いつの間にかボスになってた。組織は滅んだけど   作:コズミック変質者

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シンフォギアXVが最高すぎる・・・なんだあの神作画は。良すぎて目が可笑しくなったんじゃあないかって思っちまった。

そして来週で終わるジョジョ5部。とうとうディアボロの絶頂が終わる時が来てしまった。いいや、まだやれるはずだ!頑張れディアボロ!お前にはまだ無限の明日(地獄)が待っているんだ!



毎度お馴染み、こ ん な つ も り じ ゃ な か っ た


過去回想やるってよ。あまりにも突然だけど

どこから話すべきか。いや、どこから話すと言うより思い出すか?まぁ必要のないことは省いていこう。何分長いし結構負荷があるからな。整理も必要になる。

 

そうだな・・・始まりとして語るなら、私が自分自身の幽波紋(スタンド)を初めて自覚した時だったな。特典として私が手に入れた『ホワイトスネイク』は、自我がある幽波紋(スタンド)。精神の具現化である幽波紋(スタンド)に、さらに自我があるのはどういう原理か、ちょいとだけ興味を持っていた頃だな。

まぁ、結局分からずじまいだったけど。

 

それから、そうだ5歳頃だ。私の父親がギャングのボスだと知ったのは。前々からなんか怖いおじさん達が沢山家に出入りしてるな〜なんて思ったら、物の見事にホームラン決められた。しかもイタリア中を占める麻薬組織というダンクまで。

5歳になるまで気づかなかったのは決定的に知る機会がなかったのと、多分だけど普段は優しかったからな。ちゃんとした父親と呼べるようなことをしていた。遊んでと言ったら遊んでくれたし、確かにそこに愛情と呼べるものはあったのだろう。

鼻で笑っちまいたくなるほど、私の前の父親は人間臭かった。

 

まぁギャングのボスの娘ってことで、生活に不自由を感じた事は一切なかった。服は全部ブランド物で、私に合うものを呼び出したデザイナーが直々に採寸してくれる。食事だってリストランテがほとんど。

 

母親?さぁ。私が生まれてすぐ死んだみたい。自分で言うのもなんだけれど、私は冷たいんだ。何も知らない人間に対して、微塵も情なんて抱けないんだ。結構いるだろ?酷い震災をテレビで目の当たりにして、うわぁ大変だったんだなーって反応しか出来ない人間が。

こんな薄情さが前世からの物か、それとも今世からか確かめようはない。いや、そもそも確かめるつもりすらなかった。私の幸せ(フェリシータ)には私の為ということが全てだった。

 

この頃は、まぁ幸せだったんだよ。ギャングのボスの溺愛している娘という立場にいれた守られている状況。恐怖に怯えなくていい生活。一番気が休まっていた時間を過ごすことが出来たんだ。それが崩れたのは、5歳のある日、家に新しい家族が増えた日だろう。

 

その家族は少年で、私より6歳年上だった。まぁ予想通り、父親が若気の至りでズギュゥウン!!してしまって出来た子。どうやら母親の遺言で訪ねてきたらしい。そしてDNA検査は感動的なまでに一致。妾の子なんて知るか帰れ消えろって言えば良かったものを、父親はギャングに相応しくない人間臭さが発揮された。

 

この時点では特に何も思わなかった。ああ、また装飾品が増えたなって思うくらいにしか思えなかった。しかし、この時はまだ気付かなかったが、私と兄には決定的に相容れない、油と水がしっかりと分けられるほどの受け入れられない出来事があった。

 

私が、コイツを心底嫌いになったのはすぐの話だった。

 

兄は俗に言う、笑顔が素敵で正義感溢れる少年だった。テレビで流れる戦争問題に本気で心痛め、ヒーローが(ヴィラン)を捕まえたことを本気で喜んでいる。将来は絶対にヒーローになるんだって、くだらない夢を語って父親を困らせている。

それを見て、バカだなと思う。

 

イタリアにまともなヒーローは少ない。大抵が金目当ての屑ばかり。賄賂を渡せば金額分の犯罪を見過ごしてもらえる。そんなのばっかりだった。兄が応援していたヒーローだって、組織に金を渡されて闇取引の時間稼ぎをしていただけだ。

