毛利探偵事務所所員 海堂純による事件記録   作:ホームズの弟子見習い

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やっぱCV:丹下桜なんすよねぇ~




海堂純が江戸川コナンの正体を知るまで

 

 

 

 ウチの弟分が行方不明になったらしい。

 らしいというのは、いなくなってから三日も経つのに未だに音沙汰無しなのだ。

 弟分の名は()(どう)(しん)(いち)という。“日本警察の救世主”だとか“東の高校生探偵”といって持て(はや)されている。その弟分である新一は、これまた俺が妹分のように思っており且つ、俺自身の職場である探偵事務所所長…(もう)()()()(ろう)の娘である(もう)()(らん)のデートに行っていた。

 まあそのデート先であるトロピカルランドでもまた事件に巻き込まれ、颯爽と解決してみせたはいいが…。いざデートから帰ろうと歩いている途中で、突然新一が「先に帰っててくれ」と言い出し、そのまま別れてから全く連絡が取れないとのこと。

 そして新一と別れたのと入れ替わりに、ある少年が蘭と一緒に毛利探偵事務所にやってきた。

 

「おはよー」

 

 二階の事務所のドアを少々苦心しながらも開けた少年。眼鏡をかけており、恐らく弟分が十年ぐらい若かったらこんな顔立ちだろうなと思う。

 

「おはよう、コナン。よく眠れたか?」

「お、おはよう…純兄ちゃん」

 

 ()()(がわ)コナン。この少年こそが、蘭に連れられてやってきた件の少年だ。何でも両親は事故で入院しており、阿笠博士が引き取っていたのだが折角なので所長達に引き取ってもらおうということに。

 いや、どういうことで折角なのでなんだよ。なんか話だけ聞いてたら押し付けられた感半端ないぞ?

 まあコナンが蘭の家がいいって言ってたからそうなった訳なんだけど…。しかしまあ、コナンも災難だ。

 

「もしかして、この前の誘拐事件の記録?」

「ああ、もうすぐで終わるよ」

 

 コナンに今俺がまとめている記録の内容を当てられ、その時のことを思い返す。

 新一が心配でアイツの家に走っていった蘭を見送って数分後、電話が鳴り響いたのだ。所長も俺も、どうせ何かのセールス電話だろうなって思いつつ所長が電話をとると、何と依頼の電話。ここ半年、依頼があっても精々小銭稼ぎ同然の内容だったので、話を聞くだけ聞いてみることにした。内容はというと、娘さんが誘拐されたのでその解決に努めてほしいとのこと。

 最近は新一が有名になりすぎてウチは閑古鳥だったので、こんなデカい事件にはりきらないはずもなく。久しぶりにスーツを整えた所長は先に俺が呼んでおいたタクシーに乗った。

 まあそこに蘭もコナンも一緒に乗り込んでいたのはちょっと想定外だったが。

 毛利探偵事務所は所長も所員の俺もだらしない所あるからなあ。ついてくるのも当然といえば当然か。…自分で言ってて悲しくなってくるな。

 しかし、コナンもやるな。実質この誘拐事件を解決したのって所長じゃなくてコナンも同然だからな。

 実を言うと、誘拐事件は二回起きていた。最初に依頼を受けた方は狂言誘拐で、元々誘拐されたお嬢様が、母親が死んでからさらにワーカーホリックの傾向に走った父親の気をひく為に、執事さんに我儘を言って計画を実行したんだそうだ。まあ確かに母親もいないのにたった一人の肉親である父親が仕事にかまけていたら、何とかして自分に目を向けてほしい気持ちも何となくわかる。

 依頼主も今回の件を受けて、娘との時間をとれるように調整すると言及していたので、ひとまずは解決と言ったところか。

 

「そういえば純兄ちゃん、今日もゲーセン行くの?」

「ありゃ、バレたか。つっても、三時には戻るけどな」

 

