2月19日(火)
いきなりだけど転属の内示が出た。転属先は都会の支部の総務部で、窓際部署と噂の被服課とのこと。「楽そうじゃん、事務職バンザイ!」と思っていたが、どうやら課自体は表向きのことで、実際には少数精鋭の特殊部隊らしい。しかも極秘中の極秘の部隊で、機密漏洩がないか毎週記憶のチェックをされるらしい。
あー、ブラックな気がしてならない。憂鬱だ……。
というか、辞令の発表は明日で配属日は来週の月曜らしい。なんで人事はそういう大事なことを直前に言うかなぁ。
というわけなので、本当はこんな日記なんか書いてないで荷造りしなくちゃいけないんだけど、まあ明日のワタシがうまくやってくれるよね。
2月25日(月)
今日は新しい部隊に配属されて初めての出勤日。とても緊張した。
話に聞いていた通り、メンバーは指揮官と副官のウェルロッドさん、そして私の三人。
任務についての説明はなし。勤務時間についての説明もなし。ブラック臭がすごい。
「ひとまず今日は荷解きがあるだろうから早く帰っていい」って言われた。午後休をもらって10時には宿舎に戻って来られたけど、明日からが不安で仕方ない。
2月26日(火)
もしかしたらブラックじゃないかもしれない。
射撃試験をやったら事前評価よりも良い結果だったらしい。帰り際に「本格的な仕事は週明けだからそれまで羽を伸ばしていい」って言われた。しかも定時前に帰れた。5連休なんて久しぶりだ。何をしよう。
3月9日(土)
やっぱりブラックだった。
Monday 4/Mar/2061 9:30
みなさんこんにちは、ゲパードM1です。これから、ワタシが配属されてから初めての作戦会議が始まります。そう、これが初仕事です。とても緊張しています。定時に帰れるといいなあ。
白い照明に照らされた作戦室は、妙に狭くて中央に机が一つ置かれているだけの殺風景な小部屋です。自前のドローンを持っていないこともあってか物がなくて、そのせいなのか他の部隊の作戦室と比べると驚くほど狭いです。寮のユニットバスより少し広いくらいしかないです。かろうじて圧迫感がないのは、天井がそこそこ高いのと、指揮官とウェルロッドさんとワタシの三人しかいないからでしょう。
そして驚くべきは、ハッキングや盗聴を防止するために電子機器の持ち込みは一切禁止という徹底ぶり。なんと文書や資料はすべて紙で、不要なものはブリーフィング終了後に焼却処分という決まりだそうです。流石は極秘部隊ですね。……えっ? ワタシたち戦術人形は電子機器じゃないのかって? 嫌だなあ、I.O.P社の第二世代戦術人形であるワタシたちがウィルスになんか感染するわけがないじゃないですか。
「よし、時間になったことだし、そろそろ始めようか。ウェルロッド、よろしく頼む」
指揮官は元軍人というだけあって結構強面です。けど、皺が目立ち始めているものの顔も悪いくないし、長身で筋肉質な体型なので女性には密かに人気があります。短く切りそろえた髪にちょっと白髪が混じっているし、役職的にも年齢は四〇代前半くらいだと思います。
「はい。それでは『焼却炉作戦』のブリーフィングを始めます。お手元の資料をご覧ください」
副官のウェルロッドさんは、目つきがわる……鋭くて所作もキビキビしたカッコいい方です。でも声はやたら可愛いです。ワタシよりも少しばかり背が高くて、透き通るような金髪をツーサイドアップで短くまとめており、その翡翠色の瞳と相まってここの支部きっての美女と名高いハンドガンの戦術人形です。
『Operation Incinerator』と書かれた作戦書の表紙をめくると、几帳面なウェルロッドさんがタイプライターで書いたのであろう作戦概要が長々と書き連ねられていました。
……うーん、ダメです。これはいけません。こんなのを真面目に読んでいたら寝てしまいそうです。
というわけで、聞き耳だけを立てて絵のあるページまでめくることにしました。すると、すぐに顔写真が並んだページが出てきました。写真は全部で8枚、映っているのは若い女性や中年男性など様々な顔ぶれです。
「今回の目標は、ここ数か月の間にF02地区での活動が目立ってきているAfG幹部及び構成員の排除です」
おや、ちょうどウェルロッドさんの説明の部分みたいです。おそらくこの人たちがAfGとやらの中心人物なのでしょう。よし、早速質問しなくては。意識の高さを見せて評価を稼ぐんだ。
「あ、あの、AfGって何ですか?」
ワタシの質問に、ウェルロッドさんは眉をひそめました。マズいことを聞いてしまったかもしれない。いや、もしかしたら、説明中に口を挟んだのが失敗だったかも。嗚呼、そうか質疑応答は最後にまとめてするべきだったんだ。背中に冷たい汗が流れるのを感じます。でも仕方ないじゃない、知らなかったんだもの!
ちらりと横目で見ると、指揮官は表情一つ変えず、ウェルロッドさんに説明するよう指示しましてくれました。
「緑のための行動-Action for Green-は一昨年の暮れに活動を始めた環境保護団体です。F05地区で主婦をしているアドリアナ・イリチェフが発起人となり、森林の伐採や水質汚染などを助長しているとして区長に対する抗議デモを展開。最近ではハンストや区庁舎前での座り込みなどの厄介な抗議行動が活発化しつつあります。なお、構成員は先月の時点で約40名です」
40人程度の組織であれば地元警察の手に負える範囲のはず。グリフィンが出張っていって鎮圧しなければならない規模とは思えません。作戦の目的が見えなくて不安です。
「もしかして環境テロリスト……ってわけですか?」
「厳密に言えば、今はまだ違うな」
恐る恐る尋ねたワタシに、指揮官は冷たく言い放ちました。「今はまだ」ということは、ゆくゆくはもっと過激な組織になる恐れがあるということでしょう。
「えーっと、つまり、“疑わしきは罰せよ”、ということですか?」
「惜しいな。ウェルロッド、新人に我々のモットーを教えてやれ」
ウェルロッドさんは「はい」と短く応じると、机に手をつきこちらへ軽く身を乗り出しました。目が笑っていません。
「いいですかゲパードさん、AfGが将来的にテロ組織になりそうだから先手を打つわけではありません。我々は、この組織をテロ組織として壊滅するのです。つまり……」
「“我らの敵こそ万人の敵である”、これが我が部隊のモットーです」