いつの間にかボスになってた。組織は滅んだけど   作:コズミック変質者

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ジョジョ見てFGO異聞帯四章やりながら某動画サイトのシンフォギア一気見してたらまたテンションが変な方向にネジ切れた。ジュナとビッキーとOTONAがカッコよすぎるんじゃ。
結果→何故か難産で理解不明。


最近、問題児の二次創作が減ってきてるから近いうちに出してみるのも悪くないかなって思ってきた。
お前もう書いてるだろって?エタったんだよ。


どうやら閑話休題したいらしい。処理に困っただけなんだけど

昼過ぎ。昼食終わりの会社員達や学生達の喧騒から背を向け、スキューロは路地裏の闇に紛れていく。『シンデレラ』に行った日からもう一ヶ月。都内から少し離れて静岡県に居を移した。

ここはホームのイタリアではないため、途中何度か住処を変えることがあったが、AFOの時のような問題は一切起こらなかった。

ボスも落ち着いて、『平穏』と言うに相応しい生活を送れている。少なくとも幽波紋(スタンド)を出すようなことは何もない。

 

日本にいない親衛隊達も『残り滓』の始末を終え、今はそれぞれがそれぞれの時間を過ごしている。シーラも護衛の仕事のみとなっている。

 

現時点で外敵に対する仕事をしているのはスキューロのみ。

 

「なぁそこのお前達。少し聞きたいことがあるんだが」

 

路地裏に屯している三人の男。青年と呼べるほど若くはなく、中年と呼ぶには些か早すぎる。着ている服の色は各々違うが全員がスーツで統一されている。

話しかけられたのが気に食わないのか、それともスキューロの態度がカンに障ったのか、男達はガンを飛ばしながらスキューロに近づく。

距離がだんだんと縮まっていき、鼻がぶつかり合うほど互いの顔が近くなった。スキューロの体格は良く、目を合わせるには首を下に傾けなければならない。そうすると自然と見下ろすような形になる。

 

「見下ろしてんじゃねぇぞ、ガキッ———ヅァッ、テメッ離しやがれ!!」

 

「早速武力行使か。少し頭に血が上るのが早すぎるんじゃあないか?俺はただ、ほんの少しばかり聞きたいことがあると、言っただけなんだぜ」

 

スキューロの頭部を掴んで頭を下げさせようとした所を、腕を掴んで握り潰すように力を込める。掴まれた男は振りほどこうと身をよじるが、スキューロの握力はそれを許さない。

いや、スキューロの握力だけではない。スキューロの腕に重なるように、幽波紋(スタンド)の腕が浮かび上がる。まるで纏っているかのように。だがそれが見える者は誰もいない。

 

「調子乗ってんじゃねぇぞ!!」

 

スキューロを囲んで様子を見ていた二人も堪忍袋の緒が切れたらしい。表面がメタリックな金属に変化した片腕と、サイレンサー付きの拳銃がスキューロに向けられる。だが腕は振るわれることはなく、拳銃は弾丸を吐き出す前にその形を変えた。

 

「お、オワあああああ!?」

 

「ヴォォォぉぉおおおお?!」

 

金属化の個性を持つ男はどこからか出てきた数十を超える『メス』で、金属化した腕と共に身体を穴だらけにされた。偶然か必然か、心臓などの重要器官は一切傷ついてはいない。針治療で痛みが出ないツボを針で刺すように、痛みと出血量の多い場所だけを正確に切り裂いている。

拳銃を持っていた男は突然口から剃刀を吐き出した。一や十では数え切れない。まるで蛇口から出る水のように絶え間なく剃刀が口内を切り裂きながら血と共に吐き出される。

 

「ようやく話を聞く準備が出来たな。では質問を続けよう。抵抗はオススメしない。お前だってこうなりたくはないだろう?大人しく、正直に話すんだ。AFO(オールフォーワン)、そして敵連合。どちらかの名前に聞き覚えは?」