 からからと笑い飛ばす俺に、コナンはジト目で睨みつけている。俺も所長に似てだらしないって新一からも蘭からも思われているからな。この三日間で俺の性格を把握するとは、おぬしなかなかやるな。

 

「コナンはどうするんだ?」

「ボクはちょっと遊びに行ってくるよ。夕方ぐらいには戻ると思うから…」

 

 なら蘭にもそう伝えておくか。…っと、その前に。

 

「コナン、埃ついてるぞ」

「あ…ありがとう」

 

 言いながら、俺はコナンの肩を軽くはたく。…うん、これで大丈夫だな。

 

「所長、それじゃあ俺宣伝してきますんで、よろしくお願いしまーす」

 

 所長に言い残してみるが、当の本人はテレビに夢中で応えてくれない。まあ仕方ないか。所長の大ファンであるテレビタレント、(おき)()ヨーコが映ってるんだから。

 

「じゃ、行くかコナン」

「う、うん…」

 

 事務所を出た俺たちは階段を降り、外に出る。

 さあ外に出たら方向は別々。また後でなーとコナンと一旦別れ、俺は俺の目的地に向かって行った。

 

 

 

 

 

 衝撃の事実に、俺は顔を伏せ項垂れるしかなかった。

 実はコナンに、肩についた埃を掃ったという名目で、()(がさ)博士(はかせ)が作った盗聴機の試作品をコナンの服につけていたのだ。そいつを通して自宅で携帯プレイヤーで聞けるように調整してヘッドホンで効果を試してみたんだが…。

 江戸川コナンという少年は架空の存在であり、その正体は工藤新一。この秘密を知っているのは、阿笠博士と新一…コナンの二人だけ。プラス俺と言ったところか。

 

「なんだってそんなことになったんだ…?」

「そんなことってどんなこと?」

「うおお!?」

 

 突如、後ろから声が聞こえたので思わずビビりながら振り向く。そこには俺にとって一番の顔なじみがいた。

 

「驚かすなよ桜子…何でここにいんだよ?」

「それはこっちの台詞! 仕事はどうしたの!?」

 

 桜子と俺が名を呼んだ女性の指摘に、思わずそっぽを向く。彼女は(よね)(はら)(さくら)()。俺の小・中学時代の古馴染みで、何をとち狂ったのか今は俺とルームシェアしている関係にある。他のルームシェア仲間はいない。二人で仲睦まじく暮らしています。

 

「今日は依頼なさそうだからこっちに戻ってきたんだよ…つか、お前こそ仕事の方はどうしたんだよ?」

「今日はもうあがり。純こそだらしない生活送るの、いい加減やめたら?」

 

 桜子からのありがたいお説教の言葉が流れるが、正直言って今はそれどころじゃない。なんてったって弟分の衝撃的な秘密を知ってしまったのだ。どう対処すべきか…。いっその事、俺も“そちら側”に行くべきか?

 

「いいのいいの。この前デカい依頼料もらったし、さっきまで宣伝チラシ配ってきたからいつかまた依頼来るでしょ…?」

「なんでそんな希望的観測で言うの…?」

 

 呆れ顔を隠さない桜子だが、しょうがない。だって探偵という職業は不安定なものですから。

 

「あ、そうだ。お昼の材料買ってきたけど、軽いモノなら食べるでしょ? 今作るから待っててね!」

 

 そう言い残して桜子はキッチンへ向かって行った。うーん、なかなかの世話焼き性分。昼飯の待ち時間は、コナンの対応について考えますか。

 

 

 

 

 

 結論としては、機を見て俺も仲間に加えてもらおうということにした。コナンや博士と話ができるようなタイミングを窺い、自分もコナンの正体を知っていることを話して仲間に入れてもらおうという魂胆だ。うん、我ながら名案。

 

「ほら、ボーっとしないの! はいお茶! これ飲んだら出るんでしょ?」

 

 有無をも言わせぬ勢いだが、まあ桜子の言う通りであるため、素直に飲むことにした。ああ、五臓六腑に染み渡るぜ…。言っててこれ爺臭いなと思ったのは内緒である。

 

