VOICEROID短編集詰め合わせ   作:喜来ミント

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かわりばんこに眠りましょう(きりたんとゆかり・日常)

「ちょっとお昼寝しませんか」

 ゆかりがそんな提案をしてきても、普段ならきりたんは絶対に首を縦に振らなかっただろう。

 待ちに待った休日にゲームをしている真っ最中。しかも、先週発売したばかりのゲームを二人そろって攻略しているところなのだ。寝ている場合ではない。

 しかし今日に限っては事情が違った。

「そうですね。ちょっとだけ……」

 ゆかりの提案に対し、きりたんはふやけた声でそう答えた。

 きりたんは学校が苦手だった。周りより大人びた趣味嗜好が手伝ってか、話が合う人は少なく、浮いていることを自覚していた。

 そんな学校から解放される土日に昼寝などしていられない。寝る間を惜しんでゲームをするべき。そう考えて、今日もゆかりの家に朝一番からお邪魔している。

 だがどうだろう。もうすでに5回目のゲームオーバーだ。頭と指先がつながっていない感じ。明確に自分のコンディションが悪いとわかるせいで、ゲームに悪態をつくことすらできない。

 偶然だろうが、ゆかりも似たような状況だった。こっちは大学生なので朝から晩まで学校に閉じ込められているわけではないのだろうが、レポートだのバイトだのという別の悩み事が彼女や自分の姉を悩ませていることはよく知っていた。

 つまり今、きりたんとゆかりの思いは同じだった。

 ゲームはしたい。でも超眠い。

 片方だけがそんな状況だったら、もう片方がイジるなり励ますなりするだろう。しかし今は残念ながら二人そろって眠気に頭をやられていた。

 しかしゲーマーとしての根性もなかなか諦めが悪い。そんな状態でもゲームのことを考えていた。

「ただ、寝ると言っても……完全に寝たらだめですよ、ゆかりさん。ほんのちょっとだけです。熟睡したら目を覚ますのにまた時間がかかりますから」

「あー……何分くらいがいいんでしょうか」

「ググればいいでしょう」

 ゆかりがおぼつかない指先で検索した結果、15分くらいがいいという結論になった。

「よし。……じゃあゆかりさん、タイマーかけてくださ――」

「待った」

 と、そこでゆかりがおかしなことを言い出した。

「アラームで起こされるの嫌なんですよ。交代で眠りませんか」

 やはり彼女は眠気に頭をやられているようだった。

 しかし、きりたんもそれは同じだ。

「あー、そうですね。じゃあそうしましょうか」

 気軽に言ってから、しばしにらみ合った。

 よく考えてみると、相手が見ている前で眠らなければいけないのだ。

 眠気は強いし、眠れないことはないだろう。しかし気まずい。

 二人は同時に手をスッと差し出した。

「お先にどうぞ、ゆかりさん」

「いえいえそちらこそ。たまにはお姉さんらしいところを――」

「なーに言ってるんで……ふああ」

 いつもなら売り言葉に買い言葉が当たり前だが、やはり眠気は強かった。

「じゃあジャンケンで。恨みっこなしで。出さなきゃ負けで」

「あーはい。それじゃあ」

 じゃん、けん、ぽん。

 きりたんはチョキ。ゆかりはパー。

 ゆかりがやや出遅れたが、結果が結果なのできりたんは突っ込まなかった。

「それじゃ、お先にどうぞ」

「あーはい……じゃあ、お願いしますね」

 そう言うと、ゆかりは脇に置いていたクッションを抱えて横になった。

「…………」

「…………」

「見ないでください」

「いや、見てませんよ。というか背中向けて寝てるんだから分からないでしょう」

「いえいえきりたん。意外と視線は……くあ」

「本当に見てませんから、寝ちゃってください」

「はあい……」

 仕方ない。きりたんは現在時刻を確認するとゲームに戻った。テレビにイヤホンをつなげ、一人プレイ用のゲームに切り替える。

 しかし、眠気は相変わらず腕を鈍らせていた。もしかしたら行けるかも、と思ったが、やはりあっけなくミスをする。立て直せず、そのままゲームオーバーになる。

「だーめだこりゃ」

 思わずつぶやいてからハッとする。そっと振り返る。

 衣擦れが起こる。

 普段は気にならない動作にすら音がついてくるのを自覚した。

 そっとイヤホンを外す。

「すー――」

 かすかな寝息が聞こえた。うっかりすると聞き逃してしまいそうなほど細い。

 テーブルの向こうを恐る恐るのぞき込むと、ぎゅっと縮こまるようにして眠る年上の友人がいた。

 何だろう。

 身近な存在のはずなのに、違って見える。

 寝息と同様に身動きもごくごく小さなものだ。姿勢も相まって小動物のように見えてくる。ゆかりもそんなに背が高くないとはいえ、自分よりもずっと大きいのに。すらりと細くて長い手足が畳まれているからだろうか。

