幽霊少女と、剣士(仮題)   作:ヒラメもち

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第8話 勇敢なる海の戦士

記録指針が次に指し示した島は、『リトルガーデン』。

 

モクモクと煙を上げる、巨大な山が目立っていた。

麦わらの一味やビビにとって、初めて見る光景である。

 

 

「あれが、火山よね……」

 

「おいおい、噴火ってやつするんじゃないか……?」

 

船が停まったのは、熱帯気候の自然に溢れた島だ。恐竜や獣が闊歩していて、人が暮らしているようには思えなかった。もし鬱蒼としたジャングルに住んでいたとしても、屈強な戦士だけだろう。

 

 

「ここがあいつの言っていた不思議島なんだな!」

 

ウィスキーピークを出発する直後、麦わらの一味に語りかけてきたのはミス・オールサンデーだった。黒髪のミステリアスな女性で、ボスであるクロコダイルのパートナー。つまり敵なのだが、どういうわけかリトルガーデンの危険性を伝え、できるだけ避けて通るように申告してくれたのだ。しかし未知の冒険は、ルフィの大好物なので目を輝かせながら船の進路を譲ることはなかった。他人に運命を決められることも好きじゃないのだ。

 

 

ともかく、この航路を辿ってアラバスタまで行くのなら、記録指針にログを溜めるために数日以上ここに滞在する必要がある。

 

 

「サンジ、弁当! 冒険の匂いだ!」

 

「待ってろ、残り物を詰めてくる。」

 

「クエー!」

 

「サンジさん、私とカルーの分もいいかしら?」

 

「まっかせて~!」

 

ビビとカルー。王女とそのお供のカルガモがルフィの冒険への同行を志願した。ここ数日ですっかり一味に打ち解けた彼女だが、ミス・ウェンズデーの時よりかなり口調が変わっていた。あくまで潜入のための演技だったわけで、彼女の素が表れているのだ。

 

さらにメロメロになったサンジは厨房へ駆けて行く。

 

「ビビ、生きて帰ってきてね……?」

 

「大丈夫よ。ルフィさんもカルーもいるから。」

 

「ぼうけ~ん、ぼうけ~ん」

「クワ~、クワ~」

 

「どこが安心できるのよ!?」

 

サンジから水筒と弁当の入ったリュックを手渡され、遠足気分でジャングルに入っていく2人と1匹。警戒心の欠片もないが、野性児であって化け物じみた実力のルフィなら本能的に圧倒するだろう。

 

ビビのことを安心して任せられると思ったサンジは、厨房の片付けに戻って行った。

 

 

「ホロホロホロ、皆さんお出かけでしょうか?」

 

「ペローナ。暑くないの?」

 

日傘を差しているとはいえ、いつもの黒いトレンチコート。

薄着のナミやウソップとはまるで違う。

 

「はい、平気です。」

 

「ねぇ。私たちは大人しく船で待ちましょう、ね?」

 

「ペローナやゾロまで行かないでくれよ~」

 

「私は留まるつもりですよ。」

 

恐竜も、停泊している船には攻撃してこないだろう。

もし船から降りてしまえば、格好の獲物なのだ。

 

海岸にある恐竜の骨を見て、ナミは震えていた。

 

「まあ、船にはゾロやサンジもいるしな!」

 

「ゾロさんなら、さっき起きて散歩に行きましたよ。」

 

「なんでよ!? 止めてよ!?」

 

白い布を被った幽霊が、ふらふらしている。

周囲の警戒、及びストーカーをしているゴーストのうちの1体だ。

 

「サンジさんは、ゾロさんと競うように狩りに行きました。」

 

「ウソだと言ってくれ~!」

 

メリー号には大食漢がいる。

一般的な魚釣りをしたとしても、全く食料が足りない。

 

食料調達を頼まれたゾロは挑発し、サンジも飛び出した。

今は、どちらが大きな恐竜を狩れるか競っている。

 

「う、海に逃げましょう!」

 

「そうだな! 船を少しの間、動かすだけだな!」

 

船に残っているのは、ナミとウソップとペローナのみ。

3人とも真正面から肉食恐竜と戦う術は持っていないのだ。

 

 

「……マズいですね。」

 

地響き。

そして、巨大な顔を覗かせる。

 

「「きゃーー!?」」

 

噂をすればなんとやら。

いわゆるティラノサウルスが、3人を見て涎を垂らした。

 

「どどどどうすりゃいいんだ!?」

 

「勇敢なる海の戦士でしょ!? この化け物なんとかして!」

 

「無茶言うな!?」

 

「転ばせればなんとかなるでしょうが、それよりも問題は……」

 

恐竜より巨大な斧による、一閃。

 

 

その風圧でメリー号は揺れる。

ペローナは焦って、全てのゴーストを搔き集めた。

 

「ガババババ! いい肉が手に入った!」

 

「「ひ、ひぇ~」」

 

怯ませることすらできない、そうペローナは悟った。

 

 

「ん? おーーっ!!」

 

10mをも超える巨体を持つ彼は、巨人族のブロギー。

丸っこい身体で、無精ひげが目立つ。

 