見れて良かったな小銭稼ぎ(ヒーロー活動)

 

 

 

 

12月頃だったな。ソレに気付いたのは、

 

 

 

 

「寒いな」

 

屋敷の中でも十分に寒い。手を擦って温めながら、早足で階段を駆け上る。急ぎの用事だった。外で活動してから、そろそろだと思って走って屋敷まで来たのだ。ここまで急ぐのに相応しい理由があったのだ。

この日、私の元に幽波紋(スタンド)DISCが届く日だった。この時の私はまだ全ての幽波紋(スタンド)があると思って、希望に満ち溢れていた。だってそうだろう?『ホワイトスネイク』を特典にすれば、大抵全ての幽波紋(スタンド)が手に入る。そう思うのはとても自然なことで、枚数制限があるという現実を知らない私はクリスマスの日にサンタから届いたプレゼントを心待ちにしている、精神的にも十分な子供だった。

 

急いでいたせいで、私は階段から足を滑らせてしまった。大変なことだ。滑らせた場所は踊り場の直後。このままでは後頭部から階段の角に頭を打ち付けながら転げ落ちてしまう。

 

だが私に焦りはない。当然だ、私には『ホワイトスネイク』がいる。私をありとあらゆる身の危険から守る存在が私の近くにいるのだ。自我がある『ホワイトスネイク』は私が出そうとするより早く出てきて、私の身体を抱きとめようとする。

 

「え?」

 

私は気付いた時には床に足をつけていた(・・・・・・・・・)。『ホワイトスネイク』に抱きとめられて丁寧に下に降ろされるわけでもなく、『ホワイトスネイク』は既に私の中に戻っている。私はどうやって床に足をつけた?私はどうやって幽波紋(スタンド)を戻した?

 

何も繋がらない。私が『ホワイトスネイク』に助けられるという過程が消え、助けられたという結果だけが残っている。ブワッ、と音が出るほど冷たい汗が私の全身から吹き出る。

この現象を知っているから。現象として体感したのは初めてだが、言葉に表す限りは紛れもないものだったから。

 

「『ホワイトスネイク』!!私を抱えて———

 

私は部屋の扉を勢いよく開けていた。まただ。また、起こっている。私は扉を開こうとはしていない。私を抱えて跳べと命令したんだ。誰が何故どうやって、時飛ばし(・・・・)を行っている?

丁寧に包装されている送り主不明のダンボールがあった。プチプチが巻きついている。それを『ホワイトスネイク』のパワーで引きちぎって、勢いよく蓋を開く。まず一番最初に目に入ったのは手紙だ。送り主は私を転生させた奴から。手紙の裏には入っている幽波紋(スタンド)の一覧表がある。一覧表を食い入るように見る。丁寧に部数ごとに分けられているがどうでもいい。

自分でもびっくりするほど、幽波紋(スタンド)の枚数が少ないことには驚かなかった。恐らく心のどこかで、その可能性を考えていたのかもしれない。もしくは今起こっている現象に夢中だったか。

どちらにせよ、答えは見つけた。

 

「ない、だと・・・?」

 

何度も何度も、目を血走らせながら確認する。だが何かの間違いなどでは全くなかった。どこか違う場所だったりとか、暗号的にあるわけでもなかった。正真正銘、そこには事実だけを物語っていた。

 

「キング・・・クリムゾンが・・・ない」

 

いいや、ある。先程から私に起きた現象が物語っている。それは、確かに『ある』のだと。

 

「私以外に誰か・・・幽波紋(スタンド)使いがいる・・・?」

 

それは、何としても認めたくない現実だった。時間に関係する幽波紋(スタンド)は否応なく最強に分類される。特に『キング・クリムゾン』は補助能力の『エピタフ』と合わせて使えば、防御力に関しては無敵と言って間違いはない。

幽波紋(スタンド)という誰にも見ることの出来ない絶対の有利性(アドバンテージ)は崩壊し、瓦礫から出てきたのは悪夢だった。

 

「誰が・・・誰が・・・私の『キング・クリムゾン』を使っている・・・。

 

 

 

 

誰があああああ、私の許可無く私の幽波紋(スタンド)を使っている!!!!!」

 

