魔法少女リリカルなのは~恋する融合騎~   作:旗本

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第16話

***

 

「……」

「……」

「……なぜ……私は……ここまで間が悪いのだ……」

「はやて、リイン、デプス、……シグナム、元気出せって。次があるじゃん、次が。」

「やめておけ、ヴィータ。そう割り切れるものでもないのだ。我にも、主にもな。」

「や、でもシグナムは……」

「シグナムは……ご、ご愁傷様?」

「折角の好機が……テスタロッサとの決着が……」

 

 八神家リビング。いつものように家族みんなで食事を取っている八神家一同。だがその主である八神はやての表情はすぐれなかった。

はやてだけではなく、普段はきりりと背筋を伸ばしているシグナム、元気にじゃれあっているデプスやリインも同様だ。特にシグナムのうな垂れ方は、常からは想像も出来ない姿で、シグナムがたまに起こす失敗を、基本的に全力でからかいに行くヴィータが思わず心配してしまうほどのものだった。

 

 その原因は、今日の朝から夕方にかけて行われていた、休日を使ったデプスの特別特訓である。それにはやても巻き込まれる(状況的には巻き込まれたのはデプスの方だが)形になり、はやての微妙な表情はその最後に行われた模擬戦の結果から来るものだ。

 

「まぁ、いつまでもくよくよしてられへんのはわかってるねんけどなぁ、ここまで差がついてると思うと情けないわ。ザフィーラも、いっぱい頑張ってくれたのに、情けない主でごめんな。」

「いえ。状況が状況でしたし、まだまだ我らにも伸びしろはあります。むしろ、解決せねばならない課題が見つかった事を喜ぶべきかと。」

 

 結論から言えば、試合ははやて達の惨敗に終わった。一時は巻き返すかに思えた瞬間もあったが、はやてがなのはにようやく一撃加えたところで、無理な魔法行使を強いられたデプスとザフィーラの魔力は底を尽き、更にテンションが上がってソニックフォームを解放したフェイトの前にあっけなく敗北。一人となったはやてを容赦ない砲撃と斬撃の雨に晒され、ものの数分で陥落したのであった。ダメージが限界になりユニゾンアウトして墜落していたリインⅡは、ユニゾンが切れて虫の息なはやてが延々と攻撃を加え続けられる姿を見て「あれはこの世の風景ではなかったです、はい。」と死んだ目をしながら述べていたという。

 

「あくまで敗因は私や。デプスは最初から魔力切れやったし……私がすぐに捕まったせいでザフィーラにいらん負担かけたわけやし……」

「んん……でも、なのはちゃんもフェイトちゃんも本当に強いです……正直万全の状態でもあんまり勝てる気が……」

「いや、どうだろうな。我等の魔力切れが無ければ、まだ分からなかっただろう。事実、フェイトの奥の手も、もう少し余裕があれば押し切られることは無かったように思える。所詮たらればの話だがな。」

「うぅ……ごめん、ザフィーラ、はやてさん。ちゃんと調整してない技だと、どのくらい魔力を消費するのか分からなくて……今回、新しい技を編み出したのはいいけど、燃費が酷かったせいで……一気にザフィーラの魔力持って行っちゃって。せっかく持ち直したと思えたのに、すぐにやられちゃった。」

「まぁ、アレはしょうがないわ。気にしててもしゃあない。むしろ、あの状況下で咄嗟にあんな特殊な式を組めた事に驚きやな。ほんまに凄いと思うで? あんな芸当、リインにもできひんのとちゃう?」

 

 申し訳なさそうにうなだれるデプスに、はやてがアギト謹製のコロッケを取り分けて、小さなデプスの体でも食べやすいように切った後、運びながら慰めの言葉をかける。ありがとうございます、と、取り分けられたコロッケを口に運びながら、そのおいしさに顔を綻ばせ、アギト姉さん、これすっごく美味しい! と報告して、アギトもまんざらでもなさそうに「そーかそーか。いっぱいあるからいっぱい食えよ」と笑顔で応える。そんな微笑ましいやりとりをこれまたにこにこ笑顔で見ていたリインは、ハッとしたようにはやての言葉に反応した。

