機械仕掛けの人類へ   作:トクサン

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迅雷

 

「では、お二人には此方で待機して頂きます」

「ほぉー……何だ、普通に生活出来そうな部屋だな、拠点の自室より狭いが神楽と比べれば上等な部類だ、ベッドもあるし娯楽まで用意されてやがる」

 

 ガーディアンオブイースト、その隊の中でも一番大きな艦船。『リアリディア』と呼ばれた艦船の中に足を踏み入れた四郎と銀次は船橋から一つ下の層、しかし比較的近場にある部屋へと案内された。四郎は用意された四つの簡素なベッド――壁に折りたためる形のソレを軽く叩いて笑う。銀次も四郎に倣ってベッドに手を着いて体重をかけてみるが硬すぎず柔らかすぎず。さらに枕元には観覧用のデバイスまで用意されている。

 リアリディアは巨大な艦船だった、速力重視の艦船と言うから高速戦艦の様な物を想像したのだが実際は銀次達の良く知る宇宙航行用の艦船と大して変わらない。ディの率いるガーディアンオブイーストは計五隻からなる高速艦船から構成されている。銀次達の調査隊ですらここまで三隻構成である事を考えれば彼女達の戦力が如何ほどであるか分かるだろう。

 

「元々人類搬送も視野に入れた艦船ですから、この部屋は船橋よりも強固な作りです、万が一艦に被害が出た場合でもこの部屋だけは無事でしょう」

「どんだけ頑丈なんだよ……あぁ、でも強いて言うなら窓が欲しかったな、折角の船だってのに景色が楽しめねぇのは損した気分になる」

「窓を設けると防壁に綻びが生まれてしまいますから、申し訳ありません」

「良いさ別に、寝だめでもしていれば直ぐ到着するだろう」

 

 銀次は鎧武者を着たままベッドに腰を下ろす。強化外骨格を着込んだ銀次の重量はかなりのものだったが、壁からせり出たベッドは軋み一つ立てずに銀次を受け止めて見せる。四郎もそれを見て自身のベッドに腰を下ろしその反動を楽しんだ。

 

「そう言えばディ、航行は百五十フィート以内って言っていたが理由はあるのか?」

「はい、高度を上げずに地表付近を飛行するのはマザーに発見されるのを防ぐ為です、本来ならば陸路で向かうのが安全面のみを見ると最善なのですが……やはり地上では速力に限界がありますから、それに大陸間の移動では海を渡る必要があります、水陸両用車両のみで部隊を編成するには聊か戦力に不安が残りますので、やはり高速船で地表付近を移動するのが最適と判断しました」

「なるほどね」

 

 この世界に来てから航空機の類を見ないのはそういう理由からか。「技術の進歩によって空は最も危険な場所の一つになってしまったのです」とディは口にする。障害物のない自由な青色は何の制約も無い快適な道に見える。しかしその実、宇宙はパトリア・パトリオットによって常に監視されており、その中間層ではマザーによる発見の可能性が高まるという。

 

「この星でも探知技術――というよりはレーダーというべきか、やはり反射波を?」

「地上に限った話ではそうですね、ただ宇宙航行艦船に搭載されている超長距離警戒機はフリーゲート級の船体からAF線による観測が主流になっています、その技術がマザーにも流用、搭載されていますので空を低空飛行以外、具体的には五千フィートを越える飛行であれば確実に探知されてしまいます、マザーには例外なく対空兵装が搭載されていますから、浮遊探査機などを搭載したマザーは更に厄介です、下手をすると二千前後でも捕捉されかねません」

「……不思議な話だ、航空機が空を飛べなくなるとは」

「時代によってあらゆるものは形を変えます、船が海ではなく空を飛ぶのも、昔の人類からすれば不思議な光景でしょうから」

 

 そう言われればそうか、大規模な航空機から巨大な船と形が変わったのはいつからだろう。少なくとも銀次や四郎が生まれる前からの筈だ、そんな遥か昔の感性を二人は持ち合わせていない。ディはチラリと目を端にやると何かを確認する動作を見せ、それからトンと爪先を一つ踏み鳴らした。

 

