大きさはおよそ重巡艦3つ分。
おそらく、あれが提督の旗艦だろう。
「きゃー!」
「もー、ダメだー!」
筏を引っ張るメリー号は、20隻の軍艦に囲まれていた。軍艦同士を結びつける鎖によって包囲網が作られており、全方位から大砲で撃たれている状況だ。いまだに船に当たっていないのは相手の目的である竜爺に注意して、狙いを外しているからだろう。
つまり、じわじわと追い詰められている。
「あれは避けきれないわ!」
「任せろ! ゴムゴムの風船!!」
息を大きく吸い込んで、ゴムの身体は伸びて肥大化する。そして、ゴムの反発力で大砲の弾を跳ね返した。意図したかどうかわからないが、1隻のマストをへし折ることに成功した。
「ルフィ、すごい!」
「にしし。どうだ。」
ペローナは、ゴーストたちによって各艦の動きを見ていた。傘で顔をできるだけ隠した状態で、彼女は慌てふためくウソップに話しかける。それは、旗艦を大砲で狙ってほしいということだった。
「なるほどな。あのデカい大砲に撃たれたらひとたまりもねぇ。」
「「がんばれー、ウソップー!」」
「ふっ、このウソップ様に任せておけ。」
メリー号にたった1つしかない小さな大砲を扱えるのはウソップだけだ。荒れる海で遠く離れた船に当てることすらそう簡単ではない。だがしかし彼の天性の才能が光り、的確に敵の大砲へ弾を撃ち込んだ。
「ウソっだー!?」
火薬に引火し、大砲を破壊するに至る。
当てた本人が一番驚いていた。
「やるじゃねぇか!」
「ははっ、どうだー!」
「調子乗らないの。向こうが混乱している今がチャンスよ。あんたらで鎖を断ち切ってきて!」
「「ま、まて!?」」
「よっし! ゴムゴムのロケットーー!!」
ゾロとサンジを巻き込むように軍艦のマストへ突撃し、彼らは暴れ始めた。もちろん大勢の海兵がいるが、そう簡単に敗けるメンバーではない。各艦数十人ずついる海兵も、主力メンバー対しては雑兵にすぎない。
鋼でできた鎖を、ゾロは刀で斬った。
これで、空いた空間から脱出できるということだ。
「あいつら~」
「ホロホロホロ、元気ですね。」
3人とも暴れたりないようで、隣の軍艦に乗り移った。
次々と海に落ちていく海兵たちがかわいそうに見えてくる。
「「キャー!」」
突如、つむじ風がメリー号の周囲に放たれた。
海は荒れて、船は揺れる。
「最低なお客様のようですね。」
小舟に乗ってきたエリックが、メリー号に降り立つ。
そして、船を見渡してニヤリと嗤った。
「ほほう、運がいい。あいつらがいないのか。」
「おいおい、マズくないか?」
「こっちはあたしたちしかいないのよ~」
「竜爺は渡さないもん!」
アピスを守るようにナミは木でできた棒を構えたが、カマカマの実の能力に対応することはできない。ウソップもパチンコを構えたが、動きを見せればたちまち返り討ちに遭うだろう。
「生意気なやつらだ。女、子どもで何ができる。」
「戦うことでしょうか。」
「はっ。力のない者は虐げられ、逃げ惑うしかできないんだよ。」
虐げられてきて、必死に逃げてきて、今に至る。
ペローナは、そっと首に触れた。
「……そうかもしれませんね。」
「そうか。潔いな。」
女3人でも人質にすれば無事に逃げられる、そうエリックは考えていた。更には、美少女揃いなのだからそのまま自分の『物』にしてもいいなどと、下衆な考えも抱いていた。
「私は弱いから。策を弄することでしか、逃げることも立ち向かうこともできないんですよ。ゴーストリック・シフト」
エリックが小舟に乗って近づいていたことなど、ペローナは初めから見ていた。彼に憑いていたゴーストがたちまち別のゴーストへと変化する。白い布を被った幽霊から、筋肉質な怪物へと変貌。
拳で、動揺したエリックを攻撃した。
「ぐっ!?」
エリックを、小舟に叩き戻したのだ。
さらに、控えていたゴーストたちがボートに集う。
「ホロホロホロ、シュタインは1番の力持ち」
「この、小娘がっ!!」
「ゴーストリック・ハウス」
爆発を残して、ゴーストは戻ってくる。
あくまで牽制にすぎないが、これで時間は稼げた。
「すごい……」
「よっしゃ!」
すぐに波に乗り、メリー号は小舟から離れていく。
「ナイス、ペローナ!」
「逃げることは得意なので。」
しかし、誤算だったのはエリックの執念。
プライドも傷つけられた彼の顔は、歪んでいた。
「カマイタチ!!」
「竜爺!?」
ロープが、風の刃で切れる。
