リトルアーモリー ~彼女たちの日常の一幕~ 作:魚鷹0822
女の子とホラーは非常に合う組合せだと、思いつきで書いた短編です。ホラー要素を含むので、苦手な方はご注意を。
太陽が山々の影に沈む夕刻、緑の木々の生い茂る森の中を通る舗装された一本道。その路肩を、森に紛れ込むような迷彩模様のスカートとリボンという特徴的な制服に身を包んだ少女が、1人進んでいく。
彼女の名を、
背中の真ん中辺りまで届く、普段なら美しかったであろう長い髪は、手入れがおざなりにされているのか枝毛が目立つ。目の下には隈ができ、表情は雲の少ない空と対照に曇っている。俯きながら歩いていることも、それに拍車をかけている。
彼女はゆっくりとした足取りで、目的地を目指していた。なぜ彼女がこんな場所を一人歩いているのか、事の発端は数日前に遡る。
今から20年近く前、突如この世界に現れた謎の生命体、イクシス。空間同士を繋ぐ謎の穴、ネストを通って出現する彼らに対し、警備強化のため、国は指定防衛校を設立し、未成年の志願者に軍事教練を施し、戦力化することを決定。
戦闘が、日常の一幕となった。
この道を歩いている少女、豊崎恵那も、指定防衛校の1つ、朝霧高校に通う生徒である。彼女の制服の迷彩模様のリボンやスカートは、朝霧高校の制服の特徴である。
その彼女が放課後、護身用の拳銃のみを腰にぶら下げ、なぜこんな辺鄙な場所を歩いているのか。
恵那は、右手に持っているスマホの画面に視線を落とし、指を滑らせて拡大する。
「姉さん……」
彼女は、年の離れた姉、和花と共に写っている写真を画面に表示し、姉の部分を、人差指で優しく撫でる。
彼女の年の離れた姉の、
その連絡を聞いたとき、恵那は嘘だと思い信じなかった。
姉は、指定防衛校の1つ、古流高校出身で、現役の幹部自衛官だった。学生時代の成績はよく、同級生は勿論、慕う後輩も多く、近所の人々からも頼りにされていた。
―――誰かを守れる人になりたい。
年の離れた妹の恵那が、そんな姉の姿に憧れ、同じ道を目指したいと考えたのは、自然な成り行きだった。
もっとも、和花の関心は、昔は銃と任務に向けられていたために、恵那には向けられていたとは言い難かった。だから姉の気をひこうと隙あらば銃にイタズラをしようとし、その度に和花に叱られた。
そして恵那が指定防衛校に進みたいと打ち明けたとき、和花は反対し、2人は何度も言い合いをした。
姉とは勝手な生き物で、自分が危険な思いをしたから妹にはして欲しくない。和花はそんな考えを抱いていた。
恵那のことを心配しての言葉だったのだが、当時の彼女にはそれを受け入れることはできなかった。
―――姉さんは良かったのに、なんで私はダメなの!
―――姉さんのわからずや!
何度も繰り返された言い合いの末、和花が遂に折れ、進学を認めたのだった。
そして、恵那は自衛隊員の最大の供給先と言われる朝霧高校へと進学。姉と同じ自衛官を目指せる道のスタート地点に、ようやく立つことができた。
姉の死を知らされたのは、それから半年もしない時期の事だった。
姉の葬儀が終わってからも、恵那はその事実を受け入れることができずにいた。あの姉が死んだ。強く、かっこよく、厳しかったが、同じくらい優しくもあった。
その和花が亡くなった。恵那の知らないところで、知らない間に。
憧れた。姉のようになりたかった。そして、いつか自衛官になったとき、恵那は和花に言いたい言葉があった。
――――姉さんと同じ、自衛官になれたよ。
だが、その憧れた姉はもういない。この世の、どこにも。
恵那は、目指すべき目標を、それを伝えたかった相手を、永遠に失ってしまったのだった。
「姉さん……」
彼女はスマホを握り締め、目的地に向かって歩いていく。
「あった……」
恵那は足をとめ、目的地を見定めた。
トンネルの出入り口の脇に設置された、公衆電話のボックスを、彼女は見つめた。恵那はインターネットで検索し、ある記事を目にした。
