機械仕掛けの人類へ   作:トクサン

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死蔵小説放出です。凡そ一年か二年前に書いた(と思う)小説。
当時はニーアか何かをやって「アンドロイドもの書きたいなぁ私もなぁ、アンドロイドに最後の人類だからって言って病的に甘やかされて育ちたい(素直)」と言いながら書きました。楽しかったです。



堕ちた人類

 

 気付いた時、銀次は荷物の散乱する船内の中で倒れ伏していた。自分の上に壁に張り付いていた筈のバックパックが覆い被さっていて、銀次は起き上がりながらバックパックを横にはねのける。頭がずきりと痛んで、見れば兜が展開されていなかった。手で額に触れればぬるりとした感触、額を切ったのか血が出ていた。

 記憶があやふやだった、船内の貨物は全て地面に転がっている。重力制御が行われているのかと一瞬思ったが天井のライトが点灯していない事から電力が死んでいるのは明らかだった。

 

「おい……おい、誰か、居ないのか」

 

 銀次は首を竦め、首元のマイクに向かって話しかける。幸い纏っていた鎧武者は無事だった、これが無ければ今頃自分は貨物にシェイクされて磨り潰されていたか、或は圧死していただろう。船内の電力は死んでいたが、幸い鎧武者の動力炉は生きている。外傷らしい外傷もない。

 

「銀次……?」

「四郎!」

 

 銀次が声を上げれば後方から聞き慣れた呻き声、振り向き駆け寄ってみれば同じ調査隊の四郎が地面に転がっていた。四郎はきちんと兜を展開していた様で面頬とモノアイが微かな光を放つ。銀次が手を差し出すと四郎は確りとその手を握り、僅かにふらつきながら立ち上がった。

 

「銀次、一体何があったんだよ……スゲェ、気分悪いぜ……」

「分からない、船内の電力が死んでいる、確か──確か、そう、俺達は長距離跳躍を行った筈だ」

 

 銀次は鎧武者に記録されているログを洗って自分達の最後の行動を確認した。長距離跳躍による惑星間移動、異空間門を開いて船は光航行に入った筈だった。そして目的地に到着したならば安全装置が働いて自動的に惑星外周に出現──そのまま着地し調査を進める予定の筈。

 

「失敗したのか?」

「………かもしれない」

 

 軽く兜を叩いた四郎が問いかけ、銀次は頷いた。長距離跳躍が失敗する確率なんて一体どれほどか、兎に角運が悪いと言うしかない。船内の様子を見れば銀次と四郎の姿しかない、見れば壁の一部が隔壁に切り替えられており船に穴が空いていたのだと理解した。周囲の内壁は罅割れており破片もそこらに散らばっている。銀次は障壁に手を当てながら自分達の座っていたシート脇にあるコンソールへとアクセスした。

 

「他の船員は何処だ、何で俺達しか居ないんだよ」

「隔壁が作動している、多分外に放り出されたんだ」

「マジかよ……なんてこった」

「これで良く分からない宇宙空間に放り出されているなら終わりだな──けれど此処には重力がある、だから……」

 

 銀次はそう言いながら船体の状況確認を行う。鎧武者の手首からホログラムが投影され、船体の大まかな状態が目に飛び込んで来た。

 

「これは……酷いな」

「殆どア一ブロックだけじゃねぇか」

 

 投影された船体は十分の一も残っていなかった、こうして自分達が生きている事さえ奇跡に近い。大気圏突入があったのならば燃え尽きてもおかしくない程の損傷具合。銀次と四郎の配置されていたア一号ブロック、それに付随した通路と船体右舷が僅かに見える、その一部の残骸のみ。後は砂嵐のようにぼやけて見えない、恐らく反応がない部位。

 

