魔法少女リリカルなのは~恋する融合騎~   作:旗本

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第12話

「お菓子、ですか?」

「うん、お菓子。」

 

 もはやすっかり2人で一緒に寝ることが通例になりつつあるリインハウスⅡの中で、パジャマ姿のリインが首をかしげながら問い返した。

対面に胡座をかいて座るデプスは、それに対して強い頷きで返す。

 

「明日ははやてさんも休みらしいし、色々教えて欲しいなって思ってるんだ。」

「んー、大丈夫だとは思いますけど、何でまた急に? あ、いや! 別にお菓子作りが悪いとは言ってませんよ!?」

 

 理由を聞くと一瞬泣きそうな表情を浮かべたデプスを見て、慌てて訂正するリイン。

すると、どこかほっとしたような顔になったデプスが、「や、やっぱり似合わないかなぁ…?」

と苦笑する。

 

「いえ、いいと思うですよ! このご時世、お料理ができる男の子というのは何かと有利なものです! さっきのは純粋に理由が気になっただけなので、どうか気にしないで下さいね?」

「あ、うん。ありがとう、リイン姉さん。」

 

 そう言って微笑んだ後、デプスはリインに急な提案の理由を話し出した。

 

「いや、ホントに大したことは無いんだけどね? 家事とかもだいぶ慣れてきて……結構時間が余るようになってね。 リイン姉さん達が頑張ってお仕事を終えてきた時に、何か甘いものでも用意して待ってられたら、いいかなぁって思って……。」

「……」

「姉さん?」

「……ううっ! は、はやてちゃん……いつの間にか……デプスはこんなにも立派にっ……!」

「ちょっ! 姉さん!?」

 デプスがリインの方を見ると、それはもう、ぐちゃぐちゃと言っていい有り様だった。顔中の穴という穴から液体があふれている。

 

 リインは、このデプスの気づかいに、割と本気で感動していた。

仕事終わりに甘いものが食べられるとは、それはそれは素敵な事だ。

 

 だが、それ以上に、デプスが自分達の為に作ってくれるということが嬉しかった。

少し前までは、はやてが色々と作ってくれたものだったのだが、最近は殺到する仕事のせいで、それもご無沙汰気味であったのだ。

疲れた体に、弟が作った愛情たっぷりのスイーツ。

頭脳労働に酷使した頭に行き渡る糖分。想像しただけで幸せになれたリインだった。

 

「デプス。」

「は、はいっ!」

突如、キリッ!と表情を引き締めたリインに、デプスも自然と固くなる。

「ぜひとも、やりましょう。明日、買い出しに行かなくてはなりませんね……!」

「リイン姉さんもやるの?」

「えぇ、リインだって少しくらいはできるのですよ? 料理に関しては、最初からこの頭の中に色々とインプットされていましたから!」

「え……? 何で……?」

「たぶんはやてちゃんの趣味だと思うですよ!」

 

 リインの開発は管理局との共同作業だったと聞いているが、よくそんなもん入れる案が通ったなぁ、と、益々はやてが分からなくなるデプスだった。

 

***

「よい…しょっと。材料はこれだけでいけるかなぁ。」

「あまり多くても作るのが大変ですし、ちょうどいいと思いますよ!」

「まぁ、作るいうてもクッキーやし、混ぜるのがちょっと体力使うくらいやから、たぶん大丈夫やと思うで。」

 

翌日。

 

 あれからすっかりテンションの上がってしまったリインは、朝、起きるや否やデプスをひっ掴んではやてに念話を繋げながらリビングにすっ飛んでいった。

勢いもそのままにはやてにデプスのお料理(?)訓練を打診し、デプスからも頼んだところ、返事は快諾。

 

 

 まずは簡単なものから、ということで、クッキーを作ることになった。

そう時間がかかるものでもないので、調理は昼食と一緒に進める。

はやてが小麦粉に牛乳を加える横で、既にクッキー生地をある程度完成させたリインとデプスが協力してそれを練る。

 

 アウトフレームを形成しているとはいえ、それでも2人は子供サイズ。体力もついてはいるが、ボウルの中の生地をかき混ぜるのは、いつもの運動とはまた違った力が必要となってくる。最初は一人でやっていたデプスだったが、すぐにバテてしまったのだった。魔力を使って身体強化を施せば、楽にはなるのだが、何となく、こういうことに魔法を使うのは、ずるをしている気になって、憚られた。

