機械仕掛けの人類へ   作:トクサン

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人間のカタチ

 

 22460805 タイトル【日報】

 管理官に言われて音声文書を残しておくが――あー、こういうのは慣れていないんだ。何を言えば良いんだ? 今日はあった事と言っても、クソ不味いミールを食って、サボタージュしながら労働をこなして……ってこれって管理官に校閲されるのか? やっぱなし、今のは無し、俺は勤勉に今日も労働をこなしました、はい。

 いつも通りと言えばいつも通りだし、違うと言えば違う。外はいつも通り地獄だ、戦争の痕がそこら中に残っているよ。第四世代の俺でもBBPがないと活動出来ない、第三だと外した瞬間に穴と言う穴から血でも流して死ぬんじゃないか?

 正直資源回収なら兎も角、食い物や水はまるで駄目だ、一度洗浄したって食えないし飲めない。地下の生産プラントで量産した奴の方がマシだ、遺伝子操作でも何でも畜産で肉が食えるだけ有難い。正直上の生態系は狂っちまってる、見た事のないバケモンみてぇな生物がゴロゴロいた。それにいつマザーに見つかるかも分からない――ここだけの話、司令官は地上に戻ろうと躍起になっているみたいだが、俺はお断りだ。正直あんな場所で生きるくらいなら一生穴倉に閉じこもっていた方がマシさ。

 

 22461201 タイトル【資源記録】

 音声文書として記録する、同時にテキストデータも添付するので確認されたし。今日の遠征では幾つかの野生動物の狩猟に成功した。その過程で一体の機械人形が破損し、現場に投棄してきた。回収に向かう予定はない、貴重な資源ではあるが運搬機は狩猟した野生動物分の重量で一杯だった。損害報告は別途記載する。

 回収した資源についてはテキストデータを参照されたし。

 

 22461206 タイトル【メディカルセンター】

 医療部門のミシです、薬品の在庫が殆ど底を尽きかけています。此処には薬品製造の設備もありませんし、何らかの形で補填する必要があります。現品回収、不可能であれば原材料の回収許可を下さい。正直このままでは風邪一つで命を落とす可能性もあります、早急に何らかの対策を講じ行動しなければなりません。

 薬品を取り扱っている場所に心当たりがある方は医療部のリンまでお願いします、またメディカルアームは現在修理作業が行われているので使用出来ません。怪我や病気の際は第四階層の宿直室へお越しください。

 

 22461212 タイトル【連絡途絶】

 連邦付近の拠点に籠っていたグループから連絡が途絶えた。どうやらマザーの襲撃に遭ったらしい。マザー同士の殴り合いに巻き込まれたのか、或は内部から――いや詳細はどうでも良い。問題なのは連邦の作り上げたマザーのコントロールが喪われたという事だ。

 タダですら現在制御不能となったマザーが多いというのに、あの化け物の様な機体まで敵に回ると思うと頭が痛い。せめて最後に自爆指示でも出してくれれば良かったものを。現在各地拠点の代表と密に連絡を取り合って対策を打ち立てている。しかしマザーを撃破出来るのは同じマザーか、或はかなり大規模な兵器、兵力を必要とする。自分達の拠点を空っぽにしてまで討伐に出向きたくないと言うのが本音だ。どこもかしこも他人任せ、他力本願、気持ちは分かるがこのままではジワジワと滅んでいくばかりだ。

 いつまでも中身のない議論をするつもりはない。

 誰もやらないと言うのならば、私達がやるまでだ。

 

 22470108 タイトル【ああああ】

 あー、あー、ああ、えっとこれで良いのか? これちゃんと記録されてんの? え、嘘、マジで、凄いな。えーっと、別に言う事はないんだけど、何か弄ってたら記録しますとか言われてさ、どうなってんだろうねコレ。

 

 22470209 タイトル【ご飯】

 ミールは飽きた、肉が食べたい、肉。

 

「碌な記録がない……四郎そっちはどうだ?」

 

 銀次が溜息を吐きながら肩を竦めた。最後の情報など殆ど愚痴だ、日記どころの話ですらない。隣の四郎に目をやると手を動かしながら首を横に振る。どうやら大した情報は入手できなかった様だ。

 

「微妙だ、パトリア・パトリオットに関係する情報を狙ってみたがどれもこれも断片的なモンばっか……と言うか明らかに公的文書じゃねぇ、手記やら愚痴の類も登録されているんだけどよ、何なんだこのデータベースは?」

