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「あれがみんなの家なんだ……。なんていうか、その……色々と、おっきいね……!」
「だろー、自慢なんだぜ。」
あれから第一管理世界、ミッドチルダへ帰還したデプス達は、真っ直ぐにはやて達が待つ実家へと足を進めた。デプスもリインも、何だかんだいってヴィータだってこの行事を楽しみにしていたのだ。自然と家路につく足も早まるというものだ。
そして視界に映った一軒家。それをリインが
「あれが私達のお家です!」
と紹介した時は、救出されてから今まで何度も驚くことに遭遇したが、その中でもかなり大きい方の衝撃に分類されるだろう。
まぁ、よくよく考えてみれば、7人家族でお金持ちとくれば、こんなものなのかもしれないが。きっと一人一人に個室が用意されているのだろう、そう思えるくらいには大きかった。
「驚くのはまだ早いのですよ! なんとこの家、ベランダにビーチまでついているのですよ!」
「な、なんだってー!?」
「ほらほら、茶番はもういいから入るぞー。ただいまー、はやてー!」
またも明かされる衝撃の真実に体全体で驚きを表現するデプスだったが、ヴィータが鍵を使ってそそくさと家の中へ入ってしまったので空回り。どうすればいいかわからず固まってしまう。
「あ、まってくださいヴィータちゃん! ほら、行きましょう!デプス!」
「わわっ引っ張らないでよリイン姉さん!」
「善は急げ、です! ごちそうが、幾多のごちそうが私達を待っているのですよー!」
困惑するデプスの腕をひし、と掴み、玄関へと吶喊するリイン。デプスも叫びながらもその表情に浮かんでいるのは笑顔である。
「おかえりー、リイン、それにデプス。こうして直に会うのは初めてやな。私が八神はやてやで。」
そう言ってエプロン姿でデプス達を迎えてくれたのは、この家の家主、八神家の大黒柱、はやてである。短めの茶髪を揺らしながらこちらに手を振る姿は、とても家庭的で、デプスを安心させた。しかし、既に映像で顔は合わせていたものの、こうして実際に会ってみると、少し印象が変わってくる。思っていたより、少し背が低いとか。他にも――――
(……すごい魔力量だ……)
最初考えないようにしていたものの、デプスは彼女を見た瞬間、そのけた外れな魔力量に本日3度目の驚愕を隠せないでいた。
うまく抑えてはいるようだが、それでもデプスにはその内に内包されていると考えられる魔力量を予想して頭を抱えたくなった。
「ん?どしたん?」
「あ、いや……その……はやてさんの魔導師ランクって……」
「あー……、SSやで。でもリミッターついてるし……えと、もしかして私、そんなに威圧感ある?」
「あ、いえ、そういうわけでは! ……ただ、なんていうか、こう……」
「デプス、デプス。はやてちゃんはですねー……裏で小狸とかよく言われているのですよ。もちろんはやてちゃんはとても良い人ですけど、交渉の時なんかは……」
この感覚をどうたとえたらいいのか分からず、もにょもにょと口をつぐんでいたデプスだったが、横からリインが身ぶるいしながら小声で耳打ちしてくれたことで合点がいった。
油断しているとつけこまれそうな、裏のある笑顔。
さっきの違和感は、無意識の内に感じ取った、この女性の恐ろしさだったのだ。
「……納得しました。」
「何に納得したのか即刻問いただしたい所やけど、今日のところは勘弁したるわ。」
「ひぃっ!」
あまりの恐怖に思わず隣のリインに抱きつく。
「ひゃあ! デプス! どうしたのですか!?」
「あ、うわわ! ごめんなさい!」
さすがに今のはデプスにとって恥ずかしかった。ビビって女の子に飛びつくとは情けないにも程がある。急いで離れて謝罪するが、当のリインは、
「全く、デプスは甘えん坊さんですね!」
とにこにこ笑顔。気にしていないのはいいことなのだが、さらに情けない気分になるデプスだった。
「ふむふむ。」
何か品定めするようにデプスを凝視するはやて。この人が切れたら多分冗談抜きで管理世界一つくらい軽く消し飛ばすんじゃないだろうか、と本能で感じ取ったデプスは、とりあえずこの人は絶対に怒らせないようにしようと心に決めた。
それに、リインがあんなに信用しきっているのだし。
悪い人や情の無いだったら、そもそもこうやって受け入れてはくれないだろうし、もっと違った使われ方をされていたはずだ。それが、家族として迎えられているのだ。余計な疑念は無用だった。
「ほら、いつまでもそうしてやんと早くリビングいこか。 皆待ってるで!」
「あ、はい! 行こう! 姉さん!」
「あ、あわわ! 今度はリインが引っ張られる側ですか!」
先ほどの意趣返しも込めて今度はこちらからリインの手を掴んで先へと進む。すぐに通路を抜け、リビングにたどりつくと、そこには―――
「おせーぞ! デプス! リイン! あたしはもう我慢の限界に来てんだよ……!」
おおきなテーブル、たくさんのごちそう、そして、こちらに向けられる10の瞳。
一斉に注目を浴びたデプスはそれだけで委縮してしまう。
(ほ、ほとんどの人がおそらく高ランク魔道師……!)