 

「リ、リインだってがんばればそのくらい出来ますよ! ユニゾンデバイスなら、咄嗟の間魔法構築なんてお茶の子さいさいですっ!」

 

 と、慌てて体裁を保ちにかかった。その言葉を聞いたデプスは、

 

「そっか……そうだよね。僕が出来ることなんて、皆で来て当然のことなんだよね……あれ? 僕の存在意義って……」

と言いながら、一度は浮上した機嫌を、より一層落ち込ませていく。

 

「あっ! え、えっと……その……うー、違います! デプス! デプスにはデプスにしかない魅力も持ち味もいっぱいあるのですよ! だからそんな顔はやめてくださいー!」

「おーおー、リインはひでぇなぁ。ほれ、デプス、あたしのハンバーグ分けてやるからこっち来いよ」

「うー……ヴィータ姉さん……」

「あ、あー! ず、ずずずっこいのです! ヴィータちゃんが傷ついたデプスを籠絡しようとしています! シグナム! そこで煤けてないで何とかして下さい!」

「何故私に振る……今の私には何もやる気力が起きんのだ。他を当たってくれ、他を。何、明日には元に戻っているさ……今は放っておいてくれ。」

 

 自らのお株をヴィータに奪われそうになったリインは、すぐ横で死んだように呻き続けるシグナムに救援を要請するが、腑抜けたシグナムは力なく首を振るだけだった。

 

 ちなみに、何故シグナムがこうなっているのかというと、本来、今日の特訓には、ザフィーラではなくシグナムが付き添う予定だったのだ。フェイトが来ると分かった途端、水を得た魚の様な表情で特訓の付き添いを買って出た時は、八神家全員が総じて若干引いてしまったが、付き添いが決まってからは、そわそわとカレンダーを眺めたり、時間が許す限りデプスとのユニゾン練習をしてみたり、とにかく、物凄く楽しみにしていたらしいのだ。だが当日の朝に入ってシグナムに緊急任務が入り、どうしても外せないということで、泣く泣く、本当に涙を流しかねない程落ち込んだ様子で、シグナムは一日暇をしていたザフィーラにデプスの同伴を頼んだのであった。

 

 その時、ザフィーラはシグナムの目に血涙のような物が見えたような気がしたらしいが、おそらく気のせいだろう。

 

「もうっ! 仮にも将たるものがそんなんでどうするんですかっ! 今度はやてちゃんがおはぎ作った時に譲ってあげますから、さっさと元気出してください!」

「む……それは本当か?」

 

ゆっくりと瞳を上げるシグナムに、リインは勢いのみで口にしてしまった発言を思い出し、

 

「う……こ、これは痛い出費になってしまいますが、それでシグナムが元気になるのなら、構いませんですよ。 でもそのかわり、ヴィータちゃんを何とかして下さいね? リインはリインで魔力切れてて大きくなれませんし……」

「ふ、そうまで言われては仕方が無いな。ほら、ヴィータ、デプスを放してやれ。」

「今のお前を具現化した当初のお前が見たらなんて言うだろうな……」

 

 おはぎで絶望の淵から復活する守護騎士の筆頭の一部始終を見ていたヴィータが、デプスを撫でながらそんな事を口にした。

 

「デ、デプス……」

「あの、リイン姉さん、そんなに委縮しなくても、別に怒っても軽蔑してもないから……事実を言われただけだし、その、こちらこそ急に落ち込んじゃってごめんなさい。」

「デ……デプスぅ! お姉ちゃんは嬉しいですよー! それにデプスが謝る事なんてないですよ。さっきも言いましたけど、デプスにはデプスの持ち味がたくさんありますから。リインはちゃんと見てますよ。だから安心して下さい、ね?」

「姉さん……ありがと、俺、がんばるよ。姉さんが見てくれてたら、百人力だもん。」

「本当ですかっ!? これは内心でエールを送り続けていた甲斐があったというものです!」

「いや、内心どころか思いっきり声にだしてたやん。特訓中もずっと叫んでたやん。」

 

リインとデプスの会話を食事しながら聞いていたはやてだが、耐えきれずにツッコミを入れてしまった。

 

