昔飼ってたワンコ(♂)がJKになってやってきた話。   作:バンバ

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 お待たせしました。

 話の展開的に、それらしくないかもですが、最終回です。お納めください。


JKと朝御飯を食べる話。

「おはようコーヤ。今日はピザトーストとコーヒーだよ!」

「う゛ぅ……おはよう、葵ちゃん。ありがとね」

 

 眠たい目を擦って、葵ちゃんに手を引かれながら歩く。これではどちらが歳上なのか分かったものではないけども、ロボに手を咥えられた状態で引っ張られることもあったので、そう考えるとその延長なのだろうか。口か手かで考えたら相当の差がある気がするけども、それはさておき。

 

 もともと俺自身、朝は弱かったのだけども、ここ最近さらに酷くなっている気がする。歳を重ねるとむしろ早起きになるとは聞くのだけども。

 まあ、休みの土曜日、かつ、この時間に起きているから、というのもありそうだけども。

 

 というか葵ちゃんはうちに泊まりに来る時、何時に起きてるのだろう。今現在が6時丁度くらいなので、それより前なのは間違いない。料理の時間を考えれば更に早く起きている必要がある。

 

 前に電話した時は寝起き感全開の葵ちゃんの様子から考えるに、相当無理をさせてしまっているのは少し考えれば分かることだ。

 

 しかし悲しいかな。俺には葵ちゃんの行いを止めることはできない。一度言ったが葵ちゃんから拒否された、というのもあるのだけれども。これに関しては手伝うことも同じく拒否されてしまっている。少しショックだった。

 

「コーヤ、どうしたの?」

「え? あー、いや、何でもないよ。ただ、色々あったなあって」

 

 いや本当に。色々あったなあと思う。しみじみと、深い溜息と共に思い出す。

 

 あの日から早いもので一ヶ月経ち、外もジメジメと湿気が漂う時期になってきた。今も打ちつける雨音が耳に響く。扇風機かエアコンを使わないと服を乾かすのも難しい時期だ。

 

 その、あの日の夜から、俺と葵ちゃんの間と、その周囲での変化というのは特に顕著だった。

 

 まず、葵ちゃんがアパートに、というか俺の住んでる部屋に泊まるようになった。週3回くらい。多いと思うだろう? 最初、葵ちゃんは週7計画してたんだぜ……?

 

 休みの日に泊まりに来るくらいならともかく、流石に高校生のうちはやめておいた方がいいと俺の方からも言ったのだけども。逃げるつもりもさらさらないし。

 

 というか好きでもない相手を抱けるかと言われるとたぶんできないというか、現状葵ちゃん以外の相手がいないというか。

 

 話がこれ以上脱線する前に本筋に戻ろう。

 

 葵ちゃん発案『週7宿泊計画(同棲の意)』に関して桃華さんは「立花君と、お父さんを説得できたらいいわよ?」と言ったそうなのだけど、乾課長は(案の定というか)反対して、そのことに関する話し合いで俺も呼び出されることになってしまったのだ。

 

「立花君のことは信用も信頼もできる。過去に葵との交際について口出しするつもりはないと立花君には少し前に言ったのは、確かに事実だ。言ったが、……目に届かない場所に行ってしまうのはやはり不安が尽きない。

 葵、せめて同棲は高校卒業まで待ってほしい」

 

 眉間にシワを寄せて、声には慈愛や悲しみを乗せて重々しく言葉を口にする乾課長。実際俺も子供がいて、今の葵ちゃんのようなことを言い出したら高校卒業までは待ってと言ってしまうだろう。なんとなくだけど、そんな自信がある。

 

 葵ちゃんの行動に対して、俺の中で当て嵌めるべき言葉を選ぶとするなら、線引き、というべきか。高校を卒業した後は、大学に行くにしても、そのまま就職するにしても、わりかし社会人として見られるようになる。

 

 それは年齢や、年齢によって得られる成人としての権利(この場合は、仮にお酒、タバコなど)による部分が主張してくる気がする。一概には言い表せないけれど、良くも悪くも、責任という言葉が付きまとってくるようになるのだ。

 

 もし。本当に、もしもの話として。

 葵ちゃんが俺と同棲するようになり、毎日のようにそのような事をして、避妊をしていても、万が一、妊娠してしまった、なんて事になれば。

 

 それこそ葵ちゃんの今後に影がさしてしまう。そんな形で葵ちゃんの未来を壊していい権利なんて俺にも無いし、仮に葵ちゃんが望んだとしても立場や社会的なアレコレがそれを許さない。

 許さないというか、許されこそするものの周囲が嫌らしく騒ぎ立てるだろう。ついでに俺の社会的生命が終わるけど今は些細な問題だ。全く些細じゃないけども。むしろ避けるべき一大案件なのだけども!