 

この時、私に初めて『恐怖』が生まれた。一方的に殺されるかもしれないという恐怖が。そしてこの叫びは初めてマトモに自覚した恐怖を払拭したいが故の行動。

勝てない。相手が本当に『キング・クリムゾン』の全てを掌握していたら、『矢』がない私ではどうやっても勝つことが出来ない。

あらゆる攻撃は『エピタフ』によって事前に見切られ、時の消し飛んだ世界に私は入門できない。

 

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」

 

 

未来の映像を見て狂乱したドッピオのように、幽波紋(スタンド)の腕を振り回し叩きつける。貴重な絨毯には穴が開き、使い込んだゲーム機は破壊され、ベッドは中身が飛び出て、お気に入りのバンドが使用していたギターは木屑になった。それでも私の恐怖は消えない。あらゆる全てが、私を恐怖へ誘うように見えてしまう。

 

「どうしました、お嬢様!?」

 

私の3歳の頃からの護衛兼世話係が突然の破壊音に気付いて入ってくる。入って目を剥いただろう。何せあれだけ私の趣味に溢れていた部屋は無惨なまでに破壊され、私は髪を振り乱して息も荒くしているから。

 

「近寄るな!!」

 

護衛が私に近づいてくるが、私は叫んで離れる。誰も信用することが出来ない。全てが敵で全てが恐怖なのだから。ドタドタと慌ただしい音がする。屋敷中の奴らが来ているのだろう。

 

ああ、分かるぞ分かったぞ。この屋敷の範囲内。私の感知圏内に近寄ってくる奴が。顔も名前も分からんが、確実に誰かが来ている。そう、来ていると音などの五感ではなく第六感(・・・)で理解出来る。殺人鬼が殺人鬼と出会って、ああコイツは同類だって思うよりも強いものがあったんだよ。

さぁ、誰だよ来いよ。姿を現せ私の恐怖。

 

お前じゃない、お前じゃない、お前じゃない、お前じゃない、お前じゃない、お前じゃない、お前だ。

 

人波をかき分けて私の元に近寄ってくる、ガラの悪い連中に混ざる子供。ああ、そうだろう。大抵、セオリーとしては恵まれた環境が用意されるモノ。物語として書き表せば、必ず一人はいる、聖人のごとく輝く精神。

状況も環境も私だけが特別なのではない。コイツもまた、特別だったんだ。

 

「どうした!?何があったんだ!?」

 

なぁ、私の兄。なんとなくだが分かったよ。お前なんだろ、幽波紋(スタンド)使いなのは。お前の幽波紋(スタンド)と私のDISC、

同時に出現したとしても何もおかしくない。それどころか当然だって思えちまうよなぁ。お前がこの家に来たのだって幽波紋(スタンド)使いが引かれ合うのなら当然のこと。出来すぎてるほどにクソッタレな事じゃあないか。

 

ああ、お前が私の肩を掴んで改めて分かったよ。実に精神エネルギーに満ち溢れ、力が溢れてしょうがなさそうだな。羨ましい限りだよ。

ああ、酷く不快だ、私の恐怖がこんな身近にあっただなんて。それもこんないけ好かない奴が、だ。

 

コイツは私が思っている以上に良い奴なんだろう。状況が状況なら何処ぞの聖者のように自分の腕の肉を飢えている者に喰わせるくらい。誰からも好かれ尊敬され、未来を有望視される希望の子。身に宿る力を、正真正銘他者のために振るえる正義の味方。誰かに明るい明日を見せてあげられる人間なのだ。私なんかよりもよっぽど価値ある人間なのだ。

 

だが殺す。

 

尊厳を願いを想いを夢を希望を明日を尽く踏み潰して壊して砕いて陵辱し、理不尽な苦痛と涙と狂騒に染めてやる。理念も理想も理屈も理由も利害も、何もかもを知ったことか。私の世界は私で回っている。私の人生の主役は私なのだ。そして私の人生にお前という配役(スタンド使い)はいらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2年前、私の部屋で起こったあの惨劇は、私の個性の暴走ということで片がついた。元から、顔の変化の個性はほとんどあってない様なもので、別に個性が現れたから褒められたいなんていう、子供の発想がない私は父親には報告していなかった。一般的に5歳までには個性が発現する、というのが役に立った。ギリギリまで潜んでいた個性が発現すると同時に暴走というのが、よくある話だったおかげだ。

