ラブーンとは別れ、麦わらの一味はウィスキーピークに向かっている。船のないミス・ウェンズデーとその他1名を送ることになったのだ。ミス・ウェンズデーが誠心誠意頭を下げたからであり、決してその他1名のためではない。
「ペローナ、外の様子はどう?」
「ちゃんと進んでいますよ。」
偉大なる航路の気候は、非常に変わりやすい。海の様子を確認することは、自然とペローナの役目となっていた。誰よりも警戒心の強い彼女は、癖でゴーストを周囲に放つからだ。
今は、外でルフィたちが雪遊びをしてはしゃいでいる。敵として出会ったMr.9も一緒になって遊んでいるのはルフィならではだろう。急激に寒くなったことで女子部屋に避難したナミに、ミス・ウェンズデーやペローナも付いてきた。
「進路もログポース通り、か。」
「ようやく慣れてきたようね。」
「いちいち、ムカつく言い方ね。」
「……気に障ったなら謝るわ。」
「ホロホロホロ、アドバイスありがとうございます。」
偉大なる航路では、一般的なコンパスや羅針盤は使えない。ナミが身に着けているログポースが航海で必須となる。7つのルートから1つを選び、適する島々を盛れなく通っていくことによって偉大なる航路を進んでいく。
豊富な知識を持っているナミも、偉大なる航路の過酷さにようやく慣れてきた。船長であるルフィが楽観的なのは、彼女に任せておけばなんとかなるからだ。ボートで船出した途端に遭難して無事だったという悪運も彼にはある。
「それにしても、ゾロのことはいいの?」
「ええ。トレーニングをしていましたから。」
「あんた、良い女すぎるでしょ……」
「……そうでしょうか。」
基本的にゾロの側にいるペローナだが、ゾロの邪魔をしないように筋トレや訓練の最中には離れる。気が利くと言われればそれまでだが、自分以外のことを第一に考えている。
彼女は、自分のことをほとんど話さない。
「まっ、あんたが訳アリなのはわかってるけど、あんまり溜め込むんじゃないわよ。」
「はい。ありがとうございます。」
「……そろそろ、ウィスキーピークよ。」
温かい風によって雪解けし、町が見えてきた。
偉大なる航路の町であっても、比較的穏やかそうに見えた。
「じゃあね。あなたたちの無事な航海を祈ってるわ。」
「ホロホロホロ、あなたとはまた会えるかもしれませんね。」
「……どうだか」
女子部屋からどこか足早に出ていったミス・ウェンズデーは、ルフィやウソップとの別れを惜しんでいたMr.9と一緒に海へ飛びこんで泳いでいく。偉大なる航路の海とはいえ、ウィスキーピークの周囲は穏やかな気候のようだ。
偉大なる航路の最初の島ということでもう待ちきれないルフィたちも、いそいそと桟橋に停泊させた。そして、騒ぎを聞きつけて多くの住民が集まってくる。
「ようこそ、歓迎の町ウィスキーピークへ!!」
海賊団が受け入れられた。
もちろん、ピースメインかどうかの判断などしていない。
宴をする、という町長の言葉にルフィたちは大喜びをして町へ向かっていく。女好きなサンジは珍しく美女に囲まれていて冷静な判断などできない。ナミやゾロも酒豪として一芝居に付き合うことにしたようだ。
取り残されたペローナは、いわゆるイケメンに囲まれる。
もちろん、決して靡くことはない。
「お嬢さんも一緒にどうだい?」
「そうそう。お兄さんたちがサービスしてあげるよ。」
「私と食事しても、楽しくはないでしょう。」
日傘でさらに顔を隠し、ペローナは船へ引き返す。
そして、嘗め回すような視線を、背中に受けていた。
「けっ、つまんねぇ。」
「さぞ育ちがいいのだろうよ。」
