不定期ですが、よろしくお願いします。
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「ふぅ……やっと奥まで来れたか……。」
とある管理世界にある研究施設。その中で鉄槌の騎士、ヴィータは一人ごちていた。
彼女がここへ派遣されてきた理由は、新規発見された違法研究施設の調査である。
既にスタッフや資料などは引き払われた後の様で、施設の中には今後役に立ちそうなものは一切見つからないのが現状だった。
しかも、そのくせにこの施設、やたらめったらと広いのである。なまじ大量に部屋があるせいで、何も無さそうな場所でも一応は目を通さなければならない。本来、捜索よりも破壊の方が得意なヴィータには慣れない仕事だった。
「はぁぁ、リインも疲れたです……」
そう言ってヴィータの後方でがっくりとうなだれているのは、リインフォースⅡ。八神はやてが管理局と共に作ったユニゾンデバイスである。銀髪に白を基調としたバリアジャケットを纏っており、ヴィータの赤いバリアジャケットとのコントラストも相まって、二人の姿はかなり目立つものとなっているが、特に人がいる訳でもないここではそれを気にする事も無い。
「ったく、紙の無駄遣いしやがってよ。」
ヴィータは部屋に散乱した白紙の資料をかき集め、内容(状態)の確認だけしてまたぽい、と捨てる。本来はこのようなものでも回収しなければならないのかもしれないが、どう見たってただの白紙である。ただ何故かそこら中に大量にぶちまけられていて、あたかも荒らされました、というような状況だが、おそらく苦し紛れのカモフラージュと言ったところだろうか。何にせよ、これ以上ここに居ても実入りはなさそうなのは明白であった。
そして、ようやく最奥に到達したのである。無駄に長く広い構造のせいで二人だけで探すのは骨だったが、それもようやく終わる。この部屋を探してしまえば任務完了だ。報告書だって書くのにそこまでの時間はいらない。大した情報も、何もなかったのだし。
後は戻って外で待機している調査隊の局員たちに場を引き渡せばよいのだ。
「帰りしなに何か買って帰るか? さっき見つけたアイスとか!」
「わぁ! それは素晴らしいアイデアだと思います! さすがヴィータちゃんです!」
ここに来る途中に見つけたアイス屋の場所を思い出しながら、はやて達の分も買って帰ろう、と決意し、今からみんなで食べるアイスに思いを馳せ、その表情を綻ばせるヴィータ。
それにつられてリインも笑顔を見せ、もうほぼ任務のことなど頭から抜けかけていたような状態の二人だったが、リインが部屋の奥にある、壁と壁の間のわずかな“ずれ”に気づいた。
「あれ……ヴィータちゃん、あそこ……少し違和感があります。」
「……何だと?」
先ほどは少しだけ気を緩めはしたが、ヴィータとて一流の戦士である。すぐに気持ちを切り替え、目の前の壁を凝視する。
「……確かに、なんか……変だな。」
壁と壁の間にわずかな隙間があり、よく見れば壁の色も微妙に一致していない。
触れてみると、ガコン!という音と共に、壁の一部が後ろへと下がって行き、新たな通路が現れた。
ヴィータの今までの経験からして、こういうのにはろくな思い出が無い。たいていが厄介事に繋がってしまい、後の予定がつぶれたことも何度かあった。
「アイス、買いにいけるかな……」
「と、とにかく中を調べましょう! こちらも既に引き払われている可能性だってありますし!」
もう帰りたいという気持ちが言葉にも思いっきり現れているリインとヴィータだが、いつでも戦闘態勢に入れるように準備だけはしておく。施設内部では特に何も無かったが、隠し通路とあっては迎撃装置などがあったとしても不思議ではない。
周囲の警戒を怠らないように、注意深く歩を進めるリインとヴィータだった。
