いつの間にかボスになってた。組織は滅んだけど 作:コズミック変質者
意訳)投稿遅れてごめんなさい。
廃ビル群の一つ。実戦訓練4戦目の
主犯の爆豪は嘘のように沈黙している。まるで糸の切れた人形のように、ピクリとも動かない。その身体に傷はほとんどない。この場におらず、治療のために保健室に行っている緑谷の方が付いた傷は圧倒的に多い。
そう、負けたのだ。外見だけなら明らかに緑谷の方が敗北したと思えるが、これはチーム戦で勝利条件は敵を倒すことだけではない。
緑谷のパートナー・麗日お茶子と、爆豪のパートナー・飯田天哉。この両名の核の防衛戦で緑谷は己の個性を使用して、麗日を使うことで勝利に導いた。緑谷は爆豪の相手をしなかったのだ。
見下していた相手に負けた。それ以前に見られてすらいなかった。プライドの塊とも言える爆豪は余程ショックだったのか、俯き黙り込んでいる。負けたすぐ後よりはマシかもしれない。あの時は発作でも起きたかのように震えていたのだ。
4戦目は耳郎と上鳴、障子と轟。入試一位と推薦入学者が率いるチームということで、注目の一戦となっている。
「呼吸音は5階。多分核は最上階か、一つ下の5階にある。真ん中に構えてる」
「おー!耳郎の個性って便利だな!で、どうする?」
「多分あっちは轟の個性で攻めてくると思う。明らかに室内戦なら最強だし。障子の個性で何処かから入り込んでもすぐにバレる。そうすればそこに向かって轟の個性を使われたら詰む。だから、まずは耳を潰す」
そう言ってビルの外壁に手を付ける。既にその手の甲には
「ハートビート・サラウンド!!」
思い描き実行するのは立体音響。壁を壊し伝いながら、荒れ狂う暴音で耳を傾けているであろう障子を潰す。普通に聞けばただ五月蝿い程度でしかないだろうが、耳が良過ぎてしまえばその限りではない。
最悪障子の鼓膜は破れてしまっているかもしれない。
「いくよ上鳴!」
「おお!何言ってるか分かんねぇけど分かった!」
音が漏れていたのか、上鳴は耳を押さえながら耳郎の背中に付いていく。このまま核がある階まで一気に駆け抜ける。近距離戦に持ち込んでしまえば轟相手でもまだ勝機がある。最悪限界まで接近して放電状態の上鳴を投げつければいい。
時間が勝負だ。轟の強力な個性を前に時間一杯まで戦い抜くのは不可能だ。サーチアンドデストロイ。見つければ多少の無茶をしてでも叩き伏せる。
「これ・・・もうこんなに氷が・・・」
ビルの中は罅割れた氷の世界だった。まるで業務用の大型冷蔵庫のように冷えた場所。肌寒さどころではなく単純に寒い。外からではまるで分からなかった。窓に氷は侵食していないので外からでは見えなかったのだ。
氷が引き裂かれたように割れているのは、恐らくは耳郎の音の影響だろう。氷が壁となったことで、耳郎の音は恐らく障子には届いていない。
「これってヤバいんじゃねぇの!?」
「でも行くしかないでしょ!」
上鳴の不安を押し切る。地の利は握られた。轟の氷が氷の上から更に生み出せるのかは不明。もし出来るのならこの瞬間に部屋中が、360度からの攻撃となって迫ってくる。
読み違えた自分を戒めながら思案しても、やはり駆け上がる以外の選択肢はない。
「アンタの個性で電磁波とか感知出来ないの?!」
「オレの個性は電気をぶっ放すことしかできねぇんだよ!」
「じゃあコスチュームに着いてないの?!」
「あるのは通信用のヘッドセットだけだよ!」
打開策はやはりなく、状況が変わることは無い。出来るのは変わらず全身の神経を張り巡らせながら1階2階と階段を駆け上がることだけ。
3階から4階に登ろうとした時、足が止まった。否、止められた。室内の急激な寒冷化によって体温は下がり、膝から下にかけては脚があるのか分からないほど寒くなる。
待ち伏せ、そして背後から奇襲された。耳郎がそう思った時には、もう終わっていた。
「背後から奇襲・・・!」
「障子からお前らの個性は大体聞いている。最初のデケェ音もとりあえずは想定してた。こんな勝ち方になっちまったが、今は
達観したように言う轟。こんな単純な奇襲にハマった自分が恥ずかしくなる。轟は最初からここに、この部屋のどこかに潜んでいた。見えづらかったのは轟の左半身を覆う氷のようなコスチュームのせいだ。恐らく3階を中心に氷を発していたのだろう。自分の身体を隠すようにして。