優れた容姿は、悪夢を彼女にもたらし、彼らのために生きることを強要され、そして孤立することとなった原因である。虐げられた者の中では選ばれた存在であって、同志に恨まれ孤立していた。
「……また静かになりましたね。」
宴の声が聞こえなくなった。
すでに夜も更けて、酔って疲れて寝てしまって。
「海がこんなに近い。広くて、私は自由。」
月が輝いている。
静寂を紛らわしてくれたのは、この絵本だけ。
もう数えきれない回数読んだ本を、閉じた。
「ようこそ。」
人数は5人、昼間の彼らは仮の姿に過ぎない。
「へへっ、起きてたんだな。」
「ええ。1人では眠れなくて。」
「そいつは好都合だ。」
「ちょっと俺たちに付き合ってくれよ。」
「最低なお誘いですね。」
「おっ、勘がいいな。」
「もしかして経験済か?」
「屈強な男ばかりの海賊団だしな。」
「だが今はぐっすりだ!」
「いいえ。悪運がよかったので、私は逃れられました。」
彼らは嗤うが、ペローナの表情は変わらない。
蔑むという感情を彼女は持っていない。
「……なあ、幽霊っているのか?」
「……俺にも見えているぞ。」
白い布を被った幽霊がペローナの背中から顔を出す。
そして、スペクターに乗って浮かんだ。
「ようこそ、ナイトパーティーへ。」
腐った身体を持つ不死者と、包帯まみれの怪物がポンっと現れた。呻き声を上げるゴーストたちは真夜中の海賊船で非常に不気味さを感じる。突然の増援に彼らは咄嗟に武器を構えた。
「ゴーストリック。グール、マミー」
「なんだこのキモいやつら……」
「ホロホロホロ、可愛いでしょう?」
「「「どこがだ!?」」」
「寂しがりやなんですよ。遊んであげてください。」
「「「う、うわあーーー!?」」」
トラウマになること間違いなしである。
汚されても困るので、船から町へ放り投げておいた。
「……ゴーストリック・ハウス。」
爆発が起き、また静寂となる。
ちゃんと帰ってきてくれたゴーストたちに、微笑んだ。
蔑むような目で倒れ伏した男を見ながら、船に近づいてくるのはナミ。
「無事でよかったわ。」
「ホロホロホロ、お酒に強くて何よりです。」
「ごめんね。思ったより動くのが早かったのよ。それに」
「ゾロさんに頼みごとを?」
「さすがストーカー……まっ、大事なことよ。」
ナミの必死な目が、お金関係であることを示す。
ミス・ウェンズデーの保護をナミは引き受けたのだ。今はゾロが刺客と戦っているとはいえ、知らない女性でもないのでナミやペローナも戦場へ向かうことにした。
「お前、よくも町の人を!!」
「この野郎、まだ寝ぼけてやがるな!?」
女子2人がたどり着いた時に、戦っているのはルフィとゾロだった。彼らが喧嘩しているのは珍しいことだが、ルフィの勘違いが原因である。ウィスキーピークは賞金稼ぎが作った町で、おもてなしは罠だったことに彼は気づいていない。
「あきれた……」
「あ、あの、止めなくても?」
「放っておけばいいわよ。それよりも。」
件の王女は無事であることに、ナミはほっとした。
第一目的は、10億ベリーのためである。
「護衛の報酬。ほんの少しならまけてあげるわよ?」
「……ごめんなさい。報酬は全く払えそうにないわ。」
「どうして、一国の王女なのに?」
「一体、どこの国の方なのでしょうか?」
「……アラバスタよ。」
「数年間に渡って内乱が起きている国ですね。」
それは、新聞に掲載されていた情報。
アラバスタ王国について知っていることはそれだけだ。
「ちがうっ!嵌められたの!」
「それが、あいつら?」
ゾロとルフィの喧嘩に巻き込まれた男女1名ずつが気絶していた。2人とも能力者だが、化け物じみた力を持つ2人には歯が立たなかったらしい。2人の仕業なのかどうか、ナミは王女ビビに尋ねる。