 

「な、ない!!」

 

仲間二人の突然の再起不能とも取れる光景から、怒りは怯えに早変わりした。目の前にいるスキューロから伝わってくる底知れない恐怖に当てられ理解した。この男はやると言ったらやる人間だと。一切の躊躇なく、家畜を殺すように冷淡にこなす男だと。

本能が恐怖したため、もはや彼の口は嘘をつけない。目の前で実演(・・)された攻撃。全身を無数の刃物で刺される、口から剃刀が出てくる。この奇妙極まりない現象を受けた仲間と同じ目に遭いたくはなかった。

 

「ふむ、どうやら知らないらしいな。では次だ。『オーバーホール』。この名前に聞き覚えは?」

 

「そ、それは・・・」

 

知っている。その名前はよく知っている。三人の男達が所属している組織の若頭。頭もキレ実力もある。こんな場所で屯しているチンピラヤクザとは違って、上に立つ才覚を十分に持った男。だが若いからか、もしくは行動からか批判も多い。現在倒れて意識不明になっている組長。その組長を意識不明にしたのはオーバーホールでないかという噂もある。

気に入らないのはこの男も同じだ。そもそもこの男が憧れたヤクザというのはこんな時代でも任侠を守り続けた組長のような『漢』なのだ。だがオーバーホールは組長の掲げる任侠に背いた行為ばかりだ。

アレだけ組織で手を出さないと決められていた薬の売買に手を出し、最近では組長の遠縁の娘らしき少女を、何やら実験台にしているらしい。いくら己がクズとはいえ、流石に人として嫌悪感を覚えずにはいられない。

 

そんな気に入らない奴だが、裏切ることは果たして任侠として、『ヤクザ』としてどうなのか。

 

「その反応、何か知っているな。何を知っているか教えて貰おうか。言いたくないなら言わなくていい。時間はいくらでもある。とことんだ。とことんやろう」

 

その言葉と共に、スキューロのコートが靡く。風は通っていないのに、まるで強風でも吹いているかのようにバサバサと音を立てながら。

 

「お前達が鏡の中に入ることを、許可しよう」

 

視界は歪み、世界は反転した。

 

 

 

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「有益な情報だった。感謝する」

 

拷問が終わり、世界の歪みは消えてなくなった。先程まで拷問していた男を投げ捨てる。ドチャリ、という音を出しながら肉の塊が地面に投げ捨てられる。明らかに痛そうな投げ捨てられ方だがどうでもいい。死人達(・・・)に気を使うほど、スキューロという男は優しくない。

 

「中々粘った方じゃないか。イタリアのチンピラ程度なら最初の一発で洗いざらい吐いてくれるんだが。成程、これがヤクザの持つ任侠という物か」

 

捨てられた死体はどれもグチャグチャだった。顔が内側から弾けていたり、手足が細かい穴だらけだったり。まるで何らかの武器を使っていた以外は殺し方に統一性がない。

痛ましく惨たらしい光景を見下ろしながら、スキューロは懐からメモ帳とボールペンを取り出して、聞き出したことを書き加えていく。本来ならこういった作業はスマホなどの情報端末でもいいのだが、秘密事ならば紙媒体の方がやはり機密性は高い。

 

「治崎廻。ヤクザ組織死穢八斎會のNo.2。いや、組長が倒れているなら実質的なNo.1か。『分解』そして『修復』。手首から先までしか効果がないとはいえ殺りづらいな。それに話じゃ地面などを分解して『修復』することで遠距離でも使える。確かに強い。そして、用心深い。暗殺は不可能と見ていいだろう。だが、やり方は幾らでもある」

 

