閃乱カグラ~SHINOVI CHRONICLE~ 少女達の絆 作:XW
「秘伝忍法!! ひーりんぐ忍兎!!」
近くの屋根がある場所まで葛城を移動させた後、雲雀の秘伝忍法「ひーりんぐ忍兎」で蒼志に斬られた傷口などを塞ぎ癒したのだが、葛城の意識は一向に目覚める気配が無かった。
「……駄目。傷は治せたけど、かつ姉ぇの意識が戻らない。」
「ダメージがそれだけ深刻だったって分けか。下手したらずっとこのままだ。」
「そんな……それじゃあ……かつ姉様はもう………」
忍法を使って座り込みながら呟く雲雀に答えるように柳生が悔し顔で話すのを聞いて、菖蒲は絶望に満ちた顔で今だ眠ったままの葛城を見て涙を流す。
「………なんて、……めない。」
「あ、飛鳥?」
「かつ姉ぇが死ぬなんて、そんなの……」
「絶対認めない!!」
だがそんな中、飛鳥は拳を握りしめながら叫んだのを聞いて焔が驚いたのもつかの間、飛鳥は葛城に近付いて心臓マッサージと人工呼吸を繰り替えし、葛城の目を覚まさせようとしていた。
「かつ姉ぇ!! かつ姉ぇ聞こえる!! 私は……私達は、かつ姉ぇがこんな所で死なせたくない!! こんな所で死ぬなんて絶対に認めないから!! どんなにかつ姉ぇが忍に正義が無いって言ったって!! どんなにかつ姉ぇが善忍の正義は偽善だって言ったって!? 私は……私達はかつ姉ぇの事が大好きだから!! どんなにセクハラばっかりしたって!! どんなに私達を困らせたりしたって私達は!! 明るくて仲間思いで強いかつ姉ぇが大好きだから!!」
心臓マッサージをし続けながら、葛城に向かって叫び続ける飛鳥の目からは次第に大量の涙が溢れ出て来ており、けれども飛鳥はその手と叫び続けるを止めなかった。
「……そ、そうだよかつ姉ぇ!! かつ姉ぇがどんなに私達の事を嫌っても!! どんなにかつ姉ぇが忍の正義を嫌っても!! 私は、私達はかつ姉ぇが大好きなんだよ!! だから……だから死なないでかつ姉ぇ!!」
「おい葛城!! 雲雀にこんだけ言わせておいて死んだら承知しないぞ!! お前の身体に全身悪戯書きしてそのまま海に流してやるからなぁ!! だから死ぬな!! そんな事されぬ前に目を覚ませぇ!!」
「かつ姉ぇ様!! かつ姉ぇ様!! 私は……私はかつ姉様の事が大好きです!! 私にとってかつ姉様が全てなんです!! もしかつ姉様の周り全てが敵になったら、私は何を捨ててでもかつ姉様の味方になりますから!! だから……だから……こんな所でお別れなんて嫌だです!! 目を覚ましてくださいかつ姉様ぁ!!」
そんな飛鳥に続くように雲雀と柳生と菖蒲も涙を流しながら葛城に向けて叫び続けると、焔も葛城に近付いてこう叫んだ。
「おい葛城!! オメェ……日影に謝罪の一つも何しここで死ぬのか? アイツが……日影がお前の事をどれだけ思って、どれだけ大切な存在だって知ってるか!? お前と戦ってる時の日影はなぁ……本当は感情あるんじゃないかって思うぐらい良い顔してるんだぞ!! そんな顔を……悲しみで染めるなぁ!! 分かったらさっさと起きて、日影に何万回も謝れ!!」
「かつ姉ぇ!!」
「かつ姉ぇ!!」
「葛城!!」
「かつ姉様!!」
「葛城!!」
葛城が戻って来るのを信じ続ける飛鳥と雲雀と柳生と菖蒲と焔は、今だ意識が戻る気配のない葛城に向けて叫び続けるのだった。
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どこまでも深く、そしてそこが見えない水の中。葛城の意識は、そのような場所に居るような形になっていた。
(……あたいは………死ぬのか? そうか、そうなんだな。……狩にこれで運よく生きてたにせよあたいにはもう、忍としてやって行く目標も何もかも、何もねぇ。あんな……偽善だらけで正義も何も無い世界で生きていく意味も……何もかも。そんなんだったらいっそのこと………)
