昔飼ってたワンコ(♂)がJKになってやってきた話。   作:バンバ

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本編
昔飼ってたワンコ(♂)がJKになってやってきた話。


 いつか来る、生きてるなら絶対に逃げられない決まりごと。

 だとしても俺はすぐに受け入れられなくて、それはもうわんわんと吠えるように泣いた。

 あるオオカミと同じ名前を付けた、利口だった犬。俺の家族。

 

 老いで死んでしまったかけがえのない存在。

 彼……犬に対してこういう表現は使うべきかは曖昧だが、まあそれは置いておこう。彼がこの世を去って、早15年が経つ。

 

 

 

 

 両親の生み出す(悪い意味合いでは決してない)空気に耐えられなかった俺は、一人で暮らしていた。

 このままではリア充死すべしという使命感と苛立ちに呑まれて家族に手を出しかねなかった俺は、そんな桃色の香が焚かれた我が家(個人のフィルター込み)から脱する為に地元を離れたのだ。

 

 ああ、弟の見捨てられたと言わんばかりの涙ぐんだ目が忘れられない。おかげで飯が美味い。そんな顔を提供してくれて感謝するぞ、弟よ。

 

 六時に起床して、手際よく出勤前の準備を整え、七時に徒歩で出発。仕事の三十分前に職場に到着するように通勤する。何時ものルーチンだ。

 

 勤め先がIT系ブラックだったが、最近は徐々にホワイトに染まりつつあるのでとても助かっている。少し前までは隈とボサボサ髪がデフォだったのに、今では隈は多少薄くなり散髪店に行く程暇な時間が増えた。ホワイト化万歳。だがしかし、リア充になるかは本人の頑張り次第である、是非もないね!

 

 まだ無茶しなきゃいけない場面も多々あるが、それはそれ。

 新しい上司がマジで良い人なので良しとしている。上司が本当に良い人なのだ。二回言うほど重要なのか? 重要さ。

 

 思うに日本のブラック企業が消えないのは、単純に日本人の社畜魂が根強いからか、老害が多いからかは分からない。だがもっと国が率先してブラック企業の撲滅と他国のように労働時間の短縮などを目指すべきだ。そんなんだから海外の人からロボットのような人たちとか愛の薄い人々とか割と散々なことを言われるのでは?

 そんな、脱線したことを考えていた時だ。

 

 黒のブレザーを身につけた女の子とすれ違った。ガングロとか金髪になっているのではなく、雰囲気がヤンキー的な、目つきが鋭い。怖い雰囲気と言えばいいのか。でも肩まで伸びたセミロングの髪とか含めて可愛いというかクール系というか、目付きさえどうにかしてしまえば何かしらのランキングのような物で一位を取れそうとか思ってしまう。何のランキングか? 美少女ランキングだよ!

 

 さて、どうしてだろうか。初めてすれ違ったであろう相手を此処まで目ざとく見たのはほぼ初の経験だし、そうさせた何かが異様に引っかかる。強烈に既知感を抱いていた。

 

 まるで、もう会えないと思っていた相手に会えたような、砂漠に混じった一粒の宝石を見つけてしまった時のような驚愕と焦りと安堵が俺を支配していた。

 馬鹿馬鹿しいと思い、きっと夢見が悪かったせいに違いないと決めつけ、一度だけ背後に視線を配り、そのまま職場に足を進めたのだった。

 視界に映った、こちらを驚愕に染めた顔で見やる女の子を見なかったことにして。

 

 

 

 

 

 無事に仕事も終わったが、時間は既に22時を過ぎている。例のホワイト上司と他二人も一緒に帰っている。

 言ってしまえばホワイト上司よりも上の立場からの押し付けられた無理を強行突破していたところだ。俺はお前らくらいの頃〜とかなんとか言って押し付けていったらしい。その本人は定時上がりで、ある。

 

 これ訴えたら勝てる案件じゃなかろうか。

 そんな具合で流石に一人では手厳しいとなったホワイト上司に頼まれ、20時まで残業した。まあ、特に予定があるわけでもなかったので、全く問題はない。

 

「本当に申し訳なかった。これから俺の奢りでよければ、飯でもどうだい。ああ、断って貰っても全然構わない、こんな時間だしね」

 

 柔和な笑みで野郎であるはずの俺までときめかされ、ホイホイお高い回らない寿司屋に連れ込まれた俺たち。時価という基本的に縁がない表示価格を見て顔を青くしてしまったが最後の方はお酒まで入って結構ハッチャケてた。

 

 寿司を出してくれた板前さんもいぶし銀な見た目に反してコミカルな感じで面白い人だったこともあって、話が弾んだのも大きかったのだろう。まあ、皆明日休みだしね。仕方ない。

 

 そんなこんなで2時間くらいはしゃぎまくった俺たちは上司に料金は割り勘にさせてくれと懇願し、どうにかホワイト上司一人に六桁目前の料金を払わせるのを阻止した。いや、ホワイト様、お金の使い道ないからってそれはいけませんよ!?

