いつの間にかボスになってた。組織は滅んだけど 作:コズミック変質者
次は必ず、早く出します。もっと高いクオリティのを。
「おや?もう帰ってしまうのか?種目はまだ残っているが。若い卵達の活躍を見ていかないのか?」
「これ以上見る必要は無い。俺にはこういった物を生で見て喜ぶ趣味などはない。必要なことがあれば後から録画してある映像を見返せばいい」
「くっ、つれないな。もっと同じ相手に仕える者同士、親交を深めようとは思わないのか?」
「お前と親交を深めるよりも、もっと有意義なことがあるのでな」
「・・・ふっ、分かりやすい男だな」
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「ん、終わったのかな」
眠っていたような薄らとした意識が覚めれば、競技は終わって選手達の視線は壇上のミッドナイトに向いている。彼らの表情は五種類に分けられていた。第三種目への道を開いて喜ぶ者、逆にここで敗退して哀切に暮れる者、結果を当然だと受け入れる者、結果に不満があり憤慨する者、そして何が起こっていたのか理解していない者。
当然だと受け入れているのは心操と轟。悪人のようなニヒルな笑みを浮かべてA組に完全敗北したB組を見ている。彼からしたらB組は思っていた以上に掌で踊ってくれたんだろう。手に持っているハチマキは殆どがB組の物だった。
憤慨しているのは爆豪。順位としては轟に次ぐ二位。だが爆豪からしてみれば最下位にも等しいのかもしれない。普段の爆豪を見ていれば嫌でも分かる。妄言だと軽く笑われることでも爆豪は決して否定しない。オールマイトすらも超えるNO.1ヒーローになる。子供の夢想の様なそれに対して爆豪は決して曲がらない。
その夢を叶えられる位置に爆豪はいるし、実際にその夢に手が届いても爆豪のポテンシャルであれば全然おかしいことはない。
だが一位ではない。一番ではない。いつだって目が届くのは一番だけだ。二番三番、ああ確かに凄いとも。でも一番が一番凄いじゃないか。
順位が決められる争いで、明確な勝利を決めるのであれば特定の順位に入るのではなく、一位であることこそが勝利なのは間違いではない。よく言うじゃないか。1か0だと。
この理論は間違っていない。故にこの理論に沿えば、爆豪は最下位であり、敗者である。
聳え立つ一位の壁。そしてその上にいるのは入学以来、目の敵にしている緑谷と爆豪以上の存在と言える轟。
爆豪については置いておこう。そこまで考えることじゃない。確かに爆豪は凄いと思うが、だからといってどうこうする訳では無い。
他人のことを考えている余裕が無いのはウチだって同じなのだから。
ちなみにウチの所属している心操チームは安定して三位。予定通り、洗脳で手駒を増やしながら順調にハチマキを奪い去っていったらしい。安心して勝利を任せられるというウチの勘は、どうやら大当たりを引いてくれたようだ。
「お疲れ様。凄いじゃん、一網打尽って感じ」
「別に。ただアイツらが単純なだけだよ」
係の人にハチマキを渡した心操に労いの言葉をかける。紛うことなきチームのMVPは彼だ。ウチはただ少し集中力を阻害しただけだし、他の二人、尾白とB組の人は何が起きたのか分かってない。
使い過ぎればバレる危険性が高まり、バレれば意識してれば簡単に食い止められる発動条件をこの順位になるまで的確に使ってきたということは間違いなく賞賛に値する。
更には敵を嵌めてハチマキを取るだけではなく、洗脳したウチ達の制御までやらなければならないのだ。並列処理というのだろうか。処理能力が段違いにあると思える。
「じゃ、次は敵同士だから」
ミッドナイトから昼休憩を伝えられると、そそくさとゲートの方へと心操は背を向ける。やはり普通科が一人もいないこの場は居心地が悪いのだろうか。
普通科がヒーロー科に良い感情を持っていないのは勿論知っている。
確かに彼等からしたら、私達A組は気に入らない存在なのだろう。主に爆豪の影響が一番大きいと思うが。
兎にも角にも自分のことも考えなければ。爆豪や轟、心操だけでない。今ウチのことを手を振ってお昼に誘ってきた麗日やヤオモモだって十分な強敵なのだから。麗日はマトモに触れられれば重力を奪われるし、ヤオモモは万能過ぎる。まだ三種目目の競技は発表されていないが、まぁ簡単に予想はつく。
簡単に予想がついてしまったから、その難度に対して余計に悩むのだ。