最低限、必要なことを書き込んでメモ帳をしまう。確かにオーバーホールは強敵となるだろう。純粋な近距離パワー型のシーラでは分が悪い。スキューロは『マン・イン・ザ・ミラー』で鏡の世界に引きずり込めば確実に勝機は見える。鏡の世界ではスキューロ以外は物を動かすことが出来ない。鏡の世界でオーバーホールは地面を分解できない。必然的に接近戦を強いられ、スキューロは距離を保って嬲り殺すことができる。

血があるのなら無敵に近い性能を持つ『ベイビィ・フェイス』で殺せばいい。

 

それに、

 

「ボスにいい土産話が出来そうだ」

 

現在も裏で流れ、パッショーネも取り扱っていた個性をブーストする薬の逆。オーバーホールが開発している個性を壊す薬。これはスキューロとしては非常に興味深いものだった。これがパッショーネの、ボスの手に渡ればボスの平穏はより潤ったものになる。

パッショーネに敵対した者にこの薬を使って永久に個性を奪い、無力としてしまえばいい。誰もパッショーネに敵対しようとも、ボスの正体を知ろうともしない為のアイテムとしては非常に魅力的だ。どんな人間であろうと、生まれ持ち慣れ親しんだ『力』を失うのは怖いことだから。

 

ヒーロー達が時間をおいて来るだろう。そうするように匿名で、死体の携帯を使って仕向けておいた。何人来るか。そういった様々な被害状況から、大体どの程度のヒーローが来るのかも、とりあえずは調べている。

 

「思ったよりも長い付き合いになりそうじゃないか、死穢八斎會」

 

スキューロの脳裏に描き出される未来予想図は、確かにボスの求める平穏へと道が続いていた。

 

 

 

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はじめてだった。あんなに怖い目に遭ったのは。

 

はじめてだった。まともに正面から向かい合ったのは。

 

はじめてだった。目と目が合ったのは。

 

はじめてだった。今まで見てこなかった現実を、見えない壁を隔てた向こう側を見たのは。

 

はじめてだった。今まで軽く考えていたことが、こんなに重くのしかかってきたのは。

 

 

 

 

 

 

急速に唇がカラカラに乾燥していく。ぶわっと嫌な汗が額に滲み出てくる。足は無意識に後ろへ、後ろへと動いていく。ウチの目の前に、(ヴィラン)がいる。5mほどの巨大な身体をレインコートで覆い隠している。首から下げられている旧型のラジオが何かを発しているが全く耳に入ってこない。

 

それはウチを壁に追い詰めると、覆い被さるように身体を傾けて壁に手を突いた。なんてことのない、そんなありきたりな行動で、突いた手がめり込んでいき、壁が破壊された。まるで力を込めた様子が感じられない。恐らくそれは、素の力で壁を破壊したのだろう。見るからに異形型。だがその姿は今まで見てきたクラスメイトや、街中ですれ違う誰よりも恐ろしかった。

 

「ギャンブルヒーロー、D`ARBYの事務所はどこにありますか?」

 

それが発した言葉はゆっくりで聞き取りやすい物だったが、ウチの耳には全く入ってこない。聞こえるのは壊れそうなほどに脈動している自分の心臓音だけ。

逃げろと本能が警鐘を鳴らしているが、自分の足は震えるばかり。それどころか力が抜けて体が崩れ落ちる。それは怖さ故。

 

「もう一度聞きます。ギャンブルヒーロー、D`ARBYの事務所はどこにありますか?」

 

「ひっ」

 

言葉が出ない。出ないのはあまりの怯えに喉が枯れ果てたから。

目尻に涙が溜まる。号泣しなかったのは流せないほどに怯えていたからか。

恐らく殺そうと思えば虫を殺すようにあっさりと簡単に殺すことができるのだろう。今は猶予期間。多分コイツはヒーローと戦おうとしている。なぜだかウチはそう理解していた。

 

「知らないのですか?それとも知っていて教えてくれないのですか?もし教えてくれないのなら、少し痛い目に遭ってもらいます」

 

