いつの間にかボスになってた。組織は滅んだけど   作:コズミック変質者

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実家帰ろうと思って高速バス乗り遅れて・・・全てのやる気は失われた!!


もう私は主人公じゃないのかもしれない。主人公らしいことしてないんだけど

担任となった相澤消太に呼び出されて、始まったのは個性把握テストという想定外の物。オマケに誰かが、普段は法で規制されている個性の全力使用を楽しそうなんて言ったせいで、成績最下位の者は退学処分にされる。誰もが入学式やガイダンスを楽しみにしていた感情を裏切るようなことだが、学校の『自由』を売りにした校風が許さなかった。

 

雄英高校の語る『自由』には教員に対する自由も含まれている。しかもその範囲は思っていた以上に広いもの。教員の匙加減一つで生徒を退学処分に出来るなど、誰が想像できようか。

だが反論は許されなかった。雄英高校に入学してしまったことと、相澤からの正論が、緩んだ心を引き締めた。

 

耳郎はある程度、退学処分の予想はついていた。去年の生で見た雄英体育祭、不自然なことにヒーロー科A組だけはほとんど生徒がいなかったのを鮮明に覚えていたから。

 

教員全員がこうだとは思っていないが、たった少しの態度だけで雄英高校は、相澤消太という人間は退学処分を突きつける。プロヒーローからしたら、その些細な物さえも許されない。何故ならヒーローとして当然の事だから。雄英高校のヒーロー科であるのならば当然の事を出来なければ、ここにはいられないのだ。

 

個性把握テストといっても、やることは中学の頃もやっていた身体測定と同じ。それを個性を使ってやるだけのこと。誰にでもできる範囲の身体機能だけで望んでいた種目でも、個性ありだと突出したものが増えてくる。

 

「やっぱ・・・この個性じゃ速くはならないかな・・・」

 

「十分速いと思うがな」

 

50m走。走者は耳郎と障子。耳郎の個性『イヤホンジャック』では急激な身体能力の増加は見込めず、障子は異形型特有の高い身体能力を遺憾無く発揮する。

 

「うわ、握力500kgってゴリラかよ!いやタコの方が似てるけど!」

 

「耳郎は耳の個性で握るのか。思ったより便利なんだな」

 

握力測定では、やはり並外れたパワーを持つ障子が万力の如きパワーで規格外の数値を叩き出す。耳郎は片方の耳を伸ばして持ち手に巻き付けて思い切り力を込める。伸縮自在なこの個性は個人的に行っていた特訓で自分の体を吊り上げられる程度には鍛えられている。

 

測定は順調に進んでいる。その中で耳郎の記録はあまり伸びていない。それもそのはず。耳郎の個性は純粋な身体能力の強化ではない。伸びている記録は全て本来の使い方からズレた個性の応用。実技試験のような破壊力はサポートアイテムありきのものだ。

アイテムがなければ無力と言われるかもしれないが、そんなことは本人が一番理解している。

 

「おいおい、もしかしたらもしかするんじゃないのか」

 

「うっさい。アンタの方が記録低いでしょ」

 

「あいっだあ!そこ目!普通目やるか!?」

 

煽ってきてプラグに眼をつつかれた上鳴もあまり変わりはない。彼の個性は電気を蓄積して放出するもの。個性把握テストで使えそうなものは耳郎よりも少ない。というか最早ない。推薦入学の一人である轟焦凍と同じシンプル且つ強力な個性だが、彼の個性ほど応用範囲は広くない。

総合的な成績では少しだけ突出した記録がある耳郎の方が上だ。偏に煽ってくるのは入試一位というのが理由だろう。

 

「でも緑谷はヤベぇよな」

 

現在ボールを投げ、全く普通の、どこにでもある記録を出したクラスメイトを見る。始まってからずっと、彼だけは何の変哲もない普通の記録しか出していなかった。

個性を発動しようとしたらしいが、どうやら相澤に個性を消されたようだ。勿論それは一時的なものらしく、今は戻されて二回目の測定に移っている。

 

「確か、アイツだ」

 

「緑谷?緑谷のこと何か知ってるの?」

 

「いや、詳しいことは知らない。だが———」

 