「空中分解したのか?」

「惑星周辺に出現したならそうなる、もしくは運良く惑星表層に不時着した衝撃か……どっちにしろ生きてるのが奇跡だな」

「電波橋がやられたなら救援信号も遠くまでは届かねぇ、自力で最寄りのFOBに辿り着くしかねぇな」

「幸いなのは此処が宇宙空間ではなく惑星の地表だって事だ」

 

 銀次は船体状況を畳むと次に外部環境解析を行う。空気中の成分解析から地表、障害物の有無、直近の生命探知等々。表示された結果は脅威判定なし、人類活動領域内。辛うじて酸素濃度が濃いようだが直ちに影響が出る程でも無い。環境としては地球に近いのかもしれない、珍しい事この上なかった。ホログラムを覗き込んだ四郎が問いかける。

 

「動けそうか」

「大丈夫だ、けれど念の為兜は装着していた方が良い、解析ノズルが故障していないとも言い切れない」

「了解、武器はどうするよ?」

「ガレージを開けてくれ、標準兵装は全てウ号ブロックにあった、緊急用の武装だが無いよりマシだ」

 

 そう言って端末からケーブルを抜き出すと、四郎が部屋の奥に埋め込まれていた横長のコンテナ──ガレージと呼ばれた箱を解錠する。内部には確りと固定された武装が六つ、もしブロックが孤立した場合に備えて配備された武装だった。こんな物を使った記憶は一度もなかったが存外マニュアルも役立つ時がある。

 

「使えそうなモンは、中巻野太刀と脇差……旧兵装かよ、デケェのは屋外戦闘用か?」

「素手よりは全然良い、リンクしておけ」

「へいへい」

 

 四郎は肩を竦め野太刀──一メートルほどの長さがある刀を投げて寄越す。受け取ったソレはズシリとした重さを感じたが鎧武者の筋力補助は完璧だ、瞬時に重さを感じなくなりそのまま野太刀とパスを繋ぐ。

 大和合戦兵装【中巻野太刀】、製造されてから二十年近い骨董品だがそんなものだろう、予備を新調する余裕は大和には無い。

 次いで脇差も受け取って同じようにパスを繋ぐ、これでいつでも武器の状態がリアルタイムで知る事が出来る。損傷状況の把握などは大切だ、特にモノを乱雑に扱えない探索任務では。

 

「パスは?」

「通った……つか、お前額切れてんじゃねぇか」

「ん? あぁ……」

 

 こちらを見た四郎が銀次の額を指差しそう口にする。痛みより優先する事があって後回しにしていた、けれど手当は周囲の状況確認が済んでからでも遅くはない。傷自体は大して深くなかった。

 

「大丈夫だ、表面だけだよ、派手に見えるけれど大して痛みも無い」

「ホントかよ」

「本当だって、手当は周囲の安全が確認出来てからするさ」

 

 そう言って銀次は兜を展開する。背骨の辺りから順に収納されていた兜がせり上がり、面頬と合わさって完全に銀次の顔を隠す。鎧武者のシステムは健在、銀次の網膜にディスプレイが投影された。

 

「鎧武者の損傷無し、動力炉問題無し、兵装確認──四郎、行けるか?」

「当然」

 

 中巻野太刀を背中に装着し、脇差を腰に取り付ける。一応いつでも抜刀できるように脇差には手を掛けておく。廊下へと通じる扉には非常灯の赤い光だけが見えた。側面には緊急解除用のパネル、薄いカバーで守られた赤いスイッチを押し込めば扉の内部にある圧力装置が働いて外部に扉を吹き飛ばす。

 

「行くぞ四郎」

「おうよ」

 

 銀次は一度四郎の方を見てからスイッチを殴り付ける様に押し込む。瞬間、バクン! と扉が音を鳴らして振動し、そのまま空気の抜ける音と共に外へと吹き飛んだ。豪と強い風が二人の体を揺らすが鎧武者を装着した二人の軸は微塵も揺らがない。二人は扉の脇にへばりつき、恐る恐る外を覗き見た。

 

