昔飼ってたワンコ(♂)がJKになってやってきた話。   作:バンバ

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 まずは謝罪を。遅くなりました。
 ポケモン、あいぼー、書き手同士の繋がりその他諸々が楽しすぎて時間が取れなかったのでこんな時間になってしまったのです。(現在夜勤の暇な時間)

 そしてもう一つ謝罪を。割とシリアス、というかこれ蛇足1話目に持ってこなくて良くない? という感想が来ると思います。
 これな関しては、書いておきたかったから、とだけ。

 そんなこんなで蛇足編はーじまーるよー。


蛇足編
オジサンとJKのそれぞれの夜。


 寝付けない夜、というのはなかなか辛いものがある。次の日大事な予定がある時なんかは特にそう思う。逆説的に、そのような予定が頭の中でしこりとして残り続け、違和感と不安感を煽り結果的に眠れなくなる。それの方が実態に近いのかもしれない。

 

 気にするだけ無駄とバッサリ言ってしまうのは楽だ。

 しかして、悲しいことにそういった漠然とした不安感をこのように理由付けして解消しようとしたところで、俺の頭の中に寝れない理由として燻り続けるのだから果てしなくタチが悪い。実際問題今眠れてないわけだし。

 

 そうは言っても、今は金曜から土曜に日を跨いだばかりの1時。まだ寝不足になることを前提に考えるには早すぎる時間なのでそんなことを気にする必要もないのだけども。というか、それ以前に明日予定が入っているわけでも、仕事があるわけでもないし。

 

 それはそれとして、眠気はあるのになかなか寝付けずに段々と目が冴えていく……この繰り返しだ。

 一連の最悪のコンボというのはまさしくこのことか。

 というか萎びてショボついていた筈の瞼と瞳は既に潤いと湿り気を帯びつつある。

 

「参ったな……」

 

 ガシガシと頭を掻く。掠れ気味に声が漏れる。側に人がいる環境に慣れ親しみ過ぎたのかもしれない。

 隣り合って眠る人が居ないこの寝室が、こんなに静か過ぎて気味が悪いなんて思いもしなかった。

 まだ夏場真っ盛りのこの時期に似つかわしくない、寒々としたという例えを用いるべき寂しさ、虚しさというのはこのようなことを言うのだろうか。

 

 どうにも、依存気味になっていたらしい。

 参ったな。本当に参った。事案だ事案だ騒いでる本人が、その実メンヘラ男でしたなんて面白くもなんともない。というか一回り以上歳が離れてる歳下の女の子相手にメンヘラ発揮する男ってどうなんだと自問自答し、速攻で『ないわー』と結論に達した。さもありなん。

 

 でも、言い訳がましいかもしれないけれど、苦しくなるほど思う。

 

 一度失われた筈の存在が帰ってくるなんて、誰が予想できるだろうか。

 

 それが例えば、替えの利く物の類であれば『愛着』という点を除けばまあわかる。

 しかし、もう手にすることができない(この例えをロボに対して、ひいては葵ちゃんに対して用いていいのかはわからないが、取り敢えずこの表現を用いる)筈のそれが戻ってくる。

 

 それが齎す幸福の味を知ってしまったのだ。

 それがまた離れてしまう恐ろしさなんて、俺は知らなかった。知りたくもなかったし、ましてや葵ちゃんという実例がない限り知ることさえなかった。

 知るはずもなかったんだ。

 

 俺の恋人で元愛犬のロボで。ロボは、俺の家族だった。

 家族なら、そもそも甘えることが依存と呼べるのか。いやそもそも乾葵という少女とロボとの境目とは何だ。

 

 13歳もの歳の差もロボの時の年齢を加味すればむしろ葵ちゃんとの歳の差も縮ま──

 

 いや違う違う違う違う。落ち着け変な部分で深みにハマろうとするな俺。

 

 なんか、自分でロクでもない地雷を踏ん付けて、その爆発した勢いでやべー方向に突っ走ろうとしてた。急速に自分の目が濁って死んだ魚のような具合になっている気がする。

 

 控えめに言っても、これはヤンデレのそれではなかろうか。事案以前に男の、アラサーのそれって需要あるのか。無いな。ないわー。

 

 葵ちゃんは現在、俺の住むアパートにも、乾家にも居ない。友達の家に泊まりに、というか遊びに行っている。

 事の発端は、まあ当たり前といえばそうだ。むしろ女子高生らしいとさえ言える。

 

 葵ちゃんが同級生に誘われたのだ。それを聞いた時俺はめちゃくちゃ安心していた。葵ちゃんの人間関係の中に、しっかりと家族、俺以外の存在がいたこともそうだけど、基本的に俺ばかりに割かれている(この言い方は自惚れが過ぎるかもしれないけども)時間の中に葵ちゃん自身のプライベートな時間があったことそのものが嬉しかったんだ。

 

 いやまあ冷静に考えるとクラスメイトの子たちの中に馴染んでるような様子ではあったのだけど。思い返せばいっぱい友達いる、とかなんとか言ってたし。いつかの、チョーカーを買った日も尾行紛いのことをされたような記憶があるし。ノリがいい子たちなんだろうなあ、きっと。

 

 しかし、結果として。

 1人で過ごす時間の虚しさと悲しさに苦しむ羽目になるとは誰が思おうか。いつもなら眠気の限界までプレイしているはずのワールドハンターも手がつかない。妙に1人でいる事そのものに気が散ってしまって、悶々としたまま布団に入り込めば眠れないときた。

 

