みなさんこんにちは。デプス改め、八神デプスです。
今までリイン姉さんが八神家を案内してくれていたのですが、さっきから急に動きを止めたかと思うと驚いたり赤くなったりの百面相を始め、遂には空中でうずくまるなんて器用なことをし出してしまいました。
「あの……姉さん?大丈夫?」
心配して声をかけてみると、
「……はっ! いけません!思考が迷走してしまっていました!」
とようやく再起動を果たしてくれたようで安心です。
「次はどこを見せてくれるの?」
先ほどはこっそりとシャマルさんの部屋に入り、机の下に隠してあったやおい本の位置を変えるという地味ないたずらを施してきたところです。
一仕事終えた時の満ち足りたリイン姉さんの表情がとても印象的でした。
「えっとですね、もうそろそろいい時間なので、お風呂にしましょう!」
「あ、確かに……もう夜かぁ、早いなぁ。どっちから先に入る?」
「そ、それは……うー……」
「姉さん?」
「と、とにかくついてくるです! さ、レッツGo!」
「え、えぇ!?」
何が何だか分からないままに姉さんに引っ張られていき、あっという間に脱衣所まで。
「ね、姉さん? まさか……!」
「お背中……お背中を! お流しするのですッ!」
「……はいぃぃ!?」
とんでもない爆弾発言に、一瞬リインさんが何を言っているのか分からず、固まってしまいましたが、すぐに意味を理解しました。迷惑とは思いながらも、驚きの声を上げずにはいられませんでした。
***
「恥ずかしいのですか?」
「……いや、恥ずかしい訳じゃ……ないんですけれど……」
物凄い剣幕で迫るリインにの迫力に押され、どんどん後ろに追いつめられていくデプス。
なんとかここは説得しなければ、と気合を入れ直す。
「えっと……俺はあくまで融合騎で、機械の体ではありますが、それでも一応は男性型です。それに、研究所に居た時も、学習装置で以てそれなりの倫理観は培ってた、つもり。男女が共に風呂に入る、というか、裸の付き合いをするという事は、その、特別な相手では無くてはいけないと、そういう風に認識してたんだ。だから……」
「デプスにとってリインは特別ではないのですか?」
「……ッ!?」
壁際まで追いつめられ、こんなことまで言われて、デプスは声も出せなくなった。
自分がリインをどう思っているのか、きちんと考えはしていなかったけれど、少なくとも、大切な存在であることには違いない。何度も自分を救ってくれた、デプスに最も近くて、また、デプスが最も頼りにしている存在。……それは、ある意味恋人とかそういうものと言ってしまってもよいのでは――――
「リインにとっては、デプスは特別な存在です。初めてできた弟で、家族です。まだいろんなことに慣れて無くて、危ない所もいっぱいあって、教えてあげたいこともたくさんあります。それに、私はお姉ちゃんなんですよ……?」
「リイン姉さん……」
「せっかくお姉ちゃんになれたのに、弟の背中一つ流せないようでは、リインはいいお姉ちゃんではいられないのです!」
「……でも、恥ずかしいのならそんなに無理しなくても……」
「いーえ! ぜーんぜん恥ずかしくなんてありません!どうせデプスもリインもこんなちゃっちい身体ですし! デバイスですし! そこは気にするところじゃないのです! タオルだって巻きますし!」
「いや、気にするところだと思うんだけど……」
「リインもデプスも10歳未満なのですから問題はないのです! ……さっきも聞きましたが、デプスも恥ずかしくはないんでしょう?」
「まぁ、そうだけど……」
デプスはあくまで学習装置で倫理観を学んだだけなので、実感として知っていることは、実はかなり少ない。ただ、漠然と知識として知っているだけだった。正直に言ってしまえば、自分の体を見せることに抵抗はない。ただ相手側がどう思うのかを考慮すれば、いい事ではない、ということは知っていた。
「リインだって同じなのです!」
「え、いや、さっき……」
「同じ! なの! です!」
「うわっ!」
またもやリインに腕を引かれ、すぱーん!と脱衣所から風呂場へと放り込まれてしまったデプスは、もうどうにでもなれ、と一切をリインに委ねることにした。
リインが自分を特別と思ってくれているのなら、それはそれで嬉しいのだし。
リインはお姉ちゃんだから大丈夫、お姉ちゃんだから大丈夫、家族だから大丈夫、と後ろで念仏のように唱えているが、本当に、無理しなくてもいいのに。