「………森林?」

「自然だ、こりゃあすげぇ」

 

 視界に飛び込んで来たのは半ばで折れ曲がって千切れた廊下、そしてその先に広がる緑一色の光景。樹など余りにも大きく二人の母星である地球でも中々見ない程。自然のある環境となると生命体も存在するだろう、空を見上げれば太陽となる星が見える、恒星があって助かった、もし無ければこの世界は極寒の内に在っただろう。

 こんな星があったなんてと二人は驚愕した。

 

「データベースに繋げれば此処がどこの星か分かるかもしれねぇな」

「いや、でも自然の存在する星なんて……こんな地球に似た惑星は聞いた事が無い」

「華神の時もそうだっただろう、もしかしたら人間サマがいるかもな」

「まさか」

 

 もしそうなら銀次たちは宇宙人に他ならない。こんな雑でハプニングまみれなファーストコンタクトは嫌だった。しかし完全にないと言い切れない事も事実で、銀次は内心で生命体が居ない事を祈りつつ地面に探知用の打ち上げ装置を埋め込んだ。

 

「上げるぞ」

「了解」

 

 野太刀の柄に手を掛けた四郎に一声掛け、銀次は足で装置の小さなペダルを踏み込む。瞬間、ドン! と破裂音が鳴り響き小さな影が頭上に打ちあがり、爆発。周囲に青白い粒子を撒き散らした。

 微細な電子機器、名を極小鳥と呼ばれるナノマシンの一種。これで周囲の生命体を探り危険が無いかを確かめる。

 打ち上げを終えた後は兜のディスプレイで極小鳥の結果を見る、散布された場所から徐々に範囲を広げていくナノマシンは周囲に生体反応がない事を認めていた。正確に言えば小型の小動物と思える反応は存在する、しかし大型の反応は皆無だった。

 

「大型反応なし、周囲三キロは安全だ」

「生き物は無しか……そうなるとどうする、たった二人で探索は無謀だろ」

「そうは言ってもな、増援がある訳でもないし……食料だって限りがある」

 

 銀次は振り向いて残骸と成り果てた船体を眺める。銀次たちが籠っていたブロックの中には総員六名分の食糧が入っている。しかし食糧は一人三日分、六名分を二人で分けても九日しかもたない。何とかして調達しなければ餓死するだけだった。

 

「水の供給システムはブロックの電源を何とかすれば良いけれど、食事だけは何とか確保しなきゃならない、それに電波橋が無いんだ、救難信号もFOBや他艦隊には届かない」

「宇宙船でも作んのか? こんな場所でウィル・Oエンジンを作れるとは思えねぇ」

「当然だな、だから俺達が作るのは電波塔だよ、此処にいるのを知らせるんだ」

 

 船体のデータベースと座標プログラムは船橋が無い時点で使えない。故に此処がどこかも分からない、長距離跳躍を行う為のエンジンがない以上この場に留まって何とか惑星間通信を行うしか方法は無かった。銀次の言葉を聞いた四郎は恐る恐る問いかける。

 

「……銀次、お前通信塔なんて作れんのか?」

「作れるかどうかは関係無い、作るんだ」

 

 じゃなければ一生この星で生きていく事になる。未開の地で果てるなど冗談じゃない、調査班としての本懐を果たすならばまだしも跳躍失敗で不時着し所在不明のまま死ぬなど。

 

「前途多難だな」

「墜落した時点で分かるだろう」

 

 肩を竦める四郎、銀次は淡々と口にしながら船体の中へと戻っていた。

 まずは食料の確認、それから拠点の作成。やる事は調査任務と同じだ、本来ならば母船となるこの船──神楽が拠点代わりとなる筈だったが、今この場にあるのはその残骸、それも精々ブロックひとつ分。必要最低限の機能が働いているかも怪しい、兎にも角にも今最も優先して確保すべきは電力だった。

 

「暫くは鎧武者の動力炉で代用しよう、交互に使えば何とかなる」

 