「亡くなった人と話ができる公衆電話」
日頃の彼女なら、嘘だと、気にもとめなかったに違いない。でも、そんな都市伝説のような記事でさえ、今の彼女はすがりつきたいものだった。
―――もう一度、もう一度でいいから、姉さんと、話をさせて。
―――声を、聞かせて。
それが、彼女の気持ちであった。
公衆電話の前に立つと、スマホに保存してきた情報と照らし合わせる。
「ここ、なの?」
道路の路肩、トンネルの出入り口の脇に設置された公衆電話。なぜこんな森の中の寂しい場所に設置したのかは知るよしもないが、目的地がここであるのは確かなようだった。
ボックスの扉を開けて中に入ると、スカートのポケットやベルトに吊り下げたポーチに手を入れ、電話の上に10円硬貨と100円硬貨をありったけ積み上げ、今では珍しいテレホンカードをいれる。
受話器を持ち上げ、調べてきた番号を順番に恐る恐るプッシュしていく。
最後の数字を震える手で押し、受話器から聞こえる音に耳をすませる。
「ザザザアアア・・・・」
だが、ノイズが聞こえるだけ。それでも恵那は受話器を耳に密着させ、聞こえる音に全神経を集中させる。
「ザザザ、ザザ……」
減っていくテレホンカードの度数、過ぎていく時間。聞こえてくるのは、雑音だけ。
―――やっぱり、ただの根も葉もない噂だったのかしら。
恵那は俯き、表情を曇らせる。
「……姉さん、お願い。一度、もう一度だけでいいから……、話したい」
彼女の目から雫が流れ、頬を伝って、地面にシミを作る。
「……声を、聞かせて」
そのときだった。
『ザザザ…、…な。…な…の』
雑音に混じって、聞き覚えのある声が、恵那の鼓膜を振動させた。
彼女は顔を跳ね上げ、受話器を耳に押し付け、聞こえてくる声を聞き逃すまいと、神経を研ぎ澄ませる。
「……もし、もし」
『……えな。恵那なの?』
「ねえ、さん……」
聞き間違えるはずがなかった。数え切れないほど聞いた声。年の離れた、血を分けた姉、和花の声だった。
「姉さん、私」
『やっぱり、恵那なのね。あなたがこの電話の噂を調べて来るなんて、思わなかったわ』
恵那は両目に涙をため、こぼれそうになるのをこらえようとする。胸の中に色んな感情や伝えたい言葉が溢れ、張り裂けそうになる。
姉に最後にあったのは数日前のことなのに、数年ぶりに声を聞いたような懐かしさを、彼女は感じていた。
「ぐす……。ええ、私も、そう思う」
ふと顔を上げたところで、恵那の顔が凍りついた。テレカの残り度数が、3を示していた。話せる残り時間は、約3分。
この通話が切れれば、もう和花と話せないのではないか。そんな不安がよぎる。すぐさま、積み上げた硬貨を鷲掴みにする。手からこぼれ落ちた硬貨が地面に落ちて、甲高い音を立てるのも気にもせず、彼女は手にした硬貨を次々投入口に入れるだけいれた。
『恵那、どうかしたの?』
「ううん、なんでもない」
恵那はふと、和花に何を言おうか迷った。来る直前まで、彼女はこの電話の噂が本当だったら何を話そうか、ずっと考えていた。でも本当になると、何を話そうか言葉が出てこないようで、彼女は口を開いては閉じるを繰り返した。
「姉さん……、ごめんなさい」
『なんで、謝るのかしら?』
「昔、姉さんが古流の生徒だったとき、姉さんの銃に、私、何度もイタズラしたでしょ?」
和花は答えず、沈黙がボックスの中に満ちる。
「ごめん、迷惑かけて。でも、私のこと、もっと気にして欲しかった。かまって欲しかった。寂しかった……」
『ええ、わかっていたわ』
「わかっていたの?」
『何年、あなたの姉をしていたと思っているの?』
忙しい中でも、和花は恵那のことを、しっかり見ていた。
『私の方こそ、ごめんなさい。あなたが指定防衛校に進みたいって言ったとき、なかなか認めてあげなくて』
お互いが譲れないものを持っていた。
妹には平穏を送って欲しいと願った和花。
