いつの間にかボスになってた。組織は滅んだけど 作:コズミック変質者
あのbot凄いよ。ガンガン言いたいこと胸に秘め続けてきたことを言ってくれるから。
そしてようやく戻ったよ、投稿日時。
「そういえば・・・今日だったのか・・・」
誰かがカーテンの隙間から差し込む光で目を覚まし、中途半端な時間に起こされたことに苛立ちながら嫌なことを思い出し、二度寝した。
「そういえば、今日だったね」
一ヶ月以上ぶりに目を覚ました誰かは、教え子の巣立ちが始まるのを理解し、喜びに打ち震えながら再び眠りについた。
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「そろそろいいかな・・・。お前ら、行くぞ」
待ちわびたと言わんばかりに、子供じみた無邪気な悪意を無造作にばら撒きながら、彼は駒達に声をかけた。
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「うわ、広いなぁ」
耳郎がボヤいたように、この施設は広すぎる。それこそ一見すれば本当のテーマパークと見間違う程の広さがある。だがやはりヒーロー育成の為の特別施設であり、マップには土砂ゾーンや火災ゾーン、水難ゾーンなど、物騒な単語の羅列が並べられている。
雄英は国立高である。ここの予算も国が出しているに違いない。校内でも何度か思ったが、国の予算がどう降りているのか非常に気になるところだ。世間一般でいう雄英贔屓と呼ばれる問題の一端を垣間見た気がする。
「こほん、えー始める前にお小言を一つ、二つ、三つ・・・」
浮かれた生徒達の気を引き締めてくれるのは、スペースヒーロー『13号』と呼ばれる宇宙服のような物を着たヒーロー。だが13号の言動は、何故だか一部の生徒を高揚させてしまう。
たった今、上鳴が耳郎に耳元でうるさいとぶっ叩かれた。
「皆さんご存知だと思いますが、僕の個性は『ブラックホール』。どんなものでも吸い込んで塵にしてしまうものです」
13号の個性は有名だ。ヒーロー界屈指の強力で凶悪な個性。そのあまりの凶悪さに、登場時はかなり話題になったらしい。当然だ。少しの力加減を失敗すれば、最悪都市一つ、ともすれば国一つ飲み込める可能性だってあるのだ。危険な個性を人助けのために使うのは素晴らしいことだが、それでも危険性は拭えない。
ちなみに今もネットの掲示板ではどれだけの規模のブラックホールが形成できるのかが、偶に盛り上がりのネタになるらしい。
「この個性は簡単に人を殺せる力です。そして、最悪の時は何も残さない残虐な力です」
ブラックホールは全てを吸い込んで塵にする。死体すら残らないのは、尊厳などの問題があるのだろう。それを最も理解しているのは、それを長年扱ってきた13号。
「皆さんの中にもいるはずです。簡単に人を殺せる個性の持ち主が」
まさしく耳郎が当てはまる。耳郎のイヤホンジャックを相手の心臓に刺してそこから爆音を流せば、心臓を簡単に破裂させることが出来る。他にも手足でもどこでもいいが、部位の破壊すらも可能にする。
さっきまで高揚していた上鳴がこの場合は最先端と言うべきだろう。制御できず放出することしか出来ない電撃。死なせることはなくとも、言語障害や手足の麻痺などの後遺症を残す可能性が大いに高い。人によっては死んだ方がマシかもしれないという時もある。
「超人社会は個性の使用を資格制にして厳しく規制することで、一見成り立っているように見えます」
しかし、所詮は形のない言葉や文字でしかない。例えば違法に使った瞬間に、脳に埋め込まれたチップが電気を放って脳死させて止める訳でもなく、肉体が麻痺する訳でもない。
たった一つ、重要なのは意思なのだ。
一線を乗り越えるという意思。もしくは自制を覆すほどの強靭な無意識。