スタートの段階で必ず核の部屋にいなければならないなんてルールはなく、また耳郎が想定していた正面から叩きに来る以外の可能性も十分あり得た。
勝つためには轟を抑えることを一番としていた。だが想定していたのは轟の強個性だけだ。轟の行動までは、訓練ルールの穴までは考えていなかった。
未熟も未熟。考えが甘すぎた。どこかでこれでいいと妥協していた。最高と最悪の状況を考えただけで考えることを止めた。その時点でこうなることは決定していたのだ。
だが、
「それだけで勝ったような気になってんなよ!!」
「・・・!」
室内に白煙が充満していく。次瞬、轟が上鳴に向かって氷を飛ばす。流石は推薦入学者。今何が起こっているのかを正確に把握したらしい。上鳴の個性は『帯電』。単純に電気を肉体に蓄え放出する個性だ。
生活の基盤と言ってもいいので広く知られていることだが、電気とは高温であり非常に危険なものである。水から伝わる電気で感電死するように、雷に当たった者が焼け焦げた焼死体になることから分かるように、電気は人を容易く殺せる現象なのだ。
「やらせるか!」
「こっちのセリフだよ!」
激しいスパークと共にものすごいスピードで上鳴の周りの氷が溶けていく。これ以上は拙いと轟が完全に上鳴を意識したことによって、轟の意識から消えた耳郎がフリーになった。
前にも言ったように耳郎の『イヤホンジャック』は数メートルまで伸びるのだ。あくまで氷が覆っているのは膝までだ。腰にある『ディーヴァ』までは覆われていない。耳郎は接続した『ディーヴァ』を手に付けずに、そのまま地面に殴り付けるように叩き落とす。
「ハートビート・アンプリケーション!!」
心音は轟音へ増幅され、氷を振動で破壊しながらビル全体に伝っていく。氷が接触するよりも遥かに速く、文字通り音速で突き進む。追い越した音によって轟が上鳴に放っていた氷は到達する前に粉砕された。
ダイヤモンドダストのようにキラキラと砕かれた氷の破片が宙を舞う。
「ちっ!」
「氷より音の方が速い!」
装着した『ディーヴァ』は侵食してくる氷を破壊する。盾にもならず鎧にもならず。いくら出せようとも氷は所詮氷でしかない。対して耳郎のやっている事は規模の小さい地震である。ただの氷と大地すら引き裂ける振動とでは、どちらが強力かなど分かり切っている。
もし、轟が
だが、
「どれだけ長時間出し続けてられるの・・・!?」
絶え間なく氷は生み出され続け、氷の破壊に囚われて耳郎の動きは縛られる。『ディーヴァ』は片手間で調整できるほど簡単な手順ではない。そして『ディーヴァ』の放出する音や振動は耳郎自身にも伝わっている。
例え出力調整され、最大出力からは程遠い音でも、連続稼働は腕に多大な負荷をかける。
正面から殴り合いの応酬をするかのように、氷と振動はぶつかり合う。両者一歩も譲ることのないノーガードの打ち合い。
「んのやろっ!」
上鳴もバカではない。耳郎の顔に少しずつ焦りが見えていることくらいは察せる。故に援護に動こうとするが、耳郎との距離が近すぎて個性が使いづらい。『帯電』は確かに強力な個性だが、繊細な操作が出来ないという欠点は、周囲に味方がいる状況ではあまりに大きすぎた。それはたとえ、氷を伝って伝導させるという方法があっても、だ。
そして、
「なっ、障子!?」
上鳴の背後から現れた障子。そう、この戦闘は一対二ではない。二対二なのだ。上階で待機していた障子が、このピンチの状況でここに降りてきた。恵まれた体躯から打ち込まれる拳は、容赦なく上鳴の身体に叩きつけられる。異形型特有の高い身体能力は、常人の枠から外れていない上鳴と比べるまでもない。
「個性を使っていいのか?ここで使えば、耳郎も巻き込むかもしれないぞ?」
「くっそぉ!」
碌な抵抗すら出来ずに上鳴は意識を刈り取られる。強力な力の代償とも言うべきその無差別さは、弱点としてはあまりにも大きすぎた。気絶した上鳴は、念入りに轟に壁に磔にされる。
「もう耳はいいのか?」
「十分時間はあったからな。あと7分、何もしないという訳にもいかないしな」
