リトルアーモリー ~彼女たちの日常の一幕~ 作:魚鷹0822
もう少しですが、お付き合い頂けたら幸いです。
嵐のように降り注ぐ弾丸の雨。その雨がふりつけた敵は、体内に流れる赤黒い体液を飛散させ、肉を削ぎ落とされ、生命力が確実に削られていく。
狼や犬を思わせる姿をしたそれらは、銃弾を散々撃ち込まれた末、地面に倒れこんだ。
「イクシスK9、沈黙」
「完全に沈黙したか確認を、周囲を警戒、残敵を確認」
迷彩服に身を包んだ、1人の女性自衛官が、部下に指示を飛ばす。彼女は部下が散るのを確認すると、構えていた89式小銃の銃口を下げ、そばに倒れている2人の少女を見下ろす。
2人は、迷彩模様のスカートにリボンという特徴的な制服に身を包んでいた。だが、シャツは血で染まっていて、元が何色であったのかわからない。迷彩模様のスカートも、所々赤黒く染まっていた。
彼女は89式をスリングで後ろに回すと、2人に向かって手をあわせた。
「ごめんなさい、間に合わなくて……」
静かに、彼女は呟いた。
「怖かったでしょ……、痛かったでしょ」
応援要請が入り、急いで駆けつけたものの、要請をしてきた指定防衛校、朝霧高校の1年生ペアは、イクシスに殺された後だった。
迫る足音に、彼女は振り向く。部下が、銃を手に近づいてくる。
「一尉、確認されたK9は沈黙。残敵なしです」
「……了解」
表情を引き締め、部下に言った。
「撤収する。彼女たちの認識票、装備を回収。遺体は……」
彼女は、その先を言いよどんだ。
「……遺体は、そのまま。かかって」
「……了解」
部下は曇った表情で、命令を遂行していく。
作業を終え、トラックの助手席に乗り込んだ彼女は、曇で覆われた空を見上げる。トラックに揺られ、駐屯地に戻る道中も、ずっと見上げたまま。
「そういえば、一尉は朝霧高校出身なんでしたっけ?」
運転席からの声に、目だけ向ける。
「……ええ。死んだ彼女たちと、同じ制服を着ていたわ」
「きっと一尉のことですから、ルールや規律にうるさくて、委員長みたい、なんていわれてませんでした?」
上官に対してタメ口をきけば、普通は咎められる。だが予想に反し、彼女はクスクスと笑った。
「どうかしたんですか?」
異生物でも見るかのような表情をしている部下に向かって、彼女は言った。
「あなた、私の友人と同じこと言っているわ」
「そう、なんですか?」
軽く頷くと、再び視線を外に向ける。
「懐かしいわ。委員長っぽいって言われたことも、あの制服を着ていたことも」
彼女はどこか遠くを、過去を見ているような目で、空を見つめる。
「それで、そのご友人は、今も元気なんですか?」
「……元気な人もいるけど、死んだ人もいる」
部下は、しまった、と言いたげな顔をした。部下に対して、彼女は手をふって問題ないと意思表示する。
「気にしないで。もう、15年近く前のことだから」
それっきり静寂が訪れた。その間、彼女は空を見上げつつ、呟いた。
「もう、15年も、経つのね……」
助手席に座る女性自衛官、豊崎恵那一尉は、雲に覆われた暗い空を、見つめ続けた。
周囲が暗くなったころに、ようやくその日の仕事を終え、恵那は帰宅した。ずっと住んでいる日本家屋の玄関を開けると、そこには2足の靴が並んでいた。1足は、革靴。もう一足は、ミリタリーブーツ。それを見た彼女は、足早に家に入った。
廊下を早足で進み、灯りのともる部屋のドアを開け放った。すると、彼女と似た顔立ちの女性が、座布団に座っていた。女性は恵那に向かって微笑む。
「おかえりなさい、恵那」
その女性に向かって、彼女は言った。
「ただいま、姉さん」
豊崎和花。恵那の姉である。和花がお茶を淹れたコップを差し出すと、恵那は中身を一気に飲み干した。
「慌てなくても、お茶は逃げないわよ」
「そういう気分だったの」
そんな妹に微笑ましいものを見る視線を送りつつ、和花は2杯目を注いだ。