至近距離で小型の爆弾が起爆したような小さな暴風。それを人体が起こしたものとは、到底信じられまい。いや、オールマイトのような超増強型ならば可能だろう。だがまだ子供の肉体で、この規模を出せるのは———

 

「緑谷が入試の時、0Pを殴り壊したのは知っている」

 

小さな嵐の中心にいたのは緑谷。唇を、拳を一生懸命握り締めて、声を振り絞りながら相澤の前に出る。計測器から出た記録は705m。一番最初に行った、何かと緑谷に怒鳴り散らしている爆豪よりも1m多い記録。

 

「うわ、痛そ・・・」

 

上鳴が引いたように言うが、確かにあれは引く。なんだあの指は。人間の指は、あそこまでズタボロになるものなのか?酷い内出血によって指は青紫に変色している。形からしても間違いなく折れている。まるで内部から破裂したような酷い状況だ。

だがこのパワー、障子が言ったことはあながち間違いでもないのだろう。今回は指だけだったが、これをもし全力で、腕全体で使用すれば。いや、もしかしたら指だけでも0Pのロボを破壊できたかもしれない。どちらにせよ、恐ろしい程、清々しくなるくらい強力な個性だ。

 

肉体を内部から壊す。その代償として得られるのは一度きりの諸刃の剣。あの様子ではどこまで肉体が壊れるのか把握してなかったのではないのか?そんな状態で、死んでしまうかもしれないというのに、どうして使おうと思えるのか。

 

ヒーローになりたい。誰かを助けたい。純粋にこれだけを夢見て行ったのならば狂気だと素直に思う。人はそこまで綺麗じゃない。純粋ではいられない。普通でありたいのなら、いてはならない。

 

案の定、爆豪は緑谷に襲いかかった。騙していたのか、虚仮にしていたのかと。荒れてはいるが素直な性格だ。自分の心を隠そうとしていない。少なくとも緑谷よりは好感が持てる。いや、緑谷よりも明らかに人間味が見える。

 

爆豪の襲撃は指一本触れることなく終わった。相澤のマフラーだと思っていた捕縛布に捕えられたのだ。雁字搦めになって動けなくなった爆豪を他所に、緑谷は保健室へ向かった。あの怪我で続けるのは苦でしかないし記録も何も残らないだろう。

幸いなことに、退学云々はなかったことになったようだ。皆の落ち着きようはそれはもう凄いものだ。

 

中には当然だと胸を張っている子もいたが、それは違うと反論しない。相澤は確実に、落とす時は落とす人間だ。入学したての今でも容赦なく慈悲なく。そこに優しさは一切ない。無慈悲な篩い落しは教師として、ヒーローを世に送り出す側の人間としての矜恃などが関わってくるのかもしれない。他に比較対象がいないのでよく分からないが。

 

 

 

 

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「シクリーザさんってヒーローのこと嫌いなんですか?」

 

出会って三週間程だっただろうか。出会い方としては最悪だったが、彼女との関係は不思議と続いていた。仲良くなったと言っていいのだろう。少なくとも、こうして待ち合わせをして話をするくらいには。

 

どこにでもあるチェーン店のカフェ。呪文のように長い品名を言うのは慣れているが、シクリーザさんは何度か噛んでいた。どうやらこういった場所にはあまり来ないらしい。悪い事をしたかもしれない。

 

「私が、ヒーローを?どうしてそう思ったの?」

 

「いや、結構それっぽいこと言ってますよ」

 

「ああ、違うよ。私は別にヒーローが嫌いなわけじゃないんだ。まぁ迷惑だとか色々言ってはいるが、それでもアレらのお陰で、今こうして平穏無事に居られるのも事実だ。私が嫌いなのは、オールマイトだよ」

 

オールマイトが嫌い。その言葉を聞いたのは初めてのことだった。今では誰もが尊敬し応援し敬愛するオールマイト。平和の象徴という肩書き通りの人物であり、日本の個性社会における抑止力となっている存在。

世が世ならその発言だけで袋叩きにされるかもしれない言葉を、彼女は公衆の中で堂々と、惜しげも無く言ってのけた。

 

