昔飼ってたワンコ(♂)がJKになってやってきた話。 作:バンバ
やはり、元ペットと元飼い主っていう関係性が好きなのですか?
ワールドハンターとは。超雑に説明してしまえば、考察し甲斐のある世界観と、やり込み要素が鬼のように詰まったハンティングアクションゲームである。いや本当に面白いよ。シリーズももうすぐ出る新作を含めると20周年になる息の長いコンテンツでもある。昔は弟と携帯機版で遊びつくしてた。
当時小学校中学年だった奴は『レア素材が出ない! 何で兄さんだけそんなにでんのさ!?』と嘆いていたものだが、それを聞きながら、『悔しいでしょうねぇ? ねぇどんな気持ち?』とクソのような煽りをかましたものである。実に楽しかった。そこから発展してリアルファイトまでがワンセットだった。我ながらに仲良しだけど仲の悪い兄弟だったと思う。
それを遊びと勘違いしたロボが混ぜてと言わんばかりに突撃かましてくることもあった。ジャレて手を噛まれて噛まれて傷まみれになったのは良い思い出だ。しかしその後煽ってきた弟は蹴り飛ばした。
さて。現実に意識を向けよう。俗に言う、逃げるな! と言うやつである。
いつも通りであればとっくにゲームをする時間帯(普段平日なら夜の7時から11時、休日ならやると決めたら一日中眠くなるまで)なので、ワールドハンターの新作に引き継ぎ要素があるとの情報が入ってる以上武器防具収集やらタイムアタックやらやり込めるだけやり込もうとしてたのだけども。
葵ちゃんが泊まりに来てる以上ゲームをやるわけにもいかない。
それ以上にあんなやりとりがあった後なのでお互いに気まずいかな? という思いがあった。
俺自身多少落ち着いたけど、やはり気まずいものは気まずい。だけど、あの言葉は、行動は本心だった訳でして。
だからこそ、今日は一旦ゲームは休みにして葵ちゃんと何か話したりでもしようかと考えたのだ。多少でも話して気まずさを解消したかったというのは間違いなく本心だしね。
あんなことがあった後、なあなあで余計に居た堪れない空気になっても俺が嫌だし。きっと、葵ちゃんもそんな展開は望んではいないだろうし、さ。
取り敢えず人の肩に寄りかかって頭を擦り寄せてくる葵ちゃんに問いかけることにした。俺の心配は全くもって杞憂に思える雰囲気だけど、心配しておいて損はない。
しかし、なんだこの可愛い生き物。モノクロのパジャマと首についてるチョーカーが相まってロボを思い起こさせるじゃねえか。チクショウ可愛い。
「んー、葵ちゃん。何かしたい事とかあるかい?」
「いつもなら、もう少ししたら寝る時間だしなあ。私アニメとか見ないし。あ、でもワールドハンターならたまにやるよ?」
「あ、そうなの? よければやるかい?」
なんというか、少し意外だった。ロボの印象ばかりに気を取られていて、葵ちゃんにとって遊ぶ=外で、のようなイメージが勝手に出来上がっていたのだけど。でも冷静に考えたらファミレスで話した時もワールドハンターの話をしていたこともあったし、当然といえば当然か。これは少し反省だ。
なんだか気になって、葵ちゃんがプレイしている様子を見てみたくなったので、尋ねてみた。
「んーん、今日はいいや。コーヤと一緒だから。一緒にゴロゴロしよ?」
「ゴロゴロするって言ってもねえ。俺は大丈夫だけど、葵ちゃんは暇にならない?」
「どうして? 私はコーヤと居られればそれでいいよ?」
さては狙って言ってるのだろうか。そういうことを言われるとこっちも顔から火を噴きそうな状態になってしまうので無自覚なのはちょっと自粛してほしい……いや無自覚だから自粛も自重もないのか。ちくしょう。
「顔赤いよ、大丈夫?」
「大丈夫。大丈夫だからそんなキラキラした目で俺に覆い被さろうとしないで!」
どうにも彼女の中では相手がこういう反応の時は嫌がってないとか、ある程度無意識的にわかっていてこういう行動(主に俺の社会生命が終わる部類)を取ってくるらしい。
