いつの間にかボスになってた。組織は滅んだけど 作:コズミック変質者
シーラ・Eという女性の人生の中で、最も緊張した瞬間と聞けば、2回と答える。一度目はイタリアのスラムで燻っていた頃、当時パッショーネの代替わりをしたばかりの時に、スキューロに勧誘されてボスと面会した時。
その時のことは永劫忘れない。何の力も無く、淘汰され続ける弱者であったシーラに、
そしてもう一つの時は、今。ボスと面会する直前。
予定通り日本に着きボスの現在の居住区であるマンションに来たまではよかった。だが玄関の前で久しぶりに会ったスキューロはシーラに手錠をするように要求した。今更何を、と思ったが様付けするほど慕うスキューロの言うことにシーラは逆らわず、大人しく身体の前で両手に手錠を嵌めた。
押し込まれたエレベーターは広い。
「部屋に着いたら
「言われなくても大丈夫よ。私だって好き好んで死にたくはないし、スキューロ様は勿論、ボスにも恩があるもの」
「ならばいい」
仲間でも躊躇しないのはスキューロも親衛隊も同じだ。シーラも命令さえ下されれば躊躇なく殺すことが出来る。だが殺される側になれば大人しくしているつもりは無い。出来る限り抗い、その果てに生死が決められる。
「行くぞ」
エレベーターが止まり、スキューロに背中を押されて歩いていく。少しばかり強引だが、実質的に上司のスキューロに文句を言うつもりは無い。そもそも文句を少しでも言った時点で指の一本は切り落とされるかもしれない。
そう思わせるくらいスキューロはピリついた雰囲気を出していた。
エレベーターを降りれば避難通路用の階段の入口以外に扉は一つしかない。恐らくそこにボスがいる。いや、ボスと会話できる場所まで通じる入口がある。実質部屋には誰もいない。いるのは鏡の向こう側。
「
スキューロに評価されていると言われ、少しだけ緊張が和らぐが、部屋の先にある姿見を視界に入れた瞬間、シーラの背中に冷たい汗が走る。
この感覚を味わうのも二度目。どれだけ危険な状況に身を置かれようとも決して味わうことのなかった感覚。絶対的な強者、帝王と呼ぶに相応しい者の前に立つことでしか味わえない悪寒。
「『ヴードゥー・チャイルド』」
シーラの呼び声で現れるのは彼女がボスに与えられた
「『マン・イン・ザ・ミラー』、俺とシーラだけが入ることを許可しろ」
シーラは初めて味わう『マン・イン・ザ・ミラー』で鏡の世界に入る時特有の視界の捻じ曲がり。慣れない感覚に少しだけ吐き気を感じてしまう。
初めて入る鏡の世界。自分の分身とも言える
ボスはここにいない。しかし、『ホワイトスネイク』がここにいた。
「連れてきたぞ、ボス」
「ご苦労だったなスキューロ。下がっていろ。さて、久しぶりだなシーラ・E。君の仕事ぶりは聞かせてもらっている。いい仕事ぶりだ」
「あ、ありがとございます」
久しぶりに聞いたボスの声。『ホワイトスネイク』越しとはいえその威圧感は変わりない。心底恐ろしい。自然と膝が屈してしまいそうなほど、ボスが恐ろしい。称賛を受けているはずなのに、マトモに喋ることすら出来なくなる。
「既にスキューロから話は聞いているな?当然ながら時間は有限だ。無駄は省いて早速本題に入ろうじゃあないか。
シーラ・E、私は君を信用していない」
前にもこの言葉は言われたことがある。その言葉に不快感を覚えたことはない。この業界にいれば、心の底から信じていい相手など、ほとんど存在しない。同じ親衛隊でティッツァーノとスクアーロのように、運命によって導かれた者同士でもない限り。シーラ・Eは自分が運命によって導かれた者だという自覚がある。信頼できる友とは巡り会えなくとも、己のすべてを捧げられる相手を見つけられた。
「君に聞こう、シーラ・E。人が人を選ぶに当たって、最も大切なことは何だと思うかね?」
「・・・才能や頭の良さ、その人物がどれだけ役に立つかの信頼性」
「
そんな風に念を押されなくとも、ボスの言うことは脳裏から離れることはない。帝王の言葉は頭の中に浸透し、聞いた言葉によっては、無限の悪夢にもなってしまうのだから。
「人が人を選ぶにあたって、最も大切な物は『信頼』だよ。決して裏切らない、背中を晒しても大丈夫、平穏を預けられる様な『信頼』こそが最も大切なんだよ。それに比べれば才能?役に立つ?そんなことは重要じゃあないんだよ。才能がないなら私が与えればいい。君に与えたように
分かるかね?そんなものはいくらでも替えが利く。だが『信頼』だけは違う。『信頼』とは誰もが最もつかみ取るのが難しいものであり、それをつかみ取ったとき最も信用できる物なのだ。
ではどうすれば『信頼』はつかみ取れるのか。相手の隅々まで知り尽くし、絶対に裏切らないと確信を得ることだ。
話してくれシーラ・E。君の全てを、君の真実を。そうしたとき、君は初めて私の信頼を得ることが出来る。
さあ、私と、仲間になろうじゃないか」
ボスの言った言葉の数々は、まともに頭の中に入ってこなかった。それは言葉の端々に含まれていた威圧が、いつしか身を委ねたくなってしまうほどの甘い声に聞こえてきてしまったから。その言葉に私は捕らわれてしまった。ただ正面にいる『ホワイトスネイク』を通してボスの姿を幻視していた。
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やっべーよ。気紛れで聞いたシーラ・Eの過去がヘヴィ級のパンチ打ってくるんだけど。数年前のスキューロの暗殺現場に居合わせて、スキューロの殺した人間がシーラ・Eの姉を殺した人で、シーラ・Eはその復讐のために来てた?
