昔飼ってたワンコ(♂)がJKになってやってきた話。   作:バンバ

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お待たせしました。

そして今回は実験的に行きます。


JKに看病されたりする話。

「だいたいコーヤは昔からハルミたちに注意されなきゃ食べるものに頓着しないし、よくよく考えてみたら夜中までずっとゲームやってたり体を壊すようなことばかりだったよね。ゲームとか遅くまでやるときは決まって緑のジュース何本も飲んでたし。別に、別にね、悪いことじゃない。好きなもの食べたり、ゲームすることが悪いわけじゃないけど。でも流石にあの緑のはダメだと思うなー。お酒と一緒で飲み過ぎなければとも思うけど、コーヤがそれを守るようには思えないしなあー」

「ハイ……いや本当に申し訳ありません」

「謝ってほしいわけじゃないの。やめてほしいだけで。でもなー、コーヤはこう言ってもやめてくれるかわからないしなあー。明確にダメって禁止しても、お父さんみたいに隠れて吸うみたいなことしそうだしなあー」

「……おぉう。葵ちゃんが怖いぜ」

 

 返す言葉もない状態でメタメタに飛んでくる叱りの言葉の数々(+乾課長への怒り)に、思わず実家にいる母さんのことを思い出した。言い返す言葉もないし、何より果てしなく葵ちゃんの目から滲み出ている雰囲気が怖くて下手なことを言えないのもあるのだけども。

 俺の手のひらを両手で包んでねちっこく言葉を浴びせてくる葵ちゃんに、反省の意を示すことしかできない。

 

「……というか、葵ちゃん。もう12時くらいだけど、帰らなくていいの? 課長たちも、もうすぐ帰ってくるんじゃ」

「コーヤが熱出したって言ったら、お父さんもお母さんも側にいてあげなさいって。私もそうするって言っておいたから、その辺りは心配しないで」

「ぬかりないねえ……」

 

 着実に埋められている外堀に恐怖感を覚える。いや課長本当は止める側なのでは? お願いだからそこはストップかけてほしかった……。

 まだふざけたことを脳内でのたまえるくらいにはセーフラインな体調だったらしいことに一安心だ。草も生えない。ちくしょう。

 

「……ごめんね、コーヤ。たぶん私のせいだよね」

「唐突にどうしたの葵ちゃん」

「だって、犬から人になった私の感性で考えても、ね。えーっと、そう。私がコーヤの立場に置かれたら疲れるだろうし、そのせいかなって、思って、それで、その……」

 

 モジモジと、言葉を詰まらせる葵ちゃんに対してなにこの可愛い生き物、というのが俺が抱いた率直な感想だった。なにこの可愛い生き物(2回目)

 この子は俺のことを殺す気だろうか。つい先日胸の中に芽生えた思いがまた騒ぎ出す。

 

 自重するな、好きなのだろう、なら思いを伝えるためにハッチャケようぜと騒ぎ出す。

 

 それを時と場合を弁えろクソがと脳内の天使が一蹴して、ため息1つとともに吐き出して、軽く葵ちゃんの頭に手を乗せた。

 

「や、大丈夫だよ葵ちゃん。まあ、否定しきれないところはあるけどね。そのうち、その、まあ、なんだろう……」

 

 慰めとともに言おうとした言葉が紡ぎだせず、もごもごと口と中で噛み潰してしまう。オジサンのもごもごと言葉を詰まらせる様子なんて誰得だろうとやや現実逃避気味に考えて、やはりJKという補正は凄まじいと馬鹿馬鹿しいことを考える。だって、若い女の子がとる仕草って、どんなものであっても絵にならない? 