「そうか。ならさっさとケリをつけるぞ。流石に、長く使いすぎた」
「轟?」
轟が弱気な声を出す。開始前から自信満々な声をしていた轟が、いきなりこんな声音を出すとは障子は思いもしなかった。そして、そんな声を出させた元凶はと言うと。
「やっぱりね・・・!」
腕をプルプルと震わせ、寒冷化した気温に身体を蝕まれ、汗すらも凍りついてきた耳郎は、確信したようにそう言い放った。それは今の轟とは違う、正反対とも言える声音だった。パートナーは捕まり二対一、腕は限界が近く、身体の感覚も消えかけてきているそんな耳郎が、まるで勝機を見出したとでも言うかのように。
「あんたは有り得ないほど莫大な量の氷を、高速で生み出し続けることが出来る。5分以上もね。でも温度が低下していく環境に耐えられないんでしょ。轟、あんた自身が」
「気付いたか・・・」
「顔の横に霜が付いてるよ。息も寒そうに白くなってるしね。それに少しずつ、氷の量も勢いも減ってきてる。個性だって身体機能の一部。氷を生み出し続ければ、その中心にいる轟の身体は冷えていく。凍りつくほどじゃないにしても、防寒に意味がなくなるくらいには」
「だからどうした。お前だってもう限界が近いだろ。それにこっちは2人で、障子には大した疲労はない」
冷徹に告げる轟の言葉は全て真実だ。耳郎の腕は限界に近い。いいや、とっくに限界を迎えている。微細に続く振動に筋肉は耐えきれていない。本来のペースならば押し切ることが出来ていた。だが、環境などの様々な要因が容赦なく耳郎を追い詰めていく。
そして耳郎以上に消耗している轟にも余裕はない。左半身を絶え間なく覆う冷気が全身に行き届いている。手足の感覚はかなり薄い。反射的に右を使おうとする衝動を、轟の中にある黒い氷が固く閉じ込めていた。
「ピンチってだけで、両手を上げて降参って言うと思う?」
「だろうなっ」
耳郎が音を止めて横に転がるように走る。同時にイヤホンジャックは腕の『ディーヴァ』から外れ、腰にあるもう一組に突き刺さり、そのまま引き抜き、思い切り振り回す。
「『ハートビート・エコーサウンド』!!」
「ぐぉっ・・・!」
360度から爆音が鳴り渡り、鈍器で殴られたような痛みが近接戦に持ち込もうとしていた障子を襲う。だが指向性を持たない無差別な音にそこまでの威力はない。
耳郎の抵抗が一時的に弱まった。好機と見た轟の氷がこれで最後にすると言わんばかりに勢いを増し、氷柱は氷壁となって襲い来る。実は本気で殺す気なんじゃないかと思ってしまうほどの規模の攻撃を、両手の『ディーヴァ』を合わせて一点集中することで穴を作って回避する。
すると追撃として、穴から障子が
「はやっ――」
ロケット砲のような凄まじい勢い。回避は間に合わず、障子の腕がラリアットのように耳郎にぶち当たる。障子の頑強な肉体と、轟の氷柱による押し出しで速度上昇という咄嗟の連携。
「ゲホッ、ゲホッ・・・」
失神することは無かったが、痛みと息苦しさは相当なもの。だが失神せずに受身を取ることができたのは運が良かった。今の一撃は意識を刈り取られていてもおかしくなかったのだから。
しかし決着は既についていた。
「今度こそ捕らえたぞ」
耳郎の身体を氷が覆い尽くす。耳を初めとして耳郎の両手両足は完全に氷に埋め尽くされた。こうなっては無力化されたも同然だ。
「・・・さっきの連携・・・アンタら、中々いいペアじゃん・・・」
「そうなのかもな」
「ウチの負けだよ・・・でも・・・」
ここにきて、轟がようやく何かに気づいた。オールマイトからの終了の放送がない。耳郎は凍らされて動けず、上鳴もとっくに捕らえているというのに。
「さっきの無差別反響。アレは攻撃なんかじゃない。ほら、探してみなよ。ウチが何をしたかったのか――」
「轟、後ろだ!!」
「――っ!?」
冷える身体から震えた声をどうにか絞り出す程度にしか力が残っていないのに、妙に耳郎に自信があることに違和感を覚えた轟だったが、その違和感は障子の声により判明した。
そこに、忍ぶようにして轟の後ろに近寄ってきていたのは上鳴だ。コスチュームの各所に未だに氷塊を付けながら、ゾンビのような足取りで轟に近づいてきていた。咄嗟に氷で応戦しようとしたが、氷は出ない。耳郎とのラッシュで使い過ぎたのだ。冷える身体の動きは鈍く、反射的に氷を出そうとすれば脳のリミッターがそれを抑えつける。
