魔法少女リリカルなのは~恋する融合騎~   作:旗本

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第11話

***

「おーい、デプスー。」

 

 今日は天気がいいからと、物置から持ってきたビニール椅子をベランダにセットして日向ぼっこしていたデプスは、眠気半分の半閉じ眼で自分を呼ぶ声の方へと向き直った。

声の主は一目で分かる。特徴的な髪の色、自分と同じ、小さな体。自分やリインとは違う方向に活発ではつらつとした印象の少女は、デプスの姉の一人、アギトである。

 

「? ……どうしたの? アギトさん……。」

「んにゃ、特に何かあるってワケじゃないんだけどな。」

 

アギトはさっきまで寝ていた様で、ふわぁ、という欠伸と共に伸びをしている。

 

「お、それ気持ち良さそうじゃん。あたしも入れてよ。」

「うん、別にいいよー……」

「よーし!」

 

そう言ってデプスの隣に陣取り、どっかりとビニールに腰を落としたアギトは、日光の暖かさとビニールの独特の感触に「ふあぁ……」と、もう一度気の抜けた声を上げた。

 

「うわ、これいいな……ホント気持ちいい……」

「でしょ? こう、日が照ってて風が無いと、以外と暖かくて。」

 

 ちなみに、今のミッドチルダは地球でいう冬のような気候なのだが、それでも、燦々と降り注ぐ日光を浴び続けていれば、体は自然と暖まってくる。これで風があればそうも言ってられないのだが、幸いなことに、今の八神家のベランダは無風地帯である。

 

「ん……」

 

 軽くのびをしたアギトは、そのまま目を閉じてしまった。そして、丁度眠気に負けそうだったデプスも、しばらくすると寝息を立て始める。

 

どうせ今日も何かあるわけじゃないし、いいや。

 

 アギトも、こうして睡魔を優先する辺り、大した用事ではなかったのだろう。この人はしっかりした人(?)だし。と、そのまま眠りの世界へと落ちていくデプスだった。

 

***

 

「……んぁ?」

 

 アギトが目覚めたのは、先ほどデプスの隣で日向ぼっこに加わってから30分程が経過してからの事だった。

 

「んん……あ、おはよう、アギトさん。」

 

同時にデプスも起きたらしく、うん、とのびをしながらこちらを見ている。

 

「おはよー……って、もう昼過ぎじゃんか。」

「あはは、まぁ、せっかくの休みの日なんだし、アギトもゆっくりくつろいだらいいと思うよ?たくさん寝られるのって、幸せだと思う。」

「んー、あたしは何か時間無駄にした感じがしてちょっとがっかりするかなぁ…」

 

 今日はシグナムが非番の日であり、基本的にはその補佐であるアギトも、シグナムが休む時は必然的に休むことになる。だが、普段のシグナムは多忙なので、アギトの休みも直接捜査に出ないリインに比べると少々少なめなのだ。

 

「あー……ごめん、確かにアギトさんくらい忙しいと、休みは有効に使いたいか。」

「いや、まぁいいけどね?たまたまベランダ見たらデプスが居たから声かけただけだし。……それはそうと……」

 

と、ここでアギトはデプスと肩を強引に組み、ずいっと詰め寄った。

元々隣には居たが、いきなり距離を詰められたデプスはぎょっとする。

 

「……ど、どうしたの? アギトさん。」

「敬語やめてくれたのはいいんだけどさ、あたしはお姉ちゃんとは言ってくれないのかなぁって思ってさ。」

 

それを聞いて、デプスは気まずそうにアギトから目をそらす。

 

「……ほ、ほら、アギトさんはお姉ちゃんっていうより先輩って感じが……」

「えー? それはヴィータとかでも言えることじゃん。でもデプスが姉さん呼びしてるはヴィータとリインだけ。なんでかなぁ……?」

 

 にやにやしながらぐいぐいとこちらに寄ってくるアギトに辟易するデプス。顔にもわずかに赤みがかかっていた。

 

「……うぅ、言わなきゃダメ?」

「言わなきゃダメ。」

「……その、……く、て……」

「え? 何て?」

「……は、恥ずかし、くて……」

「はぁ? あたしに姉さん呼びするのは恥ずかしいのにリインとヴィータは恥ずかしくないっての?」

 

 若干むすっとしながら言ってくるアギトに、なんと説明したものかと頭を抱えるデプス。ぐいぐいと押された体は既に椅子から落ちそうな程に追いやられている。

 