これだけの使い手の集団に一斉に注目を浴びるのは初めてのことで、デプスはどこに視線をやればいいか分からず、何も言えなくなってしまった。うしろからはやても入って来た。
何か喋らないと……どうしよう……と、考えがまとまらずに困っていると、手を強く握られる感触がした。
(大丈夫なのですよ。リインがついてるです。それに皆優しい人達ですから。)
顔を上げると、リインが微笑みかけながら念話をかけてくれた。
(……うん、ありがとう、リイン姉さん。)
この温もりがあれば、どんなことでも出来る気がする。リインが側にいるだけで、これほどの安心感が、自分を包んでくれる。リインの励ましに強い頷きを返し、こちらを注目する八神家の人達に向き直った。
「みなさん、今日からここでお世話になります、融合騎のデプスです! よ、よろしくお願いします!」
「おー、よろしくなー。」
と、既にデプスから視線を外し、テーブル中央に鎮座するハンバーグに狙いを定めながら返したのはヴィータ。
「私はシャマル。よろしくね、デプスちゃん。」
3日前に一度顔だけ合わせたシャマルもそれに続く。
「シグナムだ。今後ともよろしくな。」
「ザフィーラだ。」
初めて出会うシグナムとザフィーラは、無愛想ではあったが、身にまとう雰囲気は柔らかく、歓迎してくれているのは伝わった。ちなみにザフィーラは人間形態である。
そして、最後に。
「おう、あたしはアギトってんだ! 困ったことがあったら何でも聞けよな!」
と朗らかに笑うもう一人の融合騎、アギト。
彼女ともいろんな話ができたらいいな、と考えつつ、よろしく、と答える。
「よし、自己紹介完了やな!それじゃ、早速……新しい家族のデプス君の合流を祝って!」
「かんぱーい!」
あぁ、今まで何も面白いことなんて無かったけれど。
自分は、本当に幸せだなぁ。
と、そう考えないでいられず、感極まって涙まででそうになったが、そこはなんとか必死にこらえたデプスだった。
***
8人でテーブルを囲う食事はとても楽しいものだった。まぁ、8人とはいっても内3人は手のりサイズなので大した規模ではないのだが。シャマルやアギトがデプスについて質問したり、逆にデプスが八神家のことについて聞いたり。話題の種は尽きることがなかった。
「それにしてもよ。」
ヴィータがおもむろに言葉を発すると、皆がそれに注目する。
「リインがやけにデプスに過保護なのが見ててすっげぇ面白いんだよ。」
いきなりそんなことを言いだす物だから、飲んでいた水を盛大に噴き出すリイン。
「な、ななななな! そんなことはありません! 別に今までずっと末っ子扱いだったから頼ってもらえるとついついはり切ってしまうとか! デプスを見てると守りたくなるとかそんなことは決してありませんです! 断じて!」
盛大な自爆であった。
シャマルはあらあらまぁまぁと笑い、シグナムとザフィーラはほう……と興味深そうな声をあげ、はやてはふむ、と考えごとをし、アギトとヴィータは大爆笑である。
「あわ、あわわわわ」
脳内回路がショートしかけのリインは、真っ赤に染まった顔をデプスの方へ向け、
(デ、デプス! どうすればよいのでしょうか!)
と助けを求めるが、当のデプスはというと。
「……」
デプス自身も恥ずかしくなってしまい、顔を赤くして俯いていた。
(デ、デプスゥゥゥゥ!)
