毛利探偵事務所所員 海堂純による事件記録 作:ホームズの弟子見習い
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「なるほどなるほど…そういう事だったか…」
あの沖野ヨーコの自宅で起こった自殺事件から一週間。俺は阿笠博士の家で何故工藤新一が江戸川コナンになったのかを本人から説明を受けていた。
どうも新一はジェットコースターで同じレーンに乗った黒服の男二人組に事件遭遇時からある種警戒心を持っていた。そこまでは良かったのだが、事件解決後にその例の二人組の一人が何やら不審な挙動をしながら物陰に隠れたので、新一はそれを追いかけた。
そこで見つけたのは拳銃密輸取引の現場。新一はそれをカメラで撮っていたのだが、もう一人の男が背後から近づいているのに気付かずにそのまま撃沈。そこで自身を殴った男に毒薬を飲まされ、目が覚めたら身体が縮んでしまっていたという訳である。
「新一…お前馬鹿だろ?」
「うっ!」
俺の辛辣な言葉に、コナンは苦虫を嚙み潰したような表情を見せる。
「昔っからそうだよなお前。目の前の悪事にはとことん突っかかる…その結果が今のお前の姿だ」
「…ゴメン」
「別にお前が悪いわけじゃない。悪事を見過ごす事が出来ないってのは、それだけお前が清廉な奴ってことだ。その点は誇ってもいい」
寧ろその犯罪組織をある意味新一という犠牲の上で知れたのはとても大きいことである。しかし、新薬ねえ…。
「確認なんだけど新一。お前が飲まされた薬って、飲まされても毒物反応が出ないって言ってたんだよな?」
「ああ、殴られたせいで意識は薄れかかっていたけど、確かにそんなことを言っていたな…」
ってことは少なくともコナンの身体を新一に戻すには、やっぱり薬のデータがなくちゃ始まらないって事か。
「その点についてはワシも同じ意見じゃ。本来なら毒物反応が出ない薬なぞ、元のデータがなくては解析もできないからのぉ」
薬学に関しては専門外とはいえ、阿笠博士の意見は科学者として筋の通ったものだ。どうにかして薬のデータを取るところからだな。
「ああ、そうだ。ほら博士、盗聴機の試作品。お二人の事情、しっかり聴かせてもらったぜ?」
「う、うむ。まさか自分の発明品に足元を掬われるとは思わなんだ…」
「そこはやっぱり目の付け所が違うってヤツ?」
意地悪く笑みを浮かべる俺に、コナンの呆れた視線が刺さってくる。イヤン、チクチクするわ。
「ホッホッ。やはり純君も新一の先輩ということじゃな」
「まだまだ若いもんには負けませんよ」
「いや、純にいまだ二十三歳だろ?」
コナンのツッコミが冴え渡るが、チート級の推理力持ってるお前を見ると老けた気分にさせてるんだからな。
「おお、そうじゃ。君たちに渡す物があるんじゃ!」
そう言って博士は、地下室に俺達を案内する。地下室内はガラクタだらけで、少しは片付けた方がいいのに…。
「オレの思ってることが正しければ純にいにも人のこと言えないんじゃねーの?」
コナンが痛いところを突いてくるが、俺はいいんだよ。桜子がある程度やってくれるから。
「ホレ、新一にはこの『犯人追跡メガネ』じゃ。左手側のボタンを押してみい…」
早速コナンは眼鏡を付け替え、ボタンを押してみる。するとニョキッとアンテナが出て来て、左目のレンズが液晶モニターと化した。おお、すげえなそれ。コナンも博士の発明品の出来映えに、感心の声を上げている。博士の説明によると、どうやら点滅箇所が発信機の位置で、それを誰かに付けると、その追跡メガネをかけた人物…今はコナンを中心に、半径二十キロ以内なら場所をある程度割り出せるという機能らしい。博士、たまにこんな高性能な発明品を作り出すから侮れないんだよな…。
つい最近だと、コナンが帝丹小学校に転入することになって、その体育の時間に筋力のツボを刺激して蹴りの威力をあげる『キック力増強シューズ』ってのを使ってみたらレベルを中にして一発シュートを放ってみたらゴールを突き破って後ろの大木を折っちまう程の威力だったっていう話だし…。こいつぁやべぇな。
「純君にもこの追跡メガネを渡そう」
そう言って博士は俺にも眼鏡を渡してきた。同時に、追跡用発信機のシールも二十枚程頂いた。
「基本的な機能はコナンのと同じか?」
「それもそうじゃが、お互いの位置情報を共有できる機能をつけておいた。ただ、やはり普通の眼鏡を改造したようなものじゃから衝撃を与えたりすれば壊れるじゃろうな。耐水性なんぞもっての
どうやら、追跡メガネ自体に耐久性は期待してはいけないようだな。元々、使えれば御の字だし。
「それと純君にはホレ、モニター料じゃ」
そう言って博士は、懐に入れていた財布から一万円札を取り出し、突き出した。なんで?