「い、いや、アレなんだ。これは一時のテンションな身を任せた結果っていうか……。リイン姉さんにお姉ちゃんですよーって言われた時は舞い上がってみんなお姉ちゃんみたいなことを思ったんだけど……。」

「だけど?」

「日が経って、落ち着くにつれてだんだん恥ずかしくなってきて……いや、リイン姉さんとヴィータ姉さんはもう定着しちゃってるし2人ともお姉ちゃんみたいに振る舞ってくれるから慣れたんだけど……。」

「……あぁ、まぁ確かにあたしはあんまり喋ってなかったもんね。これ以上お姉ちゃん呼びが増えると恥ずかしくてたまらないってこと?」

「……まぁ、だいたいそんな感じ、です。」

「気にすんな、どうせすぐ慣れる。」

「えぇっ!?」

 

 あっけらかんと言い放つアギトに、何でまた、と目を見開くデプス。

デプスからすれば、かなり重要なことではあるのだが。主に日常生活上の精神安定的な意味で。

 

 慣れるかもしれないけど、それまでがキツいよ、と言おうとしたデプスだったが、アギトの顔が若干ながら、怒気を帯び始めていることに気づいた。それも、さっきの様なからかい半分のものではなく、マジもんである。何か悪いことを言ってしまったか、と考えるデプスにアギトは少し残念そうに応えた。

 

「せっかくの家族で、融合騎なのに、疎外感感じるったらないよ。」

「あ……」

「いや、別にいいんだよ? 何かちゃんとした理由があってあたしだけお姉ちゃんって呼ばれないんだったらさ。ただ……恥ずかしいってだけでそうやって距離とられると、結構傷つくんだよね。」

 

 そう言われて、デプスはハッとした。

またやってしまった。自分のことばかり考えて、その結果、自分の行動に対して相手がどんな風に感じるのかまで、配慮できていなかった。以前リインにたしなめられた時も、この視野の狭さは何とかしなきゃいけないなんて考えていたのにすぐこれだ。

 

「……ごめんなさい、アギトさん。俺、家族ができたっていう事実に浮かれてただけで、きちんとした実感としては、たぶんまだ受け止められてなかったんだと思う。」

 

 デプスは結局、家族という言葉に酔っていたのだ、と自己推測する。家族とは何なのか。知識では知っていても、それを経験として持っているのとは、また別の話なのだ。

家族とは何なのか。

 

今まで深くは考えなかったけれど、少なくとも今のデプスとアギトでは、まるで他人のような関係だ、と、今更ながらに気づき、申し訳ない気持ちになるデプスだった。

 

「まぁ、分かってくれたならいいよ。それじゃ、さ。」

「?」

「ほれ、呼んでみ? お姉ちゃんって。」

「う……」

「ほれほれ、早く。アギト姉ちゃんだよー。お姉ちゃんだよー。」

「ぐぅ……!」

 

 勿論、デプスとてアギトの事が嫌いな訳ではなく、ふとした拍子にさりげない気づかいを見せてくれるアギトをむしろ慕っているし、こうして距離が縮められることは喜ばしいことだと思ってはいる。

 

だが、それでも。

 

 気恥ずかしいものは気恥ずかしいのだ。ついにデプスに覆い被さるように髪をかいぐりかいぐりし始めたアギトに、デプスは身動きが取れなくなっていた。

 

「デプスー、デプスー、どこですかー? ……って、ああっ! あ、アギト、何をしているですか!」

「ん? いやぁ、いつまで経ってもすり寄ってこない子犬を抱き抱えに来ただけだよ。」

「な、ななな、なんと不純なっ! デプス! いけませんよ!そんな痴女の誘惑に乗ってしまっては!」

「ちょっと待て! 誰が痴女だコラ!」

「あーんなお腹丸出しの恥ずかしいバリアジャケット普段から着てるアギトは痴女以外の何でもないです! ちょっと年上だからって色気でデプスを篭落しようだなんてずっこいですよ!」

「ちげぇよ! 何か勘違いしてるだろお前! あたしは普通に……」

「……お腹丸出しのバリアジャケット……?」

「そこを掘り下げるんじゃねぇッ!」

 

 唐突に入ってきたリインに一気に場を掻き乱され、さらにデプスの天然も発動して収拾がつかなくなってきたことに頭を抱えるアギト。この2人が揃うとヤバい、止められない。と、これからの付き合い方について本気で考え出したアギトだが、横から聞こえてきた声に思考を止められる。

 

「ありがとう、アギト姉ちゃん。」

「……ん? デプス、今何て言った?」

「……」

 

