幽霊少女と、剣士(仮題)   作:ヒラメもち

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第6話 男の喧嘩

勢いに乗ったメリー号はクジラに迫る。

 

その体長は悠に超えており、このスピードでぶつかれば船は大破してしまうだろう。クジラはボーっと泳いでいるだけなので上手く避ければいいだけなのだが、舵が壊れている状態ではそれはできない。

 

「……よしっ」

 

阿鼻叫喚なメンバーの中で、ルフィが動いた。

 

「な、なにをするの!?」

 

大砲に弾を入れ、火をつける。

 

大きな標的に向かって、放った。ルフィが画策しているのはクジラを大砲で遠くへぶっ飛ばそうとしていることだが、結果的には大砲を放った反動による船の減速をもたらすことになる。

 

ドガン、という爆音が鳴り響き。

ゴキっ、という鈍い音で船首が折れるだけで済む。

 

「「「た、たすかったぁ」」」

 

「ルフィ……?」

 

「このやろっ!!」

 

クジラの大きな瞳に、ゴムゴムの銃が命中する。弱点を攻撃されても、あまり動じていないクジラはかなりの耐久力だ。だがしかし、クジラがこちらへ目をつけたのは変わりはない。

 

ウソップは泣き叫び、ナミはルフィに詰め寄る。

 

「あんた、バカァ!?」

 

「あいつが俺の特等席を壊したんだ!」

 

「事故でしょ!?」

 

「おい。あのデカクジラ、口を開けたぞ!」

 

「……ゾロさんと一緒なら。」

 

「縁起でもないことを言うな!?」

 

「「た、食べられる~~!」」

 

クジラは大量の海水ごと、メリー号を呑み込む。

 

そして、ルフィだけは揺れる船から振り落とされた。

彼は、捕鯨に来た男と女と会うことになる。

 

 

 

***

 

青空、そして大海原。

よく見れば、非常に上手く描かれた絵である。

 

ここはラプーンというクジラの胃袋の中であり、胃酸の海に変わりはない。そして、医者であるクロッカスは内側からラプーンを治療しているのだ。ラプーンの身体の中に家を建てたことも水路を作っていたことも、長期的な治療を行っているからだ。

 

その理由を彼が述べようとする前に、異変が起こる。

海が、荒れ始めた。

 

「始まったか。」

 

「どういうことだ、爺さん?」

 

「発作みたいなものだ。」

 

ラプーンは、赤い土の大陸にひたすら頭をぶつけている。

頭部の傷はひどいが、内臓の負担も大きいらしい。

 

「なにか目的があるのでしょうか?」

 

「うむ。ラブーンは仲間を待っている。元々は、はぐれアイランドクジラなのだ。」

 

「じゃあ、クジラの仲間を探してるの?」

 

「いや、西の海から偉大なる航路へ向かった海賊団だ。ラブーンは彼らの帰還を50年待ち続けている。いや、今となっては会いに行こうとしているのだ。」

 

「そ、それって、もしかして?」

 

「赤い大地を、壊そうとしている。」

 

世界を半分に分けるように聳え立つ山を、破壊すること。それは偉大なる航路を逆から向かうことを可能とする。ラブーンは彼らがすでに最果ての地にたどり着いていると信じているのだろう。

 

しかし偉大なる航路で命を落とした者は、山ほどいる。

 

「そういえば、最果ての地はここに近いのではありませんか。」

 

「確かにそうだ。」

 

「なら、なんでみんなそうしないのかしら?」

 

「登っていった者もいる。しかしいきなり新世界に行くのは自殺行為、リバースマウンテンの向こう側の気候は、君たちの想像以上に過酷なのだ。」

 

「新世界……?」

 

「偉大なる航路の、後半の海ですね。」

 

「へぇ」

 

影の差した顔を、ペローナは日傘で隠した。

 

「まあ、ズルは駄目ってことよね。」

 

「……最果ての地ラフテルはただ辿り着くには、偉大なる航路を真の意味で制覇してこそなのだ。誰かしら古代に詳しい者がいなければならない。なぜなら―――」

 

「きゃーーー!」

「ぎゃーーーー!」

 

クロッカスの言葉は悲鳴にかき消された。

2人の男女、そしてルフィが新たに胃酸の海に落ちる。

 

「彼女、きれいだ…‥」

 

「なんだ、こいつら?」

 

「くそっ、呑み込まれてしまうとは。」

 

「しかし好都合じゃない、Mr.9?」

 

「ふっ、そうだな。ミス・ウェンズデー。」

 