それで復讐対象を殺したスキューロを様付けと。
しかもシーラ・EのEは偽名?Eの意味は
まぁ後者はともかく前者は存在しない・・・よな?運命とか言ってAFOの手にでも渡ったら流石に洒落にならない。
最悪エジプト行って掘って確かめるしかない。
しかしどうしようか。こいつ、信頼していいのか?あくまでこいつが信頼しているのはスキューロだ。私じゃない。もし護衛として起用して、襲撃され私に銃口が向けられるようなことがあればスキューロなら迷わず私の肉盾になってくれるだろうが、シーラは私のことを迷わずスキューロの肉盾にしそうな気がする。それに私はこいつに顔を見せなければいけないのだ。果たして、私はシーラをどこまで信用すればいいのか。
ん?どうした『ホワイトスネイク』。なんで勝手にこっちを見てる。お前はシーラの監視をえ、ディスク?なんでい・・・あ。
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!
私としたことが!自分の
そうだよ!対人なんてほとんどしたことのない私が、記憶ディスクなんて使ったことあるわけねぇじゃん!ほかにも思い出したよ!幻を見せるとかな!いや、あれだって作中で一回しか使われなかったんだぞ。ほかの
この『ホワイトスネイク』の有する記憶ディスクなら、記憶操作から命令の書き込みまでもを可能にする。作中では私が絶対に戦いたくないどころか、会いたくもない相手の筆頭である空条承太郎を一時的に再起不能にしてしまうほどだ。正攻法ではなかったとはいえ倒したのは事実。『ホワイトスネイク』の力は十分信用に値する。
今すぐ差し込んでもいいのだが、私の身体は動かない。動かない理由は、多分分かっている。それは私が『恐怖』しているからだ。失敗するかもしれない。効果が切れて殺されるかもしれない。そんな『恐怖』が私の中にあるのだ。痛いのも嫌だ、怖いのも嫌だ。常に『安心』と『平穏』を求め続けるからこそ、信用できないという『恐怖』に怯え続けるのだ。いつ終わるかも分からない力。効果がなくなったことに気付き、それに対処するまでの時間があれば、私から『平穏』を奪うことはできる。
私はDIO様の如き帝王ではない。『恐怖』を克服することが出来ない。私に出来るのは『平穏』を求めるために『信頼』することだ。そう、それしか出来ないのだ。私に心の声を聞く
あの時はホントに怖かった。年頃の少女がガン泣きしてちびりそうになるくらい。
スキューロを本当に信頼したように、私が先に信じてみるのも偶にはいいかもしれない。
もしもの時はスキューロに丸投げしよう。私は一目散に逃げる。
あー嫌だな。『覚悟』とかしたくないなー。
私はこの後、凄く後悔した。もっといい方法普通にあったじゃん、と。
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一瞬だった。転移系の個性で隠れ家に転移する刹那、僕の右腕は内側から弾けるように宙へ舞った。右腕が奪われたことに気付いたのは、隠れ家の薄い明かりに照らされてすぐだった。
「え?」
自分でも驚くくらい、軽い声だった。その声は右腕の付け根から吹き出る血が飛び散る音に掻き消された。腕がないと認識すると、そこから灼熱の痛みが脳裏を駆ける。この痛みはオールマイトに負けたときと同じか、それ以上のものだ。
「がっづぁぁぁァァァァアアアア!ぼ、僕の腕があああああああああああああああああああああああ!い、いつだ、いつ僕は右腕を、どんな手段で奪われたんだ・・・!?」
必死にため込んだ回復系個性をフル稼働する。だが右腕は元には戻らない。確かに個性は働いている。なのに右腕は微塵も回復しない。むしろ個性を使った時の副作用の激痛だけが溜まっていく。
「こ、これは・・・」
飛び散った血が視界に入る。傷口を抑えていた血濡れの手も視界に入る。それは見慣れた血の赤ではなく、悍ましいほどの黄色だった。
「き、黄色い・・・。僕の血が黄色くなっている・・・!それに今ようやく気づいたが、呼吸が荒い・・・!知っている、僕はこの現象を知っている・・・!」