「いいえ。エージェントとはいえ末端に過ぎないわ。」
「大きな組織みたいなものなの?」
「そう。バロックワークスという秘密犯罪会社よ。」
「へぇ。ずいぶんと思いきったことをしたな。」
ゾロやルフィが会話に混ざってくる。
革命を唆した組織へ、王女自ら乗り込むとはなかなかの度胸だろう。数年間町長に扮していたイガラムしか頼れる者はいなかった。彼女がリスクを冒してまで知りたかったのは、組織の全貌だ。
「誰が率いているんだ?」
彼女は、数年かけてリーダーが誰かを知ることができた。
「言えるわけないでしょう!? だって、あの七武海のクロコダイルよ!? あなたたちが強くても敵わないだろうし、絶対に巻き込みたくはないわ!!」
「なるほどな!」
「私、言っちゃった……?」
「ホロホロホロ、言っちゃいましたね。」
「し、しちぶかい―!?」
「ミホークと同じ、七武海か。」
取り乱したビビの失言で、ナミも取り乱す。
そして、ゾロはすでに癒えた腹の傷をさすった。
『世界政府』公認の海賊が、王下七武海である。海軍が取り締まることはなく、四皇への対抗勢力として力を蓄えている。彼ら彼女らに共通することは、この海で発言力のある実力者だということだ。
「ゴーストリック・マリー」
ペローナは、ゴーストを生み出した。
そしてパシャリという音が、空中からした。
「アンラッキーズ!? あいつらはバロックワークス伝達係なの!」
「うそ!?」
「ペローナに感謝するんだな。」
ゴーストリック・マリーは鏡に閉じ込められた女の子のゴーストで、鏡が動いているようにしか見えない。飛び去っていくハゲタカに乗ったラッコのカメラに映ったものは、鏡に写った自分たち自身だ。
「ペロ~ナ~、あなただけが私の味方よ~」
「でも、あいつらは似顔絵も得意なの。特に麦わら帽子なんて特徴的。間違いなくリストに載ってしまったでしょうね………あっ、ごめんなさい!」
「ホロホロホロ、運が悪かったですね。」
「そんな~」
「ウソップがいれば撃ち落とせれたかもな。」
「……なあ。なんで、ナミは泣いてるんだ?」
「ホロホロホロ、気になるんですか?」
「ああ。約束だからな。」
「………だ、だって、七武海なのよ!?」
「そうだな。」
「腕が鳴る。ミホークくらい強いんだろ?」
「偉大なる航路に入ってすぐ目をつけられるなんて~」
「だいじょーぶ。俺がなんとかするから。」
「うぅ、ルフィの強さは知っているけど……」
「にしし。任せろ。」
―――恋はいつでもハリケーン、ですよ。
「ともかく、ビビさんが組織を形式上裏切ったことを報告されるのは確かでしょうね。」
「まあ、王女だってことはバレてないかもしれないがな。」
「そう、よね……」
「ご安心ください!!」
「「………双子か?」」
「「どこが似てるの!?」」
「夜でよかったですね。」
煌びやかコート、ポニーテール、化粧による白い肌、いわば変装をしたつもりのイガラムだが、体型が違いすぎる。そもそもなぜ彼がそんな姿をしているかについては、一直線にアラバスタまで向かう船で囮になろうとしているからだ。
もちろん、ビビは彼を引き留めようとした。
彼は、彼女が幼いころから世話になった人物なのだ。
「いいのか。」
「ビビ様のためなら、この命惜しくはありません。」
「覚悟を見せたぞ。どうする、船長?」
「ビビのことは任せろ。必ず、送り届ける。」
「みなさんに出会えたのは、運が良かった。」
―――アラバスタでまた会いましょう、ビビ様。
メリー号から、燃える船を見ていたビビは唇を噛みしめていた。