このままでは間違いなく殺される。それを理解した瞬間に、脳がエラーを起こしたように真っ白になる。

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いどうしてヒーローは来てくれないの何で助けてくれないの助けてよいつもみたいに助けに来てよ何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で助けてくれないの。

 

それが他人へのなすり付けなのは分かっている。抵抗しようと思えば個性を使って抵抗できた。ならどうしてそうしない。ああ、分かっている。怖いんだ、未来が。今のことなんて全く気にしていないんだ。だってまだ、こんな状況でもまだヒーローが来て、必ず助けてくれるって思っているから(妄想しているから)、続くかどうかも分からないその先の未来を心配しているんだ。

 

世界が自分の思い通りになることなんてない。人生はままならない物。中学生にもなれば嫌でも分かる。都合のいい奇跡は、ウチには来なかったわけだ。

 

岩のように固く、ウチの顔ほどの大きな拳が振り下ろされる。大地を粉砕するのではと思うほどのその拳は肉体を骨ごと破壊し引きちぎることが可能な死の拳。それを避ける手段も気力もウチにはなくて。

 

あったのは浮遊感。ふわふわと軽いものではなく、ズンっ、といった押しつぶされる感覚。気づけば視界は横向きになっている。視点もおかしいことに気づく。アレだけ大きかった巨体が、今は下に見えている。

 

「何が・・・どうなったの・・・?」

 

「何が起こったか。私が君を、アレから助けたという結果があれば満足かな?」

 

その声でようやく誰かに横向きに抱えられていたことに気づく。抱えてくれていたのは女性だった。少し年上で、日本人じゃない顔立ち。鋭い刃物のような声だが、その身から出る雰囲気は聖母の如く優しいものだ。彼女が助けてくれた、ということを理解するのにさほど時間はいらなかった。

 

抱えてくれた女性が立っているのは民家の屋根の上。どうやって助けてくれたのか。恐らく増強型の個性だと思うが、正確な判断がつかない。

ウチがさっきまでいた場所は無残に破壊されていた。圧倒的なパワーを持っていることが見て取れる。

 

「確実に潰したと思ったんですが。何者ですか、あなたは」

 

「しがない旅行客、って言っても関係ないよね。まぁ、明らかに絶望している子がいて、誰も助けがない状況。見るに堪えなくて飛び出してきた愚か者って感じで認識するといい」

 

「そうですか」

 

レインコートから両手を出して、まるで肉体に不備がないか確認するように開いたり握ったりしている。戦闘態勢に入ろうとしているのか。心做しか身体が先ほどよりも大きくなっている気がする。

 

「おいおい、何をしているんだ。私は()()にいないよ?」

 

突然振り向いて拳を振るった。ビルさえ震わせ破壊する衝撃波か撒き散らされる。街路樹は吹き飛びそうになるほど揺さぶられ、コンクリートの破片は撒き散らされる。

 

「足が速いんですね」

 

こっちを見ないで、それはそう言った。まるでウチらがここに居るのを認識していないように。それは反対側へ体を進ませる。歩む足は地面を打ち砕き、粉砕しながら進んでいく。それを見た彼女はバカだな、と静かに呟く。

 

「走れるかい?走れるならすぐに全力で走るんだ。逃げ切るためには路地裏やら細かい道を通ることになるから、絶対に私から離れちゃ駄目だ。出来れば抱え続けてあげたいが、生憎私にそんな力も体力もない」

 

地面に綺麗に飛び降りてウチを下ろす。まだこっちには気付いていない。女性はこっちだ、と小さく呟いて走り出す。ウチもその背を見つめながら、一心不乱に走り出す。よく分からないが、女性は恐らく何かをしたのだ。幻覚でも見せたのか、明らかに何かをした。何はともあれ結果的にコッチに気を向けていないのはいい事だ。

 

 

 