「私はそろそろブリッジに戻ります、何か御用の際はデバイスで連絡を、直ぐに対応致しますので」

「おう、悪いな」

 

 ディが一礼し部屋を後にする。四郎と銀次はその後ろ姿を見送り、息を吐き出しながら壁に背を預けた。

 その後、キルヒや拠点の機械人形達に見送られながらリアリディアが出航。ガーディアンオブイーストは中央を目指して航行を始めた。艦船に乗る前にキルヒと拠点の機械人形達には別れを済ませてある。キルヒを含め拠点の面々には随分と出航を渋られた、というよりは惜しまれた。尤もキルヒ以外は大して面識もない訳だが――正直あったとしても同じ型が多すぎて把握できないというのが本当の所だった。

 指揮官型の様に少数で個別名が存在していれば覚えられるのだろうけれど。残念ながら名前を尋ねたところでアルファベットと数字の羅列を答えられて終わりだろう。

 

「んー……なぁ銀次、これって夜番みてぇなもんか? ぶっちゃけ爆睡しても良いわけ?」

「マザーとの接触を警戒するって意味だとそうなるが、正直戦闘になっても俺達は大して役に立てない、どちらかと言えば非戦闘員の休憩時間だな」

「んじゃあアレだ、俺は今の内に寝とくわ、向こう着いたら忙しいだろうし」

「おう、一応鎧武者は着とけよ」

 

 四郎は「あったりまえだろ」と言いながら器用にベッドへと寝転がる。そして数分もしなう内に寝息を立て始め、銀次はそんな四郎の姿を眺めながら壁に凭れ掛かったまま目を閉じた。

 

「……コイツを着たまま爆睡できるお前が羨ましいよ」

 

 思わず苦笑が漏れる銀次、手甲に覆われた指先でベッドをなぞる。眠れるだろうか? と自問する、多分無理だろうなと思った。眠れる時に眠っておく力が調査隊には必要だ、銀次にもその能力は備わっている。しかし大断蜘蛛との戦闘で昏倒し、今朝方まで十二分な睡眠を行った銀次にとってはこれ以上の睡眠は不要でもあった。

 ある意味いつまでも眠っていられる四郎が凄まじいと言っても良い。常ならば銀次も眠りに落ちれたかもしれないが鎧武者を着込んだまま大して疲労もしていないのに眠るのは困難だった。

 暇でも潰そう、こういう何にでも使える時間と言うのは貴重なのだ。そう思って銀次は枕元のデバイスを掴んで起動する。微かな起動音と共にデバイスはホログラムモニタを投影する。中に入っているのは娯楽用の書籍、流石にデータベースに保管されているような文書の類は観覧出来なかったが十分だ。

 

「どんな世界でも娯楽はあるんだよな……」

 

 言語設定で大和を選択した後、銀次は静かに書籍を選択、読み進める。こういう風に時間を使うのは随分と久しぶりだった。四郎は寝息を立てながら熟睡し、銀次は黙って頁を捲る。外からは艦船が前進するエンジン音だけが聞こえて来る。

 航行は順調だった。

 

 

 ☆

 

 

 航行開始から凡そ十時間と二十四分。ブリッジにて第一コホルスの航行を指揮していたディは早期警戒管理官から報告を受ける。

 

『――? ディ、西側に反応がある、かなり遠いけれど……このノイズからして地上か、若しくは私達と同じように低空飛行で向かって来る』

『反応? 中央か……いえ、支部の部隊かしら?』

『ううん、友軍信号はなし、と言うよりノイズが酷過ぎて正確な数と距離が分からない、地上だとしてもちょっと酷いよコレ』

 

 その報告を聞いてディが顔を顰める。リアリディアに搭載されている早期警戒機は確かに最新鋭のものではないが十二分な性能を有している。特に人類を乗せる事を念頭に設計されたこの船は敵性勢力の探知機能には一際力が注がれていた。それが不鮮明であるというのであれば意図的なものだろう。マザーのレーダーに勝るとは言えないが、少しでも逃走確立を上げる為に早期発見力はかなりのものだ。

 