 そして、まさかこんなにも勇気の要る言葉なんて、やはり時たま見かけるリア充(この場合は彼女が居る男という意味)というのは只者ではない覚悟を決めてその第一歩を踏み出した奴らなのだなあと感心する。

 でもまあ、俺も葵ちゃんに好意を伝えている以上、この先の言葉を言わないわけにもいかないわけでして。

 はてなマークを頭に浮かべてそうな葵ちゃんの顔から視線を外さぬようにしながら、改めて口を開く。

 

「で、デート、でも、しないかい?」

「っ、うん、しよっ!」

 

 即答で答えられてしまった。嬉しくて、恥ずかしくて、風邪の熱とはまた違った熱で頭がクラクラするような、心地の良い灼熱感に襲われていた。のぼせ上がった頭じゃないと、たぶん、こんな言葉は吐けなかった気がしてならない。そう考えると、葵ちゃんに多大な迷惑をかけるという部分を除けば、この風邪というのは案外悪くないかもしれないと思い直した。

 好きになった子が、自分の世話を焼いてくれる、というのも、悪くないと思いながら笑っていた。

 

 その日の晩には、熱も下がっていて、一日中付き添ってくれた葵ちゃんには本当に頭が上がらない思いだ。昼過ぎには寝落ちしちゃってたし、本当に今日はお世話になりっぱなしである。……今度のデート、頑張って考えないとなあ。

 

 

 

 

 

 私が大好きな人は、13歳も歳が離れた人。

 私が大好きな人は、私よりもよほど背の高い人。

 私が大好きな人は、曖昧な笑顔がよく似合って、場を和ませてくれる人。

 私が大好きな人は、かつて『(ロボ)』と過ごしていた家族。

 大好きな、大好きな、大好きで、大好きすぎて、もう2度と離れたくない人は、今、熱を出して苦しんでいた。

 

「やだよ、コーヤ……死んじゃやだよ……?」

 

 私のせい、なのかな。私がコーヤを見つけてしまったから、こうしてコーヤは今苦しんでいる? 

 そのことに大きな罪悪感を抱えても、コーヤの頭を撫でることは止まない。

 眠っているだけなのは、わかっている。熱に浮かされて、寝苦しそうにしているだけなのはわかっている。

 冷えピタをおでこに貼って。汗をタオルで拭いてあげて。お昼ご飯に買ってきた温めるだけで食べられるおかゆを食べさせて。

 もっと、大好きな人にできることがないかを探して、求めて。

 でも、現状彼が眠ってしまった以上、今のところ何もできなくなってしまった私は、万が一の可能性を思いついてしまい、震えていた。

 

「コーヤ、あのね。私ね、コーヤを置いていくのが嫌だった。でもね、死んじゃうのって、すごく寂しいんだ。真っ暗になって、苦しくて、でも自分がどんどん薄れていくような感覚に襲われて」

 

 陳腐な表現かもしれないけど、『眠るように』なんて嘘だ。少なくとも『(ロボ)』だった頃に体感した『死』は、得体の知れない大きすぎる絶望だった。真っ暗で、何もなく、寂しくて、落ちていくよう。

 いつか誰彼もがたどり着く終わり。火の通った卵と同じで、2度とは戻れない、覆せない決まりごと。

 

 心配で、怖くて、震えて、抱きしめて、呼吸と心臓の音に安堵して、決意する。

 

「私ね、コーヤが死んじゃったりしたら、すぐにコーヤのそばに行くから」

 

 お父さんと、お母さんには、迷惑をかけてしまうかもしれない。でも、許してほしい。

 私はコーヤの家族で、愛する人で、ペットで……ああでも、うん。

 コーヤが今の私が「私はコーヤのペット」なんて言ったら大慌てして、そのあと叱りに来てくれそうだ。その様を思い浮かべて、少しクスクスと笑ってしまう。それになんだか、ひどく安心した。コーヤの顔を拭きながら、独り言を続ける。

 

「私ね、ちょっと調べたんだ。首輪を贈る意味。友達に言われて、たまたま調べただけなんだけど、ね?」

 

 コーヤは知ってて贈ってくれたのかな? それとも知らないままなのかな? 

 知っていて贈ってくれたなら、私はとても嬉しいし、知らなくても、コーヤが私に贈ってくれたという事実だけで胸が張り裂けそうに痛みを伴うくらい嬉しい。その痛みと熱と焦ったさに自分の体なのに訳がわからなくなってしまいそう。

 こんな思い『(ロボ)』は知らなかった。あの頃から知っていたら、どれだけ幸せだっただろう。どれだけ彼に寄り添い続けただろう。

 

「だから、寂しくないからね、コーヤ。大好きだからね」

 


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