「ん……」

 漏れる息がきりたんの目を吸い寄せる。ゆかりの胸元から動いた視線は、薄く開いた唇を惰性で通り越し、閉じられた目へとたどり着いた。

 こんなに長く、人が目を閉じているところを見ることは滅多にない。自分が今よりもっと小さかったころ、姉たちが添い寝してくれたことはあったけれど、それとも違う。

 気の置けない友達の、普段は眼にしない姿だ。

 伏せられた睫毛がかすかにふるえている。

 テレビの明かりが白い肌を撫でている。

 本当に、これは私の友達だろうか?

「……いやいや」

 そこまで思って、しげしげと寝姿を見ていたことに気が付いた。流石に失礼だ。

 もう一度きりたんはゲームに戻った。

「……ああもう」

 さっきよりも早くゲームオーバーになった。

 

  *

 

「ん……」

 きりたんが気が付くと、部屋はすっかり暗くなっていた。

「ん……? ん!?」

 慌てて時計を見ると、15分どころか――。

「ちょっとゆかりさん!?」

「ん……?」

 あの後、自分は15分きっかりでゆかりを起こして代わりに眠ったはずだ。

 ゆかりの視線は感じた。自分もあんなことを言っておいて、やっぱり気になるようだった。

 それでも眠気に身を任せて寝たはずだ。

 努めて、手足を伸ばしたまま。

「なんですか、きりたん……」

「何ですかじゃないんですよこのおバカ! 何時間経ってると思ってるんですか!」

「え? ……ああ。しまった」

 ゆかりは長い腕を伸ばして起き上がると時計を見た。バツの悪そうな顔で髪をいじる。

「すみません。きりたんが気持ちよさそうに寝てたので、つられてしまって」

「何のためにかわりばんこに寝たと思ってるんですか……!」

「いえですから、すみませんってば」

 まだ眠いのか、それとも流石に引け目を感じたのか、ゆかりの言葉には冴えがない。

 このままゆかりの眠気もなくなったら、また素直じゃない時間がやって来る。

 ……今なら、それとなく聞けるだろうか?

「ああもう、ずん姉さまに電話しないと……!」

「ついでですし、夕飯食べていきますか?」

「これから作るんじゃ遅いですよ。ずん姉さまも呼んでどこかに食べに行きましょう。もちろんゆかりさんのおごりで」

「いや流石にそれは……」

「別にいいじゃないですか、それくらい」

「今月厳しいんですよー。他に何か埋め合わせを……」

「……。じゃあ、じゃあ訊きますけれど」

 ゆかりはきりたんが寝ているところを見て何を思ったのだろう。

 でもその答えが返ってくるのが少し怖くて。

「いつもあんな感じで丸まって寝てるんですか?」

 二番目に気になる質問をぶつけた。

「……なんだ、やっぱり見てたんじゃないですか」

「起こすときに眼に入っただけですよ。で、どうなんですか」

「……まあ、癖で。その点きりたんはいいですよね。のびのび寝てましたよ」

「んなっ……!」

 本当に、この人は。

「やっぱり夕飯おごれこのやろー!」

「ちょっそれだけはご勘弁を……!」

「いいやダメです! なんとしても!」

「いやいや! だ、大体なんで今月苦しいかと言うと、今回のソフトを建て替えたからですよ! 今すぐ半分出してください!」

「はあー!? 小学生にたかるんですかあー?」

「借金に年は関係ないです!」

「こっちだってねえ、事情ってもんが――」

 ほら、素直じゃない時間がやって来た。

 いつものように騒ぐ年上の友達を見て、きりたんはこっそりと胸をなでおろした。

「ゆかりさんのバカ――!」

 

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