「さぁ……予想だけど、機械人形が人類の書いた文書をやたらめったらと集めたんだと思う、ソレが手慰みの日記だろうが公式文書だろうがね」

「ふぅん、そんなモンデータベースに登録したって意味ねぇだろうに」

「彼女達にとっては【人間が書いた】ってだけで保存する理由になんだろうね」

「…………良く分かんねぇや」

「俺もだよ」

 

 銀次は続けて情報を探ろうし、手首に巻いたデバイスから僅かな振動を感じて手を止めた。リスト型のウェアラブルデバイス、鎧武者を取り外し生身となった銀次に支給された物だ。小さなスイッチを押し込むとホログラムモニタが目の前に表示される、リストには『キルヒ』の名前――内容に目を通して銀次は頷く。

 

「四郎、キルヒから呼び出しだ、中央の本隊が到着したらしい」

「もう? 速過ぎじゃねぇか?」

 

 四郎が驚いたような声を出す。彼女達の本部は恐ろしく遠い場所にあると聞いていたが、人類保護の報告は銀次達を見つけた時点で行われたらしい。星の裏側から到着するには余りにも早い時間だったが。

 

「此処の技術力なら星の裏側から一、二時間でやって来ても不思議じゃないさ、一層の格納庫に呼ばれているけれど……どうする?」

「どうするって、行くしかねぇだろう、今更連中を疑ったりしねぇよ」

「そっか、そうだな」

 

 銀次と四郎は端末の電源を落とし立ち上がる。銀次はデバイスを使ってキルヒに格納庫へと向かう旨を伝える。直ぐに返信が飛び現在本隊の一部の機械人形と待機しているとあった。

 

「結局大した情報は入手できなかったな」

「パトリア・パトリオットの存在を知れただけでも収穫はあったよ、キルヒと話せば最初から聞けたかもしれないけれど……こういうのは自分で調べて発掘するのが良いんだ」

「調査隊の性って奴か」

「あぁ」

 

 銀次が前、その後ろを四郎が続く。二人は足並みを揃え格納庫へと向かった。

 

 

 ☆

 

 

 到着した格納庫には既に拠点の機械人形達と二十人程の新顔――恐らく本部と呼ばれる場所に所属する機械人形だろう。黒いタイトな服を着込んだ機械人形が二列になって待機していた。その本部の機械人形を拠点の整備タイプやら戦闘体が取り囲みがやがやと騒いでいる。そう騒めきも銀次と四郎がエレベーターから出て来ると一瞬で止んだ。

 

「銀次様」

「すまないキルヒ、待たせたかな」

「悪りぃな」

 

 エレベーターから四郎と揃って外に出た銀次、特に悪びれもせず本部の機械人形の前に立っていたキルヒに手を上げる。次の瞬間ザンッ! と何か擦れるような音が聞こえた。見れば本部の機械人形が一斉に姿勢を正し直立不動の体勢となる。

 その中心、前に立った一人の機械人形――キルヒと同じ他と比べると体格の良い恐らく指揮官型だろう、ソイツが四郎と銀次の方へと早足で近付いて来た。何か言い知れぬ気迫に思わず身を硬くする二人だったが、その機械人形は何をする訳でもなく二人の手前で足を止めた。そしてマジマジと、それはもう目を見開いて銀次と四郎を眺める。必然銀次の目も目の前の機械人形を確りと見つめる事となり、同じ指揮官型でありながらキルヒとの違いを随所に認められた。

 

「………失礼、触れても宜しいでしょうか?」

「え? あ……あぁ」

 

 鎧武者を着込んだ四郎ではなく、生身の銀次に向かって淡々とした口調でそう言った。いや、良く聞けば少し声が震えていたかもしれない。銀次は特に考える事も無く頷いて見せる。すると目の前の機械人形はすっと手を伸ばし、頬に触れる直前で一瞬手を止め――それから優しくその肌に触れた。

 

「ぁ……柔らかくて、温かい」

 

 指先で肌を擦る様に、或は少しだけ摘まむ様に。何度か彼女は銀次の頬に触れる。能面の様な表情が崩れ、目の前の機械人形は柔らかく穏やかな笑みを見せた。

 

「まさか映像情報ではない、生身の人間を見る事が叶うとは……本当に、何と、言えば良いか」

 