己を悪だと自称する位には、悍ましい悪行を行ってきている。快楽的な殺人も何度もやった。その中には出血死していく様子を観察するというものがあった。その時に見た物と同じだ。血が黄色くなる現象は、体内に酸素が回っていないから。そして酸素を運ぶのはヘモグロビン、要は血液だ。血液がなくなれば酸素は運ばれなくなる。酸素が少なくなれば呼吸回数が増える。血液がなければ激しい呼吸に意味がなくなる。そして酸素が与えられない血液は黄色くなる。ほんの一瞬。彼の言葉を聞き終えるのと同時にあった内側から弾ける感覚。
「血液を操ったのか・・・!血液を硬化し———」
真実に辿り着いたと思ったその時、チャランと金音がした。何かを踏みつけてしまったらしい。足をどけるとそこには所々が血で濡れてる剃刀が転がっていた。それを残っている左手で拾い上げると、ボロリ、と崩れ落ちた。
まるで支柱を失った建物が崩れ落ちるように、呆気なく崩壊したのだ。
「まさか彼は、鉄分を操ったのか・・・?鉄分を操って血液を作り替えた鉄の刃で、右腕を内側から切り落としたのか!?」
内側から膨れ上がる感覚、荒い呼吸に黄色い血液、射程距離から離れたせいなのか崩れ落ちる剃刀。
もしそうなら、個性が治しているのは右腕ではなく人体に必ず無ければならない血液。肉体はAFOの思いから外れ、生き延びるために個性で血液を生み出し続けていたのだ。右腕という大きな武器の一つと生命。肉体は生命を選択した。
「し、しまった・・・!」
いくら血液を増やそうと、右腕に穴が出来てしまっているのだ。増やされた血液は右腕に達すると共に零れ落ちてしまう。だから肉体は右腕の穴を塞いだ。決して血液が零れないように、右腕がない状態を覚えさせた。この結果、肉体は右腕という存在を忘れ、AFOには初めから右腕がない状態が個性によって記憶されてしまった。
「くそ!これではもう、右腕は使えない!」
声を荒らげて左腕で壁を叩く。痛い失敗だ。利き腕を失うのは痛すぎる。ただでさえ肉体的に限界も近いというのに、右腕まで失ってしまうとは。オールマイトの残り火はまだ残っている。奴は五体満足で自分の前に立つだろう。隻腕というハンデはあまりにも大きすぎる。
「ふ・・・ふふふ・・・フハハハハハハ!!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
突如狂ったように笑い出す。最悪と呼ばれた犯罪者が、快楽殺人鬼の如く笑い出す。可笑しくて可笑しくて可笑しくて可笑しくて可笑しくて可笑しくて可笑しくて可笑しくて可笑しくて可笑しくて可笑しくて。
オールマイトへの殺意に溢れていた自分の心に、消えないものを残された。刻まれた。右腕の欠損という形で残された。
「いい、いいよ、凄くいいよ・・・」
イタリア最大のギャングのボス、吐き気を催す邪悪、正体不明の人型の個性、鉄分を操作するという強力な力。心が高ぶる。気分が狂う。久しぶりに湧き上がった新鮮な感情に悦びを隠せない。久しぶりに味わう激情は、AFOに力を与える。
「君を殺したい。他の誰でもない僕が殺したい。苦しめて殺して、あっさりと殺して、絶望させて殺して、恐怖させて殺して、作業的に殺して、社会的に殺して、苦悶させて殺して、叫ばせて殺して、狂わせて殺して、愛して殺して、食べて殺して、犯して殺して———嗚呼ああアアァぁ・・・凄くいい」
オールマイトも殺したいが、彼も同様にめでたいことにランクインだ。オールマイトの次は彼を殺すと決めた。この失った右腕は、彼の右腕を移植しよう。目の前で引きちぎって、僕の物にしてやろう。ついでにオールマイトとの戦いで臓器が負傷したら彼のを使おう。腸を引きずり出してパズルみたいに当て嵌めよう。
楽しみだ、ああ楽しみだ。
はやく君達を殺したいな、オールマイト、パッショーネのボス。
記憶に残る素敵なラスボスって強さは別として、何でもいいけど何かに狂っているっていう印象があるんですよ。正義だったり愛だったり意思だったり。
再)今後の展開、主に2、3話後について
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原作前に原作キャラと関わってもいい
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何言ってやがる、直行で原作いけやダボが
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関わる原作キャラは俺達が決める