昔飼ってたワンコ(♂)がJKになってやってきた話。   作:バンバ

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 大変長らくお待たせしました。いろんな誘惑に負けまくってました()
 短話2つをくっつけたような感じです。


オジサンとJKの日常の一コマ。

○ロボとブランカ。

 

 ロボとブランカ。

 

 日本でも割と有名な狼たちの名前だと思う。シートン動物記に記された、かつてのアメリカにて『悪魔が知恵を与えた』とまで言われた恐ろしく知恵の回る狼。それがロボ。

 そしてそのつがいたる白い狼のブランカ。

 

 その2匹の狼の名が広く知られているエピソードは色々あるとは思うけど、個人的に1番知られていて、かつインパクトのあるのは、ロボの最期だと思う。

 

 シートン博士らの手によってブランカを殺されたロボは錯乱し、その知恵によって避けてきた筈の罠に捕われ、最期にはブランカの後を追いかけるように死んでしまう。

 

 ただ死んだのではなく、餓死だ。

 それもほとんど、自殺紛い。

 

 シートン博士らが餌や水を与えたのにも関わらずそれらに手をつけることなく、ロボは死んだのだとされている。

 

 このことからシートン博士はその誇り高き姿に敬意を表し自らの著書にロボたちを書き記した。

 

 そんな具合にかつて我が家にいた『ロボ』にそんな名前がつけられた経緯もその名に肖って『賢い犬になってほしい』という両親の願いが込められた名前だったみたいなのだけども。

 

「あの、葵ちゃん」

「なにコーヤ?」

「葵ちゃんがその、……ブランカって名前をつけると、ちょっと悪意を感じるんだけども」

 

 ある日のこと。葵ちゃんは俺の膝の上で寝そべり、そのお腹の上にブランカが丸くなって寝入りながら、俺たちは話をしていた。俺は俺でワールドハンターをプレイしながら、ふと思ったことを言ってしまった。

 

 数日前の名付けの時から思っていたのだけどつまるところつがい、即ち夫婦だった2匹は、2匹とも人間の手によって殺されてしまっている。

 

 だから、こう、微妙な気持ちになるというか。遠回しに悪意を感じて身震いしてしまうというか、殺意が酷いというか。

 しかし、葵ちゃんは「んー?」と間延びしたような疑問の声を上げてから「あっ」と言って口元に手をやった。

 

「ごめん。確かにそうだね。でも、この名前はそういう意図はなくて、ただ願掛けというか」

「願掛け?」

「私もあの話を知ってるからなんて言ったら良いかなー。だからこそ、余計にこの名前にしたかったというか。もう二度と離れ離れになりませんようにって」

 

 「よいしょ」と言ってブランカを抱えて体を起こして、それと同時に狩猟対象だったモンスターを捕獲し終えた俺は改めて葵ちゃんに顔を向け直した。

 

「ロボとブランカの話は人間にとっては害獣を討つ話だけど、視点を変えたら狼のつがい、群れに突如として訪れた不幸だから。

 生きることは、まあそういうことだけど、少しだけ同情というか、だから。なんて言えば良いのかな?」

 

 と言って笑う葵ちゃんは言葉を続けた。

 その笑顔の裏に僅かな悲しみが見え隠れする。「ミィー」とブランカの鳴く声が沈黙の間に響く。

 

「ごめん、ちょっと説明できないかも。感覚的な話だし。それに、私は彼らの名前に縁があるから、せめて彼らの分まで幸せになってやる、平和に過ごしてやるっていうか……」

 

 「言霊なんて素敵なモノもこの国にはあるしね!」なんて屈託なく笑う葵ちゃん。

 「ミィー」と再び鳴くブランカの背を撫でながら優しい笑顔の葵ちゃんに、無性の愛を子に向ける母親の姿を確かに見た。

 

 わからない。言葉をかけたら良いのか、わからない。漠然と胸を熱くさせられる、言語化できない感動めいた何かを強く感じさせられる。

 俺の彼女がこんなに可愛い。

 葵ちゃんの考え方が、優しくて、死生観がドライで、いや違う。

 伝えたいことはそうじゃない。しかし俺の感性や語彙力だと言語化出来ないことが極めて悔やまれる。

 しかし、そこでふと、疎外感と疑問が浮かんでしまった。

 

「あれ、でも葵ちゃんがロボで、その子がブランカだと、俺って?」

「え? コーヤは、どっちもだよ?」

「どっちも?」

 

 はて。どういう事だろうか。

 気分は百合の間に入り込もうとする邪魔者の立ち位置のそれなのだけど。

 わからない俺を他所に、クスクスと笑ってから葵ちゃんは言葉を続けた。

 

「うーん、これもなんとなくだから説明しづらいんだけど……今までは、『(ロボ)』にとっての『ブランカ(最愛)』はコーヤだけで、その逆もそうだったの。

 愛し愛する貴方と私。私だけの愛するコーヤに、貴方だけの愛する私、みたいな。

 そこに、この子が加わるからそれならいっそ、みんなロボでブランカで良いんじゃないかなって。……ダメだ、ニヤニヤしちゃうな」

 

 中々に横暴な暴論を展開しつつ「ドロドロの三角関係なんて私は嫌だしねー」なんて笑って、「あっ、でも」とジト目でブランカを見つめると、両手で抱き上げて告げた。

 