 手を離した機械人形が深く頭を下げる。彼女は人類が生存している事に深く感動している様だった。笑ってはいるが今にも泣き出しそうな雰囲気だ。銀次と四郎は何となく背中が痒くなり、「頭を上げてくれ」と早口で告げた。機械人形は二人の言葉に頷きゆっくりと顔を上げる。

 

「それで、お前が中央の指揮官なのか」

「はい、コマンダータイプの機械人形、個体名は【ディ】と、中央本部の副司令官を務めています」

「副司令官か」

 

 銀次は驚く、何と言っても勢力の中で最大規模を誇る部隊、そのナンバー2がやって来たのだからそれは驚くだろう。それだけ彼女達が自分達を重要視しているという事なのだろうか。外見はキルヒと非常に似通っているが服装と髪型が異なる。顔立ちは殆ど一緒だ、キルヒは長髪でディは短く切り揃えられていた。

 

「本当ならば総司令直々に此方の方に足を運ぶ予定だったのですが……マザー襲撃の報を受け現在本隊の派遣準備を行っています、私達ガーディアンオブイーストは先遣隊として一足早く合流した次第です」

「いきなりトップとは……流石に緊張する、無理だ」

 

 そんな役職の人物とは縁もゆかりもなかった人間である。銀次が苦笑を零しながらそう言うとディは笑って首を振って見せた。

 

「なにせ百年以上発見出来なかった人類ですから、先遣隊も護衛任務の意味合いが強いのです、セントラルシップを中心に動かせる部隊を全て動員しました、例え今マザーの襲撃があったとしても退けるだけの戦力があります」

「セントラルシップ……此処の機械人形だけじゃないのか?」

「当然です、この二十人は隊内で選抜された陸戦用戦闘体、銀次様と四郎様の盾に足る個体であります」

「……出来れば、盾なんてやって欲しくはないんだけどね」

 

 此方をじっと見て微動だにしない二十人の機械人形に向けて呟く。彼女達はうんともすんとも言わなかった。そういう個体なのだろうか、銀次には分からない。直ぐ隣に立っていたキルヒが「ディ、取り敢えず今後の事も含め下層で話を進めない?」と口に出し、ディはちらりとキルヒを一瞥した後、「そうね」と頷いた。

 

「銀次様と四郎様も、立ち話もなんですから」

「……まるで人間みたいなフレーズね」

「お二人に影響されたのかも、人間らしく聞こえたなら嬉しいわ」

 

 淡々とした口調で話すディと対して抑揚をつけて話すキルヒ。外見は似通っているのに随分と印象が異なった。

 拠点にいる間は安全だという事でディの連れて来た部隊は格納庫で待機、四郎と銀次、ディとキルヒの四人で下層にある会議室へと足を運んだ。人類生存時にはこの場所で様々な議論が行われたとか何とか。こういう形式的な部屋も残っているのかと銀次は少しだけ感慨深く思った。会議室は銀次達の私室の二倍近い大きさで、中央に長方形のテーブルと椅子が備え付けてあった。

 

『マザーとの戦闘報告は聞いているわ、臨時の戦力は私のガーディアンオブイーストを充てます、あくまで生産終了までの繋ぎだけれど、細かい指示書は後々総司令より送られるから』

『えぇ、分かったわ、補填計画は既に総司令に向けて提出したから心配しないで、問題は資材だけれど撃破したマザーを融解炉に放り込めばそこそこ調達出来そうなの、それでも足りない分は申請しても良いかしら?』

『問題無いわ、セントラルには十分な貯蔵がある、総司令も首を横には振らないはず』

 

 銀次と四郎の対面に座った二人は互いに圧縮言語で言葉を交わす。銀次と四郎は暫くそのやり取りを眺め、一分ほどでキルヒとディは十二分な情報交換を終えた様だった。二人は揃って銀次と四郎に顔を向け背筋を正す。

 

「ごめんなさい銀次様、四郎様、色々と話す事が残っていて」

「良いさ、気にしないで……準備が良いなら話を始めよう、まず何から話そうか?」

「取り敢えず俺達の目的からじゃねぇの? どっちにしろ二人ぽっちじゃ無理なんだからよ」

「あぁ、そうだな、ディとキルヒにはまず俺達の身分と此処に来た経緯を話したい、それからこれからどうしたいか――聞いてくれるかな?」

「はい」

「勿論」

 

 銀次は二人が頷いた事を確認してから自分達の所属する調査隊について、そして気がついたら神楽の残骸と共にこの場所へと不時着していた事を話した。そして自分達の望みは母星への帰還である事――しかしキルヒへ寄り添うと断言した手前、帰還でなくとも母星の人類へと何らかの形で連絡出来れば良いと説明した。

