幽霊少女と、剣士(仮題)   作:ヒラメもち

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第9話 自由を失った少女

 

ウィスキーピークでルフィとゾロがぶっ飛ばしたはずのMr.5とミス・バレンタイン、さらにMr.3とミス・ゴールデンウィークまで加わった。計4人のバロックワークスの刺客

たちによって、麦わらの一味及び巨人たちは万事休すだ。

 

 

―――ペローナ、逃げなさい

 

ビビを人質にされ、ゾロも潔く捕まった。

ナミも囮になって、ペローナを守った。

 

彼ら彼女らが敵わない相手に自分が勝てるわけがない、そう思わずにいられない。

 

「……なんでこんなことに」

 

それでもまだ甘えようとしている自分に嫌気がさす。

必死にゴーストを放って、彼らを探した。

 

 

見つけたのは、倒れ伏したルフィ。

 

 

「死にたくない、死なないで……」

 

涙は、もうずいぶんと前に枯れた。

しゃがみこんで、震えることはやめられない。

 

ルフィやゾロは、決してそんな泣き言は言わないだろう。

 

「わたし、最低」

 

ふと気づけば、メリー号にゴーストが集まっていた。

逃げろと、自分で自分に囁いているのだ。

 

 

 

***

 

もし真正面から戦えば圧勝だったはずの彼らだが、策略に次々と嵌められていった。バロックワークスの刺客たちは、巨人たちの因縁の決闘を利用し、島に散らばっていた麦わらの一味を1人1人着実に攻めていったのだ。

 

「はぁ…はぁ…」

 

地面を、ルフィは強く握った。

 

ミス・ゴールデンウィークの暗示により拘束、さらにMr.5の攻撃にルフィは耐え続けた。ボムボムの実の能力の攻撃より、身体はボロボロ。しかし彼にとって何よりも悔しいのは、ビビを目の前で連れ去られてしまったことだ。

 

 

「……ルフィ、気分は、どうだ?」

 

ウソップが、声を絞り出した。

 

「腹が立ってる。」

 

「俺はァ、悔しい…」

 

キロキロの実によって地面に埋められた彼は、全身に力を籠めて、身を捩りながらなんとか這い出そうとする。バロックワークスに対してだけじゃなくて、足手纏いとなった自分にも怒りが湧いていた。

 

「戦士の誇りも、夢も!踏み躙られたんだッ!!」

 

「クェ……」

 

ボロボロのカルーも、立ち上がろうとしていた。

2本脚でまだまだ走れる。

 

「お前もビビを助けたいんだな。俺もみんなを助けたい。」

 

地面に両手をつき、力を籠める。

うおおーーーッ!! 身体に鞭打って立ち上がった。

 

 

「おい。」

 

肉が美味しそうに焼ける匂いが、肉食恐竜を呼び寄せていた。Nr.3の策略によって、芸術作品にならない彼らは餌となる運命。そんな定められた運命に虐げられるなんて、決してルフィは認めない。

 

「お前ら全員! かかってこい!!」

 

 

 

***

 

『キャンドルサービスセット』、蝋でできたケーキを模した塔だ。火の灯った蠟燭から溶けた蝋が降る。Mr.3にとっては生身の人間を精巧な蝋人形へじっくり変えていく芸術なのだが、囚われているナミやビビ、そしてゾロにとっては処刑台でしかない。

 

 

蝋でできた剣によって、手足を地面に縫い付けられたドリーやブロギーにも少しずつ影響していた。もし全身が蝋に包まれてしまったのなら、呼吸することはできなくなり待っているのは『死』だ。

 

 

苦しみ、怒り、悔しさ、そういった負の感情を芸術作品としてありのままに残せるのだ。加えて、作品の『素材』も見事といえる。腕を組んだMr.3は、最高の愉悦を抱いていた。

 

作品の完成という彼ら彼女らの『死』を、ミス・ゴールデンウィークは無表情のまま待っている。Mr.5やミス・バレンタインも同じく待機、ウィスキーピークでの鬱憤を晴らせることを歓喜していた。

 

 

「私を覆う漆黒の夜 鉄格子にひそむ奈落の闇」

 

「キャハハハ、なにこの暗い女」

 

「私は……あきらめた」

 

無機質な声で、詩を詠う。

日傘で顔を隠したペローナは、塔を見上げた。

 

「まだ極上の『素材』が残っていたようだガネ。」

 

「みんなをかえしてよ」

 

それだけ告げた。

もちろん、子どもが言う我儘にすぎない。

 

「それは無理な相談だガネ。」

 

 

「なんできたのよ!?」

「ペローナさん、逃げて!」

 

ナミやビビは必死に呼びかける。

黙ったままゾロは、いまだ動く片手で刀を抜いた。

 

 

「人数差、そして人質だ。どう乗り越える?」

 

鼻空想砲

全身を起爆できる彼の遠距離攻撃技である。

 

指で弾いた鼻糞は、小さな爆弾と化す。

 

 

「あまり『素材』に傷をつけないでほしいガネ。」

 