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スキューロという男は有能に有能を重ねても尚言い足りない程有能な男である。類まれなる彼の脳はあらゆる物事を瞬時に記憶するだけでなく、回転も恐ろしいほどに早い。そしてスキューロはあらゆる物事に精通した知識を持ちえている。
例えば経済学。例えば薬学。例えば機械工学。例えば物理学。例えば生物学。例えば個性学。
この世のあらゆる知識を網羅しているのではないかと思える程の彼の知識は当然ながら自分の為でもなくたった一人のために活かされている。言うまでもなくシクリーザ・フェリシータの為である。
そんな彼が、根本はシクリーザの為とはいえ間接的に他者の為になるように、彼が持ち得る全ての知識を総動員して作られたのが耳郎響香に与えられた専用兵装『ディーヴァ』である。
機械工学や物理をベースとして、そこに異端となる個性学を混じえていく。同じ音を攻撃手段として使用するプレゼント・マイクの使用するスピーカーとは訳が違う。プレゼント・マイクはより彼にかかる負担を軽減する為に音の大小を操作する機能しかないが、スキューロの造り出した『ディーヴァ』は違う。
耳郎響香の個性『イヤホンジャック』を最大効率であらゆる局面で発揮出来るように、様々な機能が追加されている。
例えば耳郎が入試で使用したのもそうだ。本来であれば耳郎のイヤホンジャックの『放出』には自らの心音を利用する。それしか使用できない。心音には定まったリズムがあり、緊張の度合いによって設定次第で威力が大きく変わってくる。
そんな不安定な出力では、兵器は兵器足り得ない。
故にスキューロは『ディーヴァ』が完全に音量や音程音階の主導権を握れるように設計した。無論、その機能を追加するためには当初の予定よりも追加パーツがかなり増えてしまったが、スキューロが秘密裏に日本のとある大企業と米軍より入手した技術で圧縮することに成功した。
スキューロは知っていたのだ。耳郎響香が己の個性からでは心音しか放出出来ないことを。そして放出した所で増加できる音量は『ディーヴァ』と比べれば塵にも等しいことも。
スキューロは普段よりも冷静さが欠如していた。それをちゃんと自覚出来てもいた。別にイラついている訳では無い。ただ早急にやるべき事を、調べるべき事を徹底的に調べあげなければという焦りが生まれているだけだ。
いつもよりも荒々しく車のドアを閉めてエンジンを蒸す。法定速度ギリギリではなく明らかに超えているが、この一帯を取り締まるヒーローは雄英体育祭の方に夢中らしい。普段よりも数があまりにも少ない。
急ぎながらも器用にスキューロは住居と言えばいいのかアジトと呼べばいいのか分からないが、いつもの場所に連絡を入れる。
『はい、私です』
「俺だ、ティッツァーノ」
電話に出たのは家で待機しているティッツァーノ。彼がいるということはスクアーロもいるということだ。もしかすればシーラもいるかもしれない。ならば僥倖。なるべく人手は多い方がいい。
『どうしました、貴方らしくもない。声に焦りが出ていますよ。麻薬チームとの密談は終わったのですか?』
「そんなことはどうでもいい。今から戻るが、すぐに個性学に関する資料を用意しろ。本でも埋もれた論文でもオカルト話でもなんでもいい。ありったけを掻き集めろ」
『・・・何かあったのですか?』
「ああ。何かがあった」
返答としてはかなり曖昧なものだ。何かという問いに具体的でない答えを返しているのだから。だがそのことをすぐに悟ったのかティッツァーノの気配が遠くなり、小さくスクアーロとシーラを呼ぶ彼の声が聞こえた。
運がいいことに、三人とも揃っていたらしい。
『貴方が戻るまでに出来る限りは集めておきます。ですが戻ってきた時に私達にも教えてください。それがボスからの密命でないのなら』
「分かった」
ならばいいです、と言ってブツリと切れる。端末を助手席へと放り投げたスキューロは、更にアクセルを強く深く押し込んだ。
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もうすぐこの雄英体育祭一年生の部の大目玉が始まる。昼休みからこれまでにかけて様々な競技があった。決勝に進めなかった者たちは繋ぎの競技に参加し、各々が今日という日を謳歌していた。
時には煽られ爆音を鳴らし、時には観客達を笑わせ、時には大胆にチア服というサービスを見せながら。
観客達もそれに応じる。笑い喜び楽しむ。普段は見られない個性を使っての競技に、若かりし頃の夢やこれからの将来への希望を思い出していく。