 事実、銀次が母星への帰還という言葉を口にした時、キルヒは悲しそうに目を伏せディは難しい顔をしていた。

 

「これが俺達の母星データだ、跳躍用の位置情報も入っているから特定は簡単だと思う、後々解析してくれると嬉しい」

「お借りします」

 

 銀次は長距離跳躍を行う上で必要な惑星情報の入った小型保存デバイスをディに手渡す。ここの技術力があれば地球の捕捉など簡単だろう。さて、自分達の経緯と目的は語った。二人は何とも言えない表情をしているがこの星以外に人類の生息している場所があると聞いて心なしか嬉しそうではある。銀次は身を乗り出し、そんな二人に対してストレートに問いかけた。

 

「単刀直入に聞きたいのだけれど、俺達の目的に手を貸してくれる気はあるだろうか?」

「そう……ですね、手を貸す事自体に問題はありません、元々私達機械人形は人類の為に生まれました、喜んで助力致します、惑星への連絡という点は特に、ただ――」

「ただ?」

 

 ディが顔を俯かせ眉間に皴を寄せる。彼女の言葉に被せる様に問いかければ、淡々とした口調で彼女は言った。

 

「今すぐは難しいでしょう、お二人の存在を嗅ぎ付けたのか此処数時間でマザーの活動が活発になったと報告されています、通常マザーは機械的に製造国周辺を徘徊し攻撃対象を捜索、或は自国防衛を行うだけの存在ですが――本来の防衛エリアを離れる個体も確認されているのです、お二人の安全の為にも防備を強化しなければなりません、先遣隊である私達が派遣されたのもその一環です」

「連絡の方も難しいのか?」

「いえ、母星との連絡は本部に連絡すれば然程時間はかかりません、問題は銀次様と四郎様の母星、人類の誘致、或は帰還なのですが……この星の衛星軌道上には巨大なマザーが存在しているのです」

「あぁ……パトリア・パトリオットだろう?」

「ご存知なのですか」

 

 どこか驚いた表情のディに、「此処のデータベースを見せて貰ったんだ」と答える。そう言うと彼女は納得したように頷き、知っているのなら早いとばかりに「このパトリア・パトリオットが存在している限り、宇宙空間からこの星に入る事も、その逆も極めて困難であると考えられます」と言った。

 

「銀次様と四郎様は気付いたらこの星に墜落していたと仰いましたが、その……恐らくは」

「分かっているさ、撃墜されちまったんだろ? パトリア・パトリオットとか言うマザーによ」

「……申し訳ありません」

「過ぎた事だし、お前達は悪くない」

 

 頭を下げるキルヒとディに手を振る。マザーは此処の人類が作った兵器であって機械人形は関係無い、彼女達を責めるのは酷と言うもの。今の今まで存在しているという事は排除も困難なのだろう、マザーと戦うために備えて来たとは言うが敵は遥か上空である。そして数は膨大、凡そ考える中で最も強大な兵器だった。

 

「俺達がこの星を出るにしろ、外の人類を呼び込むにしろ、パトリア・パトリオットの排除は行わなければならない、確かドルフィンとベルベだったか、撃破可能か?」

「この支部には対空兵装が余り存在しません、それこそ衛星軌道上にある物体を正確に撃ち抜ける砲の類は何も……ただ、本部の方ならば」

 

 申し訳無さそうな表情でキルヒがそう言ってディを見る、するとディは力強く頷きながら言葉を続けた。

 

「本部の部隊ならばパトリア・パトリオットを撃破する事は可能です、正確に言うならばパトリア・パトリオットを撃破する為の計画は既に存在しています」

「あん? マジかよ」

「はい」

 

 四郎が鎧武者の手を叩きながら身を乗り出す。まさか既に撃破する為の計画が存在しているとは。いや、きっと彼女達もただ手を拱いて待っていただけでは無いのだ。詳細を聞きたいと銀次が言えばディは大まかな作戦内容を答えた。

 

「ベルベの雲を掃討するのは数が多すぎるので、そのエネルギー源であるドルフィンを破壊する計画です、実行するのは中央本部の移動型電磁砲、四足歩行型のレールガン搭載車両です、コレで地上よりドルフィンを狙撃、撃破します」

「それだけ聞くと簡単そうだが……」

 

