ミハイル・カミンスキィはご機嫌だった。ハイスクールを卒業してからようやく見つけたゴミ収集の仕事は徴兵された2年間の兵役よりも楽だったし、初任給で買った最新の携帯端末はサクサク快適だし、一昨日には喧嘩していたガールフレンドと仲直りできた。何もかもが順風満帆なように感じた。
ゴミの収集は二人一組、運転手とゴミを回収する役の二人で一台のパッカー車に乗り担当の地区を回る。カミンスキィのパートナーは無口なベテランドライバーのガーソンで、周回中の車上では必要最小限の会話しかしない。その気楽さもカミンスキィの性に合っていた。
ただ、一つだけ苦になっていることがあるとすれば、仕事の都合上、どうしても朝早い出勤になることだった。早起きが苦手で起床ラッパに散々痛い目にあったカミンスキィからすれば、7時には始業というのはなかなかの鬼門だった。
今日も遅刻ギリギリに出勤したカミンスキィは、移動の車中で断続的な眠気に襲われていた。外に出てゴミを回収するのは彼の仕事なので現場に着いてしまえば問題ないのだが、移動中はどうしても眠くなる。だが、隣で表情一つ変えずに運転しているベテランの先輩社員の横で欠伸を、あまつさえ居眠りなどはもってのほかである。
車が交差点を曲がって狭い路地に入り、次のゴミ置き場が見えてきたころ、眩しい朝日が車内に入り込んできた。昨晩から降っていた雨はすっかり止み、澄み渡る青空は寝ぼけ眼にあまりに毒々しく映った。太陽は既に、街のシンボルである丘の上の教会の上にあった。そして思いっきり太陽を直視してしまったカミンスキィは思わず目をつむる。
「……ありゃ何だ?」
逆光で目を細めていたガーソンがポツリと呟いたのを、カミンスキィは偶然聞き取ることができた。珍しいな、タクシーに強引に割り込まれても舌打ちしかしないのに。そう思いチラリと瞼を開くと、想像だにしない光景が広がっていた。
『子どもたちに綺麗な地球を残そう!』
『ゴミの埋め立てにNOを!』
『AfGは環境破壊を許さない!』
気合の入ったプラカードと横断幕を持った集団がこちらに迫ってきていた。
さっきまであんな集団いなかったのに、どこから!? 状況を飲み込めないカミンスキィに先んじて危険を察知したガーソンは急ブレーキを踏んでギアをバックに入れるも、後続車がピタリとついていて下がれない。焦ったカミンスキィが窓から身を乗り出して車間距離の近い後続車に怒鳴り声を上げた。
「バックだバック! おいあんた、前から変な奴らが近づいてるんだ! 悪いけどすぐに下がってくれ!」
しかし、後続車は動かない。たまりかねたガーソンがクラクションを連打する。
「聞こえてんのか!? いい加減にしてくれ! おい!!」
後続車の応答は、実にわかりやすいものだった。エンジンを切り、ドアが開かれ、中から同じプラカードが出てきたのだ。
「あー、テステス……。我々はAction for Green、地球のために戦う環境保護団体です。ゴミ収集車を運転中の二人、すぐに車から降りなさい。抵抗しなければ危害は加えません」
とうとう前方集団から拡声器片手の脅迫が始まった。カミンスキィとガーソンは互いに顔を見合わせ、速やかに作戦会議を行った。
「どうする?」
「どうするもこうするも、二つに一つです。大人しく出ていくか、鍵を締めて閉じこもるか」
「でもあいつら、何人か鉄パイプ持ってなかったか? それに銃を持ってる可能性だって……」
「てことは、立てこもろうとしてもガラスを割られてすぐにお終い、と……」
「…………」