ただし俺の社会的な立場がどうなるか、という部分は考慮せず。さっき気がついた。タチが悪い。非常にタチが悪い。
脳裏を『バレなきゃ犯罪じゃないんですよ』と甘言を囁く悪魔がよぎったけど無視だ無視。
俺の両肩に手を掛けてキラキラした目を向けてくる彼女をなだめながら現状最大の問題が目前に迫っていることに気がついた。布団の件である。布団の、件である。大事なことなので2回繰り返した。そうだよな。まだそのことが残ってたよなあ。
なまじどうなるかなんて予想が付いている分、まだマシなのか余計に判断がつきにくいところなのだけども。
取り敢えず無理矢理にでもこちらを下敷きにしようとする可愛らしい子の攻撃をいなしつつ、極めて、極めて気が進まないながらに聞いて見ることにした。
「その、葵ちゃん。お願いがあるのだけど。今日さ、布団が一つしかないから葵ちゃん布団使ってくれないかな?」
「え、コーヤは?」
「本当なら人が泊まりに来ることなんて想定してないからね。だから」
流石に上司の娘を掛け布団もタオルもつかないソファーの上には寝かせられないと思っての言葉だったので続く言葉には「俺の使っているもので申し訳ないのだけど」と言葉を続けるつもりだった。
それを聞いた彼女はこてんと音を立てそうに首を傾げて、「なんで?」と尋ねてくる。
「コーヤ。私は乾葵っていう人だけど、コーヤの家族のロボでもあるの。だからね、一緒に寝ても大丈夫だよ?」
「それに、お互いに好きなんだから大丈夫だよ!」なんて笑う彼女に毒気が抜かれてしまった。なんて無防備なんだ。歳上の男にこうまで接近を許すっていうのも、まあ色々な事情を込みにしてもなんだかなと思ってしまう。そのうち知らない人について行ったりしないだろうか。
……やめよう、当たらずも遠からずというか、その知らない人っていう配役だと俺自身にぶっ刺さるものがある。
『深夜のファミレスにJK(初対面)を連れ込むほろ酔いアラサー』という、圧倒的な犯罪臭が漂う字面になってしまう。どうあがいても事案である。
「葵ちゃんが良いって言うならいいんだけども。あ、でも流石に変なことはダメだからね。特に、その、あー」
「えー! 子作りは良いよね?」
「ハハッ、それがダメ筆頭に決まってるんだよなあ……。その、あれだよ、エッチなことはオジサンが許すまでは厳禁です。キスとかなら、まだ、良いけどね?」
微妙にむくれてワンワン吠えるように(一応周囲への配慮か声は抑えめに)抗議する葵ちゃんの頭を撫でながら、今夜は寝れるだろうかと他人事のように心配していた。現実逃避とも言う。仕方ないね。何せそうしなきゃ俺の胃がもたないからね!
まあ、この後布団を敷いて二人で布団に潜ったら足の間に自分の脚を絡ませてきたり「せめてコーヤが誰かに取られないようにおまじないを……」と言いながら胸や腹、首にキスマークをつけてきたりと割と事件が多発していたのだけど。そこは割愛しよう。オジサンの理性耐久勝負(独り相撲)なんてつまらないだろう。
強いて言えば、布団という存在がここまで凶悪に思えたのは、生まれて初めての経験だった。
「コーヤ、まだ起きてる?」
「寝てる、ね」
「今日ね、とっても楽しかったし、心配もしたし、嬉しかった。ううん、今もこうやってコーヤと一緒にいれることが、嬉しくて泣いてしまいそうなの」
「私はコーヤが、貴方が大好きで大好きで仕方ないから、なんて言えばいいのかちょっと分からないけど。その、お風呂の時の返事が、まだだったからね」
「い、何時も言ってるけど、そういう好きと今から言う好きはちょっと違うから、なんだか恥ずかしいなあ……」
「ん、んん。……私も、貴方のこと、愛してます」
「……恥ずかしいなあ、でも、気持ちいいや」
「ふふふっ、なんだか変な気分になってしまいそう。おやすみなさい、コーヤ」