 ブロック内へと戻った銀次は壁にあるコンソールからアンビリカルケーブルを抜き出し、そのまま自分の背中の外部装甲を開き差し込む。延髄及び脊椎から伸びる動力ライン、其処にブロックのパスを捻じ込んだ。鎧武者に流れていた動力のほぼすべてがブロックに吸い取られる。暫くすると天井のライトがパパっと点滅し、そのまま貨物の散乱するブロック内を明るく照らした。

 

「これで必要な分の水は生み出せる、ついでに船内機能の確認もしてしまおう」

「その間は待機か? それで水が手に入ったら周囲を探索、と」

「そうなるかな」

「なら俺は見張りでもするか」

 

 そう言って四郎は野太刀を背中から取り外し、手に持って扉の近くに座り込む。調査、探索は基本的に二人一組、欲を言えば三人一組が望ましい。単独で探索を行うなど自殺行為も良いところだ。故に銀次がこうして動力を供給している間、四郎も動く事は出来なかった。

 

「しかし、一緒に居たのが銀次で助かった、コレが他の奴だったら絶対パニックだったぜ」

「まぁ、気心知れた仲っていうのはデカいな」

「違いない」

 

 座り込んだ四郎は立ったまま電力供給を行う銀次に語り掛ける。二人はこの調査隊に組み込まれる前から友好関係を結んだ馴染みであった。同じ中等教育、高等教育を受け大和特派調査隊に志願した人間だ。ある意味この二人が生き残ったのは僥倖でもあった、互いに互いを知り尽くしている。

 

「元々人類生存圏から外れた場所を探索するつもりだったけどよ……まさか全く知らない星に来ることになるとはな、散々読み込んだ指示書とデータが全部パァだぜ」

「確かに読み込んだ資料は全て水の泡だけれどア号隊に入ったのは正解だった、コレが補助用の強化外骨格だったら生き残るのも一苦労だった」

「それはあるな、こいつを着ていれば巨人野郎とも殴り合える」

 

 四郎はそう言って鎧武者の板金を叩いた。ガン、と音を立てる鎧武者の装甲、戦闘用の強化外骨格としてコイツ以上に頼りになる物はない。量産型の一つに過ぎないがあるとないでは雲泥の差だ。

 

「欲を言うなら火砲が欲しかったな、刀振り回すのも嫌いじゃないが、ドデカイのをぶち込む方が性にあっているからよ」

「……だから合戦の成績が悪いんだろう、四郎はもう少し技を学べ」

「仏様は俺に言って下さった、火力こそ正義だと」

「なんて奴だ」

 

 面頬の奥で押し殺した笑い声をあげる四郎、銀次はそんな四郎を呆れた目で見ていた。やけに射法ばかりに傾倒すると思っていたが、そんな事を考えていたとは。確かに火力も大切だが銃器には弾数という縛りがある、その点緊急時に重宝されるのは何度でも使える兵装だ。ガレージに野太刀や脇差と言った旧兵装──それも頑丈さを売りにした兵装が詰めてあったのはそういう観点からだろう。

 

「頼むから火砲を見つけても俺の背中は撃ってくれるなよ」

「そんなヘマする訳ねェだろ、何年バディ組んでいると思ってんだ」

 

 野太刀を抱えてそう口にする四郎はしかし、不意にピタリと動きを止めて僅かに腰を浮かせた。纏っていた雰囲気が一変する、その姿を見て銀次は嫌な予感を覚えた。

 

「どうした?」

「──金属反応だ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、銀次は背中のアンビリカルケーブルを排出し、素早く背中の野太刀に手を掛けた。金属反応、こんな人類未到達の星に?

