昔飼ってたワンコ(♂)がJKになってやってきた話。 作:バンバ
あと、流石に短編から連載に切り替えようと思います。流石に話数も増えてきたので。
今回はワンコ要素薄めでお送りします。ワンコ要素とは……作者にもよくわからなくなってきた……!
「コーヤ! 会いたかった!」
「うん、葵ちゃん、人目もあるから、ね?」
いつも待ち合わせで使わせてもらっているファミレスの前で葵ちゃんと合流した。
プレゼントした首元のチョーカー、モノクロのワンピースに濃紺のデニムを着こなしすり付いてくる葵ちゃんを見て、僅かに安心感を覚える。体調を崩してから1週間。あれからほぼ毎日のように取り合っていた連絡が取れなかった。主にここ2日の仕事が忙しくて(乾課長の自覚なき仕事量によって)。
割り切っていたつもりだったけど、やはり無自覚に寂しさを感じていたらしい自分に女々しいなあと自嘲する。流石にこれは、ねえ。
今だって、開幕早々抱き着いてくる葵ちゃんを窘めて人目がーとか、自分で言っておきながら『そんなこと』くらいにしか思えず、寧ろ嬉しさの方が優っているときた。しかし脳裏によぎるのは『事案』のふた文字な訳で。本当に色々と諦めてきてしまっているというか、犬耳と尻尾の生えた姿の葵ちゃんを幻視しつつ年の差恋愛ってどこまで許されるんだろうかとかそんなことまで考えてしまう始末だ。
事の発端は昨日の夜。
花の金曜の夜に9時まで残業って結構こたえるなあ、そもそも花とはなんだそんなもん一部の上級国民だけの特権か何かかとか、そんな働き方改革? なにそれ美味しいの? なことを思いながら風呂に入り、いつものようにカロリーメイト(今回はチョコレート味)を齧って今日は1日ゲームするぞーと自分に言い聞かせて、ヘッドホンを着けて新発売のエナジードリンクを3本ほどグビグビとガンギメしていた。
体調を崩した時の件からまるで反省していないというツッコミは無視するものとする。仕方ないよね、楽なんだもの。
そんなタイミングを見計らったかのようなタイミングでケータイの着信音が響く。画面を見ればここ数日声を聞けなかった葵ちゃんからの電話だった。
「もしもし?」
『コーヤ、お仕事お疲れさま! 今、電話大丈夫?』
この声を聞くだけで、なんとなく幸せな気分になれた。さては葵ちゃんの声は新手のASMRの類いだったりするのだろうか。もしくは、俺が依存してしまっているか、イヤイヤ依存系アラサー陰キャって誰得だよ。……葵ちゃん得とかいう謎ワードが頭をよぎったのはさておき。
実際問題2日声を聞かなかっただけなのにここまでの安心感が得られるというのも、なんだかなあと思ってしまう。やはりお風呂場での一件があってから、彼女への印象や見方が変わったからだろうか。
いやまあ、うん。
変わったんだろうなあ。キスまでして、風呂から上がった後も色々とあったし。変化がなかったら、俺と葵ちゃんの関係性云々を考えても体にキスマークを付けさせるとかは流石に許さなかったと思うし。というかあの時の俺、よく耐えた。本当によく耐えた。
「全然大丈夫だよ。どうかしたかい?」
『えっと、明日って暇かな。前にコーヤが言ってた、デートのことで』
「あー、どう、しようか」
今週暇な時間を見つけてはデートスポットとかいい雰囲気のお店とか探したりしていたのだけども、なかなか見つからない。
13の年齢差もそうだし、実のところ葵ちゃんの趣味の話とかを知っているかというとそうでもない事に気がついたのだ。俺に甘えてきたり、じゃれついてきたりすることはあっても、明確に趣味の話を聞いた覚えがあるのはゲームの話くらいで、わからないことばかりだった。好きだと告げておいてコレとは色々酷すぎやしないだろうかと心底思う。
パッと思いつく選択肢は映画館やゲームセンター、食べ歩き等々多少は出てくるのだけども、最近話題の映画と言われてもピンとこないし、ゲーセンのゲームと言われてもやはりピンとこない。
食べ歩きとかもゲームの時間確保が最優先で今まできてたから、なんとも微妙なラインナップ(居酒屋やバーなどなど)しかないのだ。そんな微妙なラインナップにJK連れ込んだらもう事案だよね。
「えっとさ、葵ちゃん。デートのことなんだけど。どこか行きたい場所ってあるかな?」
『コーヤの家がいい!』
「……うーん、この……うーん……」
ロボだった時のこともあるのだろうけどね、花のJKがそれで良いのかなと思ってしまう。いや嬉しいんだけども、なんかこう、本当に良いのそれ? と尋ねたくなってしまう。海はまだ1ヶ月くらい早いにしても、せめてカラオケとかこの前行ったようなアクセサリーショップとかはどうなのだろうと思ったんだけど。
『どうしたのコーヤ?』
「ああいや、こっちの話さ。わかったよ。そうしたら、一度いつものファミレスに集合するかい?」