『EMPね、恐らくマザーよ、高度を上げなさい、全速力よ! 他艦船に連絡、敵マザーと思われる反応を感知、これよりリアリディアを先頭に隊列を組む、各艦本艦リアリディアの防衛を第一目標に設定、このまま中央まで逃げ切るわ』

『分かった!』

 

 ブリッジが一気に慌ただしくなる。艦内警報が鳴り響きマザーの到来をブリッジ以外の乗員に知らせる。手持ち無沙汰だった機械人形が慌てて持ち場につき、そのままリアリディアを含む全艦の砲台が一斉に起動し始めた。

 リアリディアを含むフリーゲート級の艦船に搭載されている砲台は自動的に敵を捕捉して攻撃を加える。しかし機械人形が有線で接続する事によりオートマタ形式で操る事も出来た。優秀な機械人形の処理能力を一つの砲台に注ぐ、命中精度はかなりのものだ。

 警報は銀次達の居る人類保護区まで聞こえて来た。警報を聞いた四郎はすぐさま飛び起き、書籍を読み漁っていた銀次はデバイスを投げ捨てて兜を展開する。互いに一瞬の動揺も迷いもなかった、この類の警報は調査隊で飽きる程聞いていた。

 四郎が野太刀を掴んで外へ出ようとするが銀次が慌ててその肩を掴む。

 

「馬鹿ッ、四郎、俺達が此処を出てどうするんだ! 此処が一番安全だと聞いただろう!」

「あッ! っぶね……つい、いつもの癖でよ、悪りぃ」

 

 四郎は警報を聞いて外に飛び出そうとしたが、今の銀次達は防衛に向かう必要が無い。今までは船を防衛する為に戦う側だったが今度は守られる側なのだ。そうこうしている内にも警報は鳴り続けている。四郎と銀次は落ち着かないとばかりに体を揺らした、警報が鳴り響いている中で何もせず突っ立っているというのは酷く焦燥感を煽った。

 

『銀次様、四郎様』

「ッ、ディか!」

 

 突如銀次と四郎の視界にサウンドモニタが表示される。声からしてディだ、どうやら彼女から一方的な通信が送られてきている様だった。

 

『マザーの接近を感知しました、これより全速力で逃走を行いつつ攻撃を加えます、お二人は決して部屋から出る事無く待機していて下さい』

「……了解した」

『ご安心を、リアリディアを含む五隻の艦隊はマザーを撃退するだけの力を持っています、万が一被弾しても人類保護区には被害が及びません、これは絶対です』

 

 ディは二人を安心させるように優しい口調でそう口にした。しかし元々二人はこうした事態に慣れ切った人間、ある意味彼女の懸念は不要であったが有難く銀次はその言葉を受け取る。「何かやることはあるか」と銀次が問いかければ、ディは『いいえ、気持ちだけ有難く』と言い切った。

 自分達に出来ることは無い、分かってはいたがいざその場面に遭遇すると酷く居た堪れない。自分に役割がないという事がこれ程無力感を掻き立てるとは。ディとの通信はごく短い間であった、彼女もやるべき事が多々あるのだろう。警報は鳴り止み、その代わりレッドランプが灯る。

 

「……まさか遭遇しちまうとはな」

「マザーが集結しているのではという話もあった、予想は出来た事だろう」

「逃げ切れると思うか?」

 

 四郎の問いかけに銀次は口を噤む。肯定的な返事も否定的な返事も出来なかった、脳裏を過るのは大断蜘蛛の姿。あの巨大なマザーがキルヒ達の部隊を蹴散らす光景が瞼の裏に焼き付いて離れない。ディの部隊の強大さは良く理解している、このリアリディア級の艦船が五隻。ある意味銀次達調査隊が一度に派遣する戦力よりも多く、強い。

 

「……ま、分からねぇよな、そりゃそうだ、俺も分からねぇんだからよ」

「万が一には備える、それだけだ」

 

 尤もディの艦隊が敗れるようであれば、銀次と四郎の二人など簡単に殺されてしまうと分かっていたが。四郎と銀次は野太刀を掴んで壁に凭れ掛かった。ベッドに横になることは無い、直ぐにでも動けるように緊張感を失わずに休息を行う。