「実は純君の追跡メガネには、新一のとは別に試験的にある機能を付けてみたので、そのモニター役としての代金を渡したんじゃよ。右レンズ側の蝶番を押してみい」
言われるがまま、押してみる。すると、右レンズの液晶が拡大された。どうやら、望遠機能がついているようだ。
「どうじゃ、純君?」
「ああ、中々いいんじゃないか? 博士の鼻の毛穴までよく見えるぜ」
「どこを見てるんだよ純にいは…」
俺の冗談に、コナンがツッコミを入れる。まあ流石に五十二歳の鼻の毛穴なんて見るのは御免だ。俺は、右レンズの望遠機能を解除した。
「新一にもいずれ望遠機能はつける予定じゃから、ちと待っていてくれ」
「ああ、わかったよ」
「さて…いい時間だし、そろそろ帰るか」
「そうだな。これ以上長居してたら蘭にどやされちまう」
年の離れた弟が出来た気分なのか、蘭はコナンに対して保護者としての役割を毅然として果たそうとしている。中身は同い年な為か、コナンとしては複雑そうな表情がたまに出ているけど。
「また何か作ったらモニター役はやるから呼んでくれよ?」
「ホッホッ…今日みたいな値段で勘弁してほしいもんじゃな」
それは勿論。依頼料請求することになったとしても博士料金として五千円から一万円ぐらいの間で済ませるつもりだぞ。…おいコナン、なんだその目は。こちとら依頼ときけば犯罪行為以外はなんでも請け負うつもりだぞ。所長はもうアラフォーだから任せられないところあるかもしれないけど。
「はーぁ…どっかそこら辺に薬の手掛かりが転がってないかな…」
「おいおい…わざわざ毒物反応を出さない薬をオレに飲ませたんだぞ…。そうそう手がかりが来るわけねーって」
ま、それもそうか。俺とコナンは、ハッハッハと笑い飛ばすのであった。…だから博士、そんな冷めた目でこっち見ないで?
―――この時はそう思っていた。まさかそんな事がすぐに起こるなんて、俺もコナンも全く思っていなかった。
●
「お願いします、探偵さん!! 私の父を探してください!!」
「は、はあ…」
依頼人の名は、
一刻も早く父の詳細が知りたいために、大学を休学して東京にやってきたのだそうだ。
「もう探偵さんしか、頼れる人はいないんです…!」
「わかりました、お引き受けしましょう! 早速ですが、何かお父さんの写真とかありますか?」
「あ、はい…これが父、
そう言って、雅美は写真を小五郎に渡す。写真に写っている人物は穏やかそうに笑顔を作りながら、黒猫を抱えていた。
「身長は一七〇センチ、年齢は四八歳です…」
「この猫は?」
「父の飼い猫です。写真に写っている猫の名前は“カイ”君だったかと…」
その言動からすると、どうやら健三氏が飼っている猫は一匹だけではない様に感じる。
純の指摘に、雅美は頷いた。
「飼い猫は四匹いるんです。さっき話したカイ君の他にも“テイ”と“ゴウ”と“オウ”を」
「四匹の飼い猫と暮らしている…と」
「他にも何かないですか?」
小五郎、純と雅美のやり取りを見たコナンは、自分が出る幕ではなさそうだなと思っていた。
せめて発信機がついてたらある程度限られた範囲内とはいえ、探し人の場所を一発で見つけられるのだが。
(…折角だから蘭に試しに付けてみっか)
そっと蘭の後ろに近づき、発信機を付けようと蘭の尻部に近づけようとした。何とかバレず付ける事が出来ると思われたその時、電気ヒーターのコードに引っかかってしまい、ソファの方に転んでしまったのだ。
(あれ? 発信機は…げっ! 雅美さんの腕時計に!?)