「ヒーロー否定論者って言うわけじゃないんだ、私は。というか、彼らも別にヒーローを否定している訳では無いのも多いんだよ。ヒーロー、というか口には出さないがオールマイトという存在に迷惑している人間っていうのは思ったよりも沢山いるんだ。私のように、()をしっかりと考えている人が」

 

「先?」

 

「オールマイトが引退、もしくは死亡したら。どのような形であれ彼がヒーローからリタイアするという未来を。さぁ、考えてみるといい」

 

言われてみて、すぐに考えついてしまった。オールマイト。平和の象徴。絶対的なヒーロー。NO.1。抑止力。

今の社会の安全は、オールマイトという強力なヒーローがトップに在るからこそ成り立っていると言っても過言ではない。彼の超絶的な身体能力は全国を駆け巡ることなど造作もない。他のヒーローでは対処しきれない強力な()が現れたとしても、彼ならばすぐに駆けつけられる。事実、オールマイトはそうして人を救ってきた。

オールマイトから零れ落ちる安全という甘い蜜。それを何の対価も払わずに吸い続けているのが今の自分達だ。

 

「分かったようだね。そう、オールマイトが死ねばこの社会は崩れ落ちる。No.2がどれだけ頑張ろうが焼け石に水なんだよ。1位と2位はたった一つの数字の差なんかじゃない。そこには越えられない絶対的な壁がそびえ立っている。さて、ここで質問だ。オールマイトは何年間戦い続けてきた?」

 

約20年程だろうか。詳しいことはあまり知らないので、大まかな数字しか言えない。だが、耳郎が生まれるよりずっと前からいるのは知っている。多分もう50近く。肉体の衰えが始まっていても何もおかしくはない。

 

「不死身の存在なんていないんだよ。人はいつか死ぬ。そう、死ぬんだ。オールマイトだって人間だ。全身の血液が無くなれば干からびるし、心臓をぶち抜かれれば生きることも出来ない。もしかしたら死なない個性があるのかもしれなくて、それをオールマイトが持っているのかもしれない。だとしても都合が良過ぎないか?あの身体能力に不死の個性なんて。

いや、ありえないなんてありえない、なんてこともあるんだ。だが、世界はそこまで都合良くできてはいない」

 

そう言って彼女はカップに残った飲み物を全部ストローで吸い込んだ。直後、途端に顔が顰められた。どうやら甘すぎたらしい。珈琲好きのイタリア人からしたら、ここまで甘いものはもう珈琲じゃないのだろう。

 

「オールマイトの安心は、最も安心なんかじゃあないんだよ。今成り立っているものは全て砂上の楼閣。土台であるオールマイトが崩れれば一瞬で崩壊するよ。そうなれば世界は世紀末一直線さ。間違いなく隠れ潜んでいる連中や、こうなることを待っている奴らは動き出すよね。そうなればヒーローと(ヴィラン)の戦いじゃない。(ヴィラン)同士の縄張り争いでも起こるんじゃないのかな?

まぁどっちにしろ、モラルもルールも消えた暗黒時代の到来だよ。それで最も苦しむのは私達なんだ」

 

オールマイトはハードルを上げすぎたのだ。私達に与えている絶対的な安心は、同時に(ヴィラン)達にオールマイトが死ねばなんでも出来るという期待さえも持たせている。皮肉な話だ。平和の象徴として君臨していたヒーローが、崩れ去れば崩壊の象徴になるなんて。

 

「もし、もしですよ。オールマイトが不死身なんだとしたら、シクリーザさんはどう思います?」

 

これはきっとどうしようもなく、くだらない質問なんだろう。幾多にも重ね掛けたifを聞いているだけなのだ。意味なんてなく、理由なんてない。

それでも聞きたかった。学びたかった。他人からではなくこの人から。自分とは、人とは違う視点で物事を見続けているシクリーザという人間から。

 

「そうだね・・・。それはもう恐怖しかないよ。ほら?考えてみなよ。ただでさえ平和の象徴なんていう、一人の人間に与えるべきではない肩書きを背負ってるんだよ?それを笑顔で背負えている時点で狂気さ。

ねぇ耳郎ちゃん。私は思うんだ。この世界で本当に狂気と見なされるのは、張り続ける正義だって、さ」

 