あれから個性の暴走(スタンド使用)はほとんどしていないため、父親も兄も私が個性を制御していると思っている。

 

私はアイツが幽波紋(スタンド)使いということが分かってから、屋敷から外に出る機会が多くなった。理由は勿論、アイツと一緒に居続ければどんなボロを出すか分からないからだ。

アイツはくだらないことでもすぐに幽波紋(スタンド)を出す。まるであたかも個性があるかのように見せつけている。物を浮かしたりな。

 

しかし私の目に映る『キング・クリムゾン』が可愛らしい小物を持ち上げているようにしか見えないのが本当に辛い。涙すら出てきてしまう。

 

奴はやはり本気でヒーローになる気でいた。社会のゴミから生まれた穢れた存在がヒーローになるなど、笑えもしない話だ。いい加減自覚しろ、現実を見ろよ。

最近になってヒーローにマトモなのが増えてきたのか、賄賂が通じないのが増えているらしい。それで掃いて捨てるほどいる下っ端の連中が逮捕され続けているらしい。父親の機嫌が悪いのも、最近自由に動けなくなっているからだろう。

警察とヒーローがずっとマークしているのだ。自然と口も悪くなる。

 

殺そうと実行したことは無い。殺そうとしたところで補助能力の『エピタフ』が危険を察知する。そもそも殺す前に幽波紋(スタンド)を回収するのも必要だ。アレは本来私のために用意された幽波紋(スタンド)。必ず私の手元に戻さなくてはならない。

 

時間が無いのだ。アイツがいつ気づくか分からない。家のことも、私のことも、だ。『キング・クリムゾン』に敗北はない。レクイエム(矢の力)という想定外すらも通り越した、正真正銘の正体不明でもない限り、決して正面から勝つことは出来ない。

 

いつアイツが幽波紋(スタンド)使いである私の気配に気づき出すか。時間との勝負になっている。

 

アイツが幽波紋(スタンド)使いということに気づくか、もしくは家の事を警察にでも告げてしまえば私の負けだ。前者は最早敗北に近く、後者は私が生きる限り永遠にギャングの子供というレッテルを貼られ、後ろ指をさされ続ける人生だ。

 

殺すタイミングがない。屋敷には常に誰かがいるし、殺されていようものなら私が疑われかねない。既に私は力の暴走という失態を犯している。

 

しかし、今日ようやく来たのだ。待ち焦がれたこの日が。2年間、恐怖という首輪に繋がれ、犬のように生きなければならない運命から解き放たれる日が。

一ヶ月前に手に入れた部下が優秀で、状況を用意してくれた。私がアイツを始末して、誰にも私という存在がバレることなく、この身に付き纏う『恐怖』から逃れ、一時とはいえ確実に手に取れる『平穏』を、ようやく手に入れられるチャンスが。

 

決してこの機会を逃がさない。確実に私の手で、始末を付けてやる。

 

 

 

 

 

 

 

手にした機会は夜だった。日付なんてとうに変わっている。時計の長針が二回ほど回った頃か。窓から差し込む月光は、明るく部屋を照らしている。素晴らしい満月だ。庭にある噴水から聞こえる流麗な水温が耳を癒してくれる。

 

「・・・来たか」

 

アイツが近づいてくる。階段を上って廊下を曲がった角のこの部屋にまっすぐと進んでくる。既に準備は済んでいる。『キング・クリムゾン』の攻略は、既に出来ている。私に敗北はない。

 

コンコン、とノックしてくる。入ってくれと静かに言うと、まぁ間抜け面を晒しながら入ってきた。

 

「こんな夜更けに、用事ってなんだよ」

 

「まぁ座れよ。ワインでもどうだ?1960年の良い奴が入っている。きっと香りも最高だ。熱々のチーズを乗せたピッツァに良く合う一本だが、一杯どうだ?」

 

「遠慮する。ていうかお前はまだアルコール飲んじゃだめだろ」

 