姉のようになりたいと夢見た恵那。
結局、折れたのは和花の方だった。
『……任務にいった仲間が負傷したことが、何度もあって。あなたが、あんなことになったら。そう考えたら、耐えられなくて』
「心配してくれていたのは、私もわかってる。それでも、私は姉さんみたいになりたかった」
姉の前では恥ずかしいからと口にしなかった想いを、恵那は初めて告げる。
「姉さんみたいに、誰かを守れる人に、なりたいと、思ったの」
『私?』
「うん。古流の生徒だったときの姉さん、かっこよかったから……」
姉に憧れ、姉と同じ自衛官を目指すべく指定防衛校に進学し、任務や訓練に明け暮れる毎日を送っていた。そんな中だった。
和花が、任務で殉職したという報告を聞かされたのは。
「勿論、本職になってからも、かっこよかった」
『……そんなに思ってくれているなんて、姉冥利に尽きるわね』
「そして、そして、ね……」
恵那は、そこから先が言えなくなった。その間も、和花は待ってくれる。
電話がきれないよう、また硬貨を投入口にいれる。
「私も、姉さんと同じ、自衛官になったんだよって、言いたかった。傍で、そうなるまで、見ていて欲しかった……」
視界がにじみ、こらえきれなくなった雫が、雨のように降り、地面を濡らした。
『……大丈夫よ。あなたなら、私がいなくても、きっと私みたいに……』
和花は、一度言葉を切った。
『いいえ。あなたは、あなたの目指す理想の自分を、実現できるわ。だって……』
電話の向こうで、息を吸う音が、僅かに聞こえる。
『私の、自慢の妹だもの 』
「…姉さん」
『こんなことを言うのは初めてね。あなたの前では私人と教官の顔を使い分けていたから、嫌なおもいさせてないか、不安だったわ。むしろ、私みたいになるもんか、って言われるかと思った』
「そんなこと、ない。どっちも、私の大好きな姉さんだから」
『あなたの口から、そんな言葉を聞くなんてね。やっぱり、妹って可愛いわ』
不器用で、素直になれなかった恵那は、最後だからと自分の想いを吐き出していく。この時間がいつまでも続けば、そう思っただろう。
でも、残った硬貨は、もう少ない。また電話をかけても、もう一度話せる保証はどこにもない。
『お互い、もう少し早くに素直になれていれば、もう少し、毎日が楽しかったのかしらね』
「私は…、姉さんと過ごした日々は、十分楽しかった」
恵那の友人の1人、朝戸未世が、和花と恵那は顔つきや目元、胸の大きさなど見た目は似ていても、中身は似ていないと言ったことがあった。でも、2人は血を分けた姉妹。やはり、お互いを想うことは、同じだったのだろうか。
「……でも、できるなら」
彼女は、口が震えるのを抑えながら、言葉を紡いだ。
「私、姉さんと、もっと、一緒に居たかった……」
彼女は、自身の想いを、余すことなく伝える。
「教えて欲しいこと、話したいこと、まだ、いっぱい、いっぱいあったのに……」
彼女の声に、涙声が混ざる。もう叶わない願い。それでも、わかっていても、その想いを、口にしないわけにはいかなかったのだろう。
『……恵那、私と、そんなに一緒にいたい?』
ふとした姉の質問に、恵那は即答した。
「あ、当たり前よ!」
電話ボックス内で、彼女は受話器に向かって叫んだ。徐々にボックス内に静寂が満ち、受話器の向こう側も、無音の状態がしばし続いた。
『……そう。わかったわ』
姉の声色は変わっていないのに、どこか変わった雰囲気に恵那は違和感を覚え、背筋を嫌な汗が流れる。
直後、恵那は背中に冷たくも、柔らかい感触を感じ、同時にお腹や胸のあたりに、後ろから腕を回された。
「……なら、ずっと、一緒にいましょう」
耳元で囁くその声は、先ほどまで電話越しに聞いていた、聞きなれた、和花のものだとわかる。でも、すぐに疑問が彼女の頭に浮かぶ。
葬儀で、恵那は和花の遺体を目にしている。
なら、今彼女を抱きしめているのは誰だ?
この声は、腕は、誰のものだ?