何分くらい走っただろうか。二人とも汗だくで、ベンチに座り込む。細く汚く暗い路地裏を必死に駆け抜けて、大通りから近くにある大きなデパートまで逃げてきた。途中ここまで逃げなくてもいいのではと、息絶えながら聞いたが、なるべく人が多い方がいいらしい。

 

女性が逃げ切った、と確信して止まった時、ウチはブレーキをかけることが出来ず、前のめりに転んでしまったが、また助けられてしまった。今度は片腕で抱えられた。見かけによらず案外体力あるんだな、と思ったのも束の間。今度は女性が倒れてしまった。

 

怪我か何かをしたのか!?と不安になったが、どうやら体力が無くなっただけらしい。本当に、心配した。

 

「はぁ、はぁ・・・何とか、逃げ切れましたね・・・」

 

「ああ。まぁ正直なところ射程距離はギリギリだったけどね。でもあんな派手なのが暴れ回ったんだ。そろそろヒーロー達と追いかけっこでもしているだろうさ。っと、喉乾いたでしょ。何か買ってきてあげよう。何がいい?」

 

「い、いや、お構いなく」

 

「遠慮しなくていい。そこのベンチで休んでいてくれ。お茶でいいかな?」

 

構わないと伝えると、女性はふらついた足取りで近くの自販機に近寄っていく。買っている間に近場のベンチでお言葉に甘えて休ませてもらう。なんか、頭が上手く働いていない。

 

「お待たせ。はいどうぞ」

 

「ありがとうございま———」

 

買ってきてもらったお茶を受け取ったら、手からするりとこぼれ落ちてしまった。おかしいなと思って拾おうとするが、身体は一向に動かない。

 

「あ、アレ?ウチどうして。どう、して・・・」

 

どうして、涙が出ているんだろうか。両の瞳から零れ落ちる雫は腿の上に染みを作っていく。服の袖で拭うが、何度も何度もとめどなく零れ落ちていく。

やがて涙を拭う腕は、身体に回され蹲るように抱え込む。身体が震えている。自分でも分かるほどに。しっかりと、理解出来ている。

 

「君は、『安心』しているんだ。心の底から、再会出来た『安心』に心が震えているんだ」

 

頭が彼女に抱え込まれる。優しく、宥めるかのように。慈愛さえ感じるほどの優しい抱擁は、自分という存在を包み込もうとする。

 

「『安心』は生まれてから誰もが持っていながら、ほとんどの人間が理解できないものだ。尊さも偉大さも優しさも温かさも持っているのが『安心』なんだ。だが、人は『安心』を軽視する。守ってくれる存在がいるから大丈夫だと思いこみ、己の身を『安心』から遠ざける。やがて自分の身を危険に晒したその時になって、人は都合よく『安心』を求めるんだ。自分から遠ざけておいて、手放しておいてそう言うんだ。

まるで『安心』が安売りしているかのように。それは、正しい意味で『安心』を知っている私からすればバカらしいことだけどね」

 

離れて空を仰ぐ。そこから感じられる嫌悪感は何に対してか。いや、既に分かっている。彼女の発した言葉は、簡単に正解へと辿り着かせる。ヒーローという存在を肯定する社会を嘆いているのだ。

個性社会において山のように溢れてくる(持て余した者達)。そんな者達から市民を守るために働くヒーロー。ヒーローは人に『安心』を与える。人が生まれ持つ『安心』を奪い、作り上げた『安心』を与える。与えられた『安心』は危機感を奪った。きっと助けてくれると思い続け、マトモな抵抗をしなかった自分がそうだ。

与えられた希望に縋って、最後は恨みつらみを積み重ねる。

 

「まぁ、別に今の平和を壊そうとかは思わない。私には私だけの『安心』がある。他人に『安心』を説くためにそれを手放そうとするほど愚かじゃないし安くもない。それにヒーロー達がそれなりとはいえ『安心』を与えているのも事実だ。それを受け入れられない私は、狂っているか壊れているのさ。