誰かがやった。だからオレも私もやろう、やっていいのだ。人は簡単に感化される。100万の中の1人は感化されてやるのだ。
「相澤さんの体力テストで自身の秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います。この授業では心機一転。人命の為に個性をどう活用するか学んでいきましょう」
順序よく立てられた道筋にA組は乗っている。沢山の先達が通り、そして補正してきた道を先達の導きで前へ進んでいく。更により良く、
「それじゃまずは———っ?!」
ずっと静聴していた相澤が生徒達にこれからの行動を伝えようとすると、USJ全体を何かが襲った。それは形あるものではなく、目に見えるものでもなかった。もっと感覚的なもの。
生徒達は当然として、相澤や13号までもを硬直させるほどの何か。咄嗟のことに怯え固まる生徒達。相澤と13号は長年の経験から反射的に動いている。相澤が前に、13号が後ろに構え、より生徒を守りやすい立ち位置に。
「一塊になって動くな!!」
相澤の視線の先。全員が今いる入口から長い階段を降りた先にある、この施設の中央のセントラル広場。そこには黒い靄、いいや霧があった。その霧は小さかったが、霧の中から誰かの手が出てきて、霧を振り払うと霧は爆発するように一斉に広がった。
広がる霧から、溢れるように出てくる集団。武器を構え、獰猛に敵意を滲みださせ、これからの行為に快楽を見出し、純粋に仕事だと割り切り。様々な反応を出す者達が、一斉に飛び出してきた。
「アレは・・・入試の時の様なもの・・・?」
ようやく硬直が解けたのか、各々が入試の時のように雄英からのサプライズを考える。だがそれは現実逃避でしかない。一番最初に当てられた極大の悪意が、生徒達を軽い恐慌状態に陥れたのだ。
「動くな!アレは
相澤がゴーグルをかける。完全な戦闘態勢に入ったということの証明。侵入してきた
「13号にイレイザーヘッド。先日頂いた教師側のカリキュラムによれば、オールマイトも来ると聞いたのですが。ふむ、死柄木弔。どうやら貴方の
「やはり先日のはクソ共の仕業か」
彼らが言うのは数日前、オールマイトが雄英の教師だと大々的に発表された次の日、大量のマスコミが雄英高校に押し寄せ、雄英バリアによって塞がれた。だが何者かが雄英バリアを破壊し、マスコミ達が学園に入り込んで警報が鳴り、生徒達は一時的なパニックに陥った。
今回の授業は13号が来る予定はなかった。だが先日起こった問題から急遽13号が対策として来ることになったのだ。
だが今、オールマイトは
敵の狙いは言動からオールマイト。オールマイトを殺し、社会を暗黒期に戻すことが目的の連中か、あるいは・・・。
「ここに来るまで調べといて良かったよ。状況から今は休憩中。なら頑張って来てもらおうじゃないか。いや、絶対に来ないとだもんな」
顔に腕に、幾多もの白い腕を付けた、恐らくはリーダー格であろう若い男が頬をポリポリと掻きながら、その身に宿る悪意を放出する。先程生徒達を怯えさせた極大の悪意は、死柄木弔と呼ばれた男が放った物。だが今放ったのはさっきよりも数段濃い。邪悪と称せるほどどす黒かった。
この瞬間、相澤は死柄木弔を最優先捕獲対象と認定した。
「だってこれから、子供がたぁくさん死んじゃうんだからさぁあ」
「13号、生徒を守れ!!」
相澤が飛び出す。大量の
個性を封じる個性と、爆豪を捕えた時にも使った捕縛布の組み合わせ。ゴーグルで瞳を隠してどこを誰を見ているのか分からせない。突然封じられ、突然使えるようになった個性はいつもと同じようにすぐには扱えない。
だが相澤の個性は異形型には通じない。しかし、そんな弱点をカバーできないはずがない。捕縛布を巧みに操り、頭を強打させて気絶させる。