一瞬でも、恋人だの何だのと考えてしまった自分が恥ずかしい。
ちなみに、デプスは今までバリアジャケットで過ごしていたので、服を脱ぐのも一瞬である。
食事の時にはやてが「リイン達の服はみんなオーダーメイドやからなぁ。デプス君のはちょーっと用意遅くなるかもしれへんわ、ごめんな?」と言われ、あの時は慌ててそんなお気遣いなく、と返したが、周りが服を変えているのに自分だけバリアジャケットのままでは、それは確かにだめかもしれない。
「リイン姉さん、ついでにタオル頂けるとうれしいな。」
「はいです。」
「ありが……姉さん、なんで桶を?」
「むぅ、レディーのこんな姿を見で最初に言う言葉がそれですか!」
タオルを手渡され、後ろを振り返ると、タオルを身体に巻き、人間が使うサイズの風呂桶を魔法で浮かしてこちらに持ってきているリインの姿がデプスの目に映った。
「あ、ごめんなさい。……でも、あの、なんて言えばいいか分からなくて。」
とりあえずタオルを腰に巻きながらリインに謝るが、デプスは桶から目が離せない。
「……まぁ、許してあげるのです。正直リイン自身なんて言って欲しいのかよく分かりませんですから!」
そう言いながら、リインは魔法で桶を操作し、浴槽に溜まったお湯をすくってどすんと浴場の地面に置いた。これで、あぁ、とデプスも何をしていいたのかを理解する。
「確かに普通の浴槽だと、僕らにとっては底なし沼に等しいよね。」
「下手したら溺れ死ぬのです! これで充分広いし快適なのですよ。」
八神家では、融合騎達のためにたいていの日用品はサイズダウンしたものもセットで置いてある。タオルにしたって、切り抜いて縫いなおした物を使っているので、はやてとしては一枚のタオルで何回も使いまわせるので楽だ、と言っていたのをデプスは思いだした。
だが、流石に浴槽はそうともいかず、桶を使っているのが現状だ。まぁ、アギトもリインもそれで十分満足しているのでもうこれでいいかということになっているらしいが。
「ではデプス、後ろを向いてください!」
「はーい。」
二人は浮遊しているので、椅子などは必要がない。身体を洗うのも空中だ。
(2人からすれば)巨大な容器の隣にこじんまりと置いてある融合騎用のボディソープをタオルにつけ、ごしごしと泡だててデプスを磨く(?)。
案外に慣れた手つきで手際よく洗っていくリインに、デプスは少し意外に思い、「アギトさんともよく入るの?」と聞くと、
「はいです! アギトとはよく洗いっこするのですよ! でもアギトはお姉ちゃんなのか妹なのかよく分からないのがリインの目下の悩みなのです!」という答えが返ってくる。
「あはは、そうなんだ! でもアギトさんも頼れるお姉さんって感じがしたけどなぁ……」
「確かにしっかり者なのですが、あの子はアレで結構おこちゃま思考なところがあるのです! いい子はいい子なんですが、たまにどっちがお姉ちゃんかで論争になるのですよ……!」
「へぇ……」
「あ、今度デプスに判定してもらいましょうか。アギトにも背中を流してもらって、うまかった方がお姉ちゃんです!」
「判定方法背中流しなの!?」
いいお姉ちゃんの条件がどういうものなのかよく分からないが、融合騎みんなで入るならアギトはどこに行ったんだろう、と、デプスはふと疑問に思った。
「そういえば姉さん、アギトさんは?もう入ったのかな?」
「はい、さっき念話で【アタシは先に入ったからね】って言われたので……」
「いや、まぁ……一緒に入ろうとするのがおかしいもんね。」
「おかしいとは何ですか! どうせデバイス同士なんですから変わりません!」
「そういうものなのかなぁ……」
「そういうものなのです!」
やはり、学習装置で学んだだけの知識と、実際に社会に出て生活して得た知識では、色々と違いが出るものなんだなぁ、とデプスはしみじみ思いながら、生活歴の長いリインの言うことなら、きっとそれが正しいのだろう、と結論づけた。
「ささ、洗い終わりましたよ! そして私もデプスを洗いながら同時に自分の体も洗っていたので準備は完了です!」
「え!?」
驚いて思わずリインの方を振り向く。話しながら自分と相手の体を同時に洗うってどういうことだ、と思いながらリインを凝視していると、
「魔法を使えば簡単なのです!」
という答えが返って来た。要するに、自分の方は遠隔操作でタオルを動かしていた様である。