 互いに会話は無い、ただ唸るエンジン音だけが響いていた。

 三十分程だろうか、レッドランプに照らされた室内でじっと待っていた二人の耳に砲音が鳴り響いた。大砲の様な轟音ではない、レールガンに似た硬質的で短く鋭い爆発音だった。それが艦船に搭載されている砲台の砲撃音だとは直ぐに理解出来た。銀次は腰を浮かし、「始まったか」と呟く。

 一度目の砲撃音から次々と重なる音、敵を射程圏内に捉えたのか、それともこれ以上接近されない為の攻撃か。どちらにせよ分かるのは敵マザーの追い縋る速度がこちらの艦隊を上回っているという事だ。

 

「撃ち合いか、そうなると向こうさんはコッチと同じ飛行型って事かよ」

「かもな……正直戦況が分からないっていうのはどうにも、落ち着かない」

「その気持ちは分かるぜ、銀次」

 

 ぐっと野太刀を掴んで足を揺らす四郎、落ち着かない時の癖だ。銀次も壁に背を預けながら静かに深呼吸を繰り返した。

 そんな静の二人に反し、ブリッジ内は慌ただしく声が飛び交っている。感知された反応は確かにマザーから放出されたであろう兵器群であった。しかし本体の姿はなく、兵器群は凄まじい速度で艦隊に追い縋っていた。放出した無人機からの映像はノイズが奔っている、拡大された兵器の姿は小型の航空機――一つ一つのサイズは恐ろしく小さい。

 

『全艦砲撃開始! 敵兵器群、速力はかなりのものだけれど装甲は脆い、一発で落ちるよ!』

『単体じゃ弱いけれど数が多い……百や二百じゃない』

『ディ、このまま行くと五番艦が捕捉されるよ!』

『近付けさせないで、兎に角弾幕で数を減らすのよ、動力炉のエネルギーは全てエンジンと砲台に回しなさい! 敵に取り付かれるまで電磁障壁の展開は不要、中央に報告は?』

『もうやった、警邏で今すぐ動ける艦を出してくれるって!』

 

 リアリディアを含む全艦の砲撃は次々と兵器群を撃墜する。個体個体で見れば大した脅威ではない、しかし余りにも素早い機動と恐らくランダム回避で縦横無尽に動き回る小型兵器は迫りくる砲撃の間隙を縫うようにして徐々に迫って来ていた。何より数だ、まるで空を覆わんばかりの群れは下手なマザーよりも恐ろしい。ディは砲撃指示を出しながら中央のデータベースにアクセス、この小型兵器の情報を検索する。

 しかし――該当なし。

 その時ディが受けた衝撃は如何ほどか、人類が存在していた頃から収集したマザー情報は膨大である。その中に該当がないという事は対策の講じられていないマザーと言う事になる。大断蜘蛛であれば対エネルギーコーティングを施し、電磁障壁を貫通する実弾兵器を使用するなどマザーと戦うには強みを潰し、弱みを突く対策が必要不可欠。間違っても正面から無策で殴り合うなどしてはいけない。ある意味マザーと対峙し撃退するというのは『情報を持った状態で対策を講じる』というのが前提であった。

 ここにきて完全な新種――あのテレポーテーション搭載型と言い、一体どうい事なのか。

 

『ッ、リアリディアから各艦に通信、各艦搭載されているドローンの発艦指示、A型指定、後方の兵器群を叩くわ!』

『ドローンの射程距離にはまだ遠いよ、良いの?』

『構わないわ、最悪ドローンは捨て駒にする、誤射にだけは注意しなさい、演算処理を怠らないで!』

 

 ディの指示により五隻の艦船から次々と小型ドローンが射出される。背後から迫る兵器群と比べると二回りは大きい。小型のプラズマガンを搭載している為だった。側面から射出されたドローンは投げ出された空中でウィングを展開すると一斉に散会し追い縋る兵器群に向かって突撃していく。

 ドローンの展開距離にはまだ遠い、しかしディはここでドローンを使い切る判断を下した。情報が無い、つまり敵がどの様な攻撃をしてくるのかが分からない。あれ程小型で装甲も薄いのだ、速力に重きを置いているのは明白。この距離で攻撃をしてこない事から碌な兵装も搭載していない事も分かる。

 では万が一――接近を許したら?