***
あれからいくらか歩いたが、そこまで長くは歩いていない。せいぜい10分かそこらだろう。それでも施設の通路にしては異常に長い気がするが、どうもこの通路、途中から外部に通じていたようで、最初はいかにも研究所然としたメカニックな通路だったのが、現在は洞窟のような外観の通路になっているのだ。そして、その通路にも終わりが見えた。扉があったのだ。それもとびきり厳重にプロテクトを施された、セキュリティがっちりの防護扉。何かあるに違いない。なかなか抜け目の無い、強固なロックではある。だがしかし、自分は夜天の騎士の特攻隊長、紅の鉄騎、ヴィータだ。
その役割は、破壊と粉砕。
「ぶち抜くぞ、グラーフアイゼン」
グラーフアイゼンがヴィータの声に応えるかの様にその形をラケーテンフォルムへと変える。
「がんばるです! ヴィータちゃん!」
火力の低いリインは横からヴィータに声援を送る。ユニゾンするという手もあったが、魔力消費やパフォーマンスも鑑みると、それは得策ではないと判断した。
「ラケーテン……ハンマァァァ!」
鉄槌からカートリッジが排出され、魔力がロケットの様に噴出する。加速と遠心力によって威力を高められた一撃は、堅く閉ざされた扉をいとも容易く粉砕する。
粉塵が舞い上がり、それが薄くなって行くのと共に、扉が隠していたものが何なのか、明らかになってきた。
「よし、開いたか……ッ」
「です!……あッ!」
その中にあったのは、部屋の奥に鎮座する生体ポットと、それを制御する装置、そして…
「これは……融合騎……か?」
ポットの中では、リインと同じくらいの大きさの男の子が眠っていたのだった。
***
「システム掌握完了しました。対象を救出します。」
リインにより制御装置のシステムは無事に解析され、中に居た少年(?)もポットから出すことができた。
(なんでこいつは回収されてなかったんだ……?)
他の資料などは何一つ残っていなかったのに、この融合騎のような少年だけが取り残されていたのには激しく疑問を感じる。
髪は金髪で短く、切れ長の目。微妙に、エリオに似ていると言われればそうかも知れない。
ヴィータは、友人が以前引き取り、それから自分も訓練に関わった少年を思い出す。あいつは、元気にしているだろうか。友人はいつも鬱陶しいくらいに「ウチのエリオがね、こんなことまでできるんだよ!最近はね……もしかしたら私よりも」云々などと自慢をしてくるのはよく聞いているが、本人にはしばらく会っていない。あの、六課解散の際の模擬戦の後、片手で数えられるほどしか会っていないのではないか。
近接戦闘を担当する者として、シグナムと一緒にいろいろ教えたのもあって、久々に会ってみたい、等とも考えたが、今はそれよりも、目の前の小さな存在だ。
小柄な体も相まって、あどけない寝顔はエリオのそれよりも幾分か子供らしく見える。
「ん……」
「あ、目が覚めたですか?」
リインが覗きこむと、少年は目をしぱしぱと開閉して、
「君は……?」
と問いを返す。どうやらまだ意識がはっきりしていないようだ。
「あたしはヴィータ。こっちはリイン。どっちも管理局員だよ。」
「です!」
「あなた達は……」
そこまで声を発したところで急に、地響きが起こる。
「防衛プログラムが作動したみたいです!」
先ほどプログラムを掌握した時に施設の一部情報も抜き出したリインが悲鳴のような声をあげる。
「ちぃ……突破できそうか!?」
「結構な数のドローンが格納されてたみたいです! 個々の能力は高くありませんが……ここからだと戦いながら入り口まで戻るのはキツそうです!」
確かに、ここから調査隊の所までは結構な距離がある。おそらくいちいち相手にしていたのでは魔力がもたないだろう。いかにヴィータに突破力があるとはいえ、そこまで長い距離を突撃し続けるのは、今のままでは、魔力も体力も心許ない。
「ヴィータさん、リインさん」
