閃乱カグラ~SHINOVI CHRONICLE~ 少女達の絆 作:XW
今だ雨が降り続く空の下、斑鳩は路地裏をトボトボと歩いていた。
さきほど詠を刺してしまったのか、その表情は何処か疲れ切った表情をしていた。
「……………………」
(私は……どうして私は人を、大事に思っていた人程傷つけてしまうのだろう……これが本当に絶対に解けぬ呪いだとしたら私は……私は………)
既に斑鳩は心体共に限界だった。
妹の心の痛みに気づけずに、親友の両親を殺したと言ってもよい財閥の養子になり、あまつさえ自分を最強の友と呼んでくれた詠を刺してしまった。
これだけでも心を傷つける要因はあるのに、斑鳩はそれ以上に傷つき、苦しんでいた。
それが今回の件で更に重荷になってしまい、今の斑鳩になってしまったのだ。
そうしてしばらく路地裏を歩いてると、目の前には大きな広場のような場所があった。
子どもの隠れ遊び場にしてもちょうど良いくらいの場所を通り過ぎようとすると、目の前に現れた人物を見てその足を止めた。
「………葛城、さん。」
「…………斑鳩」
目の前に現れたのは、全身ボロボロの葛城だった。
その葛城を目にしたのと同時に、斑鳩の右目を隠していた包帯が自然と解かれ、蒼志に付けられた斬り傷痕が露わになった。
「………酷でぇ顔だな。」
「それは……お互い様でしょ?」
その傷痕と言うより全体的に酷い顔と思いながら葛城が言った事に対し、斑鳩も日影との戦闘で疲れ変わってしまったような葛城の顔を見て言った。
「…………なぁ斑鳩、あたいらは何処で間違えたんだろうな。」
そんな中、葛城は雨が降り続ける空を見上げながら、斑鳩に話しかけた。
「漆月達に負けた時か? 破忍討伐作戦に参加した時か? それとも………あたいらが忍を志して、会った時か?」
「…………分かりません。ただ私が思うとすれば、私が……この世に生を受けてしまった事自体、間違いなんだと思いますかね?」
葛城の、まるで今までの自分を否定したかの様な言葉に対し、斑鳩はそれ以上に自分を否定したかのような言葉で返した。
「そうか……じゃあお前は、これからあたいがオメェを殺す気で襲い掛かるとしたら、オメェはただただそのまま命を奪われても構わないと?」
「……そういう事に、なりますかね。」
何時もの様な会話では無く、何処か暗い話ししかしない葛城の言葉に斑鳩は答え、それに対して葛城は具足をてんかいしながらこう言い返した。
「そうかい……でも、そんな殺してください気満々な奴をやってもあたいの気が晴れねぇ。やるならオメェも、本気で来い。」
「……正気ですか?」
「あぁ………オメェだって本心は憎いんだろう? あたいの……あたいを産んだ両親の事が。」
葛城の言葉を聞いた斑鳩は、それに答えるように虚ろながらも飛燕を展開して構え、葛城も構え直した。
「……………………」
「……………………」
双方共に心体共にボロボロ、にも関わらず今目の前に居る親友の思いに答える為か、構えを取りながらにらみ合いそして………
………ポタン
『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
何処かに雫が落ちた瞬間、斑鳩と葛城は強く地面を蹴りながら互いに近付き、飛燕の刃と具足を交合わせるのだった。
「だぁあああ!!」
「ぐぅう!?」
葛城が蹴りを食らわせようとしたら斑鳩はそれを避け、斑鳩が刃を振るえば葛城はその刃を避ける。
共に戦って来たからこそ戦い方、間合い、その殆どが二人には分かり切っていた。
だが斑鳩は詠と、葛城は日影と戦った後と言う事もあり、疲れが残っているせいで身体にふらつきが出始める。
「げほぉ!!」
「がぁああ!?」