まさに無双とも呼べるその活躍に、生徒達は目を輝かせて見ているが、飯田の避難を呼びかける言葉に我に返ってゲートを引き返す。だが、
「させませんよ」
身体から黒い霧を出し続ける、バーテン服の人物が道を塞ぐ。瞬間移動のような霧の個性は彼らの道を塞ぐ。だがここには13号がいる。13号が人差し指を向けて、指先の穴の中に個性を使用。小型のブラックホールが出現して黒い霧を飲み込もうとするが、
「無駄ですよ。私と貴方では相性が悪すぎます」
「13号!!」
13号の背中が抉れた。宇宙服を飲み込みながら、小型のブラックホールは消滅していく。これで13号は再起不能。黒い霧の男は残りの役目を果たさんと、自分に襲いくる血気盛んな生徒達を見もせずに、
「ここでの私の役目はこれで終わりです」
生徒達を飲み込んだ。一部飲み込めなかった生徒もいるが、それはそれで構わない。どの道彼の能力でなければ余程のことがない限りはここから出ることは出来ない。それにこの場に残った生徒は、13号のお守りから離れられないだろうから。
ヒーローの卵とはいえ所詮は子供。殺さずとも行動不能に追い込むことなど容易である。それに、実の所殺すことは
ゆらりと霧はゆらめき、死柄木の元に戻る。その服装や口調は、この襲撃のブレインを思わせるが、そういった所は全部死柄木がやっている。彼の役割はただ一つ、死柄木の都合のいい駒である事。
「13号は再起不能、生徒達は
「そうか。ならオールマイトが来るまで待機してろ」
「しかし、一番乗りで来ますかね」
彼らの目的はオールマイトただ一人。この施設を外と完全に遮断しては、この場にいないオールマイトが来ることは無い。ならば、増援として来させよう。愛すべき教え子達が死ぬかもしれないピンチに襲われている。恐怖に怯えている。平和の象徴が、そんなことを我慢出来るはずがない。
「来るよ、ああいう奴は来る、来るに決まってる。一番乗りで静止も何もかもを引きちぎってでも来るぞ。頭良いくせに無駄に脳筋だから、他のヒーローを待つなんて出来ないだろうからな」
オールマイトを殺す手段は複数ある。まず死柄木が五指で触れれば接触時間にもよるが、間違いなく腕の一本は奪える。黒い霧———黒霧は座標移動で霧の中にオールマイトの身体を途中まで入れて、ゲートを閉じれば肉体を寸断できる。更には、
「オールマイト専用のサンドバッグと、薬キメすぎて頭も身体も可笑しくなったゴミがいるからな」
死柄木の背後に控える二人の影。一人は脳ミソ丸出しのグロテスクな巨体で、肌は黒に限りなく近い紺色。明らかに人間とは思えない。
もう一人は白いロングコートを着て、フードで顔を隠している人物。隠していない手は隣に立つ大男と比べると真反対と思うほど真っ白で、フードから出ている伸び放題の髪は色素が完全に落ちている。ブツブツと独り言を言っているが、聞き取れないし聞く気もない。
「脳無はともかくとして、その男は信用出来ますか?」
「信用?何言ってんだよ黒霧。そんなもんする必要ないだろ。コイツはオールマイトを殺す、もしくは弱らせるための都合のいい駒でしかない」
こんな近くに置いて秘密兵器風にしているが、白い男はこの間拠点に突然来た不審者である。入ってきた時に雇って欲しいと繰り返し連呼して、あまりのしつこさに苛立った死柄木が脳無と戦わせ、彼は自分の力を見せつけた。
仲間にはしないが駒として扱う。普通なら拒否するであろうその言葉を、彼は即座に受けいれた。
「あー、無駄話してるうちに雑魚ども蹴散らされてるよ。やっぱ強いなヒーローは。イレイザーヘッドには異形型ぶつければ少しは足止め出来ると思ってたけど、それすら出来ないじゃん。やっぱゴミはゴミだな」
見れば相澤は周りの
「同僚がぐちゃぐちゃにされれば、もっともっと頭に血が上ってくれるよな」