 銀次が顎を擦りながらそう口にする。しかしディはそんな銀次の言葉に首を横に振り、そう簡単な事ではないと表情を歪ませた。 

 

「いえ、パトリア・パトリオットに攻撃を加えた場合、その個体は敵性勢力として設定、衛星軌道上からの集中攻撃により撃滅されます、つまりドルフィンを一体撃破するのに部隊を一つ使い潰さなければなりません」

「……パトリア・パトリオットのレーザー兵器は地上まで攻撃が届くのか?」

「届きます、ただ通常時は成層圏に近付かなければ殆ど無害です、攻撃を加えた場合のみ反応する固定砲台だとお思い下さい」

 

 ドルフィン一つにつき部隊一つ、銀次は唸る。ドルフィンは確か幾つ存在したか、文書には百以上あると書いてあった気がする。つまりそれだけの数部隊を使い潰さなければならないという訳だ。とても効率的な方法だとは思えなかった。

 

「衛星軌道上を射程内に捉える電磁砲となると製造は簡単ではありません、技術的には確立された兵器ではありますが資材が不足しているのです――故に総司令は全電磁砲によるドルフィンへの同時攻撃を提案しました」

「まぁ、そりゃそうなるわな」

 

 ディの言葉に四郎は頷く。一機撃墜して反撃されるのならば同時に全て撃墜してしまえば一方的に屠る事が出来る。ある意味正攻法としては最も確実に近い――すべての電磁砲が命中すればの話だが。其処はこの星のAIを信じるしかないだろう。

 

「出来るのか?」

「可能です、目下資材調達と平行して電磁砲を順次生産しております、数が揃い次第パトリア・パトリオットの撃破に移そうと機を伺っていたのですが」

「分かった、じゃあ俺達は待つだけで良い訳だ」

 

 肩の荷が下りたとばかりに銀次は椅子へと深く凭れ掛かる。最初から計画が存在しているのならば言うことは無い。元より自分は参謀でもなければ隊長でも無い、単なる一調査員だ、作戦立案は全て彼女達に任せよう、餅は餅屋だ。

 

「なら俺達の話は終わりだ、母星と連絡さえ取れれば何も言うことは無いさ」

「では私達の方からも二三、お伺いしたい事が」

「勿論」

 

 銀次が頷いて見せる。そうするとディはキルヒと顔を見合わせ、じっと四郎と銀次の顔を見つめながら口を開いた。

 

「私達が気になっていた事はどうやってこの星に来たのか、そしてお二人の他に人類は存在しているのか、その答えは既に頂いているので一つ、こちら側の事情に絡んだ質問をさせて頂きます――お二人の此処に来た経緯をお聞きする前からキルヒからの報告で既に大凡の事態は把握しておりました、お二人が他の惑星から来たことも、それを巡って現在機械人形達の間では二つ意見が衝突しているのです」

「意見が衝突? なんだそりゃ」

 

 四郎が訝し気な声を上げる、銀次も驚いた表情を浮かべた。機械人形が互いに意見を持って衝突するなど――いや今更か、この場にいる機械人形を自分達の星と同じ存在と思ってはいけない。しかしそうだとしても銀次には不思議に思えた、一体何をそんな衝突する様な意見が挙がるのかと。

 二人の訝し気な雰囲気を感じたのだろう、ディはぐっと肩に力を籠めると努めて冷静に言葉を重ねた。

 

「仮定の話になりますが、我々がパトリア・パトリオットの排除に成功した場合、銀次様と四郎様の母星と何らかの形でコンタクトを取る事になると思います、実際に連絡するのは排除後か、排除前かは総司令の指示によりますが……その後、銀次様と四郎様を母星へと送り届けるか、或はこの星で保護するかどうかです」

「それは」

 

 銀次が咄嗟に何か言葉を出そうとして、しかし横合いからキルヒがディを援護する様に口を開いた。

 

「この星の宇宙航行技術はパトリア・パトリオットのロールアウトと同時に停滞しております、何せ百年、いえ、それ以上の年月進歩していないのです、航行技能はインストールされていますが万が一の可能性もあります、ですから我々機械人形のみで銀次様と四郎様の母星まで航行し、こちらの事情や諸々を説明しようと……」

「……まぁ、悪い話じゃねぇんじゃねぇのか」

 

 四郎が横合いで呟く、宇宙航行に絶対はないというのは理解出来る。道路の上を車で走るのとは訳が違うのだ。一度安全を確認した上で母星である地球に機械人形だけで赴くという話も納得は出来た。

