リトルアーモリー ~彼女たちの日常の一幕~ 作:魚鷹0822
そして食事をしながら話す2人だが、理子の発したある言葉に恵那は衝撃を受ける。
キャラの口調は推定で書いているので、人によっては読んでいて違和感を感じるかもしれません。あと、少しキャラ崩壊気味です。
最後までお付き合い頂けたら幸いです。
朝日が登り、1日が始まる。とある学校の教室に、制服に身を包んだ1人の少女が入る。彼女は教室に入るなり、目を輝かせるクラスメイトたちに詰め寄られた。
「ねえ、告白されたって本当?」
「ねえねえ、受けたの?どうしたの?」
「どんな人だった?素敵な人?カッコいい人?」
「どう返事するの?ねえ。もうしたの?」
噂好きで恋愛に興味を持つ年頃のクラスメイトたちから、機関銃のように雨あられと浴びせられる質問を、彼女は貼り付けたような、若干引きつった満面の笑みで軽くいなし、自分の席へとたどり着くと、支給された銃を、机の横にあるラックに固定する。
その後も休み時間が訪れるたびに、彼女は周囲から質問という名の銃弾を浴びせられ続けた。そして昼休みが訪れると、クラスメイトたちに迫られる前に、彼女は教室を脱出。屋上に向かって一目散に廊下や階段を駆け抜け、屋上へつながる塔屋の扉を勢いよく開け放つ。
屋上に降り立った彼女は空を見上げ、頭を両手で抱え、
「ぬうああああああああああああああああああああああああああああああ!」
と日頃の行いや傍目委員長っぽく見える雰囲気からは、想像し難い叫び声を上げたのだった。
誰のせいで広まったのか、クラスメイトたちから質問という銃弾を浴びせられている渦中の人物、豊崎恵那は空に向かって叫び声をあげるという奇行を行った後、180℃回れ右をし、来たばかりの屋上を足早に去っていった。
「恵那が突然走って教室を去っていき、屋上で叫び声をあげたかと思えば戻ってきて、問答無用で私の手を引っ張って屋上に連れて行くから何事かと思えば……」
言葉に少々の不満を織り交ぜながら持参した弁当をつつくのは、恵那と同じ迷彩模様のスカートにリボンが特徴の朝霧高校の制服に身を包み、綺麗で、立派なおでこをお持ちの少女。
名を、
「周囲の質問に耐え兼ねて教室を脱出したはいいものの、食事を忘れた上に、1人は寂しいから私を連れ出した、と……」
「……丁寧な解説は普段はありがたいけど、あまり声に出さないで」
頬を若干赤らめつつ、俯き加減で恵那は言う。
「……迷惑だった?」
彼女にしては珍しく、弱々しく、沈んだ声だった。
「迷惑ではないぞ」
理子は即答する。恵那は笑みを浮かべた。
「むしろいい機会だ。一緒に食事をとるということによって、お互いの親睦が深まる。それは、有事の際、円滑な連携を可能にする。いいことだ」
そんな返答をよこす理子を前に、恵那は笑みを崩してため息をはく。
「……相変わらず、作戦行動第一主義ね」
「それのどこがおかしい?我々指定防衛校の生徒は、自衛隊の下部組織であり、地域防衛という重要な役割を任せられているし、そのために銃の携帯も許されている。それだけに、命令や規律は絶対遵守だし、有事の際円滑に連携できるよう、日頃から訓練だけでなく、人間関係を広めるなど努力を続けることも大事だ」
恵那は、またため息を吐いた。
彼女は、生真面目を通り越して、堅物の域に達している。
どんなときも作戦第一、ルールは絶対遵守。それが理子という生徒だ。
政治家の父をもち、彼女自身は将来の自衛官を目指すべく朝霧高校に入学。今は機甲科職に進みたいと考えているらしい。
「それじゃあ理子、あなたの目から見て、さっきまでの質問攻めはどう思う?」
登校した瞬間から休み時間、先程まで恵那は質問の嵐に晒された。
彼女がとある男子生徒から告白を受けたという噂は、誰の口から広まったのか、クラス中の人間が知っていた。