 

しゃがみこんでナミたちに笑いかけたが、恐怖でしかない。

 

「何年ぶりのチビ人間だろうな! 酒はあるか!!」

 

「「うんうんうん!」」

 

凄まじいボリュームの声である。

豪傑であるナミですら、潔く酒を差し出すしかない。

 

襲ってくる様子がないので、ペローナはひとまずほっとした。

 

 

酒のお礼に肉を食べさせてやる、そう言ったブロギーに連行された。

 

そして、豪快に丸焼きした恐竜の肉塊を引きちぎって、3人の前の葉っぱの上に置かれた。ブロギー本人は身の丈に合わない酒樽の中身をどんどん口に流し込んでいた。ウソップやナミはガチガチに緊張したままだし、ペローナも出方を探っている。

 

「いい酒だ! 自家製のものより断然美味いな!」

 

「こ、これがリトルガーデンが意味することなのね。」

 

「お、おれたちが小人っていうことか。」

 

「さあ、お前たちも食え食え!ガババババ!!」

 

 

意を決して、ナミやウソップはかぶりつく。

ペローナも袖から出したナイフで、細かく削って口に入れた。

 

「美味しい!」

 

「すげぇいい肉だな!」

 

「そうだろう!? 美味いものを喰って育ったやつは美味い!」

 

腹が満たされたことで、緊張も少しずつ解けていった。

ブロギーが豪快な性格をしていることも大きい。

 

 

「なあ。他にもあんたみたいに巨大なやつがいっぱいいるのか?」

 

「この島にいるのは俺とドリー。俺たちは巨人族の国であるエルバフ出身だ!!」

 

「へぇ、エルバフかぁ。行ってみてぇ!」

 

「私たちは、東の海から来たんですよ。」

 

「偉大なる航路にわざわざ来るとは、物好きだな!」

 

「夢のためだからな。」

 

「ほう。」

 

「私は世界地図を書くためにね。」

 

「俺は勇敢なる海の戦士になるためだ!」

 

「ガババババ! でっかい夢だな!!」

 

彼も、夢を笑わない。

ウソップに至っては巨大な戦士に夢を伝えられたのだ。

 

 

「嬢ちゃんは?」

 

「私は……、強くなりたいです。」

 

 

少しずつ、あの場所へ近づいている。

偉大なる航路に入ってからは不安で仕方がない。

 

 

思いつめた表情のペローナの前に、ドサッと肉塊を置かれた。

 

「食え食え! そんな細い身体じゃ、大事な時に倒れてしまうぞ!?」

 

「……そうですね。」

 

再び、細い腕を伸ばす。

 

ペローナは自分が一番弱いのだと、理解している。

守ってもらうという約束に甘えているままだ。

 

 

「ふむ。そろそろか。」

 

「どうしたんだ?」

 

急に立ち上がったブロギーに、ナミたちは首を傾げるしかない。

 

「決闘だ。」

 

ドッカンと、火山が噴火する。

それが約束された合図だ。

 

「戦い続けて100年!理由はとうに忘れたが。」

 

「「今日こそ決着をつける!」」

 

斧と盾がぶつかり、風圧で森一帯が吹き飛ぶ。

この島は彼らの決闘場所なのだ。

 

 

「これが、勇敢なる海の戦士……」

 

ウソップは呟いた。

ナミやペローナを置いて、戦場にできるだけ近づく。

 

「すげぇ戦いだ!!」

 

いつものように恐怖することはない、目に焼きつけたい一心で走った。

 

 

「ガババババ!」「ゲギャギャギャ!」

 

互いに急所を狙う一撃。

決闘という名の殺し合いである。

 

 

互いの誇りをかけて、1勝をもぎ取ろうとしている。

何万回も引き分けてきたライバルなのだ。

 

 

―――違和感はすぐにわかった

 

 

「どうした、ドリー!?」

 

「少し、腹を壊しててな!!」

 

「……敗けの!言い訳にするなよ!!」

 

「おうとも!」

 

 

ドリーの足元に白い粘性流体。

たちまち固まっていき、体勢が崩れた。

 

「しまったっ!?」

 

「むん!!」

「グがッ!!」

 

振り下ろした斧とともに、血しぶき。

一番驚いていたのは、斧を振るった本人だった。

 

 

 

***

 

「「誰だァァーーー!!!」」

 

ルフィとウソップの叫び声が、島に響き渡る。

決闘の邪魔をしたやつらがいたのだ。

 

***

 

 

「はっはっは! 2人ともごくろうだったガネ。」

 

「とどめ。カラーズトラップ、青。」

 

青の絵の具は、悲しみの色。

勝者であるブロギーも両膝をついた。

 

 

「一網打尽だガネ!」

 

ブロギー、そして倒れ伏したドリーへ蝋が迫る。

 

 

「呆気なかったね。」

 

双方の精神と身体にダメージを負わせる、そんな策略だった。

 

 

「貴様、何を……!?」

 

「キャンドルジャケット!」

 

全ては、芸術家の掌の上だ。

 

 

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