数分後、まるで敗残兵が投降するかのように両手を上げた二人が車から降りてきた。
そのままゆっくりと歩き、ゴミ置き場の横で並んで立つよう指示された。パッカー車は怪しい集団の人間が乗り込み、同じくゴミ置き場の前に停車させられた。
ようやく落ち着き始めてきたカミンスキィは、突如現れたこの集団をゆっくり観察することにした。
頭数は20人くらいで、どうやら横断幕やプラカードを持っていた連中はこの狭い路地に面した小道に潜んでいたらしい。確かに、この通りはスラムの一角に位置しているから一日を通して人も車もほとんど通らない。周囲の住民もあまり良い商売をしていないから官憲を呼びにくい。成程、待ち伏せには絶好のポジションだ。一方、腑に落ちない点もある。彼ら彼女らは果たして、ゴミ収集車を襲ってどうするつもりなのか、さっぱりわからない。
先ほど降車するよう脅迫した女性は、今度はマイクを持ってパッカー車の前で演説をぶっている。何やら動画を撮影中のようだ。カメラマン以外のメンバーはパッカー車を取り囲んで相槌やガヤを入れている。肝心の演説はというと、ニュースやラジオでよくやっているゴミ問題の焼き回しを、大袈裟な身振り手振りで感情たっぷりに表現しているだけだった。若干“盛って”いるがデマというほどではなく、しかし目新しい主張も一切ない。
一方、先輩のガーソンはというと、すっかり青ざめた顔をして固まっている。まるで捕虜になったスパイみたいな緊張の仕方だ。
「大丈夫ですよ」
カミンスキィは相棒を元気づけるように語り掛けた。
「すぐに助けが来ますって」
まるっきり気休めではなかった。車から降りる直前、彼はスピーカーモードにした携帯端末を警察の緊急通報ダイアルにつなげ、胸ポケットに入れて状況が逐次伝わるようにしていた。応対した警官の察しと機嫌が悪くなければ、切らずに状況を確かめてくれるはず……。あとは逆探知して警邏のお巡りさんが一人でも来てくれれば解放されるはずだ。
ガーソンは表情を変えずに頷いた。人間はこんなに冷や汗をかけるのだな、などと場違いなことを考えていると、例の女性演説家が二人の元に歩いてきた。
「……さて、それでは実際の作業員はどのように考えているのでしょうか。直接聞いてみましょう!」
いきなり話を振られそうになりカミンスキィの表情からも余裕の色が消える。
「あなたたちは、自分たちが何をしているのかわかっているのですか!?」
眉間に皺を寄せた演説家にマイクを突き付けられたカミンスキィは恐々と答えた。
「し、市民の出したゴミを集めています」
演説家はわざとらしく大きなため息をついて見せた。お話になりませんね。と言うと、カメラの方に向き直った。
「いいですか、彼らは有毒性のある化学物質を含む大量のゴミを、郊外の埋立地に捨てているのです! そして、埋め立てられたゴミは土中で分解され、土壌を汚染し、河川から海へとその汚染範囲を広げていきます。その過程において生物濃縮が進むことは言うまでもありません。このような悪行に対して、彼ら加害者はあまりにも無知なのです!」
わあっと歓声が起こる。そうだ、と檄が飛ぶ。演説家は嬉しそうに手を振って応じた。
いかん、不味い傾向だ。ここに至ってカミンスキィも本格的に身の危険を感じ始めた。明らかに集団が興奮し始めている。「別に俺たち二人がここに集めたゴミを出しているわけじゃないんだけど」などと言おうものならば磔にされそうだ。握った掌が手汗でびしょ濡れになっている。隣のガーソンなどもはや震えているのか痙攣しているのかわからないくらいだ。
そして、不意にカミンスキィは彼女たちがなぜ自分たちを襲ったのかを理解した。彼女たちは、ゴミが環境を汚染しているという主張のためではなく、彼女たちが行うすべての行動を正当化するために行動しているのだと。手段のためにとる手段。であるからこそ、彼女たちは目的から遥か遠いところにある手段に熱狂し、次は更なる熱狂をもってより過激な手段に訴えるのであろう。
「あなたたち加害者は知らん顔をしていますが、自分たちの罪の重さをもっと自覚するべきなのです!」
演説家の矛先が再びカミンスキィに向いた。今度はメンバーの一人がゴミ置き場からゴミ袋を持ってきた。そして袋にナイフを突き刺し、中身を道路にぶちまけた。生ゴミや紙ゴミ、プラスチック、空き缶やビンなどごちゃ混ぜだ。当然、こういう捨て方をする輩はいる。だが全員がこうなわけではない。最悪の時に最悪の袋を開けられたことに、カミンスキィは神を呪った。
「ご覧なさい! こうやって貴重な自然環境を破壊し、人類を危機に陥れていることに―――
説教じみた演説が前触れなく遮られ、凄まじい衝撃、爆音、熱風が彼らを襲った。
神を呪ったその口で、カミンスキィは次の言葉を紡ぐことができなかった。彼はただ、彼の社用車が火の玉となって爆発し、辺り一面の人間をなぎ倒しているのを唖然と見ていることしかできなかった。そしていやに長く感じた一舜が過ぎ、彼もまた何が起きているのかを理解せぬまま、猛然と迫りくる爆炎の中に飲み込まれていった。