 ディが予測したのは自爆型、即ち速力にモノを言わせて敵艦に特攻し、そのまま外壁に突き刺さった状態での自爆。前時代的で非効率的な攻撃だとディは吐き捨てるだろう、しかしやられる側としては堪ったものではない。推進口にでも入り込まれたら誘爆の危険性だってある。何よりその類の兵器は電磁障壁を貫通するのだ。

 ドローンはものの数分で兵器群に突っ込み、そのまま戦闘を開始する。僅かな光と閃きが遠目に確認出来るものの敵が反撃している様子は見られない。ドローンを無視し、ただ我武者羅に艦隊目掛けて飛んで来る。その一心不乱さがディに危機感を与えた、絶対に懐に飛び込ませては駄目だという危機感だ。先の自爆兵器という予想が現実味を帯びて来た。放出したドローンは兵器群を次々と撃墜するが圧倒的に処理能力が足りていない、搭載しているプラズマガンだけでは捌き切れない数だ。艦船でも無理なのだ、ある意味当然と言えば当然の結果。兵器群の行進は人類が存在した頃に度々発生していたという蝗害に良く似ていた。データベースで何度か目にしただけのものだが、この数と勢いは正にソレだ。

 ディは暫くの間思い悩む、何度か自分の唇を噛んで何とも表現し難い不快感を呑み込むと、そのまま吐き出す様に命令を下した。

 

『五番艦、四番艦に要請、左右反転からの主砲斉射、エネルギー砲による敵殲滅!』

『良いの、ディ!?』

『人類の為に手段は選ばないッ! やりなさいッ!』

 

 ディが叫び、近くに居た操縦桿を握る機械人形が叫ぶ。火力が圧倒的に足りない、一点集中型の兵装はマザーに効果的ではあるが今必要なのは兎に角手数だった。ディには既に余裕が無かった、マザーを撃退出来る戦力と言うのは嘘や法螺ではない、何があってもリアリディアを守り切るだけの戦力と手段がディにはあった。

 どこか躊躇う様な口調の彼女とは裏腹に――リアリディアの後ろを航行していた五番艦と四番艦が突如減速、左右に分かれ旋回、反転。ゆっくりと本体を離れて孤立する様に後方へと流れていく。左右のバーニアが瞬き巨大な艦船が空気を裂きながら停止した。

 

『五番艦、四番艦艦長、命令受諾! 通信、【幸運を】、以上!』

 

 四番艦と五番艦が速力を棄て全砲門にて集中砲火を浴びせる。後方から凄まじい砲音と閃光。艦船の船首に搭載された一際巨大な砲口――エネルギー砲が唸りを上げた。動力炉はエンジンに浮遊分の僅かなエネルギーを回し、残りは全て砲台へと流していた。

 窪みから青白い粒子が噴出し充填、そこから一拍置いて轟音が空気を揺らす。エネルギー砲による一斉掃射、正に極光の柱としか表現できない様なエネルギー束が兵器群目掛けて迸る。エネルギー砲は十秒ほど世界を白色に染め上げ、それから徐々に収束し細くなって掻き消えた。青色の空に砲撃の残滓が漂う。

 

『ッ、敵影は!?』

 

 眩い光に目を細めながらディが叫ぶ。ただの砲撃とは違う、文字通り面に等しいエネルギー砲による攻撃。それも二艦同時の掃射、直撃すればマザーと言えど手傷を負う程の威力。

 

『敵兵器群――抜けて来る!』

 

 果たしてエネルギー砲は全ての兵器群を撃墜するに至らなかった。白い極光が消え去った後、少なくない数の敵影が次々と飛来して来た。かなり数は削った筈だ、現に連中の影は最初の四分の一以下。しかしそれでも全滅には程遠い。ディは思わず拳を強く握った。

 

『あと一分で五番艦、四番艦が接敵するわ!』

『四、五番艦、低速で後退しながら砲撃開始!』

 