遠退いて行く意識の中、葛城はそんな事を考えながら目を瞑り、そのまま死を望んだその時だった。
――かつ姉ぇ!!――
――かつ姉ぇ!!――
――葛城!!――
――かつ姉ぇ様!!――
――葛城!!――
(……これは………この声は………)
何処からか聞こえて来たのは、葛城に向けて叫び続ける飛鳥達の声だった。
遠退いかけた意識の中で聞こえた飛鳥達の声、それを聞いた葛城の脳裏に写ったのは、かつての思い出だった。
――いたずらしたせいで斑鳩に怒られた時の事。――
――雲雀の胸を揉んだせいで柳生にお仕置きされた時の事。――
――菖蒲に見つかってしまい、菖蒲から逃げる時の事。――
――バイトしている焔達を見かけて、話しかけた時の事。――
――日影と共にラーメンを食べに行った時の事。――
――雪泉達との合同修業の際に相手になった夜桜と握手した時の事。――
――たまたま見かけた雅緋達に声を掛けられ、そんな暇あるなら修業でしたらと両備に怒られた時の事。――
――そして、胸を揉まれたにも関わらず、相変わらず笑顔で自分に接する飛鳥を見た時の事。――
様々な事を思い出してきた中、葛城はある事に気付き、思い出した。
(………なんだよ、あるにはあったじゃねぇか。こんな偽善まみれの忍の世界にあった、本物がこんなにも………)
それを思い出した葛城の目からは涙が溢れ出て、それと同時に暗闇の水の上からは、一筋の光が灯された。
――――
「………え?」
今だ葛城に向けて叫び続ける飛鳥は、自身の胸に違和感を感じその胸を見ると、自分の胸が誰かの手で揉まれていた。
そしてその手の持ち主は………
「……アハハ、アハハハハ。やっぱり……飛鳥のおっぱいは、温かいだな。」
その手の主は葛城は手のひらで感じた、飛鳥の胸の温かさに思わず涙を流しながら目を覚ますのだった。
「………かつ姉ぇ!!」
「かつ姉ぇ!!」
「葛城!!」
「かつ姉様ぁああああああ!!」
「うわぁあああ!! ちょ!? 苦しっ!! 止めろってわぁああ!!」
葛城が目を覚ました事に気付いた飛鳥達は、今度泣き喜びながら葛城に抱きつき、それに葛城は苦しみながらも、ほんの少し笑みを浮かべていた。
「………ハァ。ったく、迷惑ばっかかけやがって。」
そんな光景を見ていた焔もしゃがみ込みながら、思わず涙を少し流しながら笑みを浮かべるのだった。
――――
「ふへぇ~、思った以上に濡れちゃったなぁ。」
アジトに戻った漆月は、雨でぬれた身体をタオルで拭きながら自室に入り、濡れた服を入れた篭を入口近くに置いた。
「……さてさて、蒼志の目的も半分ぐらいは達成できたと思うし、かなりの人数の忍学生を捕えたから……そろそろ次のステップに移動しよっかな。」
そう呟きながら漆月は置かれていたソファベッドに横になると、近くのテーブルに置かれていた一枚の写真を取り、寝転びながらその写真を見つめた。
「……そろそろ気付いても良い頃あいなんじゃないかなぁ~? 焔ちゃん、飛鳥ちゃん。」
その写真に写っていたのは幼き頃の漆月と漆月に似た顔をしている忍、そして幼き漆月の隣には、
幼き頃の飛鳥と焔と思われし少女も写っていた。
――――
「……………………」
今だ強い雨に打たれ続ける鳳凰財閥、斑鳩の屋敷の前に一人の少女が立っていたかと思うと、その少女はある物門の前に置いてその場をトボトボと去って行く。
少女が置いて行ったもの。それは一振りの刀。刃が壊れ、鞘にしまわれたのはほんの少ししか残っていない刃の欠片だけになってしまった飛燕と、半蔵学院の制服だった。
「………………」
自分の大切な物である物を置いて行った少女、斑鳩は屋敷からトボトボと歩き続けながら離れて行き………
その目からは、完全に光を失っていた。
その日降り続けた雨は、怒り、悲しみ、憎しみ、喜び、そして絶望。様々な心を現したような雨だった。