「あん? どうした?」
「どうしたのですか?」
どうする、と思案していたところで後ろから声をかけられる。先の金髪の少年である。
「俺の名前はデプスです。融合騎のレプリカとして作られた存在です。」
「なんだと?」
「レプリカ……ですか……」
彼は自身のことを融合騎ではなく、融合騎のレプリカと言った。この施設でそんなものが作られているとは捜査では浮かんでこなかったが。
そしてリインはこの時、最近人に造られた融合騎が自分だけではないことを初めて知った。
記録の上では、最新の融合騎と言えるものは、自身の前身、リインフォース・アインスなのだから。
もっとも、自分はレプリカという形ではなく、正式なユニゾンデバイスではあるのだが。
一種の兄弟みたいなものですかね、と、何とはなしにそう考えていた。
「細かいことはいいんです。あなたはべルカの騎士、ですよね。」
「あ、あぁ。まぁそうだけどよ。」
「そしてリインさんはその…融合騎…ですよね?」
「はい! もっとも、本来はヴィータちゃんではなく、別の人のユニゾンデバイスなのですが!」
「そう……ですか。今、ドローンがこちらへ向かって来ているんですよね……?」
「はい! 通路もそんなに広くないので、接敵は避けられません!」
「リインさんとヴィータさんだけでは打開し辛い状況であると。」
「まぁ、確かにきつくはあるな。突破力が足りねーし、持久戦も今の状態じゃきつい。」
「それなら……話は早いです。ヴィータさん、俺とユニゾンしてください!」
「あぁ?……適合率は大丈夫なのか?別にリインとユニゾンしても抜けきれないことは無いんだぞ?」
「大丈夫です。俺は、騎士なら誰にでも“合う”様に造られましたから。それに、俺の力はこういう時には有用だと思いますよ。」
「どういうことですか?」
「それはユニゾンすればわかります。」
この少年は、自分の力にそれなりの自信を持っているようだ。その目を見やれば、緑色の瞳が真っ直ぐとこちらを見つめていて、ヴィータは何となく、こいつに任せてみてもいいか、と思ってしまった。
「あぁ、面白いじゃねーか。いいぜ、ユニゾンしてやるよ。」
「ヴィータちゃん!?」
「問題ねーよ。それに、役立たずだと判断したらさっさと解除してリインと変わるからな。」
「期待に応えてみせます! 俺は……ここから出たいから……!」
「……お前、何か訳ありっぽいな。」
「いえ、大したことではありませんよ……今までずっと、外に興味を持ったんです。こんな狭い部屋じゃなくて、大空を飛ぶ光景を、何度も夢見てきましたから。」
「へぇ、分かった。あたしがその願い、手伝ってやるよ。行くぞ! デプス!」
「えぇ。俺に……見せて下さいッ! 外の世界をッ!」
「「ユニゾン・イン!」」
2人の声が交錯する。それをトリガーにして、ヴィータの体を光が包み込む。リインが手で視界を覆うほどの眩い光が、部屋中に広がった。そして、それが収まって現れたのは、髪が金髪に染まり、バリアジャケットが黒を基調としたカラーリングへと変化したヴィータであった。
「すごい! これは速そうです!」
「って……これ……ただのフェイトじゃねーか……!」
「フェイト? 何ですかそれ」
「うっせぇ! 友達だよ! こんな色のな!」
つい先ほど、親バカ全開で自慢話をしてくるその友人の顔を思い出していたのもあって、声を荒げずにはいられないヴィータ。思わず頭の帽子を地面にたたきつける。
「えぇ……? ちなみにリインさん、速そうって……?」
「その人のウリは超神速の高機動なのです!」
「え、やだ……能力まで被ってる……」
「え?」
「え?」
「……」
微妙な沈黙が場を支配していた。
***
「おぉ、これはなかなか……」
さっきは罵倒してしまったが、やはりユニゾンの影響力というものは凄まじい。いつになく体が軽く、自らの魔力と融合騎の魔力が合わさり、増幅するのを感じる。