 

 そんな展開、乾課長も俺も断じて望んじゃいない。だからこそ、手の届く範囲に愛娘を置いておきたいのだろう。

 

「葵ちゃん。申し訳ないのだけど、これに関しては俺も乾課長と同意見かな。別に葵ちゃんのことを邪険に扱いたいわけじゃないんだ。ただ、ええ、と。葵ちゃんが学校から帰ってくる時間帯に俺が家にいられるわけじゃないし、もしかすればトラブルに巻き込まれるかもしれないし、ね」

 

 だからこそだろうか。

 そんな言葉が俺の口から出て来たのは。

 ああそうだとも。俺は葵ちゃんのことが好きだ。大好きだとも。

 それでも。葵ちゃんの人生を好き勝手に決めてもいいわけじゃないし、葵ちゃんが自分の人生を決めるにしても、まだ早いと思う。

 

 それに、失礼すぎる話かもしれないけれども、もしかすれば俺よりも好きになれる相手を見つけられるかもしれない。

 

 だからこそ、俺も課長の言に便乗して葵ちゃんを止めに入った。

 

 男2人で、涙をこぼしそうな女の子を説得するのにとてつもなく精神的なダメージを負ったもののその時は宥めることに成功した。

 

 

 そう、成功したと思っていたのだ。その時は。

 

 

 恋は盲目というべき(葵ちゃんが俺に対して向けている感情が、そもそもの話『恋』と一括りにしていいのかはわからないけども。『ロボ』としての感情はどのような形で当てはまるのかは葵ちゃんにしかわからないので、ここでは一先ず恋だと思っておく)なのだろう。

 

 葵ちゃんは出来るだけ俺と離れたくない趣旨と、乾課長と俺の言葉を無碍にして申し訳ないといった内容をまとめた置き手紙を自宅に残し、ボストンバックに荷物を詰め込み家出同然の状態で俺の住むアパートまで突撃してきたのである。

 

 どうしてこうなった。

 

「えへへ、家出して来ちゃった、不束者ですが、よろしくお願いします!」

「えぇ……いや、待って、あの、ええと、どういうことなの……」

 

 何度でも言いたい。本当にどうしてこうなった。

 ぶっちゃけ、葵ちゃんが悪いわけじゃないのだけども。現役女子高生の行動力を舐めきってたというか。

 

 なお、このことを知った乾課長は頭を抱え(そりゃそうだ)桃華さんは大爆笑し「流石私達の子! やることが違うわね」なんてのたまってたらしい。桃華さん強すぎない?

 

 ここでもう一度話し合いとなり、結局男2人が折れ金、土、日は俺の住むアパートに泊まり、その日以外は自宅で過ごす事が決定したのだけども。

 

 振り返ってみても本当に濃い1ヶ月が過ぎてる。気がするなんてレベルじゃない、絶対過ぎてる。

 

「コーヤ、どうしたの? パン冷めちゃうよ?」

「うん? ああ、ごめんね葵ちゃん。いただきます」

 

 葵ちゃんが俺の食生活改善をどうにかしようと泊まる時だけは葵ちゃんが料理を作る事になってるのだけども、やはり慣れない。

 

 ほぼほぼカロリーメイトとエナジードリンクが主食になっていたので、野菜やソーセージを噛む感触に違和感を感じてしまう。

 

 ……いやこの時点で色々と、うん。拙いでしょ俺。歯がしっかりあるのに硬いものが食えない、みたいな話とはまた方向性が違うけどやばいぞ流石に。手っ取り早く楽だからといえど流石に拙いことへの自覚はあったのに変えるつもりが無かったあたり大概だよなあとは自分のことながら他人事のように思う。

 

 しかしまあ違和感は別として、実際とても美味しい。なによりも、好意を向けてくれる相手がわざわざ俺のために作ってくれている、という事実がまた料理を美味しくしてくれる。それがたまらなく嬉しくて、なんだか妙に居心地良くて、むず痒い。

 自分の分のトーストをハフハフと息を吐きながら食べる葵ちゃんを見て、可愛いなとか、抱きしめたいだとか色々と感情が込み上げてくる。

 それらを一度飲み込むようにコーヒーを一口飲んで、万感の想いの元、言葉を吐き出した。

 

「……いつもありがとうね、葵ちゃん。大好きだよ」

「えへへ、こちらこそありがと、大好きだよコーヤ」

 

 何だか妙におかしくて2人してクスクスと笑ってしまう。

 今のこと、今後のこと、心配事は多々あって、それらは今後とも尽きることはないけども。

 何やかんや、俺と彼女は2人して幸せなのだろう。今は、それだけで十分だった。




 ありがとうございました。この後はあとがきです。興味がない方はブラウザバック推奨です。

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