「…っと、それじゃあ行ってくる。悪いな桜子、いつもいつも…」

「ううん、気にしないで。純が何だかんだ言って、頑張ってるのは分かってるんだから」

 

 どうせ受け流されるんだろうなーと思ってたんで、真面目な返しに思わず「あ…うん、サンキュ」と礼を返すので精一杯であった。

 うーん。コイツにはなんか埋め合わせでもしなくては。何か欲しいモノとかないか今度それとなく聞いてみよう。

 脳内にインプットし、毛利探偵事務所へ歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 (かい)(どう)(じゅん)が毛利探偵事務所に戻ってくると、所長の毛利小五郎は相変わらずだらしない状態だ。人のことを言えた義理ではないが、これでは来るべき依頼も来なくなってしまう。何だかんだ言ってやる時はやるのだが、それが来る機会が滅多にないのが…と頭を抱えてしまう。

 

「あ、純にい! もう帰ってきたの?」

 

 後ろから声が聞こえたので振り向くと、そこには蘭が立っていた。空手の胴着と一緒に鞄を持っているのを確認する。どうやら部活帰りのようだ。

 

「ああ、ただいま蘭。もう部活帰りみたいだな」

 

 純の言葉に蘭は頷き、事務所のフロアを出て自宅として使っている三階にあがる。それを見送る純は、少々気まずそうに頭をポリポリと掻いた。

 やはり新一が未だに帰ってきていないことに、寂しさを感じているのだろう。普段の様子とは、少々違いが見て取れた。

 

「ただいまー…」

 

 つい最近漸く聞き慣れ始めた子供の声が聞こえてきた。ドアの手前には、三日前に居候としてやってきた江戸川コナンが立っていた。窓の方を見ると、もう空は赤くなっていた。

 

「おかえりコナン。蘭なら上にいるぞ」

「あ、うん…ありがとう」

「あ、おかえりコナン君!」

 

 コナンが三階に上ろうかと思った矢先、蘭が下りて来た。既にエプロンを付けているところを見ると、早めの夕飯でも作るつもりなのだろう。

 

「ただいま、蘭姉ちゃん」

「もう飯作るつもりなのか?」

「折角だから、明日の朝の分も軽く…ね」

 

 直後、小五郎の机に置かれていた携帯からアラームが鳴りだした。アラームを聴いた小五郎は起き上がると、慌ててテレビリモコンを探し出して電源を付けた。

 

「ヨーコちゃぁーん!」

 

 どうやら小五郎の大ファンの沖野ヨーコが出ている番組だったために、急いで起きたようだ。

 

(このぐーたらを名探偵にするなんて絶対無理だ…)

(もう夜の六時か)

(もうちょっとシャキッとしてくれたらなぁ…)

 

 毛利探偵事務所所長の体たらくぶりにコナンと蘭が心中嘆く中、純は一人ずれたことを考えていた。

 

 ―――ピンポーン。

 

 小五郎が沖野ヨーコに熱中する最中、インターホンの音が鳴り響いた。

 

「ったく…こんな忙しい時に。おい純! 俺の代わりに出ろ!」

「ハイヨ~」

 

 所長命令にのんびり答えながら、純は事務所の扉を開ける。

 

「こちら毛利探偵事務所ですけど、依頼で?」

「あ…はい」

 

 やや戸惑いながらも応答したのは、広いつばの帽子を目深にかぶった女性だった。その後ろにはどこか気の弱そうな男性。

 純は二人を観察する。男性は当然初対面だが、女性にはどこか見覚えがあった。それもつい最近―――。

 

「すいません、もうすぐ閉めるところだったんで片付け中だったんですよ。なので少々ここで待っていただけますか?」

 

 純の確認に、二人は首を縦に振り肯定の意を示す。

 

「有難うございます。五分くらいで終わりますので少々お待ちください」

 

 そう言い残して、純は小五郎のもとに寄った。

 

