昔飼ってたワンコ(♂)がJKになってやってきた話。   作:バンバ

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投稿したと思ったら出来てなかったので。投稿だけして寝ます。
書き貯めはここまでのため、次回以降は投稿不定期になります。


JKと夜遅くにファミレスに行って喋る話。

「……えーと」

「♪」

 

 近くのファミレスにJKを連れ込んだスーツの男。コレはどうあがいても事案なのではないだろうか。い、いやだ俺は豚箱なんざに入れられたくねえ!と内心一人でボケながら現実逃避をしていると『ロボを自称した女の子』がドリンクバーから帰って来た。途端に俺の横に腰を下ろした。やはり事案だよねコレ。

 お願いだからせめて向かいの椅子に座ってと言っても、泣きそうな顔をしてこちらを見てくるので折れたともいうんだけど。

 彼女がすんすんとスーツに鼻を近づけると、綻ぶような笑顔で言う。

 

「〜〜やっぱりコーヤの匂い、好きだなー。ちょっと消毒液みたいな匂い混ざってるけど、悪くないかも」

「やっぱりこれダメだって仕事上がりでお酒も多少入ったアラサーの匂い嗅いで昂揚してる絵面にしか見えないって!」

 

 お巡りさん俺です!もしくは彼女です!としか言えない絵面に俺が慄いていると彼女はクスクスと笑う。幸いなのは人が俺たち以外にいない事と、ドリンクバーしか注文してないから店員さんがくる可能性が低いことだろう。それでも制服を着た女の子がこんな時間までファミレスにいることを考えると常識的に通報案件なのだが。

 

 そんなことを考えているとまた彼女はクスクスと笑う。一体何が可笑しいのか。こちとら今後の生活が掛かっているので割とシャレにならない。

「ま、まあとりあえず。そろそろ本題に入ろう。君に、聞きたいことがあるんだ。どうして、俺が飼っていたペットの名前……それも15年も前のペットの名前を知っていたんだい?」

 

 これ以上は待っていられなくなった俺は、ここにくるまでに何度か聞いたことを改めて尋ねることにした。タチの悪い冗談であれば、少し叱ってそれで終わりだし、何よりこれ以上面倒でなくて良い。

 しかし、彼女の返答は変わらない。

 

「だからー、私がロボなの!ここにくる途中たくさん説明したでしょ!コーヤなんでわかってくれないの!?」

「そうは、言われてもなあ……」

 

 クールな顔を歪ませ心底怒ってると言わんばかりの様子で俺を睨みつけてくる彼女に、俺は美人を怒らせると怖いなあと見当違いなことを考えていた。

 

Q.あなたはだれですか?

A.前世であなたのペットをしてた犬です。

 

 そう言われてハイそうですかと納得できるわけがない。とう言うか何だそれ新手の電波少女じゃないか。

 

「んー、じゃあこうしよう。俺が君にいくつか質問をする。きっとロボにしか答えられない質問だ。それを答えられたら、まあ、一応、納得しよう」

「ホント!?言ったからね!嘘だったらお母さん、あ、ハルミに言いつけてやるんだから!……こういう風に言えば、信じてくれる?」

「……おぉう?」

 

 突っ込む気力がドンドン失せていく。なぜうちの母さんの名前を知っているというツッコミは、言わなかった。

 

「……俺の家族の名前は?」

「ハルミにコーイチ、チビのコーキにシワシワのコーゾウ!あ、コーゾウまだ元気にしてる?よく私に茹でたお肉くれたの!」

 

 もう既に心が折れそうだ。ナンデ!?ナンデシッテルノ!?おまけに茹でた肉って俺初耳なんだけど爺さん!

 

 ちなみに幸造爺さんは今年で90になる。顔はシワシワながら趣味は筋トレ、両手に重り(各5kg)を持ちながら2〜3kmのジョギングを日課としているパワフルな爺さんだ。

 

「……ロボが水を飲む時に使っていた器は?」

「端っこのかけたお皿!」

「……よく使ってた玩具は?」

「テニスボール!」

「俺の趣味は?」

「たぶんゲームと読書!あ、最近コーヤがやってたゲームの最新作が出るってニュースでやってたよね?ワールドハンターだっけ」

「その話少し詳しく、じゃなかった。えーと……」

 

 どうしよう。思った以上に詳細を知ってる。アレか。犬だった頃の記憶を人間の知識で当てはめていって覚えているのか?