「もう……、ゼッタイ二ハナサナイカラ」
恵那の震える左手から受話器が滑り落ち、コードで釣られて揺れる。咄嗟に腰にぶら下げている9mm拳銃に手を伸ばすも、弾倉を装填していなかったことを思い出す。たとえ弾が入っていても、恵那が和花に銃口を向けるなど、できるはずもないが。
「怖がらないで」
恵那は恐る恐る、顔をあげる。そして目の前の、電話ボックスを覆うガラスに写るものを見て、顔を引きつらせた。
「さあ、コレカラモ、ズットイッショヨ」
恵那の目に入ったのは、肌が人形のように白く、体の至る所から血を流し、濁った瞳をしている和花、
数日後、恵那と連絡が取れないことを不審に思った未世たちが、位置情報を頼りに彼女を探し、あの電話ボックスにたどり着いた。
現場からは、彼女のスマホと弾の入っていない9mm拳銃が回収されたが、恵那本人の姿は、どこにも見当たらなかった。
「……って感じになると思うんですよ」
満足そうにショートボブの髪を揺らしながら笑みを浮かべる女子高生、
先程の彼女の想像の話を聞いた面々の反応は、様々であった。
腰の辺りまで届く長い黒髪の少女、
メガネをかけた上級生、
そして、ツインテールに髪を結った少女、
「朝戸さん……、なんで、そういう話になったのかしら?」
顔に苦笑を張り付けたまま、愛は問う。
「えっと……、なんで、でしたっけ?」
本人もこうなった経緯を覚えていないのか、未世は首をかしげる。
「……きっかけは未世の、恵那は和花先生のことが大好きに違いない、っていう主張から」
「ああ、そうでしたね」
納得したようで、未世は手のひらに、拳をポン、と打ち付ける。事の始まりは、単純なこと。
夏期共同演習で同じ分隊となった豊崎和花先生の妹、豊崎恵那はツンデレのせいか、素直になれないのか、口では否定するが姉の和花のことが大好きに違いない。そう未世は考えた。
だから、きっと姉がいなくなったら、後を追うだろうと想像した。
今は夏の共同演習の夜、就寝前。
夏は暑い。なら、怖い話で涼しくなろう。
未世の主張を、ホラー風味にして話してみよう。
このような流れで、先程の話が生まれたのだった。
「まあ、豊崎さんがお姉さんのことを好きなのは見ていてわかるけど、わざわざホラー風味の話にしなくても……。ほら、照安さんがすっかり震えてしまっているわ」
鞠亜はこの話が始まってからというもの、すっかり怯えてしまい、先輩の左腕にしがみついて離れない上に、若干涙目になっている。
日頃未知の生物、イクシスを相手に銃器で戦う指定防衛校の生徒が、怖い話で泣きそうになるとは不思議である。
「え~。だって、このテントの中暑いじゃありませんか。涼しくなるには、怖い話が一番ですよ」
「……照安さん、この後、眠れそう?」
「難しいかも、です」
今日もいくつもの演習項目を終え、あとは就寝を残すだけだというのに、そんな時間に怖い話をされては眠れやしない。
「それにしても、よく即興でそんな話を思いついたものね……」
「……未世は想像力たくましいから」
「えへへ、照れますねぇ」
褒め言葉と受け取った未世は嬉しそうに笑うが、相棒の凛はため息を吐きながら呆れ顔で彼女を見つめる。
「……褒めてない」
「恵那ちゃん、もう少し素直になってもいいと思うんですよ。勿論、ツンツンしている恵那ちゃんも好きですし、可愛いと思いますけど」
「……ツンデレは古い」
「いいじゃありませんか。不器用で堅物で、融通が利かなくても、一生懸命で真っ直ぐっていいと思うんです」
全員恵那にたいして思い当たる所があるのか、ハハハと渇いた笑い声を漏らす。
「さて、足が痛いことですし、もうそろそろ寝ましょうか」
怖い話が終わってすぐ眠れる彼女の図太さに苦笑いする周囲を横目に、未世は寝袋に入ろうとした。
「あ、さ、と、さ、ん」
未世は、先ほど自分がした話と同じように、突如背後から回された腕の感触に、心臓が口から飛び出そうなほど驚き、目を見開いた。
「なんだか、ずいぶん興味深い話を、していたみたいね~」
耳元で囁く声、背中に感じる柔らかくて大きな2つの感触。それらの情報から、未世の脳が、背後の人物を瞬時に特定した。
「え、恵那、ちゃん?」
「ええ、そうだけど」
未世の背後にいたのは、先ほどの話の中心、豊崎恵那であった。不気味なほど、満面の笑みを浮かべて……。
「お手洗いから帰ってみれば、なんて妄想をぶちまけてくれているのかしら?」
「ええっと、これは、恵那ちゃんは和花先生のことが大好きに違いないってことを言いたかっただけで……」
「風評被害って言葉を、知っているかしら?」
「べ、別に恵那ちゃんの名誉を傷つけるようなことは何も……」