「所長、依頼人ですよ?」

「なんだとぉー? こんな時にかよ…」

「いいじゃないすか、所長の大好きな人が来てるんですから」

 

 純の言葉を聞いた小五郎は、渋々立ち上がった動きをぴたりと止める。一秒と経たずに、彼の首は古びた歯車のように純に振り向いた。

 

「ねえねえ、もしかして依頼人って…」

「ああ、そのまさかだな」

 

 コナンの問いに、純がテレビを横目で見ながら答える。そこで全てを察した小五郎は大急ぎで洗面所に駆け出した。そこで繰り出される奇っ怪な轟音に、蘭とコナンは呆れ、純は苦笑いをするしかなかった。

 

 

 

 

 

 依頼人・沖野ヨーコ。

 

 沖野ヨーコの名を知らない人物など、この日本でいるとすれば相当世俗に疎い者だろう。今や彼女は歌手活動のみならず、女優・司会業など多岐に渡って芸能活動をしている。そんな彼女が何故毛利探偵事務所に依頼人としてやってきたのか。

 

「誰かに監視されているような気がする!?」

「は、はい…」

 

 対応するのは、だらしない風貌から身なりをきっちりと整え白いスーツに着替えた小五郎。少なくとも、有名人がこうして依頼に来てくれるのだから、こちらも多少なりとも見栄を張りたくなる気持ちもわからないでもない。

 

「週刊誌の記者とかじゃなくて?」

「私も、最初はそう思いました…けど…」

 

 曰く、それで片を付けるにはどうもおかしい部分が多すぎるとのことだ。

 家を出る直前と帰宅時とに比べて、家具の配置がずれていたり、変わっていたり。

 ヨーコの隠し撮り写真が何枚も送られることは勿論、無言電話も毎日のようにかかってくる。

 

「昨日なんか、いきなり夜道で誰かに追いかけられて…私、怖くて怖くてこのままじゃ夜も眠れません!!」

「おのれぇ…ヨーコさんになんてことを!」

 

 怒りに震える小五郎に、「あのー…」とヨーコの後ろにいた男性が話しかけた。

 

「ん、あんたは?」

「私、ヨーコのマネージャーの(やま)(ぎし)(えい)(いち)という者なんですが…。出来れば依頼の件は内密に調査していただけると助かるのです。警察沙汰になりますと、彼女のイメージもダウンしてしまうかもしれないので…」

 

 名刺を差し出され、小五郎は思案する。確かに、山岸の言う通りかもしれない。依頼人は小五郎自身がファンとして慕っている有名人。この手の有名人にありがちな交際報道や後ろ暗いゴシップとは、全くの無縁というこの手の業界においては珍しい人物だ。そんな人物がストーカー被害らしきものに遭い、警察に相談したとなるとどこからかマスコミが嗅ぎ付けてくる可能性もある。そうなれば、燻っていた火種は拡大し、更なる被害が依頼人に及びかねない。

 

「承知しました、この件に関しては極秘に調査するとしましょう!」

「あ、ありがとうございます!」

 

 小五郎の承諾に安心したのか、山岸もヨーコもほっと息を吐いた。小五郎が、純に視線を送る。お前もそれでいいだろうと暗に込められた視線に、純は頷いた。

 

「では、この依頼書にご自身のお名前と住所、電話番号をご記入お願いします」

「そして、これにサインも…『小五郎さんへ』も忘れないでください」

「は、はい…はい?」

(ハハハ…純にいの方がまだ真面目に仕事してるじゃねーか)

 

 純の出した依頼書に便乗してサインをもらおうとする小五郎に、コナンと蘭は呆れの表情を見せる。

 

「そんじゃ、まずはヨーコさんの部屋を調べてみましょうか?」

「ねえ、お父さん! 私達もついて行っていい?」

「あん?」

 

 小五郎と純が立ち上がり、ヨーコ達と共に事務所を出ようとした矢先に蘭が頼み込んできた。

 