 

「数は」

「一だな、今鎧武者の探知機能に反応があった、全枠設定にしていて良かったぜ……熱源規模中、これは限りなく灰に近い黒だぞ」

「鉱物の可能性はないのか?」

「熱源反応があるんだぞ、ハッキリと【動力機関】があるんだ、これは確実に機械の類だぜ」

「……こんな星にか」

「──こりゃあ、若しかすると冗談抜きで宇宙人デビューかもしれねぇな」

 

 四郎の言葉に銀次は内心で焦りを覚える。機械を作り出すだけの文明がある、それはつまり人間に限りなく近い知的生命体が存在しているという事だ。そして自分達は不時着した身、連中からすれば不法入国に等しい。

 自分達の対応一つで星間戦争にすら発展し得る。しかし何の準備も無しに交渉に入れるとは思えない、そもそも未だ他の惑星に於いて人間と同列の知的生命体など発見されていないというのに!

 

「……やるのか?」

「自分の身は自分で守る、まずは様子見だ」

「下手すりゃ戦争だな」

「謝って済めばそうするさ」

 

 あり得ないと思いつつも軽口を叩く。そして二人揃って船外に飛び出すと、そのまま接近する熱源の出現に備えた。センサーの反応対象を全てに設定した瞬間、銀次のモニタにも金属反応の文字。どうやら誤作動ではないらしい。

 

「熱源規模中って、どれくらいだ?」

「全長二メートル前後、人間と同じか少し大きい程度」

「戦車とかだったら大か」

「そうだ」

 

 銀次は野太刀の鞘を解放、横合いの外装が開き刃をスライドする様にして抜刀した。続いて四郎も野太刀を抜き放つ。武器を手にしてファーストコンタクトを果たすと言うのも印象最悪だが、何かあってから武器を抜くのでは遅いのだ。これは過去の探索任務で学んだ実体験である。

 武器を抜く一秒、それ以下の時間で生死が分かれる事さえある。

 

「来たか」 

 

 四郎が呟いた。船体が地面に衝突した衝撃で僅かに盛り上がった地面、その向こう側に生い茂るブッシュがガサガサと揺れる。距離凡そ十メートル、倒壊した木々の合間を縫って来たのか速度はそれ程でもない。

 銀次と四郎の二人は野太刀を構えたまま動かない、しかし鎧武者の筋力補助は既に合戦時へと切り替わっている。完全な戦闘仕様、場合によっては開幕速攻、斬り殺す事さえ厭わない。無論最初は様子を見るつもりだ、しかし相手が武器を突き付けて来たのなら──容赦はなし、一気に制圧する。

 

 緊張が高まる、二人の手が野太刀を握り締めギシリと音を鳴らし。

 葉の中から一つの影が躍り出た。

 

 驚いた事にソイツは人型だった。身長は二メートル以上あり大柄ではあるものの、凡そ『人間だ』と判断出来る程度には似通っていた。足は二本、腕も二本、目は二つで鼻と口は一つ。その人型はブッシュから飛び出し、銀次と四郎を目視する。

 銀次と四郎は一瞬動揺した、まさか人型が出て来るなんて微塵も考えていなかったが故に。しかし大和の人間という訳では無いだろう、目の前の存在は強化外骨格を纏っていなかった。そうなると探索隊の者ではない、この星の【機械】だ。

 見た所武器らしい武器は持っていない、拳も握っていない。

 四郎と銀次は素早く目線を交わし、ゆっくりと──本当にゆっくりと野太刀を下ろす。しかし完全に戦闘態勢を解いた訳ではない、言ってしまえば武器を下ろした【フリ】だった。

 

「──これは想定外だったな、銀次」

「あぁ……人間の形をしているなんて、想定外も良いところだ」

「ここのトップも【人間】なのか?」

「ペット的な位置かもしれないぞ、犬みたいな」

「マジかよ」

 

 短く言葉を交わしてじっと相手の出方を見る。二メートル超えの体躯、頭には髪の毛だって生えているし皮膚も見える。服──というよりはアーマードレスだろうか、大英帝国の方で見た事があるデザインに近い服。見た目は殆ど人間と同じだ、けれど熱源反応と金属探知からは逃れられない、コイツは生物ではなく機械だ。