「当然だ。私は飲めない」

 

ジョークだバカ。そんな真面目に返すな、カッコつけたのがバカみたいで恥ずかしいだろうが。

 

「お前がここに来て、2年か?早いものだ。まるで全てが昨日の出来事のようだ。それだけ、時の進みとは感覚としては遅いものなのかもな・・・」

 

ああ、本当に遅い。というかマトモに進んでいないんだよ。恐怖の象徴と化したお前が存在することは、私の人生を進めていた歯車の妨げになっている。

 

「とりあえず、これを読んでみてはくれないか?」

 

「なんだ、ノート?」

 

机に置いてあったノートを渡し、コイツのことをじっと見つめる。私が見ていることに気付いてむず痒そうにしていたが、次第にその様子はなくなっていき、果てには顔色を変えて真っ青にしてガタガタと手を震わせる。

 

「う、嘘だ・・・そんな、ありえない」

 

その様子じゃ何も知らなかったらしい。どうよ、助走付きで叩きつけられた現実は。中々痛快なものだろう?私も、部下に調べさせたソイツを知った時はビックリしたよ。組織のビジネスがどこまで進んでいるのか。麻薬をやっていることは知っていたが、まさかここまで手を広げていたとは。

 

「麻薬だけなら、私は前々から知っていた。遺伝子と個性ビジネス(・・・・・・)をやっていると知った時は、まぁ流石に驚いたが」

 

遺伝子ビジネスなら分かる。前世に何かの作品でそれに関連する物を読んだ覚えがある。だが個性ビジネス。これに関しては全くもって計算外だった。

 

「・・・警察に、言おう」

 

「いいのか?相手はお前を引き取ってくれた、産んでくれた恩人で実の親だぞ?それに麻薬なんて、別に珍しいものじゃあない。少し歩いてみれば証人なんてわんさかいるぞ?」

 

「それでも!誰かが苦しんでいる。父さんが!誰かを苦しめている。そして麻薬にも手を出してしまっている!麻薬は人の尊厳を踏み躙る最低の物だ!それを見て見ぬふりをするなんて、ヒーローじゃない・・・!いや、人としてもそうだ。だから、だから俺が・・・!」

 

「自分に火の粉が飛び散ると思わないのか?この事を世間に知られれば、お前は夢を、ヒーローになるという未来に永遠に辿り着けないぞ?」

 

「構わない。たとえヒーローになる資格が無くなっても、目の前で悪事が行われて、ソレをこれ以上広がらないように食い止められることが出来るなら、俺の未来なんていくらでも断ち切ってやる。心だけでも、ヒーローでいたいから」

 

「ところで、だ。お前が正義に燃えているところ悪いが、後ろは取った(・・・)ぞ」

 

既に後ろには私の『ホワイトスネイク』がいて、拳を振りかざしている。避けることは、もう出来ない!

 

「え———!?こ、これは、幽波紋(スタンド)!?どうしてこんな所に!?」

 

「簡単だよ。お前を、始末するためだ!!」

 

「なっ!?来てくれ、『キング・クリム———ゾンッ??!!」

 

奴が幽波紋(スタンド)の名を叫ぶが、その前に拳は当たる。顔面にモロにクリーンヒットだ。顔が不思議に歪んでいるぞ?ああ、そうだよなぁ?おかしいよなぁ?だってお前は幽波紋(スタンド)を出して応戦したはずなのに、目の前にいる『ホワイトスネイク』を殴ったはずなのに、それはなんの感触もなくて、背後から痛みがあるんだもんなア!?

 

「くく、ひひひひ、はははははははははは!!!!バカみたいに熱中して読んでたよな、そのクソみたいなノートォ。もう既に過去の産物なのに、どうしようもない物なのに、まぁなんとも熱心にさ。

心だけでもヒーローになる!?バカじゃねぇのかお前はア!?既に私達は屑なんだよ!!屑から生まれた屑の中の屑。どうしようもないロクでなしの犯罪者予備軍でしかないんだよ!!