「俺の性能はとにかく速度を上げることを目的とした調整が為されてます。まぁ、あなたの魔法は登録出来ていないので使うことはできませんけど……問題無い筈です!」
「ん。リイン、お前はこっちな!」
「は、はいっ!? ひゃぁ!」
そう言ってリインをひっつかみ、懐へと押しこむ。おそらくリインを掴んでいないと、置き去りにしてしまう。自分でも、どれくらいの速度が出せるのか分からないのだから。
「じゃあ……行きますよ! 疾風迅雷!」
デプスが紡いだのは、自らが編んだ魔導の名。
ヴィータは体の奥から力が溢れてくるのを感じた。
体は青い光に覆われ、さらに、手足から漏れ出た魔力が雷の形を成して、バチバチと周りに広がる。
「へぇ、こいつはいいな……うっしゃあッ!」
一瞬でトップスピードまで加速し、扉を抜け、通路を飛翔する。
「ひゃ、ひゃわわわわわわ!」
懐でリインが目を回しているが一切気にしない。
もうすぐ防衛プログラムのドローンと接触するからだ。
「おい! このままでいいのか!?」
「えぇ、突っ切ってください!」
デプスからの力強い返答にうなずき、そのまま突っ込む。目の前に機影が映り、その距離も一瞬で詰める。敵との距離が一瞬で無くなり、あわやぶつかると言ったところでも、ヴィータは一切速さを緩めなかった。
「ボルテックブリッツ!」
ヴィータの周りに雷を纏った魔法の膜のようなものが形成され、ドローンとヴィータがぶつかった瞬間、ドローンの体駆に大きな穴が開いた。
「凄ぇ威力!」
「こ、これはまさに人間ロケットですぅぅ!」
若干興奮気味にヴィータが叫ぶと、リインも目を回しながら応える。それに気をよくしたのか、
「まだまだ行けますよ!」
とさらに速度を上げるデプス。施設の中を閃光が走り、道中の障害物には全て大穴が穿たれ、さらにその後に音速を越えた衝撃波が襲いかかる始末。施設内はもう既にめちゃくちゃな有様だった。
そして、入口にたどりついた3人だが、驚くことに、ここに来るまで3分もかかっていない。そりゃあ道は突っ切って来たし、探索しながらではあったが、思ったよりも何倍も早かった。それになにより、気持ちいい。なんか、こう、あの、超スピードで駆け巡る高揚感。フェイトが脱いでまで速さを追求する(本人に言うと怒るが)のも頷けるというものだ。若干、癖になってしまいそうで怖い。
「「ユニゾン・アウト」」
二人の融合が解け、ヴィータはいつもの赤い恰好に戻る。
「デプス、お前結構すごいのな。」
「ありがとうございます。ヴィータさんも、素晴らしい胆力でした。あそこで怯まずに突っ込んでくれた時は、信頼してもらえたみたいで嬉しかったです。」
「ん、まぁ……そうだな。」
ヴィータは照れ臭そうにそっぽを向いた。結構な期間管理局に勤めてきたし、お礼を言われたことも何度もあるが、未だにこの感覚には慣れないものだ。
「デプスさん! 凄いです! リインにはできないことを平然とやってのけます! そこにシビレて憧れます!」
リインがデプスの手を掴みぶんばぶんばと振り回す。デプスは意外と力強いリインに振り回されながらも、まんざらではないようだ。
「あ、それに……俺はたぶんリインさんより後に生まれたと思うので、呼び捨てで……デプスで、いいです。」
「そ、そうなのですかっ! 私がお姉さんだったのですね! これはしっかり私がお姉ちゃん力を発揮しなければ! ほーら、いい子いい子!」
リインはそう言っておもむろにデプスの頭を撫で、デプスは一瞬それに驚いてとぎまぎするが、すぐにそれを受け入れて目を細める。
ヴィータはそんな二人のほほえましい様子を見ながら、
――――これ、なんて報告すればいいんだろうなぁ……
と、そんなことを考えていた。
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