もっとも、その男子生徒とは後日歩哨任務の最中に出くわした。そして銃を持っている恵那の姿をしばし眺めた彼は、
「ごめんなさい」
と言って告白を撤回していったのだった。そのオチを、隣りにいる理子は知っている。
「いいことじゃないか?恵那が振られたのは残念だが、その話題で周囲は日頃、堅物で近寄り辛い恵那に関心を持ち、接触してきた。交友関係は広いに越したことはない。これを機に周囲と慣れ親しみ、いつ何時、彼らと組んでも問題ないよう仲を深めればいい」
理子は、後に演習で恵那が組むことになる朝戸未世たちが委員長みたい、と口を揃えて言う恵那以上の堅物で、上下関係や規律にやかましい。
後に恵那は未世たちに対し、委員長みたいとは彼女のようなことをいうのだと、何度か理子を未世たちに会わせようと考えたらしい。
「振られてない!こっちが答えを保留している間に、向こうが一方的に告白を撤回していっただけよ!」
理子の、恵那が振られた、という部分に反応し、彼女は吠えた。少し力を入れて。でもそんな彼女を理子は、いつもと変わらぬ目で見つめる。
「残念だが恵那、振られたことに変わりはない」
「振られてないわよ!」
「振られたんだ」
恵那は理子を敵視する猛獣のように、視線を鋭くし、呼吸が荒らさを増す。
「冷静に考えてみたらどうだ?」
理子は弁当を食べる手を緩めず、黙々と話を続ける。
「告白してきた男子生徒は、恵那の魅力よりも、銃を持つ恵那の恐怖に屈して告白を撤回した。これが振られたでなくて、一体なんだ?」
「ぐっ……」
恵那は押し黙った。理子の考え方をすれば、振られたと言えなくもない。銃という絶対的な暴力を持つ恵那から感じる恐怖と、彼女単独の可愛さなどの魅力。その2つを男子生徒は天秤にかけた。
結果、恐怖が上回った、と。
「まあ、いいわよ」
恵那はいつもの表情に戻り、理子の横に腰掛け、自分のお弁当をつつき始める。
「あんな程度で逃げ出す腰抜けじゃあ、どうせ長続きしなかっただろうし」
おかずの唐揚げを箸でつまみ、口へ運ぼうと持ち上げる。
「それに、今の私たちに大事なのは、訓練と任務。色恋沙汰にうつつを抜かしているときじゃないわ」
未知の敵、イクシスと戦うために指定防衛校の生徒は存在する。である以上、任務は何物よりも優先されるし、そのための訓練も重要なもの。
彼女たちは日々座学や訓練、任務に追われ、多忙な日々を送っている。休日に招集がかかる場合もあるため、プライベートの時間はどうしても一般学生に比べ減ってしまう。
「一理あるな」
「理子もそう思うでしょ」
指定防衛校が設立され、銃をもつ社会人や学生が現れても、銃規制の名残か関わりの少ない人間からすれば、未だに銃が非日常の一部で、怖い存在だという考えはある。
なので、恋愛をする対象としては嫌煙される傾向にある。
指定防衛校の男女で付き合えば、恵那のように銃を持っているからと怖がられることはない、が別の問題が発生する。
指定防衛校は共学であっても、役割の違いから男女が分けられているため、出会いは少ない。おまけに、男子は卒業後に志願すると、帰還後は一定の待遇が保証されるとはいえ、前線に赴くことになる。
そうなれば遠距離恋愛が確定してしまう。なので、恋愛話に興味を持つ年頃であっても、実際に付き合い続けるということは容易な話ではない。
恵那が質問攻めにあったのも、そういった話題にクラスメイトが飢えていたせいかもしれない。
「だから、私たちに恋人なんて、今いなくて当然で、これからもいらないのよ」
そういってやせ我慢をするように話を締めくくろうとした恵那は、唐揚げを口の前まで持ち上げ、
「恋愛対象ならいるぞ」
口に入ることなく落下し、無事弁当箱へと着地した。