発信機がついてしまった腕時計を見ると、そこには雫が一滴落ちた。見上げると、雅美はぽろぽろと涙を流していた。
「小さい時に母を亡くして…父はたった一人の身寄りなんです…。もしも父の身に何かあったらと思うと…私…」
彼女の流す涙に、探偵事務所のメンバーは居た堪れない雰囲気になったような気がした。
翌日から小五郎と純の二人で、広田健三の捜索を行うという事で話はつき、定期的に連絡を入れるという形で今日はという一日は終わった。
しかし、広田健三の捜索は思ったように進まないのが現状だった。
捜索対象者である広田健三は、周囲との付き合いが悪く、職場での人間関係は基本的にドライなものだった。故に、彼がどこに行くと言っていたのかも娘がいたという事さえ話していなかったため、既に一週間も経過するのに捜索は手詰まり状態となっていた。
「その差は三馬身から四馬身! ぶっちぎりだー!! ゴーカイテイオーG1五連勝!!」
「ゴーカイテイオー…?」
競走馬の名前を聞いたコナンは、そういえばと思い出す。広田健三が飼っている四匹の猫の名前は“ゴウ”と“テイ”と“カイ”と“オウ”と呼んでいる。コナンは猫の名前をメモ帳に記入し、それらをさらに組み替えて、改めて書いてみた。
「ゴウカイテイオウ…いくら何でもそりゃねえよなぁ…」
テレビに映った競走馬の名前になったとはいえ、これは安直すぎる。コナンはこの手がかりはないなと思った。
「そうよ、きっとそうだわ!! 広田さんは競馬好きだったのよ!! だから自分の飼い猫に競走馬の名前を分けて名付けていたのよ! 競馬場にもしかしたらいるかもしれないよ!」
しかし、その様子を見ていた蘭は一蹴したコナンの考えを真に受けたのか、そのまま話を進めていった。
「流石に安直すぎてないんじゃ…」
「まあ今は藁にも縋るっていう状況だからな…とりあえず、行ってみるか」
コナンの言葉に、純も仕方ないとため息を吐きながら意気揚々と事務所を出た蘭について行った。
「わぁ…わたし競馬場なんて初めて来たなぁ! 凄い人だかり…早く雅美さんのお父さん見つけなきゃね!」
(バーロ、いるわきゃねえだろ!)