「コーヤの膝の上は、私の場所だからね!」

 

 ただの宣戦布告だった。しかし当のブランカは寝起きで状況がわかっていないようで、眠たげな声で「ミィー」と可愛らしく鳴くだけである。

 なんだこれ。いや本当に、なんだこれ。

 

 

 

○オジサンが自宅で酒を飲み、同時に困る話。

 

 『酒は百薬の長』という言葉がある。適量のお酒なら、いかなる薬にも勝る効果を発揮するというものだ。

 しかしその言葉の後には『されど万病の元』と続くように、やはり飲みすぎると毒でしかないのは確かな事実なのだけども。

 

 とどのつまり、葵ちゃんも居るけどたまには飲んでも良いだろうと、花の金曜日とは何だったのかと仕事帰りで疲れてしまった頭でそんなことを考えてしまったのだ。

 

「コーヤ、お酒飲むの?」

「うん、たまには良いかなって」

「飲み過ぎないようにね?」

「わかった、ありがとね」

 

 ソファーでブランカと戯れていた葵ちゃんとブランカ(ねこじゃらしをフリフリと揺らす葵ちゃんと「此処だっ」と可愛らしくてしてし猫パンチを繰り出すブランカ)と他愛もない話をしつつ、棚からコップ(既に埃は被っていない)と、先週色々とあって乾部長から貰った500缶の缶ビールの幾つかを冷蔵庫から取り出して、テーブルに着く。

 

 プルタプに指を掛けて、カシュっと軽い音と共に、コップに金色のビールを注ぎ込む。

 

 きめ細やかな泡が溢れそうになるコップの縁に口付けて、慌てて吸い込むように飲む。

 冷えたことでより鮮明に舌に残るキレのある苦味に、弾ける炭酸、微かな麦の甘味とを味わって、ゆっくり嚥下する。

 あー、美味い。

 

「……コーヤ、ビールって本当に美味しいの?」

「うん? 急にどうしたんだい」

「前に、お父さんが飲んでたのをちょっとだけ貰ったことがあったんだけど……」

「あー、口に合わなかったんだ」

 

 ブランカと遊びながら「苦かったのと消毒液っぽい臭いが」と鼻を摘んでしかめっ面を作る葵ちゃんが何処か馬鹿馬鹿しくて、思わず吹き出してしまいそうになってしまった。

 

「コーヤ?」

「うーん。まあ、そうだなあ」

 

 ビール、酒。まあ、ぶっちゃけ美味しいのかと問われると『人それぞれ』としか答えられない。

 椅子に座ったまま、頬杖をついて少し考える。

 

 人によってはかの悪名高き(偏見込み)スピリタスとビールを割ることで甘味の強いビールに化けると言っている人を知っている。というか同期の山下がそれである。あいつは何でもかんでもスピリタスで割ろうとするので例外かもわからないけど。

 

 俺が焼酎は苦手でも酎ハイは飲めるように、ぶっちゃけ趣向的に見てしまうと本当に千差万別だ。

 

 俺自身は飲む機会は会社の付き合いで飲む程度だけど、それでも飲む時はかなり飲む。帰ってきてから飲むことはそうそう無いけど、年に数回衝動的に飲みたくなる時もある。

 

 そう考えると、受け取った500缶ビールがまだまだ沢山あるのでどうしたものかと頭を抱えそうになる。いやはや本当にどうしたものだろう。

 

「葵ちゃんが玉ねぎが苦手なように、人それぞれ好みはあるしね。なんて言えば良いかな……」

「ふーん……大人の味、ってやつなのかな?」

 

 大人の味。陳腐な表現であるけど、あながち嘘でもないらしいので。昔、ネットの記事か何かで『子供の舌は未発達かつ敏感なため、苦味、酸味を美味しいと感じとることが難しい』『成長するにつれて、苦味と酸味も美味しいと感じられるようになる』といった趣旨のものを見たことがある。

 

「あながち、嘘でもないみたいだからね。まあ、美味しく飲めるようになったらそれが一番だよ」

「うん、そうだね」

 

 それはそれとして。ちょっと本気で困ってしまった。

 

 このビール、実は桃華さんが福引で当てたものの、あり過ぎても誰も飲まないからと御好意で貰ったのだ。

 そして貰ったはいいものの、俺自身家で飲むことはそうそう無い。今回は年に数回のレアケースである。

 無理してというか、気分がのってない時に飲むお酒ほど不味いものは無いと断言できる。間違いなく。

 上司の家族から好意で頂いたものを捨てるのも、絶対不味い。考えただけで胃がキリキリと痛む。最悪、山下にこっそり譲ろうか。

 

「どうしよう」

「コーヤ、どうしたの?」

「……ビールをこうやって家で飲むことが、年に数回しかないから、貰ったビールどうしようかなって」

「そっかー。なら、ビール煮にしよっか」

 

 ビール煮。なんか、またそうそう聞かないワードが出てきた気がする。まあでも、葵ちゃんの手料理はどれもこれも美味しいし、楽しみにしてよう。

 

「楽しみにさせてもらうよ、葵ちゃん」

「腕によりをかけて作るから、楽しみにしててね! コーヤ!」

 

 次の日の夕食後から、俺の好物に鶏のビール煮が追加されたのは、間違いなく余談である。

 

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