君は普通だよ。そして幸福だ。違和感を持たず今を納得することが出来る」

 

要は見えていないものが見えているだけ。目を逸らしていたこと、そもそも見てすらいなかったことを認識しただけなのだ。その上で、自論を重ねているだけ。エゴだと分かっていて、他人とのズレを認識していてもブレない。自分を確立させ続けられる強さがある。

 

「凄いな・・・」

 

「凄いもんか。螺子が外れているだけだ。いい事なんて何もない。要は私のこの不満はヒーローに対してのものだ。お前らなんて必要ないって喚いているだけ。自分は何もしないくせに他人がやっていることに憤る口先だけ。最低の人間なのさ、私は」

 

自嘲し、飲み終えたペットボトルを放り投げる。軽く投げられたペットボトルはゴミ籠に綺麗に入る。

 

「根本的にどこかは分からないけど、どこかが嫌いなんだよね。感覚的なものか理論的なものかは分からないけど好きになれないんだよ、応援する気になれないんだよ。ヒーローって奴がさ。私が基本的に屑だからかもしれないけど」

 

その思考は世間から疎まれる物。消さなければと躍起になられてもおかしくないもの。今の社会はヒーローがいてこそ成り立っているとさえ言われる程だ。ヒーローは受け入れるのが当然の如く扱われるのだ。受験勉強の合間に見たテレビのコメンテーター達がヒーローについて論議する時、必ず『必要なのか』ではなく『こうするべきだ』という討論になる。そんな頑固者達すらもヒーローという存在を認めている。

つまりはそれほど受け入れられているのだ。

 

彼女の言うことは、憤りは理解出来る。自然とスルリと頭の中に入ってくる。だけど、でも、

 

「なら、ウチがなる。誰かに本当の『安心』を与えられてあげられるような、あなたが受け入れられるようなヒーローに、なってみせます」

 

自分の成りたい物を正面から嫌われるのは、すごい悲しいことだから。

 

「・・・それを今私の前で言うの?」

 

ポカンとしている。当然のことだ。否定的だったものに、語られた人物がなりたいと言ったんだ。

 

「そう、か。いや、別にいいんだけどね。君の人生だ。どうするかに私が口出しするのは愚かなことだから。でもまぁ。うん。なら、なってみてよ。私がこの社会に、君に、かけがえのない『平穏』を預けられるような、そんなヒーローにさ」

 

優しい笑顔で彼女は言った。その言葉にはどんな感情が込められているのだろうか。哀れみだろうか、侮蔑だろうか、祝福だろうか、応援だろうか、愉悦だろうか。上っ面の言葉なのかどうか。それを測ることはウチには出来ない。

でも、例え今、どんな感情を抱いていても。

 

「そういえば名乗り忘れていたね。私の名前はシクリーザ。これはイタリア語でね。日本語に訳すと『安心』という意味だ」

 

「ウチは———」

 

 

 

 

 

それから、ウチとシクリーザさんの交友関係は続いていった。受験勉強を教えてもらったり相談に乗ってもらったり。沢山色んなことが続いていった。

時は過ぎる。景色は滲む。

人生で見ればほんの短い時間が過ぎていった。

ウチは、ヒーローになるための最初の入口。雄英高校の門を叩いた。

 

 

 

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「あっぶなかった〜」

 

どこかで(ボス)が安堵した。




今回はただ好きなキャラと絡ませたかっただけなのと、作者が友人が実は敵で元凶だった!的な事が好きだから。
最初は別アプローチもあったんだけど、会話内容が思いつかなかったりして、結果よく分かんないことになっちまいました。。コミュ障にはキツイ。


次回大分特殊にボスsideやって、次の次に原作いきマース。

再)今後の展開、主に2、3話後について

  • 原作前に原作キャラと関わってもいい
  • 何言ってやがる、直行で原作いけやダボが
  • 関わる原作キャラは俺達が決める

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