観客も、選手も楽しんでいる。まず間違いなく雄英体育祭は大成功と呼べるだろう。
そんな喜怒哀楽が飛び交うこの日の最後の種目の開戦を告げるべく、相も変わらず露出多めなミッドナイトが壇上に立つ。掲げる鞭を振り下ろすと共に、最後の種目を言い放った。
「最終種目は進出4チーム16名からなるトーナメント形式!一対一のガチンコバトルよ!!」
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控え室で興奮に滾る心を落ち着けながら、電子音声で流れてくるミッドナイトの開幕宣言を聞く。
先程まで上鳴のバカと峰田のスケベに騙されて着ていたチア服ではなく、今日に限っての戦闘服とも言える雄英高校の体操服。
昼休み終わりのレクリエーション前に行われたチーム決め。そこでウチの騎馬戦のチームはウチと心操以外の二人。尾白と庄田・・・なんかインパクトが凄い名前のB組の生徒は三種目目への出場を辞退した。
彼ら曰く、騎馬戦で何もしていない自分達が出るのは大会の趣旨に反するし、個人的にも認められない。
彼ら二人は騎馬戦の時に心操に洗脳され、意識を奪われていた。だから、ただ洗脳されていただけの自分達が出場することが許せなかったのだろう。ウチにも理解出来る。もし立場が違えばウチもそうしていただろう。
雄英体育祭始まって以来の前代未聞のことかもしれない。決勝を目前にしながらの辞退。ヒーローを目指す者にとって最大の見せ場となる雄英体育祭を自らの意思で降りたのだ。聞かされた観客も選手も酷く動揺した。
だがそれでも彼らは棄権という意志を貫き、ミッドナイトはソレを認めた。曰く、青臭いのは大好きだと。
異例の事態だがどうやら全ての采配はミッドナイトに任されているらしい。
一回戦目のウチの相手は芦戸。彼女は会場の反対側の対戦表の左側に位置されている選手の控え室にいる。試合には関係ないけどできればウチと対戦表の位置は変わって欲しかった。
「・・・・・・」
ウチの近くに座っている爆豪が備え付けのモニターを射殺さんばかりに睨んでいる。
一回戦目の対戦カードは緑谷と心操。これまで個性を全く使わないという異端の記録を残した緑谷と決勝に進んだ選手達の中で唯一の普通科生徒。色々な意味で注目を集めるこの試合だが、爆豪は何を思ってみているのだろうか。
緑谷が敗れろと思っているのか。それとも勝ち上がってもらい決勝で叩き潰すと思っているのか。奇運なことに対戦表の真反対に位置する、性格も真反対の二人の関係はライバル関係と言うべきか。それとも一方的な敵対視か。未だによく分からない。
意識を爆豪からモニターに移す。心操と緑谷の相性は両者共に最高と言える。心操は緑谷のことをよく知っている訳では無いと思うけど、心操の洗脳の発動条件はあまりに簡単。ただ一言でも会話を成立させればいいのだ。例え暴言であっても。
その点でいけば緑谷の相性は最悪に見える。緑谷は凄く優しい人間だ。心操が突いてくるだろう箇所を分かっていたとしても無視することができないだろう。
だが、幾ら心操の個性が強くとも心操本人は常人でしかない。超パワーの増強型個性を持つ緑谷なら開幕直後に白線の外に追い出すことなど容易いことだろう。
しかし、緑谷は果たして個性を使うだろうか。ウチが知っている中で、緑谷が個性を使った時はどうしようもない程の怪我を負っていた。
試験の時は片腕と片脚、体力測定の時は指、屋内訓練の時は右腕。
使う度に肉体を酷く損傷している。幾らリカバリーガールのお陰で即興の治療ができるとはいえ、緑谷の次の相手は確実に轟だ。瀬呂には悪いけど。
指一本でも完璧な状態にしておきたいはず。万全の状態でもまともに勝ち目があるかどうか分からないのだ。屋内訓練の時に一応戦ったから分かる。轟がその気になれば緑谷との勝負など速攻でケリをつけることも持久戦に持ち込むことも出来る。
あくまでウチが轟とマトモに戦えたのは氷しか使わなかったからだ。氷が物体だったからだ。だが轟の左側、炎を使われていたら間違いなく瞬殺されていた。音で炎は止められない。
使わないから、まだ轟はここにいる。一見すれば同じような位置にいる。ならもし炎を使えば、轟はどこまで強くなるのだろうか。
「ちっ、デクの奴・・・あんな雑魚に・・・」
あぁ。どうやら爆豪は緑谷を叩き潰したいらしい。別に応援している訳では無いようだけど。いや、もしかしたら意外と応援していたりとか?俺のライバルだろ、お前的な。てことは、爆豪ってツンデレ?