『うん、あっ、それと、コーヤに手伝って欲しいことがあるの』
「手伝って欲しいこと?」
はて、何だろうか。情報が無さすぎる。ゲーム、もといワールドハンターなら家で出来るし、風邪の件に関しては俺のやらかしのこと(主に食生活)も含めて『ご飯食べに来い(意訳)』と乾家に行くという話があったけど、手伝って、と。
ちょっとおっかなくて戦々恐々としていたところ、次に飛び出した言葉にフリーズした。
『動画の撮影手伝ってほしいの!』
「……はい……? 」
ちなみにこの後ガンギマリしたカフェインの影響か結局寝れず、朝の4時までTAに時間を費やした(一応記録は更新してスクショしてSNSに投稿した)のは言うまでもない。あの眠れないのはプラシーボ効果って聞くけど、俺はどうも眠れないタチなのだ。
葵ちゃんは世界的に有名な某動画サイトに動画を投稿しているらしい。その動画のジャンルもゲームや顔出しながらのトーク配信、その他諸々も含めて動画の投稿や生放送もしている、とのこと。
チャンネル登録者も最近5桁に達して、着々と人気を集めているらしい。凄いな。
んで、俺に手伝ってほしいというのは、次に投稿する動画の内容に色々と協力してほしい、ということらしい。の、だけれど。
デートって何だっけと思わず顔を覆いたくなる。もっとこう、葵ちゃんならロボ補正とかも相まって、側から見たらSMプレイにしか思えないことをやってとか言ってくるものだと思ってたのだけど。いやこれは失礼すぎるか。
「しかし、なんで俺のことを出すのさ? こういうのって多分、俺みたいなのが出てきちゃうと炎上するんじゃないの?」
ファミレスのハンバーグを食べながら葵ちゃんに尋ねる。やはり温かい食べ物が喉を通る感じというのは少し違和感がある。そんなことを言えばまた叱られてしまいそうだけども。
この手の視聴者は大抵、可愛く、面白い女の子の企画を見にきて癒されに来ているのが大半だと思うのだけど。
そこに俺みたいなアラサー陰キャが出てきてもなーと思う。それで荒れたりしたら尚更後味も悪い。それに、そんな動画に出てたら特定班とか出そうで怖いし。
「んーん、多分大丈夫だと思うよ。最初の頃からコーヤのこと探すために作ったものだったし。みんなも、この間コーヤを見つけたってことを報告したら登場まだーって気になってたみたいだし」
「……アイエエエエ……」
【悲報】逃げ場がすでに無かった件について。思わずニンジャと接触した一般人のような声を出してしまった。ナンデ、ナンデ……?
俺の預かり知らぬところで俺が話題になってるの本当になんでなの。いやその原因を辿ると、たぶん葵ちゃんも必死だったのだろうと想像はつくんだけども。それにしてももうちょっと穏便に済ませる方法はなかったものか。胃が思わずキュッとした。
「えーと、つまり俺のアパートで撮影がしたいって言ったのは、俺のことを紹介するにあたってその方が手っ取り早く紹介できそうだからってことで良いのかな?」
「それもあるけど、コーヤって意外とワールドハンターのプレイヤーの中では有名だからね?」
「えっ」
葵ちゃんの言葉に思わず声が出た。俺が有名? またまた御冗談を。
と言おうとしたら、なんでもワールドハンターTA勢の中でも大抵最速記録出すヤベー奴、みたいな認識が結構前から広まっているらしい。俺のアカウントを教えていない筈の葵ちゃんも一応知っていたあたり、結構知られていたりするのだろうか。
「だって、【TBKY】って名前で、ワールドハンターやってて、プロフィールに偏食家って書いてあれば流石に私気付くよ? ちょっと前に気がついたんだけどね」
ヒェッ。え、マジで知られてるの俺……?
TBKYは、確かに俺のSNSのアカウント名だ。立花幸也をローマ字に直して頭文字を4つ抜き取ったのがアカウント名の由来なのだけど。それだけで気がつかれるとちょっとしたホラーっぽいというか。
もしかして葵ちゃんがリアルで俺のことを見つけられなくても、ネット上でどうにか俺のことを発見していた可能性もあるのかもしれない。そう考えるとこの時代に葵ちゃんが生まれてこれたのは、本当に運がいいことだったのかもしれないとやや脱線気味に考える。
「その情報だけで俺だと特定する葵ちゃんが怖い件について。まあ、うん。動画投稿の手伝いくらいなら全然良いよ」
「本当? ありがとうコーヤ!」
葵ちゃんが特定班だった……? と馬鹿なことを考えつつ、まあ、手伝うくらいなら良いかなとひとまず了承する。まあ、こんな家デートも悪くはないかなと思う。
とりあえずこの、テーブル越しに抱きついて来ようとするJK(口元をソースで汚している。あざと可愛い)を諌めなければ。
ちょっとだけテスト的にフォント変更してみました。
名前のミスがあったので編集しました。
×立花公也
○立花幸也