調した刀の試し切りには、もってこいの相手だろう。
「くそっ、お前らには用はないんだよ。」
刀を振るうゾロから、エリックは距離を取る。
能力に頼った戦い方をするエリックにとって遠距離戦闘は基本、だから懐に潜り込まれることを1番嫌う。今まで何人もの海賊をつむじ風で倒してきたが、刀でかき消してくるような化け物じみた剣士とは相性が悪い。
「おい、逃げるな!?」
「はっはっは、お前らとは頭のできが違うんだよ!」
無用な戦いは避け、勝てる戦いをする。
それが、傭兵なのだ。
森や遺跡を破壊しながら、追ってくるゾロを破片で攻撃。
さらに飛ぶ斬撃もあって、ゾロの体力は削られる。
「埒が明かねぇな。」
「準備完了のようです。」
白い布を被った幽霊に乗ったペローナがそう告げた。
「仕方ねぇ。船に戻るぞ。」
海軍が来てメリー号が囲まれてもまずい、そう思ったゾロは船に向かうことにした。
「ゾロさん……」
「飛ぶ斬撃、か……」
腰に差した刀を、強く握りしめた。