「おい、クソ耳。テメェなんか変なこと考えてねぇか?」
「爆豪って案外緑谷思いなんだなー。ライバル視してたりとかしてるのかもって」
「んなわけあるかクソ耳!!」
突然耳元で怒鳴るなよ!ただでさえ個性の影響で意識してなくても聴覚は鋭いんだよ。
ていうか緑谷、洗脳思いっきり嵌ったじゃん。やっぱり心操の方が一枚上手だったのかな。もしかしたら開始する前から少しだけ口撃していたのかもしれない。
もう緑谷はここで終わりだ。尾白が騎馬戦の終盤で少しだけ意識を取り戻したのだって、第三者が衝撃を与えたからだ。心操の洗脳解除の為には何らかの外的刺激が必要。だがこの試合は一対一。フィールドにいるのは心操と緑谷のみ。間違いなく詰みである。
誰もが確信した。緑谷出久という個性を使わないイレギュラーな生徒はここで敗北すると。既に心操の洗脳に嵌り、操られた体は白線のすぐ前まで歩いている。あと一歩だけで一人目の敗北者が決まる。
選手たちも観客も、そしてウチも敗北を確信した。心操の洗脳は意識を奪う。抵抗する意思さえ生まれない。
人は奇跡が大好きだ。逆転劇が大好きだ。野球の最終回での逆転サヨナラホームランのように、オールマイトが窮地に現れて燃え上がるように。
絶対的なピンチ。確実となった敗北。それがくつがえる瞬間に人は至高の喜びを味わうのだ。
だが世の中にはそういったことを嫌う人もいる。
奇跡や逆転劇などは当事者達からしてみれば心を折られかけ、絶望に状況も心も瀕しなければならないのだ。それでも奇跡が起こるかは分からない。希望が生まれるかなんて分からない。
奇跡や逆転劇なんて必要ない。当たり前のように真っ直ぐに起伏ない道こそが至高なのだ。深い絶望から高い希望に昇る必要なんてない。そのままがいいし、そのままでいいのだ。
きっとあの人は、シクリーザさんはこの展開が嫌いだろう。反吐が出ると吐き捨てるだろう。当たり前だという常識を突き破るように、心操がコンクリートで作られたフィールドの上に背を付けて、緑谷が心操を見下ろすように立っている。
間違いなく逆転劇と呼べるこの展開に、彼女は何を思うのだろう。
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マッシモ・ヴォルペはヴラディミール・コカキに拾われた男である。別に育てられたという訳では無いし、マッシモ自身も捨て子という訳では無い。裕福な家庭で人並みの生活をし人並みの愛を受けていた。
きっかけは父親の堕落だった。十年のうちにヨーロッパの各地は個性優遇社会に変化した。優秀な個性を持つ者には圧倒的な優遇を。優秀ならざる、もしくは持たざる者にはそれなりの待遇を。
優秀な子供がいればそれだけで援助は良くなるし、周りからの対応も変わってくる。
しかしマッシモの父親は没個性と呼ばれるものであり、母とマッシモに関しては全くの無個性であった。無能と結婚し無能を生み出した無能の父親。それでもそれでもと精一杯会社に貢献してきた父親は、個性という存在の前に切り捨てられた。
後は、察することができるだろう。酒に溺れ暴力に溺れ、妻からも見捨てられた男の末路としては当然のものだった。
故にマッシモが父親を見限るのも当然の事だと言えた。父親も家も、持っている何もかもをマッシモは組織に売り出した。他でもないパッショーネという大組織に。それと引き換えにしてマッシモは組織へ入った。
マッシモとコカキが出会ったのはその頃だ。コカキはマッシモの何を見てどう判断したのかは分からないが、マッシモは気付けばコカキの管理している『麻薬チーム』で薬の運び屋をやる事になっていた。
下っ端から『麻薬チーム』の関係者になるまで上り詰めるという異例の事態である。まぁ運び屋の名の通り、薬の製造方法も何も知らされることはなかったが。
事が変わったのはマッシモの人生からだとつい最近と呼べる程最近である。突然呼び出されたマッシモは、コカキに告げられた。
「製造係が消えることになった。予定通り、次はお前だマッシモ」