「だってほら、アイドルのお部屋ってどんな所なのか見てみたいじゃない! コナン君もそうでしょ?」

「う、うん…」

「まあ来てもいいが…仕事の邪魔はするなよ?」

 

 蘭のミーハーな一面に、コナンは思わず本当に自分…新一のことを心配してくれているのだろうかと考えてしまった。

 

 

 

 

 

「うわたっけぇ…」

「首が痛くなりそうだな…」

「お前ホントに二十三か? 爺臭いぞその発言…」

 

 毛利父子とコナン、そして純の面々がヨーコの住むマンション前に着き、それぞれ感想を述べた。そのうちの一人である純の感想はどうも妙なものであったため、小五郎から突っ込まれていた。

 そしてヨーコの案内に連れられた部屋は、二五階・二五〇八号室だった。

 

「ほー…廊下から見てもいい眺めですなぁ」

「はい、部屋の窓からのぞく景色は凄いんですよ! さあ、どうぞ中に…」

 

 そこまで言って中に入ろうとした時だった。ヨーコは何かに怯えたような表情を見せ、後ずさりしていた。

 

「お、おい…どうしたヨーコ?」

「あ……ああ…あ…」

 

 ヨーコの様子がおかしいことに気付いた四人は、部屋に何かがあると察した。

 

「どうかしましたか…!? こ、これは!!」

 

 ヨーコのもとに駆け付けた小五郎が驚きの表情を見せる。

 部屋の中には、男の死体があった。背中を包丁で刺され俯せに倒れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の名は、海堂純。依頼人である沖野ヨーコのマンションに、コナンや蘭を含めた毛利探偵事務所の面々で訪問していた。

 しかしドアを開けたらそこにはまさかの死体発見!!

 こいつはトラウマ間違いなし。

 しかも所長の一時の気の迷いで警察を呼ばないなんてことになりそうだったけど、そこはやっぱり元刑事。現場は警察が来るまで俺達で見張って、蘭に警察へ連絡するように頼み込んだのであった。

 うだつの上がらない俺だけど、コナンと一緒に解決してみせる!

 

 しかし…見渡してみるとちょっと違和感あるなこりゃ。

 警察が来るまでの間、遺体発見現場を眺めてみることにした。

 

(なんか部屋から暑い空気が流れてるな…)

 

 コナンの方を見てみると、険しい表情を隠さずに考え込んでいるようだ。こうして見てみると、やっぱりコイツは工藤新一なんだなと思わせる。

 

 ―――さて、コナン。お前はこの事件をどう推理する?

 

 

 

 

 

(やっぱり、子供の姿じゃ聞き入れてくれやしないか…)

 

 工藤新一…いや、今は江戸川コナンと名乗っている俺は、ある証拠品を見つけたのだが、今のままじゃやっぱりおっちゃんは勿論()(ぐれ)(けい)()も聞き入れてくれない。

 それに…。

 

(なんで純にい、さっきから俺の方をちらちら見てるんだ?)

 

 前の誘拐事件の時はあんまりオレの方見てなかったような気がするんだけど…。

 いや、とにかくまずは証拠品を示さなきゃ事件は一歩も進めない!!

 昼に阿笠博士から貰った蝶ネクタイ型変声機…早速活用させてもらうぜ!!

 

「目暮警部! ソファーの下にあんな物が!」

「…? だ、誰だ?」

 

 目暮警部は出処不明の声に疑問を抱いて辺りを見回したようだが、無事にソファーの下にある証拠品を見つけてくれた。

 

「なるほど、なかなかやるじゃん?」

「なっ…!?」

 

 ふと聞き覚えのある声に顔を向けると、そこには純にいがいた。ま、まさか変声機を使っているところを見られていたのか!? 迂闊だった…!

 

「その蝶ネクタイと見せかけた変声機、多分阿笠博士の発明品なんだろうな。それを使って、お前は大人の声を出して警部にあの証拠品である“誰かさん”のイヤリングの元へ誘導した…」

 

 早くも蝶ネクタイ型変声機が博士の発明品だってことを見抜かれ、俺は焦りを隠せない。普段はおっちゃんほどじゃないけどだらけた印象を持っていたけど…クソ、どうする…どう切り抜ける!!