 顔を赤らめてそっぽを向いたデプスに、「おい、もっかい、もっかい言えって。なぁ、今言ったよな?もっかい言えって」と詰め寄るアギト。

そしてそれを見たリインは、

 

「んんっ! ふむふむ、そういうことでしたか……!」

 

と言いながら二人から少し距離を取った。

 

 リインからしても、二人の距離が縮まることは嬉しいことなのだ。

それに、これでまた、デプスが心から頼ることができる人が増える。

家族とは言うものの、未だデプスはシャマルやシグナムアギト等、交流の少ない面々とは、まだまだどこか他人行儀な状態が続いている事に、リインは気づいていた。

 

 勿論、それは時間が解決してくれるのだろうが、できれば早いうちに何とかしてあげたいと、そう考えていたのだ。皆、あんなに素敵で魅力的なんだから、デプスとだって、仲良くなれるに決まっている。

 

 デプスの姉、お姉ちゃんである以上、彼を取り巻く環境をより良いものにできるように手助けをするのは、自分の役目だと、リインは強く思う。彼はまだ、不安なのだ。だから、今はこんな回り道でしか人と繋がっていけないのだ。

 

 今はまだ、それでいい。けれど、少しつずつでいいから、そういった付き合いにも慣れて行って欲しい。

 

 ちょっとだけ心配ではあったけれど、アギトとの様子を見る限りでは、きっと大丈夫だ。

何も、彼の姉は一人ではないのだから。

 

 ヴィータちゃんも、アギトも、きっとデプスの力になってくれる。

これから楽しくなるだろうなぁ、と未来の自分たちの生活に思いを馳せて、アギトのスキンシップに顔を真っ赤にしてそろそろオーバーヒートしそうな様子のデプスを助けに向かうリインだった。

 

***

 

「で、リインは結局何しに来たの?」

 

 リインにバインドをかけられて簀巻き状態のアギトが問いかける。

デプスが心苦しそうにその様子を眺めているが、リインは心を鬼にしてアギトの蛮行を止めなければならなかったのだ。そうしなければデプスが危ない。何がどう危ないのかはよくわからないが、とにかく危ないのだ。

 

「あぁ、えーとですね、デプス用のお洋服が届きましたよーっていう報告に来たですよ。ようやくこれでいろいろと着せ替えしてあそ……こほん、いろんなバリエーションの服が着られるのです!」

「おぉ! そいつはいいじゃん! じゃあ折角だしアギトお姉ちゃんが色々と見つくろってやるかな。」

「本当に!? どうなるのかなぁ……」

「あっ! ダメですよ! まずはリインがやるのです! 異論は認めません!」

「はぁ? そんなもん誰が決めたんだよ。なぁ、デプス?」

「え? あ、うん。そうだね。」

「はぅあ! で、デプスが私を裏切るだなんて……ッ!」

「う、裏切った訳じゃないよ!? ただ、どっちも楽しみだなぁって!」

「おぉ! なるほど……そういうことですか……!」

 

 そう言うと、リインの瞳が鋭く細められた。

キリッとしたリイン姉さんもかっこいいなぁと思うデプスだが、その鋭い眼光を向けられたアギトは、その意図を即座に理解した。

 

「ははぁん……? このあたしとコーディネイト勝負ってわけか。いいぜ、乗ってやるよ。」

「ふふん、デプスの事を知りつく……したとは流石に言えませんが、この家の誰よりも深く理解しているはずのリインにかかれば、デプスの服装のコーディネイトなどお茶の子さいさいです! 審査は夕飯の後に皆にしてもらいましょうか。」

「え……え……?」

「まぁ、着つけは一人ずつしかできませんから、その順番はどうしますか?」

「元々先にやるつもりだったんだろ? 先攻は譲ってやるよ」

「むむむ、言いましたね……! その余裕に満ちた表情を絶望へとたたき落としてやります! さ、行くですよ! デプス!」

「あ、うん……え……?」

 

 いきなり何を、と言う間もなく、とんとん拍子に話が進み、ついていけないままに連行されていくデプスであった。




遅ればせながら、新年明けましておめでとうございます。早速現実逃避しに来ました。

アギトさん回、の皮を被ったリインお姉ちゃんの荒ぶる母性回。
アギトの事を痴女呼ばわりしたリインですが、リインのバリアジャケットも結構あれですよね。脇とか、脇とか、脇と(ry。

あとデプスはここでこそめちゃくちゃ恥ずかしがってますがアギトのお姉ちゃん呼びはなんだかんだであっさり慣れます。それもこれもアギトのお姉ちゃん力が(ry。


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