 

「もうそろそろええんと違う?」

「そうですね! じゃあこれを冷ましましょう! デプス、ラップ持ってきてください!」

「了解!」

 

 慌ただしく動くキッチンの様子をリビングからぼんやりと眺めていたザフィーラは、隣でそわそわしているヴィータの様子を見かねて、グラタンの準備をしているはやての方を見ながら、「野菜の皮剥きくらいなら、手伝えるのではないか?」と、一声かけた。

 

「……そ、そうだなっ! 行ってくる!」

 

 顔を赤くしながらすたたたとキッチンに向かうヴィータを尻目に、また絨毯の上で丸まるザフィーラだった。

***

 

「へぇ、いい子なんだね。デプスくん。」

「あはは、やろー? 今日もなんや新しいのに挑戦する言うてたし、家事もやってくれるし、ヴィヴィオに負けへんくらいの孝行っ子やわぁ……」

 

 ミッドの首都クラナガン、その中枢から少しだけ外れた所にある、大きめの百貨店の様なビル。

その中に展開している、少し小さめの喫茶店。

テーブルに座って珈琲や紅茶を飲む3人の女性がいた。朝、開店して間もないので、彼女達の他には一人しか客は居ない。

 

 彼女らは、ここの落ち着いた雰囲気が気に入って、たまにではあるが、こうやって休みが重なった日に集まって、おしゃべりをしたり、買い物をしたりして休日を三人で過ごすようにしていた。

ほくほく顔で新しい家族の自慢話をするはやて。

対面に座るなのは、フェイトは、はやての言葉に一瞬むっとして、

 

「あ、そういうこと言っちゃうんだ。ヴィヴィオだって毎日家事も手伝いしてくれるよ?」

「うん、そんな優劣のつけ方は良くないと思う。」

「え、あ、いや、じ、冗談やで? そ、そんな顔せんといて、な?」

 

 一瞬剣呑な雰囲気になり、射殺すような2人の視線を浴びたはやては、(こりゃあ子供自慢はネタでもシャレにならんな……)と気を改める。

 

「一回ヴィヴィオとも遊んで欲しいかな。まだまだ小さいし、あんまり相手できてるわけでもないから……」

「まぁ、そうやな。結構気も合いそうな気がするわ。」

「エリオ達も忙しそうで、なかなか一緒に動けないのが残念だなぁ。」

 

 すっかり母親の体を成した未婚の女性三人。だが、いずれも現状に不満があるような様子は無い。

それぞれがそれぞれに今の生活に打ち込んでいるのだ。

 

「デプスやけどな、引き取ったはいいねんけど、さすがに大っぴらに連れていく訳にもいかんし、でも何とかして日の目を浴びさしてやりたいなぁ、とも思うんよ。というか、本人がそれを望んでる節もあってな。直接は言わへんけど、たぶん気ぃ使ってる。」

 

「まぁ、確かに、デバイスとして作られて、自分を使ってくれる人に出会って、なのに戦闘には加われない、っていうのも、もどかしいのかもね。」

 

 自分に力があるのに、その力を大切な人の為に使うことができない。なのはは、そんな境遇に立った自分を想像して、自分だったら、たぶん後先考えずに無理矢理使っちゃうだろうなー、などという事を考えながら、厳しい表情を見せる。

 

どうしようもないことも、きっとある。

 

 デプスは現状を受け入れてはいるが、それでいいのだろうか。

はやてはさらに続ける。

 

「でも、たぶん近いうちにまた、管理局の闇が浮き彫りになってくる。JS事件でぎりぎり痕跡だけ見つかったような、中くらいの膿がまた出てくる。その時が一番の正念場や。そこの混乱さえ乗りきれば、デプスが思いっきり空を飛び回れる日も来ると思う。」

 

 そう、今怖いのは、その広がりのせいで、はやてやそのバックだけでは、少しずつしか抑えていくことができない、中級の汚職管理局員達なのだ。

 

 彼らは個の権力は劣っても、数がある。数があれば、扇動ができる。下の人間達の意思を変に動かされると、今後、ユニゾンデバイスの運用に関わるような噂を流されてしまう可能性だってある。無理に押さえつけることはできなかった。

 

「ふふふっ」

拳を握り込むはやてを見ていたフェイトが笑い声を上げる。

「フェイトちゃん?」

「いや、ね? リインの時も思ってたけど、はやては親バカだなぁって。」

「……フェイトちゃんに言われたらおしまいやな。最悪な気分や。」

「あ、あはは……」

 