「珍しいね、家に帰ってくるなんて」
「あなたと彼女、2人きりにしておけないもの。たまには帰ってきてもいいでしょ」
「私はいいけど、仕事は?」
「問題ないわ」
恵那が学生時代、二尉だった和花はあれから昇進したものの、今は何をしているかは恵那もしらない。
機密らしく、身内にもあかせないという話である。姉が変なことに巻き込まれていないか、それが気がかりだった。
「そういうあなたは、どうなの?」
すると、恵那は表情を曇らせた。
「……今日、歩哨に出ていた朝霧の1年ペアが、死んだ」
和花も表情を曇らせ、静かに「そう」と言った。
「応援要請があって、すぐ出たんだけど、間に合わなかった」
「恵那、こんな言い方したくないけど、一回一回気にしていたら、あなたが先にまいってしまうわよ」
「……わかっては、いるんだけど」
「難しいわよね」
2人の間に、沈黙が訪れる。
恵那が指定防衛校生徒だったのは、15年近く前の話。その当時は、まだ平穏と呼べる時間があった。
だが、それから数年後、敵、イクシスによる大侵攻がおこった。防衛戦で食い止めていたはずの彼らが突如、世界各国で、大軍となって現れた。彼らに対し、世界はロクに対応できず、多大な人的被害を出すことになった。
日本も例外ではなく、現れたイクシスの大軍を前に、自衛官、指定防衛校の生徒、民間人が多く亡くなり、生活圏は狭まり、農地や工業地帯なども多くが失われた。
それから負け戦続き。今となっては、指定防衛校は実質軍人養成校となり、姿が大きく変わった。
かつては多くが志願者だったが、今ではイクシスとの戦闘で身寄りを無くした戦災孤児が珍しくない。さらに、工業地帯の多くが失われた結果、街は失業者で溢れ、生きるために、子供を自衛官にする親も珍しくない。
子供を戦力に出せば、家族の生活がある程度保証されるからと、孤児を自分の生活のために引き取り、戦力として差し出すケースさえあった。
歩哨任務も、危険度は格段に跳ね上がった。残された人々は、限りある資源で生活していくために、かぎられた場所にあつめられ、フェンスや壁で囲って、安全地帯を作った。
歩哨任務は、その安全地帯の外へ行き、イクシスを迎撃、或いは囮となって引き離すという任務に、姿を変えていた。
毎日、日常的に死者が出る。入学間もない生徒が、一週間もたたずに死亡することは、もう珍しくなくなっていた。
「そういえば、玄関に彼女の靴があったけど!」
恵那は玄関にあった2足の靴のことを思い出す。和花は、人差指を唇にあて、静かにするように示す。彼女は隣りの部屋を指差した。
静かに襖を開けると、そこには1枚の布団がしかれていた。その上には、朝霧の制服に身を包んだ1人の少女が、沈むように眠っていた。
恵那は彼女に寄ると、起こさないように静かに右手をとり、両手で包んだ。
「よかった……」
起こさないように、でもしっかりと、少女の手を握った。
「……今日、ゲートの前で倒れていたのを、回収されたそうよ」
「3日も……、頑張ったね」
2人は、眠る少女を見つめる。
この少女は、2人の実の娘ではない。両親をイクシスとの戦いで亡くした、戦災孤児だった。
和花は彼女の両親と交流があったようで、天涯孤独の彼女を放置できず、恵那と2人で育てることに決めたのだった。今は、朝霧高校の1年生だ。
そんな彼女は、3日前に任務のため、ネストシードが確認された場所まで出向き、その後行方がわからなくなった。
司令部によると、戦闘が開始されて間もなく、彼女を含む分隊員全員と交信ができなくなり、全滅したと判断された。救助に行こうにも、工業地帯の多くが失われた今、救助のためにヘリを飛ばすことは容易ではなく、車でいくには遠すぎる場所だった。
現在、指定防衛校の生徒の多くは、負傷しても余程の要人の家族でもないかぎりは見殺しにされるのが普通になっていた。装備は回収されるが、遺体は回収されない。装備は回収すれば、それをつかって誰かが戦える。でも、遺体は利用できない。