逃げられないんだよ私達は、私達が生きている限り!!過去はしつこくやってくる!!何度乗り越えたと思ってもその後ろからも、過去だけではなく未来からもやってくるんだから!!」

 

私の笑い声と共に、立ち上がったコイツの足を『ホワイトスネイク』が蹴り崩す。折れないように手加減はしたが、折れたと錯覚するほど痛いはずだ。崩れて四つん這いになる。なんとも、蹴りやすい体勢だ。

 

ありがとう。

 

「私たちにとって過去とは『恐怖』だ!そしてお前は私にとっての『絶望』そのものだ!私は今、その全てを乗り越え、二度と私の前に姿を現さないように今ここで、完全に砕き壊す!」

 

「くっ、『キング・クリムゾン』!!」

 

「何もかも遅いんだよ、お前はァァァアアアアアアア!!!!」

 

『ホワイトスネイク』の攻撃は何にも邪魔されることなく、コイツの腹を蹴り飛ばす。骨を折らないように、意識を飛ばさないように、なるべく苦痛を与えられるように、優しく手加減をしながら。

 

「どうして・・・『キング・クリムゾン』が・・・」

 

「『ホワイトスネイク』を知らないらしいな。いや、言う必要も無いか、お前のような愚者には」

 

既に一撃目、コイツが全く別の方向に『キング・クリムゾン』を出した時には全てが終わっていたのだ。コイツがあの時見ていた『ホワイトスネイク』は能力によって創り出された幻覚。本物の『ホワイトスネイク』は顔面を殴打した時に、『キング・クリムゾン』をDISCとしていた。子供でも分かる、幼稚なことだ。

だが家族の犯罪というどうしようもなく絶望的な事実は、コイツの頭を止めるには効果覿面だった。

 

「お前が幽波紋(スタンド)使いだと知った時、私は心底恐怖したよ。いつかお前が、私の前に立ち塞がるのではないかとな。『キング・クリムゾン』は強力だ。無敵と言ってもおかしくない」

 

『ホワイトスネイク』が息を止めないように首を掴みながら持ち上げる。これなら、いつでも殺せる。少し力を込めるか、もしくは触れている手から記憶DISCを抜くだけで、コイツを完封することが出来る。

 

そんな絶体絶命のヒーロー志望を見上げながら、先程『ホワイトスネイク』が置いた、DISCを手に取る。ああ、ようやく戻ってきた。『運命』はやはり私を選んだのだ。私が恐怖に怯えなくていいように、『運命』からの贈り物がようやく届いたのだ。

DISCを私の心臓に突き立てる。短剣を胸に押し付けて自殺するように、ゆっくりとだが正確に確実に、この幽波紋(スタンド)を刻み込むために。

 

「私は、『絶頂(平穏)』を手に入れる力を得た!」

 

DISCが私の中に入っていく。するとどうだ?精神力は溢れ出て、今までにない爽快感がある。これが恐怖を粉砕し、あらゆる試練を乗り越える為の力だ。

 

「パワーが溢れる。気分がいい。歌でも一つ歌いたくなるいい気分だ。これが、この世の全ての上に立つという感覚か。無闇に力を振るうことは好きではないが、ああコイツはいい。麻薬はやったことは無いが、きっと常用者はこんな気持ちになるんだろうなぁ!!」

 

突然興奮してどうなっているのか分からないって顔だな。まぁ当然か。第三者から見れば私は自分の心臓にDISCを突っ込んで、突然ハイになったヤバいやつに見えるからな。

だが仕方ないだろう。嬉しいんだよ。私を蝕んでいた恐怖の一つが完全に消えたことが。

 

「さぁ見せてやる。私の『キング・クリムゾン』を」

 

ゆらぎと共に『キング・クリムゾン』が現れる。私の身体によく馴染む。大抵の幽波紋(スタンド)は私に適合しなかったが、やはりコイツは特別だ。

 

「そんな・・・どうして『キング・クリムゾン』が・・・」

 

「察しの悪い鈍感君だな。私が、『ホワイトスネイク』の能力でお前から取り出したからだ」

 

コイツやっぱり6部を知らないか。もしかしてアニメ勢か?確か5部までは放送されていたはず。二巡目の世界である7部から読まないのはいいが、せめて6部までは読んでおけよ。

ああ、だから『キング・クリムゾン』だったのか。

 