それにより斑鳩は葛城の蹴りを腹にもろに食らってしまい、葛城も斑鳩の刃に脇腹を斬られ、それと同時に一旦離れる二人。
「ハァ……ハァ……ハァ……くぅ!!」
「ハァ…………ハァ…………ハァ………ハァ…………」
立ち上がる葛城と斑鳩だったが、葛城は身体にフラつきが残り、斑鳩に居たっては戦意が喪失しかけていた。
実際、斑鳩はもはや心体共にボロボロだ。
これ以上戦い続ければ、本当に斑鳩の身体と心は壊れてしまうかもしれない。
「ハァ……ハァ……どうした? 本気で来いって言っただろう!! 来ないなら……こっちから行かせてもらうぜぇ!!」
そんな事見れば分かるはずなのに、葛城は斑鳩に向かって叫びながら突っ込むとそのまま斑鳩の右手を蹴り、飛燕を地面に落とした。
「………ぐぅ!? ぐぅわぁああああああああああああああああああ!!」
飛燕が手から離れた斑鳩は、歯を食いしばりながら葛城の腹に向かって体当たりし、その拍子で葛城の両足から具足が外れてしまう。
「くぅう……うぁああああああああああああああああああああ!!」
背中を地面に叩き付けられた葛城は叫びながら、斑鳩の腹を蹴って放すと、すぐさまフラりと立ち上がった斑鳩の顔を殴った。
「………がぁあああああああああああああああああああああ!!」
「う゛ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
それに対して斑鳩は、悲鳴にも似た叫びを放ちながら葛城の頬を殴り返し、それに葛城も斑鳩の腹を殴り返す。
そこからはもう忍の戦いでは無かった。殴っては殴り返し、殴り返されては蹴り、蹴り返してはまた殴りと、それを繰り返すうちに二人の身体は泥だらけ、そして心体共に更に傷だらけになって行く。
(ちくしょう……なんだよ、なんだよその顔は!? あたいが憎くないのか!? 自分の家族を壊したあたいの両親が憎くないのか?! それとも………ちくしょう……ちくしょう………)
「ちくしょうがぁああああああああああああああああああああ!!」
その中で今にでも倒れそうな斑鳩の、悲観的な顔をしている斑鳩の顔を見ながらそう思った葛城は叫びながら殴り続けるが、その顔は何処か苦しんでいるような顔をしていた。
(斑鳩です。よろしくお願いします。)
(葛城だ! よろしく!!)
そんな葛城の脳裏によぎったのは、斑鳩と葛城が出会った時からの記憶だった。
(挨拶なら、先ほど済ませました。)
(あ…いやほら、初対面の人間には、笑顔で接しろって言われなかった?)
(相変わらず無表情なのな。あたいがそんなに気に入らないかい?)
(…くだらないですね、私はただ…関わり合いになりたくないだけ。)
最初は最悪だった。何をしても自分より先に行ってる様に感じたり、何をしても無表情で反応のない斑鳩が気に入らなくて、衝突する事もあった。
(似てるなぁって思ってよ。あたいとあんた、不器用な所とか特にな。)
(…貴方に私の何が、分かるっていうんですか!?)
(いや、何もわからん。けどよ、そうやって一人になった時の、寂しさならわかんじゃねぇか? あたいらはよ。)
期末試験、一度は敗れた大道寺に再戦する前、葛城の言葉を聞いて反論した斑鳩に対して葛城はそう言い返した。
(うぅうえぇううぇおぉうえ~ごめんよ~悪かったよ~謝るから生足に戻ってくれよ~)
(あなた全然反省してないじゃないですか!!)
その後無事期末試験をクリアした二人は、そのような会話をする程ではあるが関係も良くなって行った。
(逃げてちゃ前に進めねぇのさ、斑鳩。)
(っ!?)
(そんなもん心の弱さに目をつむった逃げだっ!! ちっとも前に進めてねぇ!! あたいらは前すら向いちゃいねぇ。だからあたいは変わるって決めた、弱い自分を変えるってな。お前はどうなんだ? 斑鳩っ!!)