と念話で力いっぱい呼びかけると、ようやくリインの視線に気づいたが、何かを決意したような顔で
「そ、その……大事にしてくれてるのは……凄く嬉しいから……」
と、ずれた答えを返したのだった。
もうアギトとヴィータは腹を抱えて笑っている。
「うわわわわ、それはそれで嬉しいのですが今は羞恥心で胸がいっぱいです! 助けてはやてちゃん!」
最後の砦、マイスターはやてに泣きつくリインだったが、
「んー? あ、お幸せに?」
と返されてしまい、完全に後が無くなってしまった。
「あ、ああっ! リインはっ! リインは! ……きゅぅ」
遂に恥ずかしさの限界を迎えたリインの心は、意識を失うことでなんとかその均衡を保とうとしたのであった。
***
食事が終わり、リインの調子も戻ったので、誰が言い出したか、いつの間にかこの場はデプスのユニゾンお披露目会と相成った。
デプスは、特殊技能として、魔力波長をある程度変えられる能力を持っている。これによって、べルカ式の魔法を使う騎士であれば誰とでもそこそこの適正を持ってユニゾンできるという特性があった。
そしてここに居るのは全員が古代べルカの一流魔導師。ユニゾンできない理由などどこにも無かったのである。
ちなみに、流石に家の中で魔法を行使するのはマズイので、運動用のアリーナを貸し出してもらっている。どうやら前からこうするつもりだったようで、はやてが貸出申請をしていたらしい。
「ではまず私から行こう。」
そう言って前に出たのは、烈火の将、シグナム。一部からは戦闘狂と言われるほどのバトル好きとあっては、新しい力をいの一番に試さずには居られなかったのである。
「はい、シグナムさん、よろしくお願いします! 行きますよ!」
「あぁ、来い!」
「「ユニゾン・イン!」」
シグナムの身体が光に包まれ、現れたのは、金髪になり、やはり黒を基調としたバリアジャケットに変わったシグナムだが。
「うわぁ……うわぁ……」
「これぶっちゃけただのフェイトちゃんやんな。スタイルもどっこいどっこいやし。」
瞳を切れ長にして、剣を持ったフェイトにしか見えなかった。
髪の毛はポニーテールなものの、黒い装甲、長い金髪、そして誰もが羨むあの肉体美。
思いのほか似ている部分のあった2人を思い返して、はやては苦笑した。
「そのフェイトって人、そんなにそっくりなんですか?気になるなぁ……」
「こんど見せてあげるのです。きっとびっくりしますよ! 呆れるほどにクリソツですから!」
「ふむ……だが、この感じ。これはいけるな……。」
「えぇ、シグナムさんと俺は結構相性いいみたいですね。初めてのユニゾンなのに、よく馴染んでますよ。」
デプスはユニゾンした感想をシグナムに伝えると、シグナムも頷き返す。しかしその瞳は既に前を見据えており、もう戦う事で頭がいっぱいのようであった。そしてそれは、デプスも同じ。自分の力を、彼らに示してみたい。彼らの力を、肌で感じたい。そんな思いが彼の中で駆け巡っていた。
「では、御託は抜きにして……早速いきますか!」
「あぁ、全力でやらせてもらうぞ。」
「ザフィーラ、気をつけろよ。アイツ、ホントに速いから。」
ちなみに力を試す為にユニゾンした人と残りのヴォルケンで戦うことになっている。ただ、近接タイプではないシャマルは今回除外しているが。
「それでは……始め!」
はやての号令と共に、戦いの火蓋が切って落とされた。
***
「「疾風迅雷!」」
唱えた瞬間にシグナムの姿が周囲の視界からかき消え、気がついた頃には既に、
「っぐ……!」
首に届くギリギリの位置で刃を甲冑で受け止めるザフィーラと、
「だりゃぁぁぁぁ!」
シグナムに向かっていくヴィータの姿があった。
疾風迅雷は、いわばソニックムーブの上位互換魔法である。魔力消費を増やした分、得られる効果も段違いに大きい。その代わり、身体にかかる負担も大きく、あまり乱発はできないのだが。
ヴィータだけはこの速さを身を以て知っていたので、前方のザフィーラが狙われることを予想し、のっけからザフィーラの前に攻撃を放っていたのである。事実、その狙いは的中し、ドンピシャのタイミングで攻撃に移る事ができた。
一方、攻撃を放ったシグナムもシグナムで、予想以上の速さに剣をふるうタイミングを逃してしまい、結果的にザフィーラに攻撃を防がれることとなってしまった。
そしてそのことを悔いる間もなく、ヴィータの鉄槌がシグナムに迫る。
(こいつは一撃でKOする!)
長期戦になれば膂力で圧倒的に勝っているシグナムが優位に立つに決まっている。それを防ぐためには、シグナムが行動する前に魔力ダメージでノックダウンさせること。簡単ではないが、やらなきゃやられる。カートリッジを二発消費し、特大威力の一撃をシグナムに浴びせ、一撃ダウンを狙う。
「「電光石火」」
だがそれはデプス達も織り込み済みである。ミッドチルダ式魔法で言うブリッツアクションにあたる電光石火を発動し、ヴィータの一撃の回避を試みる。が、
「させん!」
ザフィーラがバインドと共にレヴァンティンをからめ取ろうと動く。それを止めればヴィータに一撃を入れられ、ヴィータを止めれば剣を奪われるという状態に持ってこられていた。回避も防御もままならない状況。限りなく詰みに近い。
((やったか!?))
二人は同時にそう思ったが―――
「「纏雷(まといいかずち)」」
―――この声を最後に、二人の意識は飛んでしまった。
思ったより短い戦闘描写。本当に難しい。いつかうまく魅せられるような戦闘描写が描けるようになりたいものです。
そしてデプスの技名。ボルテックだったり日本語だったり、統一性どこいった。
リインは優しいお姉さんであろうとして必死に背伸びしてる感じを出せたらきっとりりなので一番かわいいキャラになるって俺は信じてる。
そして相変わらずヴィータは不憫。
デプスはめちゃくちゃはやてさんを警戒してますが、初対面でビビってるだけなので、実際にはやてさんが下心とかそういうものでデプスを受け入れた訳では決して無いので、あしからず。
感想、誤字脱字報告、お待ちしております。