それが、今の常識になっていた。
15年前までは、「身近な英雄」扱いされていた指定防衛校の生徒だが、今はただの囮、捨て駒扱いされる程度でしかなかった。
報告をきいたとき恵那は、愕然とした。また、自分は大事な人を失ったのだと。でも、彼女は帰ってきた。全身の至る所に包帯が巻かれ、負傷しながらも、諦めず帰ってきた。
「おかえりなさい」
「起きたら、また言ってあげなさい」
「ええ」
恵那は、静かに少女の手を置いた。
襖を閉め、2人は向かい合って座る。
「姉さん……」
和花はだまり、恵那の言葉の続きを待つ。
「この戦いは、いつまで続くのかしら」
和花はだまる。室内には、時計の秒を刻む音が、異様に大きく響く。
「……終わりなんて、あるのかしらね」
注がれたお茶の液面に、静かに波紋が立つ。
「まるで、終了条件のないサバイバルゲームね」
「昔も、似たようなこといってなかった?」
イクシスが現れてから、もう30年以上になる。なのに、未だ人類はイクシスが何を目的としているのかも、何も分かっていない。殲滅しようにも、敵は底なしに現れる。
人類は、確実に破滅へと向かっている。
もはや、どちらかが滅びるまで、終わらない。可能性が高いのは、人類の方だった。
ふと、恵那の脳裏に、1人の人物の記憶がよぎった。
「姉さん……」
恵那は、呟くように言った。
「彼女が生きていたら、こんなことに、ならなかったのかしら?」
彼女は襖の向こうで眠る少女を見通すように、襖を見つめながらいった。
「あの子が生きていたら、彼女たちに、戦争が、誰かが死ぬのが当たり前で、平穏のない日々なんて、残さなくてすんだのかしら……」
「でもしか話に、意味はないわ」
お茶を口に運び、唇を軽く湿らせる。
「でも、恵那の言うとおりかも、しれないわね」
和花は天井を見上げ、どこか遠くを、遠い記憶を思い起こす。2人は同じ人物を、頭の中で思い浮かべていた。
「朝戸さんが生きていたら、違う未来に、なっていたかもしれないわね」
和花は俯き、消え入りそうな声で言った。
朝戸未世。恵那とかつて多くの任務を共にした、古流高校の生徒。
イクシスと仲良くできる道を探す、対話を試みたいと願い、日々努力していた。
彼女の願いは、少しずつでも実現しつつあった。恵那が朝霧高校の1年生だったとき起こった、古流高校文化祭事変。
あの中、未世はイクシスとの意思疎通を成功させ、友好関係を構築できる可能性を、おそらく、世界で初めて証明した。
あの大事件の片隅で見出された、小さな希望の光りは、その後大きくなり、世界を、照らすはずだった。
あの事件の年の、終わり頃のことだった。
未世が、任務中に亡くなったのは……。
施設の地下に隠れたイクシスを討伐する任務の最中、司令部に応援要請をしようと、未世は一人、西部先輩の命令で離脱した。その後、現れない救援に、増えるイクシスを前に、恵那たちは撤退を決め、地上に出た。
そこで分隊のメンバーは、血まみれになった未世を、見つけたのだった。
その後、彼女を欠いた状態でも、恵那は凛や鞠亜、西部先輩たちとの付き合いは続けた。でも、集まるたびに、寂しさを感じずにはいられなかった。
彼女を失ったことを皮切りに、イクシスとの対話、講和を求める勢力は、どんどん減少していき、世界は、イクシスは殲滅してしかるべき、という考え一色に染まった。今も、それは変わっていない。
たとえ、殲滅が不可能であると、誰もが認めるしかない状況であっても、だれも、振り上げた拳を、下ろすことができなくなっていた。
恵那たちは、後の世代に、わずかでもあった平穏を、残すことができなかった。
「朝戸さんが今の状況を見たら、なんていうのかしら」
「……そうね」
でも、死んだ人間は言葉を紡がない。答えは、永遠に出ない。彼女が殺された。その事実だけが、恵那や和花、凛や鞠亜、愛たちの心に杭となって突き刺さり、今も彼らを、後悔の念で、過去に縛り続けていた。