「『キング・クリムゾン』は私の手元に、本来あるべき持ち主の元に戻った。さて、お前はどうするかな正義の味方」

 

『ホワイトスネイク』は手を緩めない。ギリギリと締めることもしない。ただ殺さず苦痛を与えている。

 

「殺すのが一番いいんだろう。ソレは何よりも確実で安易な方法だ。ディアボロも言っていた。血の繋がりというのは何よりも面倒なものだと。存在するだけで害悪と呼べるほどに。私はきっと、お前を殺すべきなんだろう」

 

「ぐっ———がああああああああ!!」

 

「喚くなよ、煩いだろ」

 

そんなに心臓を直で触れるマッサージが気持ちよかったのか、煩いくらいに悲鳴を上げる。虐めすぎたか、と思って止めれば、荒い息を吐きながら必死に酸素をかき集めている。

そこを、組み伏せる。

 

「2年間、恐怖の傍らでずっと考えていたよ。お前の殺し方、そしてお前という存在を最も貶める方法は何か。ただ殺して晒すだけなのはつまらなくないか?」

 

組み伏せられて下に向けられている顔を、髪を無造作に掴んで持ち上げる。その視線には敵意と疑問、そして痛みが内包されていることを教えてくれるが私の心には響かない。暴力はあまり好きではない。だが、残念ながらこれは過去を乗り越える試練であって暴力ではないのだ。

 

「お前も私と同じ転生者なんだろ?そうなら頷くんだ」

 

涙と涎と鼻水、およそ顔から出せるもの全てを出し尽くしながら体液を振りまくように顔を縦に振る。それにかからないように、近くに捨てられていた、組織が行っていた犯罪について書かれたノートを盾にする。

 

「恥知らずのパープルヘイズを知っているか?これはジョジョ5部の後日談のようなものでね。フーゴを主体として進められる『贖罪の物語』なんだ。そしてこの作品の中には面白いものがあってな、

それは『麻薬』だ。パッショーネという組織が禁じていた麻薬を、ディアボロは大量に流通させていた。驚くことにパッショーネが麻薬売買を始めてから、被害者は20倍に増えたらしい。

ここで疑問だが、どこから麻薬を持ってきたと思う?

麻薬は輸入も輸出も難しいものだ。だがそれ故に莫大な金銭を得ることが出来る。パッショーネはそれを20倍にも伸ばすという奇跡を行った。作中では魔法のようにどこからともなく現れるって語られてたよ。なぁどうやったと思う?どうやってそんな大量の麻薬を仕入れたと思う?

分からないわけないよなぁ。だってそういった訳の分からない不条理は、私達にはたった一言で片付いてしまうんだからさぁ。

 

そう、幽波紋(スタンド)だ。ディアボロは部下に、麻薬を作る幽波紋(スタンド)使いを持っていたんだよ。麻薬チーム、と呼ばれるグループだ。そのグループの要であり、4部に出ていた『トニオ・トラサルディー』の弟、『マッシモ・ヴォルペ』の幽波紋(スタンド)によって、岩塩だろうが海水だろうが麻薬になっていたんだよ」

 

正確には脳を刺激して麻薬の数十倍分の効果を引き出すというものだったが、それはどうでもいい。要は、これに麻薬としての性質があることこそが重要なのだ。

私は懐からDISCを取り出す。私が思う幽波紋(スタンド)として最悪の、最強ではないが能力としての最悪を取り出す。

 

「『ホワイトスネイク』は記憶や幽波紋(スタンド)といったものをDISCにする能力がある。記憶を抜けば抜いた量によっては植物人間になるし、幽波紋(スタンド)を抜けば今のお前みたいに無力になり、DISCに命令を書き込んでいれれば、書き込まれた命令は忠実に実行される。

ここに入っているのは記憶ではなく幽波紋(スタンド)。今しがた説明した麻薬を生み出す幽波紋(スタンド)『マニック・デプレッション』が入っている」

 

「ま、まさか・・・!?や、やめろ!やめてくれ!そんなことしたくない!!誰か!!誰か助けて!!!!助けてヒーロー!!助けてよ!!誰かああああああああああああああああ!!!!」

 