 まったくもっておかしな話だよなあ。

 大学時代から一人暮らし(友人たちが泊まりにきたことは数度あったとはいえ)に慣れてる筈なのに、たった1人。彼女が、彼女だけが欠けた、少し前の慣れていた日常に戻っただけなのに、その筈なのにこのザマだ。

 

 葵ちゃんがいないだけで、こんなにも味気ないモノになってしまうなんて。

 

「……寂しいなあ」

 

 全く。需要がないにも程がある。大の大人が情けない。

 ぽつりと溢れた言葉一つも、暗々とした寝室に飲まれて消えた。

 

 

 

 

「はあ……」

「いぬいんは心配性だなあ。噂のコーヤさん、だっけ? その人がそんなに心配?」

「うん。あの人は、放っておくと毎食カロリーメイトとエナジードリンクだけとか、絶対やる」

「えぇ……?」

 

 私のため息に反応する井上さんにそう返す。誘ってもらったのは嬉しかった。でも、失敗したかもしれないなとも思ってしまう。

 

 それもこれも、コーヤの私生活を思い出してしまうから。

 

 コーヤはズボラと言うか、極力自分の時間を大事にしようとするあまり、『プライベートの時間の中で一番したいこと』に多く時間を割こうとしてる節があることに気がついた。

 思い返せば、『(ロボ)』が生きていた頃からそんな感じだった記憶がある。『(ロボ)』に構い倒してくれるけど、それ以外の時間は本当に効率重視というか、如何にゲームをする時間を確保するか、という部分に腐心していたような気がする。

 その延長で、というか時間を無駄にしないようにああいった食生活になってしまったのかなと思うとちょっと面白い。

 

 それだけコーヤがゲームをやっていたからこそ、コーヤを探す最初のきっかけとして、記憶を頼りに私もゲームを始めて、結果的にそれなりにプレイする程度には好きなゲームなんだ。ワールドハンター。

 プレイを続ければ続けるほどコーヤの腕のおかしさがわかってくるけど。コーヤ、なんでTAみたいな最速を狙ってるつもりないのに普段の素材集めからそんな最速付近の時間を叩き出すんだろうか。

 

「三食カロメとエナドリってマジ? 流石に嘘じゃないの?」

「本当。食器棚に置いてあった食器は少し埃かぶってて、包丁に至ってはうっすら錆が浮いてたんだもん」

「えぇ……いや、ちょ、えー……?」

「言いたいことが伝わって何より」

 

 コーヤのことだ。きっと私の目がないことに狂喜乱舞して明け方までゲーム漬けになっているに違いない。

 ……そう思うと、なんだか沸騰にも近い熱を持った感情が湧き上がってきた。流石に打ったりはしないけど、この感情を解消する為に一日中引っ付いてても文句は言われないはず。

 

「そ、そういえばさ、コーヤさんってどんな顔してるの? 私さ、例のデートの時居なくて顔知らないんだよね」

「あの人の顔?」

「そうそう。いぬいんって普段ゲームのワンシーンの絵とか描いてるから結構上手でしょ?」

 

 お願い、と渡された紙を受け取って、筆箱にしまっていた鉛筆を取る。

 クッキーをポリポリと噛み砕きながら白紙の紙に書き込んでいく。

 

 短くも逆立つ硬質な髪。彫りの深い顔に、これでもかと自己主張してくる、コーヤ曰くマシになった酷い隈。

 前から見えづらいスッとまっすぐになった立ち耳。

 右目の真下に縦三つに揃った黒子。

 黙々と書くこと15分。大雑把な下書きは出来上がった。

 

「やっぱ描くの早いなー。やっぱ美術部にこない?」

「ちょっと、ね。ごめん井上さん」

「そんなー……にしても、濃い顔してるなあ。これで背丈もあるんでしょ?」

「前に聞いた時は、2mちょっとって言ってた」

「デッカ……」

 

 高い背丈はそこまでいい物でもないというのはコーヤが言っていたことだ。

 普段はパソコンと向き合い続けるデスクワークが多いから、高い背丈は寧ろ体が痛くなる原因にしかならないのだとか。実際ちょっと肩揉みをしてあげようとして、お父さんの肩より遥かに硬くて絶句したのを覚えている。

 他にも、寝る時ちょっと油断するとすぐに足が布団からはみ出して寒かったりするみたい。

 私としては、身長差の都合で子作りの時キスできないのが少し悲しいくらいだけど。

 そう言った部分の話を少ししていると、やや赤面した井上さんがため息をついた。

 

「いぬいん、私は小学校の頃からそれなりに付き合いがあるから良いけどさ。他の人には、そーんなに赤裸々に暴露しちゃダメだよ?」

「そう?」

「そうなの! ちょっと前までは無表情がデフォの不思議ちゃん代表格な感じだったのに、気がついたらこーんな微笑みか笑顔が似合う美少女に大変身してるなんて!」

「今でもそこまで表情変わらなくない?」

「いーや嘘だね、絶対違う! なんだったらクラスの人たちが気付いてるはずだよいぬいんの変化に!」

 

 そんなに私は変わったのだろうか。まあでも、井上さんがここまで語調を荒げて力説するのだから、きっとそうなのだろう。

 最終的に井上さんのいう赤裸々トークを繰り広げる内に、井上さんが「ごめんなさい……私が悪うございました……だからこれ以上は……」と顔を真っ赤にしてしまったのだけど。

 私のクスクスと漏らした笑い声は、2人しかいないはずの部屋の喧騒の中に吸い込まれて消えていった。

 




 副題
【主人公が拗らせる話】

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