「……ていうことになるかもしれないのよ」
腕を組んで仁王立ちしながら話を終えた豊崎恵那は、目の前で椅子に腰掛けた未世を半目で睨む。
「えっと、つまり、どういう意味ですか?」
未世は人差指で頬をかきながら、恵那に問いかける。
「つまり、あなたが死んだら、折角証明した希望の灯火は消えて、人類は破滅に向かっていくかもしれないって話よ」
「……なんだか、話が随分壮大になっているような」
「ありうる話よ」
「大げさですねえ、恵那ちゃん。というか、想像力たくましいですね」
笑みを浮かべる未世を、恵那はキッ、っと睨んだ。鋭くなった彼女の視線に、未世は首をすくめる。
「要するに、夢を実現させるためには、命が大事。だから、もうあんな命をかけたギャンブルをするなって、言っているのよ」
彼女は未世に顔を近づけ、満面の、目が笑ってない笑みを向ける。
「わ・かっ・た?」
「は、はいいいぃぃぃぃぃ」
さらに顔を近づけ、彼女の瞳を覗き込むように目を見開いた。
「反省しているの?」
「し、しています……」
「なら、いうことがあるんじゃないのかしら?」
「言う、こと?」
恵那は未世の返答を待つ。でも、彼女は何を言えばいいか考えながら、首をかしげている。
「わからない?」
「えっと……」
明るい笑みの背後から漏れ出す、どす黒い怒りのオーラに押されながら、未世は言った。
「……ご、ごめんなさい、です」
未世は謝罪の言葉を言いながら、頭を下げた。彼女の前には、恵那だけでなく、凛や鞠亜、西部先輩、分隊のメンバーがいた。
彼女たちがいるのは、古流高校の空き教室。凛はともかく、なぜ恵那たちがここにいるのか。その目的はただ一つ。
未世への注意喚起、もとい説教であった。
先日、この古流高校で起こったイクシスの襲撃、古流高校文化祭事変の中で、恵那たちは、知能を備えた人型イクシス、キュレーヴと戦うはめになった。そのとき、キュレーヴが未世たちに向かって、手榴弾らしきものを投げた。咄嗟に凛や恵那たちは机の影に隠れたが、未世はしなかった。
彼女曰く、
そんな現場を見せられて何も思わないはずがなく、あの場で構わず凛は未世の胸倉を掴んで睨みつけていたし、恵那も次やったら殴る、といった。
だが、それで終わりではない。未世がこんなことを今後しないように、報告を聞いた西部先輩含め、分隊全員でもう一度注意をしよう、ということになったのだった。
「……朝戸さん、本当に反省したのかしら?」
いつもは包み込むような暖かい笑みを向けてくれる愛だが、今の笑みは、氷のような冷たさを感じさせるものだった。
「し、しました……」
「もう危険なマネ、しない?」
「し、しません!」
愛の冷たい微笑みを前に、未世は体を震わせる。
「本当かしら?」
首をかしげ、疑いの眼差しを送ってくる。
「ほ、本当ですよ!ま、鞠亜ちゃんは、信じてくれますよね!?」
未世がすがったのは、2本のツインテールを揺らす少女、照安鞠亜。だが、彼女は不機嫌そうに頬をふくらませ、半目の状態で未世を見つめる。
「……信じられません」
きっぱりと言い放った。
「ま、鞠亜ちゃ~ん」
日頃、怒った感情を表に出さない彼女でさえ、今回の件は相当頭に来ているようで、すがりつく未世に対してそっぽを向く。
西部先輩には疑われ、鞠亜には拒絶され、恵那には説教をされる。凛は、そんな未世を少し離れた位置から、冷たい目で眺めている。
「朝戸さん」
愛が未世に近づいた。
「以前言ったと思うけど、あなたの夢は、本当にこの戦いを終わらせることができるかもしれないのよ?」
イクシスとの対話を実現させ、ゴールを見出すことができる可能性を秘めた彼女の夢。イクシスとの戦いが始まって20年近く経つ現在、人類は未だ終了条件さえ見いだせていない。
未世の夢は、そんな状況に終止符を打ち、事態を進展させることができるかもしれない。