 

 他の人は代行を呼びそれぞれ帰ってしまったが、俺はそこまで飲んだ訳でもなかったので歩いて帰宅する事にした。正常だと思ってるうちはそう考えてる時点でアウトだと俺は思うけど、信号を無視して歩道を歩いたり意識と身体がゴチャゴチャになったり奇声を上げたり路上で寝そべったりしそうに無いのでセーフラインの中だろう。

 

 しかしだ。一つ問題がある。

 

 気付いたのはさっき。人通りの無い、ぶっちゃけ幽霊とか出そうとか無益な事考えていたら、勘違いでなければ俺の後ろを誰かがずっと付いてきてる。というか割と確信はある。普段通らない道を通り、必要の無いジグザグに入り組んだ裏道を通っても、ずっと付いてくる気配があるのだ。

 

 たぶん、隠れようとして無いなとはさっき思った。何せ、ローファーっぽい硬い足音だ。スニーカーのような足音をまだ消しやすい靴なら兎も角、隠す気あるのってくらい割と足音が聞こえてる。

 まあ、それもこれもまだ一回も怖くて後ろを向いていない俺が悪いといえばその通りなんだがね、然もありなん。

 しかし、ローファー。一緒に残業した誰かって線は既に切り捨ててある。皆代行で帰ってるし。となるとそういうものを履く服装の立場の人間ということになる。

 

 パッと思いつくのは、スーツで仕事に赴く俺のような職業の社会人。

 次点で、今朝見かけたような女子高生のような学生。でも、時間帯的に学生は一度家に帰ってると思うから、まず無いか?

 あーでも不良とかヤンキーとかって線はあるな。

 

 どの道、うん。見てみない事には分からないという結論に達するにはそう時間は掛からなかった。走って逃げても良かったんだが、その時はお酒の影響もあってか頭が回りきってなかったんだと思う。

 

 交差点で一度立ち止まり、一度息を吐き、顔だけ後ろに向ける。なんでかって?雰囲気作りというか、そっちの方がかっこいいとか思っちまったんだ。ならやるしか無いだろう?

 視界に写るのは、さて。

 

 あ?え、ちょ、え?

 

 いや、まて、待ってくれ。どういう事。

 不味い、不味い不味い不味い!?いや待って何で、どういう、ちょ、ええ?

 

 落ち着こう、冷静に。

 

 視界に映ったのは、見間違いでなければ今朝遭遇したあの女子高生だ。しかし、なんか雰囲気が違う。

 

 鋭いと表現した目つきは、半泣きになって目の周りが赤くなっている。そう、泣いているのだ。これなんか俺がやらかしちゃったパターンだよねえどうしたら良いの!?

 

「だ、大丈夫かい?」

 

 極力驚かせないように声を掛け近づくが、俺自身相当デカい。目見だが頭三つ程女子高生と違う。

 高身長故に他人に威圧感を与える事になってしまう。おまけに道路照明があるとは言えこんな時間で暗い。相手を怖がらせる要素は沢山あった。

 

 でも、女子高生は違う。寧ろ制服の裾で目をぐしぐし拭いたと思ったら、スタスタとこっちに歩み寄って来た。

 

「コーヤで、合ってる? 昔、私を飼ってた」

 

 今度こそ俺はフリーズした。え、かっていた?=買う?いやいや人身売買なんて日本ではあり得るわけない。飼う?いや意味合い大して変わんないからそれ!

 

 心臓がやけにうるさい。完全にペースを握られたというのもあるけどそういうのが気にならないぐらい混乱していた。酒のせいでもあるんだろうけど、そんなレベルじゃないよこれ!

 

「いや、待ってお嬢ちゃん。日本では人身売買もなにも無いからね!?それに勘違いしてなければ君とは今朝顔をすれ違わせた以外は初対面もいいところだからね?」

「そう、だよね。姿も変わっちゃってるし、分かるわけもないか。でも、鼻も弱くなっちゃったけど、コーヤの匂いはすぐにわかったよ!すごい安心する、私の家族の匂い!」

 

 ダメだこの子話聞いてくれてない!?というかニオイ!?家族のニオイってなんだ!?どうしたらいいのよこの状態!グーグル先生ヘルプミー!

 

「えーと、お嬢ちゃん、名前は?取り敢えずこんな時間だし、送っていくよ?まあ、こんなオジサンが送っていくなんて言っても説得力ないだろうけど」

「私?えーと、教えない!でも、教えてあげる。コーヤは絶対に知ってる筈だから!」

 

 女の子はキリッとした印象を反転させた、柔らかい花咲くような笑顔で言い放った。

 俺にとっては、いまだに信じ難いし、でも彼女が『彼』の事を知ってる以上無碍に扱う事も出来なかった。

 

「ロボ!コーヤはそう呼んでくれてたよね?」

「ーーーー」

 

 言葉が出なくなった。




まだ続きます。
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