「まあ、恵那にもいつかいい対象が現れるだろう。だから先日のことは気にせず……」
恵那は、頭から冷水をかぶったように体を震わせ、表情筋を引きつらせ、さびた戦車の砲塔のようにぎこちない動きで理子に振り向く。
「えっと、理子……」
「なんだ?」
黙々と箸を進める理子に、恵那は問いかけた。
「今、なんて?」
「なんだ?」
「今、なんて言ったの?」
首をかしげながら、彼女は言う。
「恵那にもいつか……」
「違う!その前!」
鼻先が触れそうなほど顔を近づける彼女に、理子は物怖じせずに言った。
「恋愛対象ならいるぞ」
2人の間をしばしの間、静寂が包む。その上空を、鳥が鳴き声を上げて何度も旋回している。
「……ホント?」
「本当だ」
「悪ふざけ?」
「言っている顔に見えるか?」
恵那はしばし理子の瞳を覗き込み、間もなく離れた。少なくとも、今の彼女がタチの悪い悪ふざけを言っているようには見えなかったらしい。そもそも、彼女は極度の堅物。そんな冗談をいうような人間ではない。
それでも信じきれないのか、恵那は理子を半目でじと~っと見つめ続ける。そんな友人を見て彼女はため息を吐く。
「信じられないなら、放課後に確かめるか?」
「え!?会えるの!?」
「ああ。どこに出しても恥ずかしくないからな」
すると理子は弁当箱に蓋をして包みをし、立ち上がるとスカートについた塵を叩き落とし、支給されている89式小銃を掴んだ。
「では、放課後に」
屋上を去ろうとした理子は、塔屋に入る直前に振り返った。
「恵那、早く食べないと、あと10分で昼休みが終わるぞ」
理子に指摘され、左手首にはめた時計を覗き込んだ恵那は、慌てて弁当箱の中身を胃の中に押し込み、悠々と去っていく理子の後を追ったのだった。
「で、何で私が一緒にいくことになったの?」
理子を先頭に、その後ろに続く2人の生徒。1人は恵那。もう1人は三つ編みに縛った髪を揺らす生徒。
「浜中先輩も興味ありませんか?」
それは間違ってなく、彼女の得意分野は、迫撃砲などの弾道計算である。
「興味はあるわよ。あんたたちといると、退屈しないし」
「でしょう」
「それにしても、恵那がよく堅物だといっている理子に、恋人ねえ」
「先輩!言い方!」
恵那の悲鳴のような声が響く。
「別に間違ってないじゃない?」
「堅物は間違ってませんけど、それだと、私が理子が堅物だと周囲に吹聴しているように聞こえるじゃありませんか!それに、彼女に恋人がいるのがおかしいって言っているようにも聞こえます!」
詠美は迫撃砲の弾道計算はできても、自身の言動が周囲に与える影響は計算できないようである。
「よく恵那は私のことを堅物なんていうが、恵那も十分堅物だぞ」
「そうね。類は友を呼ぶっていうものね」
「私は普通です!」
すると、理子と詠美は顔を見合わせ、
「恵那が」
「それを言うの?」
と、呆れられてしまった。
「なんですか、その呆れているような態度は」
「……呆れているんだけど」
「まあ、恵那のこういう所は嫌いじゃないが」
3人は言い合いをしながらも、理子を先頭に目的地へ向かっていく。
そして、昇降口を出ると、理子は学校の正門ではなく、敷地内の一角へむかって歩いていく。理子の後を追いながら、恵那は疑問を抱く。
理子の父親は政治家。彼女の恋人になるということは、将来その地盤を引き継ぐ可能性がある。そんな父親のメガネにかなう男子など、そこいらにいるのだろうか。
理子は昼休みに、どこに出しても恥ずかしくない、と言っていたが。
「ねえ、理子。どこへ向かっているの?校外じゃないの?」
「校内だ」
「校内?」
理子の言葉に、恵那は首をかしげる。校内には女子生徒しかいないはず。
「校内ってことは、もしかして理子の恋人って、女子せ」
「先輩!それ以上はいけません!」
恵那が悲鳴をあげた。詠美は、思わず両耳を手で塞いだ。