「だとしても、そんなホラーな話にする必要があったのかしら?結果、照安さんは怖がっているじゃない?何より、勝手に姉さんを殺さないで」
姉のことをしっかり気遣うあたり、やはり好きに違いないとその場の全員は思うも、誰も口にはしなかった。
「さて、縁起でもない話をしてくれたり、風評被害を広めてくれた責任を、どうとってもらおうかしらね?」
照れ隠しなのか、ツンデレなのかはわからないが、その怒りの矛先が未世に向けられていることは確かだった。
未世を逃がさないよう腕に力を込めつつ、恵那は口の端を舐める。獲物を前にした、蛇のように……。
「あ、あの、恵那ちゃん。あまり密着すると、胸元の大きくて柔らかいものが押し付けられて……」
「……今の、セクハラよね?」
恵那の目が、夜空に浮かぶ三日月のように、細められる。
「朝戸さん、あなた、さっき足が痛いって言っていたわよね?」
「え、ええ、確か、そんなことを……」
今は夏の共同演習の最中。朝から晩まで行軍演習をしていれば、足も痛くなる。
「そう。なら、明日の演習に影響しては大変だから、マッサージをしてあげる」
「え?」
言うやいなや、恵那はどこにもっていたのか結束バンドで未世の両手首を後ろで素早くまとめ、彼女を地面に転がすと靴下を両足から抜き取った。
「あ、あの、恵那ちゃん?」
引きつった笑みを浮かべる未世に、彼女は満面の笑みを浮かべながら言う。
「大丈夫、姉さん直伝だから、あなたもきっと気に入ると思うわ」
和花先生直伝とはどういう意味か、疑問を抱く未世をよそに、恵那は彼女の右足を両手でしっかりつかみ、ツボらしき部分を力いっぱいおした。
「いっ!!!!!!!」
足から神経を伝って脳にその刺激が伝わった瞬間、彼女は僅かにのけぞり、顔に苦悶の表情を浮かべた。
「あら、ごめんなさい。ちょっと力加減を間違えてしまったわ」
そのとき浮かべている恵那の、少し加虐性とイタズラ心がまざった笑みが、どこか和花先生に似ており、やっぱりこの2人は姉妹なのだと、未世はどうでもいい方向に思考が向く。
「今度は、もっと上手にするから」
再びのけぞった。それによって制服のスカートが若干めくれ上がるが、それを気にする余裕はないらしい。
「そういえば朝戸さん。あなた、ツンツンしている私が好きらしいわね?」
なぜこのタイミングでそんなことを、と痛みが引いていくのを待つ間に未世はぼ~っと考える。
「そんなに好きなら、思う存分ツンツンしてあげる」
すると、恵那は腰のベルトから銃剣を抜いて、これみよがしに顔の前にかざした。それを見た未世は、顔を引きつらせる。
「あの、恵那ちゃん。冗談、ですよね?」
彼女はにっこりと楽しそうな笑みを浮かべ、
「安心して。力加減はしてあげるから」
と言い放った。
「そ、そのツンツンじゃありませんよ!意味が違います!それに、それグサッって音が聞こえてきそうですよ!」
身の危険を悟った未世は逃走しようとするも、両手は拘束されている上に、片足は恵那にしっかり掴まれている。
そうしている間にもマッサージは続き、痛みが足の裏から走る。
「い、た、あ……。り、凛ちゃん!」
未世はすがる想いで、幼馴染の凛に助けを求める。が、そんな彼女を凛は見下ろしながら、
「……足が痛いのなら、マッサージは有用。してもらえば?」
と静かに言った。
「これがマッサージに見えるんですか!明らかに拷問の類ですよ!」
「……口は災いの元。自業自得」
「薄情もの~。に、西部先輩、鞠亜ちゃん!」
未世は頼りにならない相棒ではなく、先輩の愛と、友人の鞠亜に助けを求める。
すると、鞠亜は立ち上がり、テントを出ていこうとする。
「未世さん……。さっきの話、私、怖かったんですよ」
彼女は震えながら言う。
「ですから、未世さんも、怖い目に会ってください!」
そしてテントから姿を消した。彼女に続いて、愛も立ち上がる。
「せ、先輩!」
最後の希望を声に乗せ、未世は愛に呼びかけた。
「私は、照安さんが落ち着くまで、風にあたってくるわ」
テントから出る直前、彼女は振り返った。
「朝戸さん」
親指だけを突きたて、
「グッドラック」
とだけ言い残してテントを出ていってしまった。もう、助けてくれる人は、誰もいない。
「じゃあ、朝戸さん」
未世は足元にいる人物にゆっくり視線を戻す。
「続けるわね。時間をかけて、じっくりと……」
細められた瞳の奥に、楽しさをにじませながらいう恵那が、未世には処刑執行人に見えたという。
テントの傍で涼む愛たちには、未世の悲鳴とも喘ぎ声とも、なんとも形容し難い声が聞こえてきたという。
翌日、恵那のマッサージを受けた未世が、地面を踏みしめるたびに苦痛に顔を歪めていたのは、言うまでもない。