(…私は。)
飛鳥が入学して程なくして、飛鳥に怪我を負わせてしまった斑鳩に葛城が怒ったその日の夜、斑鳩に向けて葛城が話した後、斑鳩と葛城は再び戦った。
(いつかこいつに勝つ。その為に強くなると誓った…あの時あたいは前に進めた気が……いや違うな、)
(こいつとなら、前に進めるかなって思えたんだ。)
そしてその際に葛城が言った言葉は斑鳩に対しても、言った本人である葛城に対しても励みになり、今まで共に激闘を潜り抜けて来たのだ。
『あぁあああああああああああああああああああああああああああ!!』
それが今はどうだろうか。斑鳩も葛城も前に進むどころか後ろに後退以上になっているようだった。
共に家族、そして過去によって堕ちる所まで堕ちてしまい、今ではもう何で殴り合ってるのかすら分からなくなりかけている程、悲鳴に似た叫びを上げながら殴り続けていた。
「かぁ!! あぁ……あぁあああ………」
「……んはぁ!! ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ………」
それを繰り返している内に、斑鳩はふらつきながら後ろによろめき、そのまま仰向けに倒れた。
それに葛城は息を荒立てながら斑鳩に近付くと、そのまま仰向けになった斑鳩の上に乗る。
「………………………」
「…………………………………」
葛城はそのまま両手を斑鳩の首に向けて動かし、それを見た斑鳩はそっと目を瞑る。
恐らく葛城はこのまま自分を絞め殺すのであろう。そう考えた斑鳩はそれを只々受け入れ、抵抗する事もなくされるがままでいた。
「………………………………か、葛城さん?」
だが一向に葛城は首を締める事無く、時間が経っても何もしない葛城が気になったのか斑鳩が目を開けて見た者は、歯を食いしばりながら涙を流し続ける葛城の姿だった。
「……何だよ………何なんだよ………ちくしょう……ちくしょう…………ちくしょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
その泣き続けていた葛城は次の瞬間、悲鳴にも似た叫びを放ち、それに斑鳩は目を見開いてしまった。
「なんだんだよ!? もぉ分かんねぇよ!? 助けようとした親がもう死んでて!? その親が最低な忍務ばっかりやってて!? しかも親を抜忍に追い詰めたのが親友の親で!? しかも親友の実の家族を壊したのがあたいの親で!? もぅなんだんだよ!? もうどうしたら良いんだよ!? 何を信じたら良いんだよぉ!!!?」
「か……葛城さん。」
頭を抱いて、髪がくしゃくしゃになるほどに掻き乱しながら泣き叫び続ける葛城を見た斑鳩の目にも、一筋の涙が溢れ出た。
葛城にとっても、実の親はそれだけ大事な物だったのだ。
なのにその親の正体や抜忍になった真実、そしてもうこの世にはいない事を知らされ、葛城自身何を信じたら良いか分からなくなってしまった。
飛鳥達を裏切って破忍になったのもそれが原因だ。信じていた物に何もかも裏切られ、全てが偽善と思ってしまう程、葛城の心は深く傷つけられてしまったのだ。
「………なぁ斑鳩。あたいはどうすれば良かったんだ? どう生きていけば良いんだ? 忍になる目標も失って、何もかも偽善に見えちまって……もう、忍である理由すらなくなっちまった。」
「葛城さん………」
「なぁ斑鳩………あたいはこれから、こんな偽りだらけの忍の世界で、どうすりゃ良いんだ? なぁ………教えて………教えてくれよ………斑鳩。」
そう今だ涙を流しながら聞く葛城に対し、斑鳩は何も答えれなかった。
斑鳩は斑鳩で、自分自身を信じられなくなっていた。
自分が自分でいれば、周りだけじゃなく知らない人達まで傷つけてしまう。
そう自分を信じられなくなっている斑鳩には、葛城に対して何も答えれないのだ。
「そんなの、たった一つしかないですよ。たった一つ、シンプルな答えが。」
『!?』
その時だった。何処からか二人に聞き覚えのある声が聞こえ、二人は声がした方に顔を向けた。
するとそこから、一人の少女が斑鳩と葛城に近付いていた。
蒼の短髪、女の子らしい青のワンピースの上にジャンバーを身に纏い、鞘から刀を抜く少女は、憎しみの目で斑鳩と葛城を見つめながら近づいていた。
「今ここで、その女共にここで私に斬り殺される事。それが……あなた達に出来るたった一つの贖罪です。」
その少女、蒼志は刀を斑鳩と葛城に向け、憎しみで満ちた目で二人を睨むのだった。