 

「それに人類と席を共にするのならば仲介としてお二人にご協力頂きたいという目論見もあります」

「……それは本人を目の前にして言っても良い事なのか」

「人に隠し事などしたくはありませんから」

 

 困った様な表情で笑うディ、そうプログラムされているのか、だとしてもその表情からは感情が確りと見て取れた。銀次も薄く笑いながら頷く、調査隊の一員として他知的生命と接触した場合には地球との仲介役も想定されている。言われずとも引き受けるつもりだった、それに機械人形は人類との親和性が高い。恐らく自分達など居なくともうまくやれるだろうという確信にも似た感情もある。

 

「それで、どっちが優勢なんだ? 保護か、送り出すのか」

「半々、と言ったところでしょうか、いえ、若干保護の方が優勢かもしれません、勿論お二人の意見が最優先だと分かってはいるのですが、何分危険のある事ですから皆こればかりは譲れないと」

「成程……それでディはどっち派なんだ?」

「私は――お二人にはこの星に残って貰い、機械人形だけで接触を図るべきだと考えています」

 

 僅かばかり言い淀んだディは二人の機嫌を損ねる覚悟をした上でそう言い切る。しかし言い切った後に不安になったのかもごもごと口を動かし、「ただ、お二人が同乗したいと仰った場合は、その、一考の可能性も……」と力なく呟いた。毅然とした態度と裏腹に押しには弱いらしい、隣のキルヒは呆れたような表情を浮かべ「ディ」と彼女の名を呼んだ。

 

「四郎、どう思う?」

「一回墜落しているからなぁ、俺は星に引き籠るに賛成だ、自分の母星に帰りたくないと言えば嘘になるがこうした文明を見つけられたのは調査隊としては本懐だろう? なら最後までキチンと通さなきゃならねぇ、どうせ遅いか早いかの違いだ」

 

 腕を組んだ状態でそう口にする四郎、銀次はその言葉に頷いて見せる。彼女達が自分達の安全を第一に考えてくれている事は分かる、だからこそ無理を通して我儘を言うつもりはなかった。何せ一度それでキルヒに怒られている、二度目はないだろう。

 

「俺達から特に言う事はないよ、委細任せる、待てというなら待つし、行けと言うのなら行く、元々俺達は手足の様な存在だからな、頭になって考える事は慣れていないんだ」

「ありがとうございます」

 

 銀次の言葉にディは深く頭を下げる。取り敢えず銀次としては話すべき事は全て話した気分であった。しかしディは顔を上げると「それで、今後の事なのですが……」と続きを口にする。

 

「ん、まだ何かあったのか?」

「はい、お二人の住居についてです」

 

 住居? と銀次は言葉を繰り返す。ディは頷き、「本部の受け入れ態勢が整い次第、お二人を中央本部に移送したいと考えています」と彼女は口にした。それを聞いた四郎と銀次は驚く事もなく言葉を受け取る。何せ本部と言う程の拠点である、防衛設備や配備されている機械人形の数も此処とは比べ物にならないのだろう。より安全な場所へというディの考えは至極当然の物の様に思えた。

 しかしその場には驚きの声が上がった。四郎のものでもなければ銀次のものでもない、それはディの隣に座っていたキルヒの声だった。どうやら彼女はその報告を受けていなかったらしい、突然の事に目を白黒させパクパクと何度か口を開閉する。

 

「デ、ディ、そんな話、私は聞いていないのだけれど」

「言わなくても分かる事よ、この拠点は唯ですらマザーとの戦闘で損耗しているのだから、より強固な本部に移送するのは当然でしょう?」

「それは――そう、だけれど」

 

 もごもごと口を動かすキルヒ。その姿にディは首を傾げ、銀次と四郎も一体どうしたというのかとばかりに疑問符を浮かべる。損耗した地方支部に強固な中央拠点その存在、少し考えれば分かる事だ、銀次と四郎は特に異論を持たなかった。しかし彼女は違う様だ。

 

「その、えっと……移送には私も同行しても良いのかしら?」

「それは護衛隊として? 別段此処の戦力を割いてまでする必要はないと思うけれど、セントラルシップがあればマザーと遭遇しても逃走は可能だろうし、中央に到着出来れば並みのマザーなら手出しも出来ないわ、それこそレベルⅤでも襲来しない限りはね」

「いえ、そうではなくて……その、配置換えって言うの?」

「は?」

 