最初は何を言っているのかは分からなかった。言葉の真意など無論のこと。だがその疑問は直ぐに晴らされることになった。
パッショーネのボスの正体に次ぐ最大の秘密。個性とは違う超常の力。精神の具現たる
『マニック・デプレッション』。前任の製造係も使っていたパッショーネ最大の収入源である麻薬の製造を一手に引き受ける
父の堕落、コカキとの出会い、
件の男、ヴラディミール・コカキはマッシモをしてもよく分からない男であった。ボスの正体を知り、長年パッショーネに貢献しているのは知っている。そのお陰でボスから麻薬チームの管理を任されるほどに信頼されていることも。
マッシモは思う。自分が運び屋として麻薬チームに選ばれたのは、いずれ前任が消されることをコカキが予見、いや確信していたからなのだと。
普段は温厚そうな老人だが、その本性はどこまで黒いのか。深淵のように黒いのか、それとも黒と認識できないほどに黒いのか。
十年程共にいれば、長い付き合いだと言えるだろう。少なくとも十年分程度は、マッシモはコカキのことを理解しているのではないかと思う。毎年この時期になるとコカキは日本に来る。雄英体育祭を見るために。二年前に一度だけマッシモも見に来たが、正直何が面白いのか分からなかった。
コカキが言うには未来溢れる青少年の努力は好ましいと言うが、果たして本当なのかどうか。
そもそも、仮にもコカキはギャングの幹部であり、ヨーロッパの裏社会では蝙蝠と呼ばれる程の男だ。敵地とも呼べるこの場所によく毎回来ようと思えるものだ。大体、見ようと思えば雄英体育祭などテレビ中継がされるというのに。こういった事に熱がないマッシモからしてみれば、コカキはサッカーの自国の代表の試合を見に世界中を飛び回る熱心なサポーターのようにも思える。
そんなこんなでボスの右腕と密談し、なぁなぁにコカキに付き合ってから既に5時間以上が経過している。全てが退屈という訳では無いが、流石にこれ程の長時間だと億劫になってくる。だがようやく最後の競技に入った。無駄とも思える長い時間もじきに終わる。
「ほう、やはり面白い個性を持っている」
コカキのようにオペラグラスを使っている訳でもないので、観客席の一番上部にいるマッシモからでは粒よりも大きめのサイズの人が動いているようにしか見えない。巨大なモニターに目を向ければ、虚ろな顔で自ら敗北をしようとしている少年がいる。
「ボスの劣化か」
「比べてやるなよ。あの方とはそもそもの下地が違う。あの方にも少年にも失礼というものだぞ」
敵対している少年の個性が洗脳だということは既に理解している。まるでボスの『ホワイトスネイク』のDISCのようにも思える。だが応用性は明らかにDISCの方が広い。ソレは身をもって体験している。
何せある程度の無茶でも実行できてしまうのだ。
「二年前のと比べたら随分と呆気ないな。いや、あの時は別にインパクトが強すぎたと———」
なんだ?
この不快感は。
言いようがない程の不快。
ただ気持ちが悪い。
まるで、掴まれているような。
気付けば試合は終わっていた。いつ終わったのか、どのように終わったのかは全く分からない。自分の身に何が起きていたのかさえも。何も理解出来ていない。ただ荒れる熱狂の中でガラスケースに隔離された様な気分である。
「コカキ、アンタもさっきの———」
「この後の予定は変更だ。お前はすぐに帰れ。理由は聞くな。何も聞くな。聞けば殺す」
裏社会の重鎮に相応しい冷たすぎる声。本当に理由を聞けば間違いなく殺される。今のコカキはそういう雰囲気を曝け出している。先程の感覚に何か思う所があったのか。
マッシモとしてはここでコカキに殺されるのは御免こうむるし、コカキの命令に逆らうつもりは無い。大人しく立ち上がり、この場を後にすることにした。
「これはまた、面倒なことになりましたな。すぐにそちらに向かいます。私のボス」
残ったコカキの瞳がオペラグラスを通してみた景色には、自分が唯一頭を垂れ、犬のように従順に従うと決心した人が倒れていた。