 女性型の機械はじっと此方を見たまま棒立ちで固まり、キュィィィと甲高い音を鳴らした。何らかの駆動音、二人の腰が落ち野太刀の切っ先が浮く。もし武器の類だったら瞬時に斬りかかるつもりだった。

 相手は瞳に該当する部位をぐりぐりと動かし二人を観察する。そして不意に口を開くと何事かを口走った。

 

『人間……嘘、本当に、人間?』

「……駄目だな、何を言っているのかサッパリ分からねぇ」

「当然だな」

 

 言語が偶然一致するなんて事はあり得ない、故に落胆や失望は無い。銀次と四郎は互いに野太刀を構えたまま動かなかった。本来こういった場合に備えて船体にはファーストコンタクト用の思念伝達装置や絵図で意図を伝える道具がある。しかし銀次達の居たブロックには搭載されていない、故に完全に手探りで意図を汲み取るしかなかった。

 

『わ、私、私は違う、貴方達に危害を加えない!』

「……何か、手振ってんぞ」

「……襲って来る気配はないな、どう思う?」

「同じく」

「了解した」

 

 二人は互いに頷きあって握っていた野太刀を完全に下ろした。刃は抜き身のままだが切っ先は地面に着けて杖代わりにする。四郎はワタワタと忙しない機械を前に首を傾げ、銀次は真剣にその行動から意図を読み取ろうとしていた。

 

「全然何をしたいのか分かんねぇな、単純に見た事ねぇ連中発見して慌てているだけか?」

「礼を礼として受け入れる文化があって初めて意味を為すと言うが、この場合は俺達がコイツの文化を欠片も理解していないのが原因だな、全く以て何をしたのか分からない」

「結局同じじゃねぇか」

「襲われないだけマシだ、絵画ツールは?」

「んなモン持ち込む訳ねぇだろ、任務の合間にお絵かきする趣味はねぇ」

「……だよな」

 

 しかし絵画ツールがあったとしても意思疎通は困難だと理解していた。そもそもyesかnoかの二択すら難しい。〇という概念が肯定で×という概念が否定、という前提条件すら向こうには存在しないのだ。握手をすれば友好か? それが向こうで侮辱に値しないとどうして言い切れる?

 銀次は野太刀を一振りして鞘に納刀した。ガション、という音と共に納刀した鞘の側面が閉じる。「おい」と何か言いたげな四郎を手で制し、銀次はその場に屈みこんだ。

 

「何かあったら頼む」

「……合戦はお前の方が上手だろう」

「絵に自信は?」

「あると思うか」

「なら守ってくれ」

 

 銀次近くに転がっていた木の棒を掴むとソレで地面をガリガリと削り始めた。如何に離れた存在だろうと絵の概念位はあるだろう。片方が地面に何かを描き始めたのを見て、機械は慌てふためくのを止める。そしてゆっくりとした動作で銀次の方へと近寄って来た。

 

「…………………万が一の時は斬るぞ」

「あぁ」

 

 野太刀を杖代わりにして──しかしいつでも全力で振り抜けるように鎧武者の筋力補助は合戦仕様のまま。銀次の数歩先で立ち止まった機械はゆっくりと屈むと銀次の手元を覗き込んだ。

 地面に書き込まれたのは簡素な樹の絵、銀次は木の棒で絵を指し示し、それから近場の樹を指した。機械は暫く目を点にして固まっていたが、絵と近くの樹を見比べて、それから『樹』と小さな声で呟いた。

 銀次はそれを聞くと何度か自分の中で咀嚼し、同じ発音で繰り返す。すると目の前の機械は意図を理解したのかブンブンと首を縦に振った。

 

「……意思疎通しようとしている事は分かって貰えたと思う」

「随分人懐っこい、つうか感情豊かな機械だな、俺達の人工知能とは偉い違いだ」

「技術力は俺達よりも上かもしれない」

「ゾッとしねぇな」

 