「そんなに叫ばなくても……。恋愛のあり方は人それぞれでしょ?」
「その心の広さは尊敬しますけど、公共の場で言わないでください!」
「なによ~」
すると、彼女は口角を釣り上げ、楽しそうな笑みを浮かべながら、恵那を見つめる。
「もしかして恵那、変な想像でもしていたの?」
先輩の言葉の意味を察したのかは定かではないが、即座に恵那は、
「してませんよ!」
と否定する。
頬を赤らめる恵那を、詠美は微笑ましいものを見る目で眺める。
「恵那、もしかして、男子に振られたのがショックでその道に目覚めたの?」
「目覚めてませんよ!」
「あら、何とは言ってないのに。あなたは何を想像したのかしら?」
姉の和花さえ、冗談が通じない、と言わしめるほどに真っ直ぐすぎる恵那は、詠美にいいように遊ばれている。
「2人共、想像するのは勝手だが、目的の場所についたぞ」
2人は、理子の視線の先を、同時に見つめた。
「……へ?」
恵那の口から、声が漏れた。
そこは、朝霧高校の一角にある、生徒が使用する車輌などを停めている場所。そして理子はその中の1つに近寄った。
「これが私の恋愛対象、偵察バイクだ」
「……は?」
恵那は開いた口がふさがらなかった。
「これのどこが恋人よ!」
叫ぶ恵那に、理子は話し始める。
「何を言う?私は偵察バイクがきっかけで、機甲科職に就きたいと思った。つまり惚れたわけだ。そして私は、この偵察バイクの使い方を学び、相棒に、戦友になりたいと考えた。戦友同士の間にのみ芽生える戦友愛は、恋人同士の恋心や、その次の段階の夫婦愛よりも強いというぞ」
確かに、戦場から帰還した兵士の中には、戦友愛は夫婦愛よりも強いと、証言する者がいる。命のやりとりをする、死と隣り合わせの環境でのみ芽生える繋がりは、何ものよりも強いのは想像に難くない。
「だがまだ、私は偵察バイクの乗り方を学んでいる途中だ。偵察バイクの戦友にはまだなれていない。私が惚れ、扱い方を学んでいる段階。つまり乗りこなしたい対象と一方的に見ている初期の段階、恋愛対象というわけだ」
偵察バイクに手を添えながら、理子は自信満々に言い切った。何か間違っているか、とでも言いたげな顔で……。
思えば、恵那は最初に聞いた段階で気づくべきだった。
理子はなにも、
そういう理子に対し、恵那は唖然とし、詠美はお腹を押さえながら笑いをこらえている。
「そっか。じゃあ、私は迫撃砲が恋人になるのかしらね?」
お腹を押さえ、笑いをこらえつつ、詠美は言う。
「そうですね」
「じゃあ、恵那は89式小銃かしら?」
「かもしれません」
「よかったわね、恵那。裏切らない恋人といつも一緒ね」
詠美が恵那の肩を何回か叩くも、彼女はフリーズしている脳で、
「89式が、恋人……」
とだけ呟いた。
「そもそも、世間には仕事が恋人、戦車が恋人、なんて言う人がいるくらいだ。銃が恋人でも、迫撃砲でも、バイクでも問題はあるまい。尽くせば尽くすほど、丁寧に扱えば扱うほど、相手は必ず応えてくれる。理想的な相手ではないか?」
「そうね、恋愛の形は人それぞれだものね」
真面目に答える理子、笑いをこらえている詠美のペースに、恵那はついていけない。
「もっとも、浮気でもして粗末に扱うと、交通事故や暴発事故という形で報復してくる怖さはありますが、私は丁寧に扱うし、尽くすから問題ない」
「まるでヤンデレね」
詠美はもはや口元を隠そうともせず、笑いこけている。
「ホント、あんたらと一緒にいると、退屈しないわ」
楽しそうな2人の会話が頭上を行き交う中で恵那は、
「あんたに聞いた、私がバカだったわ……」
と呟いた。
後日、夏の共同演習の分隊で組んだ未世や、姉の和花によって、男子生徒から振られた件をからかわれることになるのは、もう少しあとのことである。