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「なぁデプス君、君の寝床だけど……」
夜も更け、そろそろ深夜にさしかかるかという頃、リビングでリインとお喋りしていると、シャマルが大きめの白い箱(?)の様な物を持って来た。
「おぉ、それはもしや!」
と、リインが飛びあがって箱に近寄り、物色するようにその周りをゆらゆら飛び回る。
「それは?」
「うふふ、実はね、あの通信のあとリインが『デプスハウスを作ってほしいのです!』って言ってね。」
「で、デプス……ハウス……?」
何なのだろうか。話を聞く限りでは、シャマルが持っている白い箱がその『デプスハウス』ということになるのだろうが、一応、八神家の一員として認めてもらった以上、デプスの家はここであり、決して箱では無い筈。
「リインハウスっていう、まぁ簡単に言うと、リイン用の寝室があるの。それのデプス君版ってこと。」
そういいながらシャマルがテーブルに箱――と思いきや、肩かけの様な物が見えたのでバッグだと言う事が分かった――を乗せる。
「ふっふっふ、これで姉弟お揃いなのです!」
「わっ!」
すると、リインが棚の方から魔法で黒いバッグをこちらの方へ移動させてきた。確かによく見ると、リインが用意した、ふわふわとこちらへ飛んでくる黒いバッグと白いバッグは色違いである事以外は同じデザインだ。リインや自分の身体より大きなバッグがどすりと眼の前に置かれ、思いのほかその音が大きく振動もあったため、一瞬だがデプスは跳びあがってしまった。
「えっと……姉さんとお揃いかぁ。……あれ? アギトさんは?」
「アギトちゃんは恥ずかしいとかなんとか言って拒否ったのです! 全く、折角気合い入れて作ったのにひどいのです!」
「そりゃあ了承もなく作ったら……って、え、これ、作ったの!? ハンドメイド!?」
「はいです! シャーリー渾身の逸品なのですよ!」
そのシャーリーさんというのが誰かは知らないが、こんな備品にまで力が入れられる八神家の経済力って……と感心していると、ある疑問がデプスの頭に浮かんだ。
「……え? 寝床……?」
「えぇ、リインはいつもここで寝てるのよ。アギトは嫌がってたから、特注のふとんを作ったんだけどね。リインがどうしてもーっていうから、こっちにしたの。」
「へ、へー……」
「ちなみにアギトハウスはアギトが赤いのもあって、内装まで真っ赤っ赤な仕様なのですが、もしかしたらそのせいでアギトは嫌がったのかも知れないと、今更ながらに思い返しております!」
「そ、それは一因になっていそうだなぁ……」
そりゃあ周り全部が赤で染まっていたら寝辛そうである。少なくともデプスがそんな状況に置かれれば、涙目で部屋の隅に三角座りを決め込んでいるであろう。
「で、でもでも、一回くらいお姉ちゃんの言うことを聞いて使ってみてもいいと思いませんか!? おかげでアギトハウスは一度も日の目を浴びることなくお蔵入りとなってしまったのです!」
「それは……まぁちょっとかわいそうだけど……シャーリーさんが。」
「え、えぇっ! お姉ちゃんとしてのプライドを傷つけられたリインはかわいそうではないと言うのですか!?」
「い、いや、そこまでは言ってないけど……そういえば、リイン姉さんは、僕より早く生まれたから、お姉さんなんだよね?」
「? はい、そうですよ?」
「その理屈で言えば、古代べルカ時代に生まれたアギトさんの方がずっとお姉さんの様な気がするんだけど……」
「……はっ!その発想はなかったのです!」
むしろその発想しかなかった。
リインは知りたくなかった真実を知ってしまった事でショックを受け、天から降り注ぐスポットライトと共にへたり込んでしまった。
「あぁ……何ということでしょうか! リインは、リインはずっと真のお姉ちゃんに向かって仮初のお姉ちゃん面をしてきたということなのですか!? 釈迦に説法とはこのことなのです!」
「うーん、微妙に違うと思う……」
「まぁ、八神家歴はリインの方が長いんだから、あんまり気にしないでもいいのよ。今のままの二人が一番なんだから。」
「しゃ、シャマルぅ……」
「あの、中身確認してもいいですか?」
このやりとりが段々と茶番に見え始めたデプスは、話の流れを変えるためにと、とりあえず中身を見てみることにする。