「……能力者だね。」

 

煙が晴れ、ペローナは日傘をたたんだ。

 

シュタイン、イエティ、マミー、ウルフ、直接的な戦闘に適したゴーストたちがペローナの前に立っていた。突然現れたことにすぐに冷静な判断を下せる刺客たちは、能力者慣れしているということだ。

 

「……自然系ならともかく、超人系。本体が弱点だな。」

 

「キャハハハ、軽そうな女」

 

日傘を差しているが、ペローナと服装が対極的な明るさ。

能力で1キロまで軽くなった彼女は空中で風に乗り、接近する。

 

「っ! みんな!」

 

「軽い軽い! 1万キロプレス!!」

 

ゴーストたちが密集。

策を弄するしかない彼女が狙っていたのは、敵の接近。

 

「ゴーストリック・ハウス」

 

「キャハッ!?」

 

指を4回鳴らして、起爆させた。

しかし止めきれない重い一撃を、必死に転がって躱す。

 

 

「……爆発。だが弱いな。」

 

彼女を守るゴーストは、この瞬間はいない。

 

「「ペローナ(さん)!?」」

 

 

いくつもの鼻糞が命中。

コートやシャツは焼け焦げ、肌を晒す部分もあるほどだ。

 

「ぁぐ……」

 

ゆっくりと倒れ伏して、ゴーストたちは消えていく。

 

 

「……ボムボムの実はお前の上位互換だ。」

 

ダメージはペローナの方が明らかに大きい。

それぞれの能力が爆破に特化しているかどうかの差だ。

 

それに、トラウマを抉ってきた。

 

「やだ、やだ……」

 

この世で一番強力な攻撃だと、虐げられた彼女が認識したのは『爆破』だった。

 

 

初めて自分の身に受けた爆発だ。

本当に生きているのかどうかが不安で、ガチガチと震える。

 

 

「や、やめてっ」

 

「……取るに足らない女だったな。」

 

何も身に着けていないはずの首に嫌な感触を感じていた。

 

 

「もうっ! お気に入りの服だったのに!」

 

無防備なペローナにミス・バレンタインは腰掛けた。

これから彼女にもたらされるのは、拷問。

 

「ひっ」

 

「キャハハハ! 察しがいいじゃんか!」

 

「……どうか、おやめください。」

 

「やだっ♪ クレッシェンド ストーン」

 

 

キロキロの実の能力で重くなる上限は1万キロ。

彼女自身の体重を段階的に上昇させて、恐怖させるだけ。

 

 

ペローナは、自然と声を発していた。

 

「な、なんでもしますから。いのちだけは!!」

 

「キャハハハ! だっせぇ!」

 

「ぅぁ……」

 

骨が軋む音。

今もなお、彼女は虐げられていた。

 

 

ナミやビビが必死にやめさせるようにMr.3に告げるが、それすらも彼にとっては愉悦でしかない。怒りに満ちた表情のままに蝋人形になってくれれば、さぞ最高の芸術作品となるだろう。

 

 

「俺は足を斬り落としてでも戦う。どうする、お前ら?」

 

ゾロが尋ねた相手はビビやナミ、そしてブロギー。

 

「Mr.ブシドー……」

 

ビビの脳裏に過ぎったのは、イガラムの真剣な顔。

バロックワークスに潜入する前に告げられたこと。

 

―――死なない覚悟はおありですか。

 

「私も戦うわ。」

 

「……強いわね。私も付き合うわよ!」

 

「ガババババ、若き剣士よ。見事な心意気だ。」

 

Mr.3やMr.5は、目を見開いた。

―――こいつら、イカれている

 

彼ら彼女らはたとえ這いつくばってでも、戦おうとしている。

 

 

「……ゾロ…さん…」

 

助けを乞う瞳で、ペローナはゾロだけを見た。

今日も彼女は彼に甘えようとする。

 

 

「そういう約束だから。お前を助けてやるよ。」

 

苦しみから解放されるために誰かを頼ることは、普通の人間の心理だろう。だがしかし、ゾロやルフィは道半ば果てることを決して恐怖することはないし、あえて高い壁にまっすぐ挑もうとする。

 

 

「告白の答えだ。俺はよわい女は好きじゃねぇ」

 

「……そうですか」

 

「男に生まれたかっただの、生い立ちが不幸だの。今更どうしようもないことを俺にどうしろってんだ。」

 

 

和道一文字を自身の足に当てた。

ペローナの手を借りずとも、自由を勝ち取るだろう。

 

少しずつ進められる刀身。熱い血が少しずつ溢れ出す。

 

 

「足枷になる女は、世界一の剣豪への道に足手纏いだ。」

 

「ぅっ、ぐっ……」

 

「あら?」

 

細い腕に精いっぱい力を籠める。

 

 

「キャハハハ、そんな軽い力ではビクともしないわよ」

 

「それでも」

 

重りを押しのけようと足搔き始めた。

 

 

「そろそろ籠の外から出てみろよ、小鳥。」

 

 

 

 

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