あぁ、と納得し、さっそくお湯を張ってある、手のひらサイズである融合騎の体に丁度合うように選ばれた大きさの桶に身体を沈める。
「ふあぁ……気持ちいいなぁ……」
「ですねー……はふぅ……」
リインもそれに続き、ぐでー、と身体の力を抜いてだらける。いくらデバイスとはいえ、身体を支える骨格や筋肉、人間の内臓の様な役割を果たす器官もあるのだ。身体をほぐし、動かしやすくすることは案外重要なのである。
「デプス」
「どうしたの? 姉さん」
「……これから、いっぱい、いっぱい、楽しいことがあります。色んな幸せなことがあると思います。」
「……うん。」
「デプスは、初めて出会った時、俺なんかー、なんて言ってましたけど、そんなの全然関係ないのです。幸せを享受するのに、資格もなにもありません。幸せなら幸せで、いいのです。」
「……うん……」
「それに、私達は、皆を幸せにできる力があるんですから。幸せなら、その分皆にも幸せをおすそわけすればいいのです。何も迷ったり、遠慮する必要なんてないのですよ」
「力って……」
デプスは、ユニゾンのこと?と口を開きかけるが、
「えぇ、前も言いましたけど、笑顔が私達の一番の力なのです!」
と、リインが言葉を繋げたことにより、自分がまた変な勘違いをしたことに気づいた。
「あ……」
そしてリインを見れば、にこにことこちらに笑みを向けてくれていて。
リインの笑顔には、確かにあれから何度も助けられてきたな、と、何度目かの確認をして、その答えが出てこなかった自分がまた恥ずかしくなった。
「うん、やっぱりリイン姉さんはいいお姉ちゃんだよ。こんなに頼りになるんだもん。」
「ふふん、もっと頼るがよいぞ、です! それがお姉ちゃんの義務なのですから!」
「あははっ」
リインといると、最後には絶対に笑っていられる。
本当に、凄い力だなぁ、と思いながら、談笑を続けるデプスだった。
***
「なんや……アレやなぁ……もっと青春してる甘酸っぱい感じの雰囲気になると思ってたんやけどなぁ……」
「リインもデプスもデバイスだもんなー……忘れがちだけど。」
「その辺りは、やっぱり私達の感性とは違うところがあるんでしょうね。」
「別にアタシもデプスと風呂に入ったところでって感じだしなぁ。」
「そうなのか?」
「うん。そう言うのに興味ねーし向こうも無さそうだし。」
ここは八神家脱衣場。隣の浴場ではリインとデプスが桃色封時結界を展開している。
そこに集まったのは、5人の男女と1基の融合騎。はやての策というかいたずらのようなものにより、デプスとリインを2人で風呂に入れることには成功したが、デプスがあんまり初心でなかった為(若干違うが)、思ったようなギャグ展開にはいかず、普通にいい雰囲気になってしまったのが悔やまれる。
ちなみに、中の様子を確認する為にサーチャーを飛ばすとモロバレなため、全員が古代べルカの超絶技巧により完全に気配を殺して脱衣場に潜みながら二人の声を聞いていた。
完全に技術の無駄遣いである。
それもそろそろ2人が上がりそうなのでお開きということになり、アギト以外の全員が微妙な顔をしつつ脱衣場を出て行った。
そして2人が上がって来た時には、何食わぬ顔でシグナムは新聞を読み、ヴィータとアギトは最近買った携帯ゲーム機で神の名を冠する化け物を喰らい、シャマルは洗濯物をたたみ、はやてはTVに視線を向け、ザフィーラは狼形態へと変身し、まるまっているのだった。
「あれ? 犬……?」
「そうやでー、さっきは小屋におってんけど、ザッフィーって言うねん、可愛がってあげてな」
「なっ! 主!?」
「そうなんですか? よろしく、ザッフィー」
「……お前も気づけ、デプス。」
「へ? その声……ざ、ザフィーラさん!?」
融合騎が相手でも初見では犬と間違えられたザフィーラだった。
もう自分でも何を書いてるのかよくわかりません。
いちゃこらって何なんでしょうね(白目)
リインとデプスはお互いのことを大切だと思っていますが恋とかではありません。
…今のところは。いえ、何でもないのですよ?何でも。
最初は八神家の盗聴にリインが気づいててはやてにおしおきするなんて展開も考えてましたが、うちのリインはそんな黒い子じゃないので八神家の皆さんには古代ベルカ式超隠密技能を習得してもらいました。
感想、誤字脱字報告、お待ちしております。