死柄木は相澤など眼中に無い。彼の目的は終始オールマイト。相澤はオールマイトを本気にさせて、怒りで思考を奪うためのステージアイテムに過ぎない。生徒を恐怖に陥れ、同僚二名をズタボロにする。オールマイトは何処までキレてくれるだろうか。何処まで、力加減を忘れてくれるだろうか・・・。
「じゃあそろそろ本命に動いてもらうか。いけ、メディジーナ」
ゆらりゆらりと、まるで病人のような覚束無い足取りでメディジーナと呼ばれた白い男がフードを取って、その真っ白な貌を晒して歩き出す。あまりのボロボロな顔に、死柄木は気持ち悪いとメディジーナに聞こえるように言うが、反応は一切ない。
メディジーナの目には、耳には相澤しか入らない。
(なんだ、コイツは・・・)
警戒なく、力なく歩み寄ってくるメディジーナに、最後の雑魚を倒し終えた相澤は警戒する。戦闘しながらも会話を聞いて情報収集に努めていた。この男は今回の切札か、もしくはそれに近い何かか。
「イレ・・・イ・・・ザー・・・あい・・・ざ・・・わ」
掠れ掠れの声を吐き出しながら、メディジーナはポケットに忍ばせていた手から何かを引き抜き、思い切り自らの首に打ち込む。それは無針型の注射器。だが
動かれる前に捕らえる。捕縛布を巧みに操り、相澤はメディジーナを捕らえようと駆け出す。
「な———」
だが気づいた時にはメディジーナは目の前にいた。文字通り、顔前にメディジーナの顔があったのだ。このままではぶつかってしまうと急ブレーキを掛けて避けようとするが、その必要はなかった。
「グゥゥッ———!」
殴られたと形容していいのか。それとも振り払われたと言った方がいいのか。無造作に振り回されたメディジーナの腕が相澤の右肩に直撃した。まるでハンマーで殴られたような鈍痛に、骨が折れたことを実感する。
だが痛みを押し殺して吹き飛ばされながらも捕縛布でメディジーナを捕らえようとしているのは、流石としか言い様がない。それを折れた腕で行っているのだ。不屈すぎる。少しは悶えるなりして欲しい。
だが、相手が悪かった。
真上にジャンプする。誰でも出来るその行為だけで、メディジーナは10m以上空に浮かび、今まさに捕えんとした捕縛布から脱出した。
「なんだ、コイツは・・・!」
折れた腕を庇いながら、相澤が息を切らせてよろめきながら立ち上がる。個性は間違いなく封じていた。しかし一撃でこのダメージを与えるほどの力。異形型ではないだろう。身体的特徴が見られない。そして先程打ち込んでいた薬らしきもの。個性を強化する系統のものだと思っていたが・・・。
「個性じゃないよ」
勝者は決まったと言わんばかりに、余裕の死柄木が説明する。相澤の敗北は既に決まっていた。メディジーナに薬を使わせた時点で、相澤は負けていたのだ。勝負は始まる前から決していた。
「あの薬も肉体を増強させるとか、昔あったやつじゃない。アレは、ただの麻薬だよ。なんでかは分かんないけど、薬やりすぎて脳ミソがイカれたらしい。火事場の馬鹿力って奴みたいなもんだよ」
普通なら火事場の馬鹿力に耐えきれず、肉体が崩壊してしまうだろう。だがメディジーナの肉体は、異常なまでに鍛えられていた。
メディジーナが使う薬は脳の一部をぶち壊す。それは脳におけるリミッター。人間に100%の力を引き出させるのを食い止める部分。
メディジーナの80%は無個性にしては恐ろしい程に強い。その秘められたる20%を解放すればどれだけの力が手に入るか。結果はこのとおり。
反撃も許さぬ狂った連打。技術という概念が一切ない、ただ力技で連続で打ち込むこむだけの動き。効率よく力が入るわけでも、次の動作を行いやすい訳でもない。恐ろしいほどの効率の悪さは、異常な肉体によって補われていた。
「まぁ、もう聞こえないよな」