 エネルギー砲を放つ為に後方へ流れた五番艦と四番艦はどんどん本隊から離れていく。彼女達は少しでも本隊に追い縋る兵器群を撃墜しようと後退しながら砲撃を開始。そして一分もしない内に兵器群が二艦と同じエリアに侵入、ディは取り残された二艦が無残に撃墜される未来を想像した。

 しかし――あわや接触かと思われた瞬間、兵器群は一斉に円を描く様に二艦を迂回、そのまま凄まじい速度で本隊を再び追い始めた。外装甲に掠りもしない、いっそ芸術的なまでな回避行動で擦り抜けるように艦隊を避けた兵器群はそのまま本体に向かって進む。

 

『敵兵器群、四、五番艦を素通り……!? このまま本隊に突っ込んで来る!』

『―――』

 

 ディの脳裏に四郎と銀次の姿が浮かんだ。単純にこの船が旗艦だと考えたからか? いや、違う、機械人形としての冷静な分析結果が囁いて来る。

 間違いない、この兵器群は本艦――正確に言うならばリアリディアの中にいる人間を狙っている。連中は周囲の艦船になど見向きもしない、その行動から狙いは明らかだった。

 

『全艦、使える武器は全て使いなさいッ! リアリディアは後部砲台以外兵装を全て使用控え、全速力で中央を目指せ! 推進口が焼き切れたって構わない、兎に角最速で中央に到着すれば良い、艦船の消耗は考えるな!』

 

 ディは大声で叫んだ、その瞬間ブリッジに居る全ての機械人形が一斉に動き出す。不要な砲台を止め、僅かなエネルギーさえも全てエンジンルームに回す。三角形の形で前進していた本隊からリアリディアのみが突出し、残り二艦はリアリディアを守る様にして敵兵器群の進路を塞ぐ。連中の狙いは全員の知るところとなった。

 敵兵器群はリアリディアが更に加速した事を理解する。他の艦の動きから自分達の狙いが露呈した事も。そしてこのままでは追い付くのに時間が掛かり過ぎると判断、瞬間後部の推進口から凄まじい爆音と共に円型の緋色が飛び出した。素のままでも十二分な速さを誇った兵器群は更に爆発的な加速を実行する。

 

『敵兵器群加速! は、速ッ!? これ、何でッ――駄目ッ、ディ、追い付かれる!』

『アフターバーナー!?』

 

 敵兵器群が凄まじい速度でリアリディアに追い縋る。ランダム回避を中止し超高速で直線飛来するそれらを二、三番艦が恐ろしい精度で次々撃墜するものの、リアリディアとは比較にならない程の加速を見せた兵器群に機械人形達から悲鳴が漏れる。後方に陣取っていた二艦が追い抜かれ、リアリディア後ろに食い付くまでそう時間は必要なかった。

 

『二番、三番艦、抜かれた!』

『ディ、動力炉のエネルギーを電磁障壁に回そう!? 速度は落ちるけれど素の外装甲だけで受けるよりは良いでしょ!?』

『駄目よ! 速度を落としたら一気に呑まれる、このまま全速力で進みながら後部砲台で数を減らしなさい!』

 

 ぐっと拳を握ったままディは指示を出す。電磁障壁の展開はディも考えた、しかしあの軽量小型の兵器群がエネルギー兵装を積んでいるとは考えにくい。そしてもし特攻自爆型であるならば電磁障壁なんてものは殆ど無意味だ。仮にエンジンに回しているエネルギーを全て電磁障壁に回したとしても守り切れまい。機械人形の自爆とは訳が違う、自爆し、破壊する為だけに生まれた兵装とはそういうものだ。

 

『EMPによる機能障害発生! 砲台の精度が落ちる、ドローンも追いつけない!』

『取り付かれた! 取り付かれた!』

『ディ! リアリディアが囲まれる!』

『人類保護区の隔壁下ろせ! 他はどうなっても良い!』

 

 ブリッジから目視できる距離に兵器群が現れる。細長いシルエット、申し訳程度のウィングに後部には推進口が二つ。大きさはどれ程だろうか、少なくともディたちの半分程もない。それらが群れとなってリアリディアを覆ってくる。追い付かれた、ディの胸内が焦燥に支配される。『衝撃に備えて!』とディが叫ぶとブリッジの機械人形達は耐ショック姿勢を取った。予想される衝撃に備えてディも身構える。