一早くアピスは筏に飛び乗った。
「あのおカマ野郎、しぶといな!?」
「こうなったら、何もかも壊してやる!」
カマイタチによってマストが傷つけられでもしたら、帆船であるメリー号はまともな航海ができない。しかし理性を失ったエリックは、麦わらの一味全員を葬ることしか考えていなかった。
「ウィッチ。終わらせましょう。」
「なん、だと……」
黒魔女が、エリックの背後に現れる。
海へ、箒で彼を突き落とした。
「非情になりきれなかった、私のせいでしょうね。」
傭兵との決着は、静寂の中で終わった。
―――泳げない彼の生死は、悪運次第
「と、ともかく、竜爺のことよね。」
「あ、ああ。」
流されていく筏は格好の獲物だ。ルフィも飛び乗ったとはいえ能力者である以上、2人とも危険なことには変わりはない。必死に呼びかける2人に竜爺は応え、翼を広げて天に叫んだ。
「あれってまさか!?」
「竜爺の仲間!?」
「ホロホロホロ、すごい光景。」
「ここが竜の巣なんだな、竜爺。」
「よかった、これで竜爺は助かる!」
これを見逃す海軍ではない。格好の獲物が何十匹もいるのだから、癇癪を起こした海軍提督は攻撃の指示出しを行っていた。そして、怒りが募っていたルフィは若き千年竜の身体を借りて、空中へ飛び立つ。
「ゴムゴムのロケットーー!そして、斧!!」
提督の船を破壊、そして軍艦は統制が取れなくなった。短い鎖で海に包囲網を作るなんて、そう簡単なことではないのだ。島が浮上していることによって引き起こされた大波で各艦がぶつかり合い始めた。
竜の巣である島が完全に浮上し、そこへ千年竜の群れは降り立って行く。千年竜は渡り竜であり、空を飛び回っているのだという。雄と雌で寄り添い合っている個体が多くいた。
「ここが竜の巣……」
「すげぇ……」
数え切れないほどの竜がいるのは、壮観である。
「竜爺……? ねぇ、どうしたの。着いたよ。ねぇ?」
竜爺は、起きることはない。
アピスは涙を流しながら、別れを悲しむ。
「おっ、あれだな!」
「ルフィ、どういうことよ。」
近くにあった卵から、竜の雛が顔を出す。
ここは、墓場であり竜の生まれる場所である。
「竜爺は生まれ変わった。またゼロから1000年の時を生きるんだ。でも絶対にアピスや俺たちのことは忘れないって。ありがとうって。そう言ってた。」
「……ありがとう、みんな。」
アピスやルフィたちに向かって、雛は産声を上げた。
涙を袖で拭いて、アピスは笑顔を見せる。
出会った頃よりもずっと、彼女は大人びていた。
「私、竜の巣を守りたい。1000年まで伝説を伝えたい。」
「ホロホロホロ、楽しい物語にしてくださいね。」
「うん!」
こうして、アピスや竜爺との航海は終わりを告げる。
たった数日のことだけど、大事な友達だ。
***
ルフィたちの航海は変わらず続く。
赤い土の大陸を乗り越えて、偉大なる航路に入らなければならない。海流が勢いよく登っていく『リバースマウンテン』にメリー号は向かっている。偉大なる航路に入る前に沈没するのは、よくあることだ。
「いや、こえぇよ!?」
「ホロホロホロ、ナミさん次第ですね。」
「あーもう、やってるわよ!」
「さっすが、ナミさ~ん!!」
先行させたゴーストによれば、運河の入り口は非常に狭い。
もし、少しでもずれてしまえば岩礁にぶつかってしまう。ナミが海流を見て慎重に指示を出しているが、舵を取っているウソップやサンジは荒れる海であまりコントロールができていない。
「やっべ、折れた!?」
「なんで、こんなときに!?」
「ナミさん、ずれています!」
「きゃー、ぶつかる~!?」
「俺に任せろ! ゴムゴムの風船!」
「ルフィ、手を伸ばせ!」
「おっし!」
「ゴーストリック・イエティ!!」
ルフィが身を張って、岩肌にぶつかりそうな船の進路を変更。ゾロが彼の伸ばした手を取って彼を船に引き上げ、ペローナのゴーストによって無事に生還する。激流によってどんどん船は上昇していく。
4つの海の集合場所である頂上を超えて、そして偉大なる航路へ。
「こ、これは武者震いだ!」
「この海のどこかにミホークが……」
「ワンピースは、この海の果てにあるんだな!」
―――あいつらとは会いませんように
不安やワクワク、麦わらの一味それぞれが未知に対する思いを胸中に秘めていた。
メリー号は、影に覆われる。
大きな山かと思われたそれは、生き物だ。
「「「クジラーー!?」」」