 銀次は一先ず敵対関係ではないと決定付け、何とか友好を示そうと思った。機械相手に友好もクソもないかもしれないが連中のトップが知性を持った存在なら歩み寄る姿勢を見せるに越したことは無い。

 

「握手も駄目、ハグも駄目、ハートなんぞ書いても相手が意図を理解しなければ意味がない、友好を端的に表せる絵か行為を知っているか四郎」

「あー……キス?」

「論外だ」

 

 銀次は少しの間考え込み、不意に機械に向かって背を向けると四郎に抱き着いた。突然の事に四郎は驚き、「お、おい? 何だよ」と困惑の声を上げる。困惑した雰囲気を隠さない四郎を他所に銀次は次いで四郎の手を無理矢理引っ張り自分の手と握手をさせた。

 そして振り向き、今度は機械に向かって両手を広げる。

 

「これで分かってくれ」

「……あぁ、そう、実演ね」

 

 なら一言欲しいと内心で四郎は愚痴る。しかし意図は伝わったのか、目の前の機械は恐る恐る銀次の体を抱きしめた。そしてパッと一瞬で離れると、銀次は手を差し出す。機械はその手を握ると上下に一度だけ振り、そのまま一歩離れた。

 

「こうして見ると中々あれだな、民族の習慣みたいな」

「普及してればそれは一つの挨拶だ、ともあれこれで友好を結べた訳だが」

「俺達今日から友達ってか、これが友好の証だと思ってる顔じゃねぇぞアレ」

「………言うな」

 

 儀式的な行為にしか見られないのは同意する、しかし人間は肉体的接触によってある程度パーソナルスペースが狭くなるという話も──いや、相手は機械だった。銀次が何とも言えない微妙な表情を面頬の下で作っていると、目の前の機械はおずおずと自身の背後、森の方を指差した。

 そして緩慢な動作で後退ると背を向けて数メートル程歩き、それから銀次と四郎の方を見る。その動作だけは何となく意味が分かった。

 

「ついて来いってか?」

 

 野太刀の切っ先に付着した土を払い、肩に担いだ四郎が訝し気に言う。機械はじっと此方を見るばかりで動く気配はない。自分達がついて行く意思を見せるまで動かないつもりらしい。

 

「どうする? 敵対したいって訳じゃなさそうだが、察するに行先はお仲間の所じゃねぇか」

「だろうな……いきなり向こうの領域に引っ張り込まれるのは得策じゃない、万が一の時は嬲殺しにされて終わりだ」

「なら突っぱねるか」

「いや……どっちにしろ此処は割れてしまったんだ、遅いか早いかの違いだと思う」

 

 なら少しでも良い印象を与える為に自分達から足を運ぶべきだ。そう銀次は思った。

 一歩踏み出して銀次が先を行けば、遅れて四郎が渋々と続く。その様子に機械はパァと表情を明るくすると心無し軽い足取りでブッシュを掻き分け森に入って行った。一応見失わない様に続き、しかし近付き過ぎないよう距離も取る。そうしていると後ろに続いていた四郎がそっと銀次の傍に寄り、言った。

 

「……罠だったらどうする」

「電磁榴弾で動きを止めて離脱だ、最悪神楽の残骸も諦める、背嚢だけ回収して逃亡だろうな」

「分の悪い話だ」 

 

 こっそりと交わされた会話、面頬の中で呟き銀次も同意する。しかし接触してしまったのなら仕方ない。せめて初見で襲われなかっただけでも喜ぶべきだろう。銀次は脇差の柄に手を乗せながら息を吐き出す、よもや本当に他文明との接触を果たせるとは。ある意味調査隊としては最上の結果なのだろうが。

 

「きっかけを考えると、素直に喜べないな」

「……何か言ったか?」

「いや、何も」

 

 

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