「そのあなたが死んだら、だれがその夢を実現させられるっていうの?その結果、もしかしたら豊崎さんのいうような未来が、本当に訪れることになるかもしれないのよ?」
「そ、そんなおおげ……」
愛と恵那のジト目に負け、未世は言葉を切った。
「大げさじゃないわ。あなたが証明したあのイクシスとの対話の実現は、それほどの大きなものなのよ」
「豊崎さんの言うとおりよ」
2人に詰め寄られ、未世は俯く。
「豊崎さんがいうような未来になることを、朝戸さんは望むのかしら?」
「いえ、そんなことは」
「じゃあ、望まない未来にさせないためにも、必ず生き残ること」
愛は、未世の両手を優しく包む。
「わかった?」
「……はい」
「それに、私の分隊から死者を出す、なんて嫌よ」
部下や後輩が死ぬ。それは、想定される事態ではあっても、受け入れられるかは別問題だ。愛は、すくなくともそれを望まない。
「私だけじゃない。みんな、誰かが死ぬ瞬間を見るなんて、ごめんよ」
「……はい」
「もう危険なマネはしないって、約束して」
「や、約束します!」
室内に反響するほどの大きな声で、未世は言い切った。
「なら、お説教はここまでね。みんな、いいかしら?」
愛が恵那たちに振り返ると、全員が頷いた。それを見て、未世もホッと胸をなでおろす。
「それにしても、恵那ちゃん想像力たくましいですね」
「はあ!?」
未世による反撃が始まった。
「まさか、恵那ちゃんがあんなSFめいた未来の話をするなんて意外でした」
珍しい動物を見るような楽しそうな目で、未世は恵那を見つめる。
「だって!ある程度具体的かつ説得力を持たせないと、朝戸さんはわかろうとしないでしょ!?」
先程の話は、恵那の想像上の話であった。
「……でも15年後とか、任務の変化とか、結構内容が凝っていた」
「恵那さんて、日頃からそういう物語を考えたり、作るのが好きなんですか?」
「意外な趣味ねえ。以前は皮肉の聞いたコメディが好きとか言っていたのに」
「さっきの話は即興で考えたものです!日頃は任務や訓練で頭がいっぱいです!」
そう恵那は吠えるも、未世の口角が釣り上がる。
「即興ですか?私が共同演習でした怖い話に、勝るとも劣らないと思いますけど?」
「……真面目なリアリストかと思っていたけど、恵那もやっぱり年頃」
「夢見がちな女の子ですね」
「可愛い面が、また一つわかったわね」
いつの間にか、皆が微笑ましいものを見る目で、恵那を見つめる。おかしい。この場は、未世に注意喚起を促すための場であったはずなのに。
「~~もう、私のことはいいですから!」
話題を打ち切ろうと顔を赤く染めながら腕を振り回す彼女だが、それも愛たちにとってみれば、微笑ましいものだったようで、笑みは崩れなかった。
「と、に、か、く!朝戸さん!」
恵那は、獲物に噛み付こうとする猟犬のように、未世に向き直った。
「前にもいったけど、次あんなマネしたら、グーで殴るわよ!或いは、89式のストックでどつくから!」
「は~い」
「ほんとにわかっているの!?」
「わかってますって~」
わかっているとは思えないような表情で、未世は返す。
この恵那の想像上の話が、現実となるか否かは、誰にもわからない。
そんな未来がやってくるのかどうかは、彼女たちの、その時代を生きる人間の、努力次第なのだから。
でも、そんな未来がやってこないことを、彼らは心の中で願うのだった。
ここまで読んでいただいた方々、ありがとうございました。書いたことがない
キャラクターに挑戦してみたのですが、口調を想像したりすることは難しいです。
今回の短編集には後日談や思いつき、書いてみたいと思っているネタなど色んな
ものを詰めてみました。
この内容では日常の一幕ではなく、妄想と現実では?、と思いましたがこの話で
完結とさせて頂きます。
また投稿する機会がありましたら、よろしくお願い致します。