死体のような程ではないが、動けない相澤が地に伏せている。死柄木が話している間も、メディジーナの拳を喰らい続けていたのだ。体のあちこちはボロボロで、個性の使用なんて出来そうにはないし、動くなんて以ての外だ。オマケにトドメとばかりに頭部を叩きつけられている。意識を保てというのは無理な話だ。
「思ったよりはやく終わっちゃったなぁ。なぁ黒霧、誰が一番乗りだと思う?」
「?オールマイトではないんですか?」
「子供達がいるだろう?」
「まだ学生ですよ?」
「来るだろ、ガキでも」
「まともに貴方の悪意の中で動けますかね?」
「やれば出来ると思うぜ。卵とはいえヒーローなんだからさぁ」
「では私はオールマイトに」
「それじゃあ俺はガキに」
役目を終えたメディジーナが戻ってくるのを見ることなく、死柄木と黒霧は呑気に話している。黒霧はどちらかと言えば付き合わされていると言った方がいいか。何せ、今ここに立っている者達の中で、マトモに会話が可能なのは死柄木と黒霧だけ。メディジーナは言わずもがな、脳無は発声器官が度重なる改造で消えている。それに、自律思考が出来ない。
賭ける方を互いに言うと、死柄木はポケットに手を突っ込んだまま、散歩するように移動する。向かう先は水難ゾーン。そこの死角となっている場所に。
「ざんねーん黒霧。賭けは俺の勝ちだな」
「最初から分かっていたのでは?」
「勝負ってのは始まる前から決まってるんだよ。今回みたいにな」
死角に隠れて相澤を救出するか、ここからゲートに走って逃げ出す算段でも整えていたのか、潜んでいた三人に、極大の笑顔を向けながら上から見下ろす。その笑顔は顔に貼り付いている不気味な手によって、恐ろしいと誰もが思う物になっている。
悠然と近づいてくる死柄木に、潜んでいた緑谷、蛙吹、峰田は動くことが出来ない。まるで蛇に睨まれた蛙のように、震え怯えることしか出来なくなる。
「大事な大事な教え子が目の前で死んだら、オールマイトはどんな顔をすると思う?」
死柄木の問いに返答なんて出来るはずはない。殺されるか人質にされるか。抗う気力が失われていく中で咄嗟に動いたのは緑谷だった。緑谷は去年の四月に、爆豪を
緑谷出久はそういった場面において、蛙吹や峰田よりも、一歩先にいた。故に、
「SMASH!!」
身体は自然に動いていた。控えていた諸刃の剣である個性の全力使用。右腕限定とはいえ、緑谷の一撃はオールマイトの一撃そのもの。喰らえばどんな
咄嗟の状況に力加減が成功したことなど微塵も考えず、ただ目の前の大切な友達に降りかかる魔の手を払うべく、拳を振るう。
「SMASHって、オールマイトのフォロワーかな?」
渾身の、過去最高とも呼べる拳は、死柄木の軽い掌によって流れるように弾かれ逸れた。例えどれだけパワーがあろうとも、緑谷は拳の打ち込み方を知らない。どれだけ効率良く力を伝えるか、どこを狙えば相手を効率よく倒せるか。無我夢中に放っただけの拳では、悪で在れかしと、幼少期より高度な英才教育を受けた死柄木にとっては弾くのは容易なこと。
右腕は完全に振り切った。引き戻すことはもう出来ないし、それが出来る程の体術を緑谷は持ち合わせていない。死柄木の五指が迫る。それは死を体現した指。その指が全て触れれば、万物を崩壊させる個性。
「それじゃあ———」
殺そうか、と言おうとした所で、天井が崩落した。否、崩落してきたのは骨組み等だけだ。芯となるものは崩れていない。施設が崩落して生徒達に危険がないように、最大限の安全が図られている。だが死柄木には分かる。その行動は怒りだ。
溢れんばかりの煙を引き裂いて、とうとう本命が来たことに死柄木は胸を踊らせ、緑谷を元いた場所に蹴り飛ばす。本命が来た以上緑谷という存在は必要なくなった。
「もう大丈夫
———私が来た!」
「ああ・・・はじめまして・・・オールマイト。さぁ、ゲームを始めようか」
メディジーナ=平和島静雄を薬によってジャンプ世界に適応できるほど強化した存在。
つまり怪物。