 

「さて、コナン」

「え…?」

「肩にゴミついてんぞ?」

 

 そう言って、純にいは俺の右肩を軽くはらい、ついていたゴミを見せる。…いや、これはゴミじゃない!!

 

「ま、まさかそれ…!」

「察しの通り、盗聴機だ。阿笠博士が作ってくれたのさ…まだ試作品だけどな」

 

 多分、付けられたのは朝に会った時に埃がついてると言って肩を掃ってくれた時だ。あの時から全然気がつかなかったなんて…やっぱり、流石は俺の先輩って訳か。

 ん? なんかドタバタしてきたな…。

 

「犯人は(いけ)(ざわ)ゆう()だ!!! 奴を捕まえろ!!!」

 

 なるほど、どうやらあのイヤリングは池沢ゆう子さんの物みたいだな…。おっちゃんはそいつを犯人として見ているようだな。

 

「役者は揃いつつあるな…。さて、江戸川コナン…いや、工藤新一よ」

 

 数人の警官が部屋から出ていくのを見送ると、純にいは俺に話しかけてくる。やっぱり江戸川コナンの正体が工藤新一だってことに、気付いているようだ。まああの盗聴機で聴かれていたら当然か。

 

「なんだってお前がそんな姿になっているのかは別の機会に訊かせてもらうとして…まずは」

「ああ…目の前の事件を…解かなくちゃな」

 

 純にいの言葉通り、今はただ目の前の事件を解決することに、全力を尽くすだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 調査報告書

 

 作成者:海堂純

 依頼者:沖野ヨーコとそのマネージャー・山岸栄一

 依頼内容:依頼日の一週間程前から、無言電話や盗撮写真等の被害に遭う。前日には何者かに付け狙われたとのこと。そこで依頼者の自宅を拝見すると、そこには男性の遺体が確認された。

 被害者は藤江明義二十二歳。港南高校出身で、沖野ヨーコとは高校時代恋愛関係にあったという。

 死因は刺殺。背中に包丁を刺されていて、誰もが他殺だと信じて疑わない状況だった。容疑者は先述の依頼者の二人と、池沢ゆう子という女優。池沢ゆう子については、彼女のイヤリングが部屋の中で見つかったため、捜査線上にあがったことが理由だ。

 なお、事件の決着としては自殺という結論になった。本来背中に刺さっている訳なので、どうやって刺したのか。

 以下、トリックの手順。

 

1.氷の塊を作りそれに穴を開け、そこに包丁を刃先が上になるように立てる。

2.そして椅子の上から氷めがけて飛び降りる。

 

 賭けに近いが、結果論として成功という事になった。加えて、このトリックがばれない様に部屋の温度が最大まで上がっていた。氷を一刻も早く溶かす為と思われる。だが証拠は残されており、刺した時の衝撃で包丁の柄の凹みが出来ていた。決定的証拠として、遺体は依頼人の髪の毛を一本摘まんでいたのだが、その髪の毛をとった櫛から被害者の指紋が検出された。

 動機は、沖野ヨーコへの未練。高校卒業と同時に別れたものの、そうなった経緯はマネージャーの山岸氏が頼み込んでのことだったこと。それ故に沖野ヨーコへの未練が残り、何度も何度も復縁を迫っていたこと。そしてそれはやがて彼女のアイドル生命を絶ってでもという所まで発展してしまっていた。最終的な引き金は、沖野ヨーコの部屋に侵入していた池沢ゆう子の後ろ姿を沖野ヨーコと見間違え迫り、最終的に拒まれてしまった出来事がトドメとなった。

 なお、池沢ゆう子女史に関しては、住居不法侵入の罪があるが、これについては親告罪であるため、部屋の主である沖野ヨーコは訴えずにまた一緒に切磋琢磨し合おうということになった。

 

 

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