 

『攻撃――来ない、連中、何もしてこない』

『武器を搭載していない……? これは、一体』

 

 しかし待てども待てども衝撃は来ない、それどころか連中は攻撃する素振りすら見せなかった。兵器群はリアリディアと並走する形で集結する。機械人形は困惑した、攻撃する素振りも見せずただ並走するばかりの兵器群に。これにはディも困惑を隠せない、単純に攻撃されるよりも余程厄介な行動。もしや音響兵器や妨害の類かと勘繰った瞬間、兵器群が一斉に赤いレーザーをリアリディアに向けて照射。艦首から後部の推進口に至るまでゆっくりとレーザーを移動させた。

 

『これは――』

 

 まるで観察する様に連中はレーザーを照射し続ける。レーザーそのものは攻撃ではない、単純にポインターの様にも見えた。その間にも後部砲台が火を噴き、次々と兵器群を撃墜して行くが連中はお構いなしだ。ディが何かを察して咄嗟に艦を振り回して周囲の兵器群を突き放せと指示しようとした瞬間。

 周囲の兵器群が一斉に色を失い――落下。

 火を噴く事も無く、まるで役目を終えたとばかりに力を失って減速、そのまま下へと消えて行く兵器群。

 

『――えっ』

『……何? どういう事?』

 

 その光景に機械人形達が呆然とした表情を見せる。ただ赤いレーザーを照射しただけで、特に何があったという訳でもなく機能を停止した兵器群。ディは暫く何も言う事が出来ず、他の機械人形達と同じように呆然とした表情で立ち尽くしていた。しかし数秒で意識を取り戻した彼女は『艦の被害状況を』と言葉を絞り出す。

 

『えっと、損害なし、強いて言うなら無理に加速したから推進口に熱が蓄積している位……かな』

『外装甲に衝撃や、何かシステム周りに不具合は?』

『………何も』

 

 担当官が首を横に振る、嘘は言っていない、リアリディアには本当に何の被害も存在しなかった。意味が分からない。ディはその言葉を飲み込んで減速を指示、後方から全速力でこちらに向かう四隻の艦船の合流を待つ。ディは深く息を吐き出して自分の顔に手を当てた、

 

『念のため連中の残骸を他の艦に回収させて、何か分かるかもしれない、周囲に敵影は?』

『今のところなし、けれど依然ノイズは発生中』

『EMPを垂れ流している敵がまだ居るかもしれないわ、偵察用のユニットを、回収を終えたら速やかに此処を離れる、動力炉のパスを通常設定に戻して、念のため電磁障壁を展開、他の艦からも被害状況を聞いておいて頂戴』

 

 ブリッジの機械人形にそう告げたディは耳に指を当て四郎と銀次に通信を繋げる。数拍おいて繋がった通信にディは安堵し、そのまま戦闘終了を告げた。釈然としない終わりであったが敵を撃滅したのは事実だったし、何より二人を安心させなければならないという機械人形特有の感情が働いていた。

 

『四郎様、銀次様、敵の殲滅が完了しました――もう安心です』

 

 そう口にして数秒、しかし向こう側からは何も声が聞こえてこない。一体どうしたのだろうとディが僅かに声を大きくし再び問いかけた。

 

『四郎様? 銀次様?』

 

 けれど返事はなかった。流石にこれにはディも顔を顰め、不穏な気配を感じ取る。詰まった呼吸をそのままに踵を返して勢い良くブリッジを飛び出す。その背に『ディ!?』と声が投げかけられたが彼女は無視して駆けた。途中擦れ違う機械人形達が一体何事かと驚き道を譲ったが、ディはその悉くを突き飛ばす勢いで押し退ける。

 そしてブリッジの下層、人類保護区へと辿り着いた彼女は銀次と四郎の居る部屋へと飛びつく。外部からの入室には認証コードが必要だった、その入力を終えるまでの時間が凄まじく長く感じた。

 

「四郎様! 銀次様ッ!」

 

 部屋に飛び込むディ。二人がその部屋にいると信じて。

 しかし其処に人類最後の希望である二人の姿は――なかった。

 

 

 

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