 

 それにしても、と。彼女の容姿を見る。

 夜の暗さに溶け込みそうなくらい綺麗な黒いセミロングの髪。目尻が鋭く斜め上を向き、その中には日本人らしい茶色より、やや薄い色合いの瞳。自信ありげな表情に良く似合う形を描く薄い唇に、日本人として見ればやや薄い、白っぽい肌の色。それらのパーツは彼女を性格のキツそうな子ではなく、クール、ないし大人びた性格に見せるのに一役買っていた。

 

 さっきから泣きそうな顔になったり、眉間にしわを寄せたりと忙しなく表情を変えていたが、こうして見ると本当に綺麗な子にしか見えないのだ。

 

「あ゛あ゛ーーー……ちくしょう」

 

 思わず呻くように声を出す。本当に否定できる要素がない。いや違う、否定したい訳ではないのだ。ただ、現実逃避というか、受け入れ難いだけで嬉しいかと問われるとそりゃ嬉しい。

 

「本当に、ロボなんだな?」

 

 念を押すように、尋ねる。

 

「うん、そうだよ!あ、でも……」

「うん?」

 

 考え込むような顔で俺のスーツの裾を掴み、意を決したような顔でこちらを見る少女の顔を見て、そう言えばロボもこんなツリ目で瞳も色もこんな風だったなと思い返した。

 

「性別変わっちゃったし、コーヤと同じヒトになったから、子供もできるよ?何人欲しい?」

 

 

 

 

 ……うん。

 真面目腐って聞いていた俺がバカを見た気分だった。いや、彼女の顔を見る限り極めて本気で言ってるんだろう。しかし、顔赤い割に、なんかこう、目がギラついてるし。物理的にサイズの差がなかったら正面突破で襲われそうなイメージしか出来なかった。

 

「やっぱり事案じゃねーかバーカ!何でそんなことを気にしてるの仮にも初対面君と俺!そんな援交みたいな展開全力で拒否したいんだけども!?」

「な!?援交じゃないよ!?お金なんて要らない!ただ私がコーヤが好きだからずっと一緒にいたくて、性別も変わったから、結婚してつがいになれるなって考えてただけだもん!!」

「せめてそこ夫婦って言おう!つがいだとなんか妙に生々しく聞こえるから!?」

 

 さっきから本当、頭の悪くなりそうな応酬を繰り返している気がする。いや彼女みたいな可愛い綺麗な子に襲われるなら男として本望かもしれないけど。

 

 でも、こうして言葉を交える度に、嬉しさや妙な懐かしさ、温かさに包まれるのは、どうしてだ。

 

 唇を噛んでいないと、涙がこぼれそうになってしまうのは、何故だろう。

 

 俺自身の内面と言動のチグハグさに混乱していると、彼女は何を思ったのか俺に抱きついてきた。

 

「ちょ!?」

「私は15年間生きてきて、コーヤを忘れた日なんてない。家族の匂いも、コーヤがくれた思い出も、温かさも、幸せだって、コーヤにだって否定させないよ」

 

 だってそれは、全部コーヤたちに会えなかったら得られなかったものだもん。

 

 そういう彼女の声は、震えてる。胸元が湿ってくる。抱きつく力が、強まっていくのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、時間を置いて冷静になった彼女は「今日はありがとね、コーヤ!これ私の電話番号とアドレスだから、明日また会おう!」なんて言ってルーズリーフをメモ書き代わりにして俺に渡してきた。……明日は寝腐るつもりだったんだけどなあ……。

 

「あー、せめてタクシーで送っていくよ。もうすぐ日付も変わるから、両親も心配するだろうし」

「ううん、大丈夫。ここから歩いて5分位だし」

「近いな……あ、そう言えば、名前……」

「私の?ロボだよ?」

「いやそっちじゃなくて。今の名前さ」

 

 もう半分以上諦めた。認めざるを得なかったとも言える。

 ならせめてロボー、ロボーと呼ぶよりもちゃんとした名前で呼んだ方が良いだろうし。超大柄なスーツ着た成人男性が今を輝くJKのことをロボなんて名前で呼ぶなんて、違和感が凄すぎる。

 僅かに間を置いて、彼女は笑顔で言った。その、俺にとっては軽く爆弾になる発言を。

 

「うん、良いよ。私の名前はね、乾葵!あとね!人違いじゃなかったら、コーヤの話はお父さんからよく聞いてるかも。よく働いてくれてるって!コーヤの名字って、タチバナだったっけ?」

「……葵ちゃん、ね……う、うん?いや確かに立花だけど……え、ちょっと待って、え?」

 

 あっれ、おかしいな。乾で俺のこと知ってる人ってなると、今日俺が残業する原因を作った、我らがホワイト上司の上から仕事を押し付けてきた『乾課長』しか思いつかねえんだけど……え、マジで?

 


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