王子のコスプレをした男と、煌びやかなコートを着た女が船に上がってくる。2人ともずいぶんと場違いで派手な格好をしていた。ナミやウソップがルフィを引き上げに行き、ゾロたちは警戒を怠らない。

 

「一体、何者だ。」

 

「お爺さんたちに用はないの。退いてくださる?」

 

「そういうことだ。俺たちはこのクジラに用があるんだ。」

 

「お前ら、その武器を下ろせ。さもないと……」

 

冷静に警告するクロッカス。

バズーカを持った2人は、ごくりと息を吞んだ。

 

「儂が危ない。」

 

「なんでそうなるのよ!?」

 

「死に急ぎたい爺さんのようだな!」

 

「まって、Mr.9!?」

 

「おらぁ!」

 

放たれた弾丸は、クロッカスに向かっていく。

状況を呑み込めていなかったゾロたちも、動けない。

 

「あぶねぇ!?」

 

「お爺さん!?」

 

煙が晴れれば、クロッカスは立ったまま。

どこも傷はなく、表情すら変わっていなかった。

 

「な、なにをしたんだ……?」

 

「……死んだかと思ったぞ。」

 

「この爺さん、強いな。」

 

「ゾロさんでも動きが見えませんでしたか。」

 

この場にいる誰の目でも追いきれないスピードで飛んでくる弾丸を素手で叩き落したのだ。そして、底知れない実力は表に出ることない。彼が海賊王の船員だったことは間違いないだろう。

 

「ぶへっ!?」

 

回復したルフィはMr.9をぶん殴った。

ラブーンを食料にしようとしたことが許せなかったのだ。

 

「い、命だけはご勘弁を……」

 

「レディーを傷つけるのは俺が許さねぇぞ、ルフィ!」

 

「クソコックもろとも、斬ってやろうか?」

 

「あぁん?」

 

「ゾロさん。からかうのはほどほどに。」

 

「わーったよ。」

 

「……よしっ、ここから出るぞ。」

 

「ルフィ……?」

 

「クジラと決着をつける!」

 

メリー号で水路を使ってクジラから脱出。

クロッカスや、2人組も付いてきた。

 

ラブーンは天に向かって必死に鳴いている。遠くにいる仲間に聞こえるように大きく、そして哀しみの籠った鳴き声を発していた。ルフィは喧嘩を始めることを大声で伝え、ゴムの腕を伸ばした。

 

「ゴムゴムの、銃!!」

 

傷だらけの頭部に拳が当たったが、動じていない。

 

そして、海上戦。

能力者であるルフィは圧倒的に不利。

 

加えて、ラブーンの1度の体当たりで船は大破するだろう。

 

「ゾロ。あんたも加勢しなさい!?」

 

「これは男と男の喧嘩だ。無粋な真似はしない。」

 

「……ぽっ」

 

「巻き込まれてるじゃない!?」

 

「ペローナは赤くなってる場合か!!」

 

ミス・ウェンズデーやナミは、阿鼻叫喚。

男の喧嘩に巻き込まれて死にたくはないのだ。

 

 

「……メリー、お前。」

 

バキバキっ、という音が響く。

 

暴風雨に何度もさらされたマストはすでにダメージを負っていたのだ。そこにとどめをさし、ルフィは怪力でマストを持ち上げた。そして、麦わらの一味のマークがついた帆を振り回す。

 

 

「「「「なにやってんだああーー!?」」」」

 

「ホロホロホロ、あなたも無茶をしますね。」

 

ペローナは、船の手すりをそっと撫でる。

みんなと沈むより傷つくことを、船は選んだのだ。

 

 

「ゴムゴムの、生け花!!」

 

ラブーンの頭部に突き刺したとはいえ、所詮軽傷。

だが、攻撃と呼べる攻撃を初めて受けたことになるのだ。

 

 

「引きわけだ!」

 

ラブーンは、じっとルフィを見つめていた。

初めて、ちゃんと向き合ったことになる。

 

彼は手先が器用なわけでもないし、キャンバスも巨大だ。白や黒、黄色のペンキ塗れになって、目的の印を頭部に描いていく。麦わら帽子を被ったドクロこそが彼が率いる海賊団を象徴するマークだ。

 

「俺は偉大なる航路を制覇して、また戻ってくる。」

 

 

友達の印を、ラブーンは消し去ることはできない。

だから、もう山に頭突きをすることはなくなったのだ。

 

 

 

「おもしろいやつらだ。」

 

―――そう思いないか、ロジャー

 

クロッカスは、空に向かって呟いた。

 

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