 キルヒの言葉にディは顔を歪ませる。一体何を言っているんだコイツはという表情だ。キルヒは指を組んだ状態でチラチラとディ、そして銀次と四郎を見ながら彼女らしくないボソボソと呟く様な口調で言った。

 

「もし二人が本部に移るなら、私も中央本部に籍を置きたいのだけれど……」

「貴女は此処の最高責任者よね? その貴女が持ち場を離れてどうするのよ、一時的なものなら兎も角、移籍なんて許される訳ないじゃない」

 

 呆れた表情と口調でそう断じるディ。しかしキルヒは引き下がらず、「そ、そこを何とか」と手を合わせる。その如何にも人間臭い動作にディは眉間に皴を寄せ、「合理的じゃないわ」と首を横に振った。

 

「コマンダータイプには余裕が無いの、そう簡単に増産も出来ないし、外見だけ指揮官型の機体なら幾つも在るけれど中身が違うならただの置物、そんな事は分かっているでしょう? 貴女の代わりは無いのよ、支部には指揮を執れる存在が必要よ」

「そこは……代理コマンダー、比較的型番の近いスモールタイプを立てるとか、一時的に中央に指揮を執って貰うとか……」

「非効率的ね――そもそも、何で中央に同行したいのよ?」

 

 ディは下からじっとキルヒを睨めつけ至極マトモな疑問をぶつける。すると彼女は数度目を泳がせた後、小さく「離れたくないの」と口にした。しかし意図を理解出来なかったのがディは首を傾げる。

 

「は?」

「だ、だから、銀次様と四郎様――特に銀次様と離れたくないのよ!」

 

 半ば叫ぶような言葉、機械人形がこれ程感情的な声を出せるのかと驚いた。いや、驚くのは其処ではない。銀次と四郎、そしてディは目を丸くしキルヒを眺めた。キルヒの表情は歪んでいる、それは羞恥からくるものだろう。しかし顔は赤くならない、そんな機能は搭載されていないから。

 

「な、なに、それ」

 

 ディがたどたどしくそう口にする。彼女からすればあり得ない様な理由だったのだろう、ただただ愕然とするディの姿がそこにはあった。四郎と銀次も似たような心境である。まさか彼女にそんな言葉を吐き出されるとは夢にも思わなかった。

 

「だって銀次様は無理するし、何をするか分からないし、心配なのよ!」

「わ、私達が確りと護衛するわよ! それに一緒に居たいからなんて理由で移籍が認められる筈ないじゃない! 一体何を考えているの貴女!?」

「っ……」

 

 ディの言葉にキルヒは俯いて唇を結ぶ。理屈ではない、感情の問題なのだ。それはキルヒも、ディですら理解していた。全く合理的ではないキルヒの言葉にディは呆れると同時に危機感を覚える。

 

「キルヒ、貴女――まさか」

「ストップ、ストップだ」

 

 何かを言いかけたディ、そしてキルヒに銀次は静止を呼びかける。腰を浮かせたディの肩に手を置いてゆっくりと彼女の体を椅子に座らせた。四郎は腕を組んでディとキルヒの両名を眺めている、どうやら仲裁に入る気はないらしい。銀次は俯いたキルヒを横目で眺め、それからディに「移送は今すぐに、って訳ではないんだろう?」と問いかける。

 

「……はい、そうです、まだ本部の受け入れ態勢が整っていませんし、周囲のマザーの動向も気になりますから、安全が確保されてからの移送になると思います、具体的には本隊が合流してからでしょう」

「そうか――キルヒ、その気持ちはとても有難いものだけれど、基地からキルヒが居なくなって困るのは機械人形もそうだし、多分俺達もだ、別に直ぐ逢えなくなる訳じゃない、それに母星に帰還したら同じ事だ」

「…………」

 

 キルヒは何も言わない、ただ黙って俯くだけだ。銀次はそんな彼女に向けてそれ以上言葉を重ねることは無く、「取り敢えずこの話は終わりだ、もう夜も更けた」と肩を竦めた。手首に巻いたウェアラブルデバイスに目を向ければ既に日付が変わっていた。一日二日、働き通しなんてのは珍しくもないがこの星に不時着してからは慣れない事の連続だ。肉体的にもそうだが精神的にも随分疲労した。四郎もそうなのか先程から一言も喋っていない、というかコイツ寝ているんじゃないだろうな。

 