私が何をするのか理解したのか、声を荒げて叫んで喚き散らす。こんなギャングの屋敷付近にヒーローが来るはずはないし、屋敷の者達は全員出払っている(・・・・・・)。助けは、来ない。

 

「おいおい、コッチは感謝して欲しい気分なんだよ?わざわざ生かすっていう面倒で危険な方を選んで、殺さないでやるんだからさ、ありがとうございます、って涙しながら言うべきだろ?別にお前が生きていて、誰に迷惑がかかることじゃあないんだからさ」

 

とある命令の書き込まれた幽波紋(スタンド)DISCは既に半分以上が顔に挿入されている。これが全部入り切った時、コイツは命令通りに麻薬を生み出し続ける人形となる。

ヒーロー志望が転落を超えて堕落して麻薬作りにせっせと従事。なかなかの話になりそうじゃあないか。

 

「ああ、それと私がお前に新しい名前をやろう。メディシーナ()だ。いい名前だろう?これからお前は消える。物理的にじゃあない。存在が消えるのだ。過去の経歴も、人間関係も、痕跡も。何もかもが忘れ去られる。お前という人間は、最初から存在しなかったことになる。だが喜べ。これは、お前を守ってやるためだ。涙して喜んでいいぞ。妹に、ここまで尽くしてもらえるんだからなぁ。

 

じゃあな愚兄。ずっとお前のことが、嫌いだったよ」

 

残りを『キング・クリムゾン』にねじ込ませる。瞬間、コイツは喚いていたのが嘘のように静かになり、物言わぬ人形になった。取り押さえていたコイツから離れても動かない。まるで死体だ。息をしているだけの。

 

落ち着いて、私の行動を考える。振り返ることは大切だ。失敗を残して、そこから恐怖を生まないために。するとどうだ。顔は真っ赤を通り越して赤い絵の具をぶちまけたかのように赤面する。恥ずかしい恥ずかしい。コイツを人形にした事ではなく、先程までの吹っ切れたアホみたいな言動。ああ、ここに人がいなくて良かった。こんな自分は見られたくない。テンションが上がると変な方向に振り切れるのは悪い癖だ。少しくらいなら自覚はあった。

だが今回は積年の悩みを解決したのに加えて、待ち焦がれた幽波紋(スタンド)を手に入れたという幸福が大きすぎた。だからいつも以上に振り切れてしまった。

 

ああ、駄目だ。これを受け止めるだけの精神の器が出来ていない。よく小説で恥ずかしくて死んでしまいそうだ、なんて言うがあれは本当だ。恥ずかしくて死んでしまいそうだよ。

ていうかこれを今後も思い出し続ける、それがキツイ。思い出す度にこんな思いしなきゃいけないとか洒落にならない。

 

「『ホワイトスネイク』、私から・・・この記憶を奪って適当な所で、というか私の精神の器がこれを受け止められるまで完成したら戻してくれ。今は、無理」

 

 

 

 

 

 

 

 

———————————————————————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

 

この後めちゃくちゃ恥ずかしくなった。




飛ばし飛ばしになってすまない。

実はもっと書こうとしたこと、例えばスキューロとの過去話とかあったけど、明らかに字数がエラいことになるし、これ以上書き足していくと何を描きたかった忘れそうだったから、とりあえずはメディシーナと呼ばれた人間との記憶について。といってもボスが一方的に嫌っていたため、あまり関わりはありませんでしたけど。
文章量と文章構成の都合で、ね?

兄に関してはヒロアカ創作でみんな持ってるヒーローズハートが衛宮士郎クラスで持っているって思ってください。

ヒーロー志望に意志の有無関係なく『マニック・デプレッション』を与えて麻薬を作らせるっていうのはヒロアカで特にやりたかったことの一つです。 ただそれが兄になるとは思っていませんでしたけど。基本成り行きで書きたいことだけ書いてるので、この兄は4話位の時に思いついたぽっと出なのです。多分この時に恥知らず持ってたら出てませんでしたね。


そして耳郎ちゃんの強化案、皆さんありがとうございます。皆様の案はサポートアイテム、もしくは本人の技術で実現可能でヒーローが使ってもセーフなものを採用させていただきます。



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