この大きなバッグの中がどうなっているのか、想像もつかないのだ。寝床と言うからには、ベッドなどが取りそろえれ荒れているのだろうか。
研究所に居た頃は考えられなかった、自分の為だけのベッド。ふかふかだろうか、腕は伸ばせるだろうか。
想像し、期待を馳せるだけで自然と顔がほころぶデプスであった。
「あ、あぁ、全然いいわよ。それはもう、デプス君の物だから。」
突然の質問に、あわてて取り繕うシャマルだが、すぐに元の調子を取り戻してデプスに向き直る。こういう切り替えの早さはリイン達と話していれば自然と身について行く物である。
「おぉ……」
「中はかなり快適な仕様になっているのですよ!」
早速スポットライトから復帰したリインが得意げに言う。
確かに一見狭そうに見えた外観とは裏腹に、中は身体を伸ばして寝がえりを打てる程度には広く、服をかけるハンガーもある。床の方も、もこもこしたシーツが敷かれているようで、肌触りもよさそうだ。
「前はもうちょっと小さかったんだけど、最近グレードアップしたのよねぇ……」
「そうなんですか?」
「えぇ。まぁ、持ち運びにくくはなったけど、別にそんなに動かすことは無くなったしね。」
懐かしむシャマルから話を聞けば、どうやら稼働初期の頃、リインはかなり寝る時間が多かったらしく、かといってはやての側から離れる訳にもいかず、折衷案として考え出されたのがこのリインハウスで、はやての仕事中に眠くなった時には、そこで眠っていたらしい。
なので、持ち運びが楽なように、広さは最低限で、持ち歩く際の衝撃もなるべく減らせるように頑丈な作りになっていたらしい。そして、今ではリインもすぐに眠るようなことは無くなったのだが、長い間使っているうちにその寝心地に慣れてしまい、むしろこちらの方がよく眠れるのだという。
「というわけで、改良を施したこのリインハウスⅡ(ツヴァイ)の効果をデプスにも味わってもらおうと思った次第です!」
「なるほど……」
デプスは、これまで寝床にこだわったことは無かった(というかこだわる余地が無かった)為、自分のサイズ用に調整を図られた個室でぐっすり眠るというのも、何だかとても素敵な事の様に思えた。
それに、リインとお揃いというのも、何となくうれしい。
「うん、ありがたく使わせてもらいます。ありがとう、リイン姉さん! あと、そのシャーリーっていう人にも、お礼を言っておかないといけないね。」
「はいっ! どういたしまして、です!」
「あ、それならついでに感想も一緒に言ってあげてね。シャーリーはデバイスマイスターだから、きっとそのうちあなたもメンテナンスしてもらうことになるわ。」
「あぁ、そうなんですか? ……って、デバイスマイスターに作らせたんですか、これ……」
「シャーリーは万能なのですよー。」
デプスの中のシャーリーさん像がわけのわからないものになって行くが、それは実際会えば分かることだと一旦思考の片隅に置いておくデプスだった。
***
「ふおぉ……!」
そして深夜になり、バリアジャケットの代わりにとリインのパジャマを今だけ借りることにして着替え。
新しい家族の皆にリインと二人でおやすみなさいを言ってまわり、デプスハウスとリインハウスが置いてあるリビングへと戻ったところ、忙しない姉は「リインは隣で眠っていますので、何かあったら起こしてくれても構いませんよ!」と言って、さっさとリインハウスへ入って行った。
「それではおやすみなさいです!デプス!」
そう言い残して箱の蓋を閉めてしまったリイン。部屋の隅では、既にマットの上で狼形態のザフィーラが静かな寝息をたてている。
先刻犬と間違えた際、「我は犬ではない。我はあくまで守護獣、その素体は、狼なのだ……!」と必死に弁明してはいたが、そんな扱いを甘んじて受け入れてるから犬扱いされるんじゃ……と思わないでもないデプスだった。
ちなみに、この後デプスは、ザフィーラが食事の際にも基本的には狼形態で床に配膳された料理を食べていることを知ることになるが、それはまた別の話。
そして、眠るザフィーラを一瞥した後に、実は内心楽しみにしていたデプスハウスの寝心地を見るために中へ入る。そしてそのままもこもこした毛布に突撃して出た声が先ほどの「ふおぉ……!」である。
「こ、これは想像以上だなぁ……」
身体全体が毛布に沈んでいく。まさに低反発。思っていたよりも毛布は厚かったようで、ぼふっ、という音と共に身体にふとんのぬくもりが伝わってゆく。まさに優しく包まれるような感覚。いけない、これは癖になりそうだ。もう出たくない。リイン姉さんが逸品というのも頷けるものだ、とデプスは思う。