(探偵なめんなよ…)
(いたら小遣い五百円あげよ)
東京競馬場にやってきたコナンと蘭と小五郎と純。男性陣は広田健三が競馬場にいるというのは安直過ぎて、逆にいないという考えを持っていた。純に至っては、もし彼がいたら蘭に五百円あげようと一種の賭けを考えていたくらいだ。
「大体こんな人混みの中からどうやって探すってんだ…」
渋々周りを観察してみる男性陣だが、やる気の問題なのかどうにも見つからない。蘭も三人の後ろを観察してみようと振り向いた時だった。
「あーーっ!」
「え?」
本当にいた。広田健三は、競馬場にいたのだ。まさか本当に蘭の推理とも言えない考えが当たっているとは思わなかったコナン達三人は、唖然としてしまった。
「ほらほら見て見て!! わたしって名探偵!」
(んなバカな…)
「と、とりあえず…広田さんの後を尾けて彼の住んでる所を突き止めるか…。知らない人から声をかけられたら警戒されるだけだし…」
純の案に一同は頷き、広田を尾行することにした。
「ありがとうございます! 父を見つけていただいて!」
「あ、ああ…。しかし、教えたのはついさっきなのに来るのが早いですな…」
「嬉しくてとんできたんです! それで父は今どこに?」
「練馬区のアパート“もるぐ”に…」
翌日。依頼人である雅美に、健三発見の報せを入れると、一時間も経たずにやってきた。息を切らしている雅美の様子に、コナンは少し違和感を抱いた。
「あのお姉ちゃん、前と雰囲気変わってない? 服装も大人っぽい感じだし…それにけしょうまでしてるみたいだよ」
「きっと、お父さんに会えるからおめかししてきたのよ」
コナンの指摘に蘭が答えたが、二人の会話に純は本当にそれだけなのかと疑問を拭えなかった。
わざわざおめかしをしてまで会いに行くのであれば、ここまで走ることも無い。道中汗をかいてメイクが崩れてしまうかもしれないからだ。それなのにそんなことをしてきているという事実、純はどうしても違和感を抱くしかなかった。
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調査報告書
作成者:海堂純
依頼者:広田雅美
依頼内容:依頼者の父親である広田健三氏の捜索
結果内容:山形から探しに来た依頼者のために捜索をすることになったが、調査は難航を極めた。というのも捜索対象者である広田健三氏は、人付き合いが悪くプライベートな話は一切と言っていい程なかった。手分けして捜索にあたってみても、どれもこれも空振りばっかりという結果。最終的に都内のペットショップにも訊いてみたが、いい結果は得られずじまいのまま、一週間が経過した。
ある時、テレビで流れていた競馬の番組に出ていた競走馬『ゴーカイテイオー』の名前を見て、蘭が「広田氏は競馬好きで、飼い猫のネーミングもこの競走馬から取られているのでは」という考えの元、我々は東京競馬場に赴いた。
正直なところ、本当にいるのかどうかは半信半疑だったが、探してみたら本当にいたので、流石にこれには驚くしかなかった。その後、彼を尾行した結果、練馬区にある安アパート“もるぐ”に在住していることが判明。依頼人である雅美さんをそこまで連れて行き、依頼は無事達成となった。なお、依頼料に関しては事務所の口座に振り込まれることになった。
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三日後、蘭はあるところに電話をかけていた。以前依頼してきた広田雅美さんの電話だ。
「おっかしいなぁ…何度かけても繋がらない」
「あの人って…広田雅美さんか?」
所長の問いに、蘭は頷く。あれから二人がどうなっているか、気になって電話をかけてみたのだが繋がらないらしい。
「これ、ホントに合ってんの?」
「依頼契約書に書いた電話番号で電話してるんだろ? なら間違いはない筈だが…」
「まだ故郷に帰っていないのかな…」
「だとしたらまだあのアパートにいるか、もしくは…」
「またあのおじさんどっか逃げてたりして?」
意外とありえそうだよなそれ。雅美さんと対面させたとき、広田さん凄く驚いていたもんな。所長も同じ意見だし、コナンも発言の元だからなのか、俺達二人と同じ考えのよう。
「じょ、冗談はやめてよ!」
それに待ったをかけるのが、蘭だ。ピュアだからなコイツ。俺達みたいに割り切った考えは出来ないのはまだ十七歳らしいと言えばそれまでだけど。
「なんか…嫌な予感がする…。わたし、あのアパートに行ってくる!!」
止める間もなく出て行った蘭に、俺達は仕方なくついていくことにした。
そこで知ったのは、広田健三氏が既に亡くなっているという最悪の報せだった―――。