これは在りし日に行われた何の意味もない蛇足の会話。私に、オールマイトという存在について考えさせた会話だった。

 

 

 

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あの日の会話を思い出す。あんな沢山の会話をこうして鮮明に思い出せるあたり、どうやら思った以上にシクリーザという女性のことを好んでいたらしい。それ以前に会話の内容が衝撃的だったというのもあるのだが。

あの日の話題の中心、オールマイトが目の前にいる。シルバーエイジ(銀時代)のコスチュームを纏い、雄英高校の教師としてここにいる。教師になるのは知っていたが、やはり驚かされるし緊張する。教師と生徒、なんて軽い感覚で接することは出来そうにない。

 

グラウンド‪α‬。市街地を模して作られた広大なグラウンドに、A組の面々は揃っている。昨日と違うのは全員が全員、コスチュームを纏っていること。雄英高校に入れば無料でコスチュームを要望通りに最新鋭の技術で作ってもらえるなんて、なんというお得さだろうか。

 

私のコスチュームは私の『イヤホンジャック』を最大限使える仕様になっている。ヘッドフォンにはコードはなくプラグを刺す穴だけ。足には小型のスピーカー。服の中には組み立て式ナイフが2本。そして腰には勿論、サポートアイテム『ディーヴァ』。

近中遠と全距離対応のこの装備は思ったよりも軽い。もう少しごちゃごちゃするかと思ったけど、流石はプロ、動きやすさも完璧だ。

 

「核兵器って・・・設定がアメリカンすぎない・・・?」

 

「ヒーローの本場ならこれくらい日常茶飯事。・・・なんてあるわけないか」

 

そんなことがポンポンあったらアメリカはきっと荒野になっている。

行われるのはヒーローと(ヴィラン)の二対二。前者は核兵器の確保か(ヴィラン)の捕獲、後者は制限時間まで核兵器の守護が勝利条件。オールマイトがかつてアメリカで活動していたならこんな設定になってもおかしくないが、まるで映画のようだ。

 

チーム分けは迅速に行われた。耳郎はJチーム。パートナーは上鳴。対戦相手はDチームで障子と推薦入学の一人である轟焦凍。制圧力トップの轟が相手なのは不幸以外の何物でもない。

 

だが最も不幸なのは緑谷かもしれない。緑谷の対戦相手には爆豪がいる。既に昨日の段階で緑谷と爆豪に溝があるのは分かっている。なのに彼らは運命のように対戦相手となった。始まる前からいくらかの戸惑いが見えている。

 

一戦目から爆豪と緑谷の勝負なんて嫌な予感しかしない。グラウンドが崩壊するんじゃないのかと心配になってくる。緑谷はともかくとして爆豪ならそれくらいやりかねない。既にそういった、嫌な信頼が爆豪に生まれていた。

 

「おいおい、爆豪の奴、緑谷のこと再起不能にしちまうんじゃねぇのか?」

 

「流石に分別はわきまえてるでしょ・・・多分」

 

既に緑谷チームと爆豪チームは各々の所定位置につき、オールマイトは開戦の合図を告げた。すると爆豪は飯田の静止を振り払って緑谷を探しに飛び出した。

カメラに映っていた爆豪の目は凶悪凶暴。完全な(ヴィラン)の顔をしていた。あんなのが突撃して来たら流石に怖い。

 

「緑谷の心配もいいけど、俺達も対策しとかねぇとヤベぇんじゃねぇの?」

 

障子はともかく、轟の対策はしておかなければならない。個性把握テストでは秒単位で超規模の氷を生み出していた。推薦入学者に相応しい強力な個性。しかも室内戦では無類の強さを誇る。

一応、対抗策がない訳では無い。だが結局はぶっつけ本番。第二第三の策で確実に捉える必要がある。

 

耳郎が考え事をしていると、一際大きな爆発音とグラウンド‪α‬全域が揺れる程の爆発。そしてオールマイトの怒鳴り声が聞こえた。




短く飛ばし飛ばしなのはキリがいいところを探したらここになったから。個性把握テストの結果なんて大して変わるものでもないし。戦闘訓練くらいしかマトモに変更できなくないか。

そしてやっぱり生贄のように轟君が引き出される。ヒロアカ二次ではよくあること。

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