「そうですね……えぇ、人類には睡眠による休息が必要です」

「そうだ、正直俺も四郎も大分疲れていてな、この話の続きは本格的に移送の日取りが決まった時にでもしよう――俺達の腹も、まだ決まっていないしな」

「……?」

 

 銀次の言葉にディは疑問符を浮かべる。銀次は席を立ち、続いて待ってましたとばかりに四郎も立ち上がった。どうやら眠っていた訳ではないらしい。ディとキルヒも慌てて続くが銀次はそれを手で制す、「部屋に帰って寝るだけだ、付き添いは良いよ」と。

 

「それじゃあキルヒ、ディも、また明日」

「じゃあな」

「えっと、はい、おやすみなさい」

「……おやすみなさい」 

 

 軽く手を振って退出する銀次と四郎。慌てて頭を下げるディ、どこか暗い表情のキルヒ。二人の顔が扉に遮られて見えなくなると、銀次と四郎は無言で廊下を進み始めた。

 

「なぁ、銀次」

「なんだい」

「本当に疲れてんのか?」

「半分方便だ」

「だと思った」

 

 不意に口を開いた四郎、問われた言葉に肩を竦めた銀次が応える。精神的に疲労したのは本当だし肉体的に休息を求めているのも嘘ではない。しかし今すぐ就寝しなければという程切羽詰まっている訳でもなかった。取り敢えずあの場でキルヒとディの言い合いを阻止するのが目的だった。少なくとも地方支部のトップと中央の二番手、それが対立して良い事などある筈が無い。人類の前で言い争いをする、それは二人の関係を決定的に位置づける様に思えてならなかった。

 

「しかし、心配だからついて行きたいとかスゲェ人間みたいな事言うよな、マジで同じ顔がなけりゃ機械人形なんて分からねぇよ」

「そうだな、きっと俺達の知らない、見た事も聞いた事も無い技術が使われているんだ」

「……いや、まぁそうなんだろうがよ」

 

 四郎が何か言葉を詰まらせた。足を止めた銀次は「何だ?」と首を傾げて見せる、四郎は面頬越しに鼻先を親指で撫で、それから「ふとさ、思ったんだよ」と僅かに声を落としながら言った。

 

「機械人形って言うのはよ、人類が作った機械な訳だろ? 人類に奉仕する為に生まれた、使われる為に生まれた【種族】な訳だ」

「まぁ、そうなるか」

「でもよ、この星にはもう人類なんか居ねぇじゃねぇか、そんな中で外見も人間そっくりで、中身だって真に迫っている、そんな存在が居るならソイツはもう人間なんじゃねぇか?」

「……ロボットが人間に成り代わるって言うのか?」

 

 銀次が問いかければ、「そうじゃねぇ」と四郎が首を横に振った。何でもない様に見せかけてはいるが四郎の背中には悲壮感が漂っていた。

 

「成り代わるとか、乗っ取るとか、そういう意味で言ったんじゃねぇんだ……【人類】って言葉の意味が変わるんだ、それこそまた何百年、何千年って時間が過ぎたら、肉の体を持つ人類の方がおかしいって思われちまうみたいに」

「あぁ……成程」

 

 銀次は四郎の言いたい事を正しく理解した。未来的に人類の在り方が変わる、それこそ種の存続を考えるのであれば自ら生産出来てしまう様な形が最も安定しているのだから。増やすも減らすも自由自在な訳だ。何より機械人形は人類が全てデザインしたもの、限りなく人に近く人を理解する存在。

 そう考えると過去の人類を保護するより彼女達・彼等が【人類】の名を引き継いだ方が余程良い様な気さえした。きっと連中なら自分達よりも上手く生きる事が出来るだろう。それこそ【星喰らい】なんて汚名を被せられた肉の人類より遥かに上等に。

 

「人間の定義なんて曖昧だからな」

 

 銀次はぽつりと呟いた。

 

「形だけ整えれば中身の無いがらんどうの人形すら人間だって言う奴もいる、生まれつき手や足がなかったり、或は普通より多い病だってあった、手が二つ、足が二つで鼻が一つ、目は二つで口が一つ、こんな普通だって人間だという証明にはならない、きっと【形】だけじゃ駄目なんだ、幾ら意識を持ったって、形が人間に近くったって、人を人たらしめているのはもっと別な物だ」

「それは、何だ?」

 

 四郎の言葉に銀次は吐息を零す。その表情は笑っている様な、或はどこか自分を――人類を馬鹿にしたような顔だった。

 

「さぁ、俺には分からないよ」

 

 

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