 フェイトの言葉に、はやての顔が赤みを帯びる。別に嫌なわけではない、ただ少々気恥ずかしいだけだ。

 

 確かに、リインのことも猫可愛がりしたし、アギトに関しては家族になった時点でかなりしっかりしていたし、ワガママも言わなかったのでそうでもなかったが、よくよく考えればヴィータにだって何だかんだでだだ甘である。

そして、デプスに対しても。

自覚はあったが、いざそうだと言われてみると、どうも妙な気分になってしまうはやてだった。

 

「そういえば、デプスくんって、どういう力を持った融合騎なのかな?」

 

 やはりヴォルケン達の大幅強化に繋がる新戦力となると、そういう面も気になってくるのか、教導隊に勤めるなのはが問いかける。

 

「あぁ、えっとなー……ユニゾンした人がフェイトちゃんになるよ。」

「……はい?」

「あー、つまりスピードタイプのオールラウンダー、ってことかな?」

「さすがなのはちゃん。そうそう、そんな感じやな。電気の変換資質もあるし、カラーリングも黒と金で何故かそっくりなんよ。」

「あ、そうなんだ……」

「ちなみに、シグナムが目を輝かせながら『これでテスタロッサと……』とか言って笑ってたから、そのうちまた執拗な決闘の申し込みが来ると思うで。」

「えぇ……受けたいのはやまやまなんだけどな……」

 

 フェイトとてシグナムとの戦いは嫌いではない。とても高揚するものだし、速さを得たシグナムがどのように戦うのか、興味もある。だが、仕事の都合上、なかなか模擬戦の申し込みを受けられないのが現状である。さらに、こうして皆で集まったりすることは、フェイトにとって欠かすことのできない行事なのである。模擬戦よりは、こちらを優先したいのが本音だ。

 

「私もフェイトちゃんとシグナムの勝負、見たいなぁ。」

「そうかな? じゃあ、今度皆でやってみる?総当たり戦。あ、はやてもね。」

「え? なんで私も入ってんの?」

「ほら、はやて、最近あんまり動けてないでしょ? こう言う時に動いておかないと、鈍ると思うから。」

「いや、そうかもしれんけど……勝ち目無くない?」

「勝つ勝たないより、楽しむことを優先しよう!」

「いや、楽しむとかそれ以前の問題やから。なぁ、無理やって、考えなおさへん? フェイトちゃんに切り刻まれるのもなのはちゃんにバインド喰らって身体中焼かれるのも勘弁やねんけど。」

「はやてちゃんならきっと対応できるよ!」

「聞いてや」

 

 二人のあんまりな対応に頭を抱えるはやて。私は二人に何か恨みでも買ったのだろうか。なんとかこの場を乗り切れないか。と思考を巡らせると、ザフィーラが依然興味深いことを言っていたのを思い出した。はやての口元が知らず知らずのうちに弧を描いて行く。

 

「そういえば、そのデプスがな? なのはちゃんの教導、一回受けてみたいって言っててんけど。」

「へぇ! そうなんだ! 嬉しいなぁ! 向上心あるのはいい事だよね!」

「うんうん、それに、最近は家に居るのも結構暇みたいやし、今度時間見つけてちょっと手ほどきしてあげて欲しいなって思うんやけど……」

「そういうことならばっちこいだよ! 戦闘訓練?」

「そうやな、スタミナとかにも難アリみたいやし、その辺含めて色々見てやって欲しいかも。実戦経験もほぼゼロらしいし。」

「そうなんだ……これは責任重大だね。 あ、せっかくだしはやてちゃんも参加するよね? 丁度良いね!」

「結局こうなるんか。私に逃げ場は無いんか。」

「まぁまぁ、いい機会だよ。私も参加するし、皆で特訓しよう? まぁ、うまくスケジュール合わせなくちゃいけないけど、折角だから頑張ってみようかな。」

 

いや、頑張らなくていいから。

折角矛先を変えることができたと思ったのに、と、苦虫を噛み潰したような顔でコーヒーを飲む干すはやてだった。

 




デプスの死亡フラグにはやてさんが巻き込まれた模様です。


ちょっと休み休み書いていたので文章が色々とおかしいかもしれません。
少しずつ修正していこうと思います。


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