「しかも時計までついてる……」
パッと見では気づかなかったが、壁にかかったモニターにはデジタル時計が内蔵されていた。しかも目覚まし機能までついて、至れり尽くせりである。シャーリーさんの腕前は、デバイスマイスターの名に恥じない物なんだろう。……やっぱり、技術の無駄遣いな気もしないでもないが。というか、シャーリーさんが八神家に顎で使われてないか心配だ。
とりあえず、朝の早めの時間に目覚ましをセットしてみる。音楽か効果音かの選択機能まであり、ますますシャーリーへの評価が微妙なものになっていくデプスだったが、それもふとんの心地よさで段々と薄れてきた。
「あれから色んなことがあったなぁ……」
まだ引き取られて3、4日しか経っていないのだが、まず、家族がたくさんできた。リインに色んなことを教えてもらった。自分がまだまだ全然、笑えるほどに力不足だと言うことも分かった。そして、家族というつながりが、とても温かいものだということを知った。
本当に、とても濃い数日間だったと思う。色んな物が視界いっぱいに広がって、何からすればいいか分からないくらいには。
これから、自分はどんなふうに変わっていけるだろうか、とか、それも、リイン姉さんと一緒だったら何とかなる気がするなぁ、とか、そんなことを考えているうちに、デプスはまどろみの中へとおちてゆくのだった。
***
「さてさて、デプスはよく眠れてますかね……」
リインハウスⅡへと入ってから数十分。デプスが新しい環境でちゃんと眠れているのか少し不安に思ったリインは、思い切ってデプスハウスへ突撃するという作戦を画策していた。
リインハウスⅡから音も立てずに這い出て、デプスハウスの蓋を開く。
「……ふふっ、ぐっすりですね……」
そして、ちゃんと中で気持ちよさそうに寝息をたてるデプスの姿を確認する。どうやらリインの心配は杞憂だったようである。
「気に入ってくれると嬉しいんですけどねー。よいしょ、おじゃましまぁす……」
と言いながら、デプスハウスの中へ入るリイン。
「ふふ、寝顔もばっちり見せてもらいましょう」
と、デプスの隣の位置へと寝転ぶ。
広くなったとはいえ、二人分は流石にすこし窮屈ではあるが、デプスの寝顔も見れるので良しとする。
「お肌ももちもちで……ふあぁ……」
デプスが目を覚まさないことをいいことに、好き勝手にデプスの顔をいじる。つついてみたり、引っ張ってみたりするが、案外デプスの肌が良く伸びるので、楽しくなってまたリインは笑顔になった。
「これだけやって目を覚まさないということは、きっと……デプスも気に入ってくれたのですよね?」
深い眠りの中に居るデプスのことを思い、くすりと微笑む。その寝顔は安らかで、心の底から安心してもらえているのだと、リインにも察する事が出来た。
彼は、今までどんな人生を送って来たのだろうか。
すやすやと寝息を立てるデプスの半生に思いを馳せる。辛かったと、言っていた。具体的にどんな事をされてきたかまでは聞いていない。しかし、彼が一人取り残された研究所は、管理局の暗部とも言うべき、危険な場所。
人間ですら権利を失いかねないそんな場所で、研究材料となったたかが一デバイスの扱いがどんなものになるのかは、少しだけリインにも想像ができた。
「安心、してくださいね。リインはこれから、あなたのすぐ横に居ますから。」
そっと横顔を撫でると、「ん……」と身じろぎするデプス。そんな様子を見て、もっと温かい気持ちになっていくリイン。
「ふあ……なんだかんだでリインも結構限界が近いのです……」
何せ本来はもっと早く寝ている筈だったのを、デプスが心配で様子を確認するまでは、とずっと起きていたのである。この人をダメにする魔力を持った気持ちのよい布団の中で、だ。それを耐えきったのだから、もうこのままでもいいか、という気持ちがリインの中に表れ始め、結局それに抗いきれず、デプスの横で眠ってしまうリインだった。
ReinhouseZwei(リインハウスⅡ)。勝手に改良しちゃいました。アニメのままだと狭すぎる感があったので別にいいよね!って、それくらいの勢いで、やっちまいました。別に後悔も反省もしていません。
もうこのすぐ後の展開が透けて見えますね。ギャルゲかよちくしょう……
感想、誤字報告、お待ちしております。