「オレの個性はぶっぱなすだけで細かい制御は出来ねぇけどよ――」
「・・・っ、マズッ――!」
上鳴がガシリ、と轟を両手で、全身でしがみつく。氷は既に出ている。だが間に合わない。これほどピンチな状況だというのにハッキリと分かるほど、その生成速度は明らかに遅過ぎた。それに対して相手は意識すれば一瞬だ。
「ゼロ距離なら関係ねぇよなあッ!!!」
「ガァッ――」
轟が保てた意識は一瞬だった。人間スタンガンと化した上鳴の電気は、後遺症を残さないように弱めてはいるが強力だ。弱まっている轟を一触りで倒せるほどに。
意識を飛ばしたことで轟は倒れた。ピクリとしか動かない。流石のバカでも手加減はできていたようで耳郎はホッとした。
(あぁ・・・やば・・・)
最大の難関であった轟を沈められたと思った途端に、一気に意識が溶けていく。障子のラリアットを食らってからずっとこんな状態だ。元より気力だけで起きていたようなもの。腕は既に力はなく、そこについているのかさえも分からない。
(バカ・・・後ろ・・・)
意識が落ちる寸前に耳郎が見たのは、喜びに打ち震える上鳴が障子に意識を刈り取られる光景だった。
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疲れた。とても疲れた。はじめての戦闘訓練が終わった放課後。全国チェーンのファストフード店で疲れきった体をテーブルに預ける。
あの後、やはりというか耳郎達は負けた。単純に2人がダウンしたからだ。その後の評価は散々なものだった。正論を遠慮容赦なくバシバシと言ってくるもう一人の推薦入学者。曰く連携が足りないと。
出会って一日しか経ってないのに連携なんてあるか、と言いそうになったがそんな体力さえもなかった。最後の轟を倒せたのだって本当にマグレだ。運良く部屋中に響く氷が破壊される音で目覚めた上鳴が少しずつ氷を溶かし、完全に動けるようになったところで耳郎が派手に動いて意識を集中させる。ただのミスディレクション、手品でしかない。
最後の技、『ハートビート・エコーサウンド』は部屋中に広がる氷を破壊し、上鳴が近づきやすくするための技だった。本来であればあの技の使いどころはない。
今回の敗因は耳郎自身が一番分かっていた。耳郎は轟に集中しすぎたのだ。勝利のためには必ず轟を抑えなければと言う思いが強すぎた。敗北覚悟で自分が単独で轟を相手取り、その間に上鳴と障子を戦わせていればまだ勝機はあっただろう。
考えるだけならいくらでも上手くいくが、現実では全て上手くいくことなんて無い。
考えが足りずに、いや意識の固まりが敗北の原因だ。この敗北は恥でもあり戒めにもなるだろう。
「まだダメだな・・・ウチ」
未熟も未熟。それ自体は当然のことなのだが、耳郎は自分の目指すべき一歩目にすら辿り着けてないことを意識している。かつてシクリーザに語った安心を与えられるヒーローになる。『安心』の形を未だ明確に捉えきれていない耳郎は、スタートラインにすら立っていないとも言える。探す段階で足踏みしているのだ。
『安心』への到達までの道程は長いと、耳郎はため息を周りに聞こえるほど思いっきり吐いた。
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「ここが日本ですか。なかなかいい場所じゃないですか。故郷のような風はなくとも、活気がある。貴方もそう思いませんか、
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「沈黙は肯定、と捉えますね。では行きましょう。我らが偉大なるボスの下に」
一年A組の戦闘訓練開始時間に、極大の邪悪の手駒が2人、日本に入国した。雨傘を持った老人と、生きているのかすら不明なほど白い肌とすっかり色素を失った白い髪の男が、平和の波に入り込んだ。
さよならああああああああああ!!!ディアボロぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!