「そうだ、後で頑張ったご褒美に、お風呂でお姉ちゃんが体を洗ってあげましょう! この頃一緒に入ってないからちょっと寂しかったのです!」

「え、えぇ!? また!? ……姉さんがいいなら、いいけど……」

「なら決まりですね! 早くご飯食べちゃいましょう!」

「……急いで食べて喉詰まらせへんようにな。」

 

最近スルーされがちなはやてだった。

 

 

***

 

 そして、次の日。休日も終わり、八神家の面々もそれぞれいつもの生活に戻り、はやて、ヴィータ、シャマルは朝からそれぞれの仕事に出かけ、悲しみをおはぎによって乗り越えたシグナムもアギトと共に管理局へ行った。家に居るのはザフィーラと、デプスだけ、の筈だったのだが、今日はいつもとは少し違って、昼前の八神家には、リインⅡも八神家で時を過ごしていた。と、いうのも。

 

「……ごめんね、姉さん。こんなことで有給使わせちゃうなんて……」

「気にする必要は一切ないのですよ。 元々有給なんて有り余ってますし、リインが自分で望んだ事ですから!」

「でも、なんか、前もこんな事あったから……」

 

 八神家に来てから二度目の、デプスの体調不良だった。メンテナンス不足では断じて無い。シャーリーが手ずからメンテナンスに励んでくれているおかげで、むしろ機能面では以前よりも調子がいいと言ってもいい程に満たされている。だが、原因はそれではなく、昨日の無理な魔力行使の方だった。

 

 限界突破した状態での幾度とない魔力放出のツケが回って来たのだ。

なのはに聞いてみたところ、「それは一種の成長痛みたいなものだから、大丈夫だよ。むしろ、これからよく付き合う事になるだろうから、今の内に慣れておこう!」とのありがたいお言葉をいただいたので、大事に至る事は無いと分かっていた。

 

 だがしかし、大事にはならないとは言っても、問題はあった。魔力の成長痛、以後は魔力痛と呼ぶ。魔力痛の痛みは、体の芯からじくじくと痛んでくるもので、全身くまなく同じ痛みに苛まれることになる。筋肉痛と違うのは、痛みの範囲が常に全身に渡るという部分だ。筋肉痛であれば、痛いのは使った部分だけ。それならば生活に支障をきたすこともないだろう。しかし魔力痛の場合、どこを動かすにも刺すような痛みが襲って来るので、自力では何もできない様になってしまうのだ。横になって寝返り事すら億劫になる。

 

 その為、リインが、ばっと「リインがデプスの世話役を務めて見せましょう!」と立候補したので、そのままデプスが口を挟む隙もなく、皆が賛成して今に至るのだった。

 

「今日一日はなんでもお姉ちゃんにお任せするといいのですよ! デプス!」

「うん……ありがとう、リイン姉さん。本当に助かるよ。」

「ふふん、大船に乗ったつもりで任せたらいいのです! さぁ、何かしたいことはありますか? 絵本の読み聞かせですか?」

「い、いや、絵本は別にいいかな……。それよりも……」

「ん? どうかしたのですか?」

 

 何かを言いかけた後、しまったと言う表情で黙ったデプスに対して、リインが「お姉ちゃんなんですから、何も遠慮することはないんですよ?」と言いながら詰め寄る。

 距離を詰められて逃げ場を失った(元より動けないので逃げ場も何もないが、雰囲気の問題である)デプスは、観念したようにぎぎぎ、とぎこちなく寝がえりをうって、

 

「トイレに……行きたいかな。」

 

とつぶやいた。リインに見せないように痛みをかみしめて後ろを向けた表情は、羞恥と情けなさで半ば泣いていた。

 

部屋の空気が、かちんと固まった瞬間であった。

 




ようやくほのぼのに戻ってまいりました。次回、リイン、下のお世話もリリカルマジカルがんばr(ry

冗談です。すみません。眠気でちょっと頭がおかしくなってますね……デバイスがトイレってどういうこと?と思ったそこのあなた。あなたは正常です。作者自身にもよく分かりません!


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